妖精の園

華周夏

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【第30話】あいしているなら

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どれだけ想っても叶わないなら、嫌われればいい。

想いなんて無かったように。
レガートはそう思い、大きな天窓の星空を仰ぐ。星の瞬きが、レガートにフィルの涙を思い出させた。

フィルはふわりと現れた衛兵に王様の寝室に通される。王様は窓際に佇んでいた。月明かりを浴びる王様の白銀の髪が綺麗だった。

『手紙は読んだ。随分派手にやったな、フィル。昔同じようなことがあった』

 振り返り笑う王様は、笑顔だったが何処か悲しそうだった。

王様はおばあちゃんと喧嘩したときの話を楽しそうに語った。

部屋の植物が今と同じ状態になってしまったと王様は笑う。
もう、会えないけれど、笑顔を思い出し、声を思い出すと王様は言う。暗闇に姿を描くとも。

『もう、アルトがここを去ってから何十年と経つのに鮮やかに憶えている。不思議なものだな』

といい目を伏せた王様は、微笑みながら泣いているように見えた。

王様の綺麗な顔が月が翳るとレガートに重なった。王様はフィルを責めることなく、笑いながらソファに腰かけるよう促した。

『修練はどうだ?レガートは厳しいか?』

向かい側に座った王様はポットからフィルに冷たいミントティーをカップに注ぎ差し出した。フィルは一礼をして受けとる。

 「厳しいだけなら、耐えられます。でも、毎日、つらいです……」

泣くなと思っても声が震えて勝手に涙が出てくる。甘えだとは、フィルも解っている。 

「レガートが、冷たくて、無表情で、一生懸命喋っても、何も、何も………。もう無理です。耐えられないと思ってしまいます。でも…それでも胸の中にある小さな灯りは消えてくれないんです。もう嫌です。未練がましい自分が何よりも嫌です……悲しくて当てつけのように『嘆きの歌』を歌いました。こんな気持ちで『目覚めの唄』を歌っても植物は目を覚ましてくれないと思います。申し訳、ありません……」

『フィル……でも、レガートは生きている。会える。触れられる。私の愛したアルトはもういない。目蓋の裏にかつての面影を探すだけだ。はにかんだように笑った顔、怒った顔、泣いた顔、………どれも、もう『過去』だ。いくら『愛している』と言っても言葉も宙を彷徨い、想いも届かない……』

 「王様……」

 『悲しみや悔しさは愛情がまだあるからだ。一番悲しいのは何も感じなくなること。これから日を見てレガートに言って聞かせる。話したいこともある。……フィル、私のために『目覚めの唄』歌ってくれないか。……言葉にも出来ない想いを抱える憐れな私のために』

 王様の手を握り、フィルは『目覚めの唄』を歌う。王様の身体がほんのり光る。唄の力を増幅させているようだった。眩しい明かりに包まれるように薔薇の寝台が見事に花開き蘇る。金色の光が波のように広がって消えた。

 「綺麗ですね。蒼い薔薇なんて初めて見ました」 

『やっとフィルらしくなったな』
 
「え?」
 
『お前は笑った顔の方が似合う』

レガートは遠くから聞こえるフィルの唄に両手を握りしめた。手のひらに爪が食い込んで痛みが走った。

手を開く。どうせ血も爪も同じ色だ。穢い色。昔、あの娘は言った。

 『化物のくせに、身の程を知れ!』 と。

でもフィルは瞳を潤ませ、訴えるように、 

『子供が鳳仙花でマニキュアを塗った色』 

だと言った。切なそうに、笑っていた。誰にも渡したくない。それが兄上だとしても。笑顔も、少し高めの柔らかな、まるい声も、あの甘いホットミルクのような香りも。知るのは自分だけでいい。

抱きたい、自分無しではいられなくなるくらいに。愛していると、飽きるくらいに囁いて。そんな欲をレガートは初めていだいた。

脳裏に描いたのは自分に身を任せたフィルの姿と乱れた金の長い髪。惨めだとレガートは思った。

 『フィル……』

 呟きは宙に消える。いくら待っても答える相手は帰って来ない。虚しいと思いながらレガートはベッドに横になった。

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