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【第17話】反魂……?
しおりを挟む王様は考えるようにして、黙った。少し気まずい。フィルは頭を下げた。
「出すぎた口を……申し訳ありません」
フィルが下を向くと王様は穏やかに答えた。
『構わない。お前はアルトを本当に大切にしてくれていたんだね。素直でやさしく聡い子だ。レガート……弟には会ったか?フィル』
「はい。とても優しい方だと」
今までのことをつぶさに語ると王様は楽しそうに笑う。けれど──
レガートに抱きかかえられ空を翔んだ、初めて妖精の国に来た夜のこと。
レガートがこぼした金色の雫。
そして、フィルの胸に灯った金色の灯火。
フィルの中の大切な思い出だ。
レガートとの二人の秘密にも思えた。そのことだけは王様にも言えなかった──。
あの腕の暖かさが蘇る。頬にあたる風の感触までも鮮やかに。
何かをしたい。喜んで欲しい。笑って欲しい。フィルがこんな感情を抱いたのはレガートが初めてだった。おばあちゃんを思う気持ちとは少し違う。でも、もう王様が目覚めた今、自分の身は王様のものだとフィルは解っていた。
王様のもの……要は側室になり後宮に入るということだ。妖精の国での掟は、強いものと聞いた。もう、レガートと一緒にいられない。
でも、レガートにとっては昔に戻るだけだ。けれど、フィルはあの声で名前を呼ばれる日々に還りたいと思う。
自分はレガートの記憶の中の一部になれただろうか。楽しい思い出になれただろうか。レガートと過ごした今までが、フィルにとって夢のようだった。
『レガートはお前を大層気に入ったようだな。あの神経質で潔癖な弟が部屋だけでなくベッドを貸すとは。婚約させてやりたいくらいだ』
フィルは驚いて王様を見つめた。
「や、やさしく親切にして頂いておりますが、私が……珍しいだけです。それに私は、レガート様にとってただの子供です。婚約なんて……」
『見るとフィルとレガートの『気』の相性はかなりいい。夫婦になれば可愛らしい子供が望めそうだな』
「私はそんな………レガート様とは、年も離れて……」
もごもごとフィルは口ごもると、苦笑した。
『妖精は陰陽気を併せ珠を作る。年齢など関係はないのだよ』
王様は始終上機嫌だ。
フィルは王様の寝室までの紅い絨毯の廊下、子供みたいに泣いて、レガートへの気持ちを諦めようとした。
毎日胸の中を疼くような甘い気持ちにさせてくれた……初めて誰かを好きだと言う気持ちを抱かせてくれた人。
口下手だけど温かくて、そして不器用で…やさしいひと。
いつも一緒にいたかった。親衛隊の仕事をして、温かな料理を一緒に作って食卓を囲むことが楽しみだった。
そんな、穏やかな一日が一番貴重なものだった、幸せだったとフィルは思う。
けれど、終わりは呆気なかった。運悪く帽子を取った所を巡回中の大臣に見つかってしまった。
想いは、残酷だ。おばあちゃんが愛した人だとは解っていても、最初は王様にずっと目覚めないで欲しいとフィルは思った。
『役立たずの子供』大臣にそうがっかりされてレガートのもとに戻りたかった。自分の中にこんな穢い思いがあるなんて思わなかった。
何もかもを諦めたフィルに、王様は、にこにこして、婚約や子供の話をする。掟が許さないのは王様が一番解っているはずなのに。どうしてだろう。あまりにも……。
『残酷だ、と言いたそうだな。お前はあまりにも素直で正直だ。己の気持ちを「穢い」と嘆く者は、穢くはない』
言い当てられてドキリとした。王様は『すまない』と軽く笑って『悪気はないのだよ』言った。フィルは王様が謝る理由がよく解らない。
『アルトの孫か……確かにな。アルトにもう一度会いたい……『反魂』が出来るなら。フィル、今日の弟についての話は私とお前の秘密にしておこう。頭の固い者もいる。……そろそろレガートの傷も癒えてもいいはずだ。あいつを締めつける深い不信の傷がな』
王様は、フィルを真っ直ぐ見つめた。綺麗な空色。
『ずっと掟のことを考えてきたようだが、私は掟よりも、つらい思いをしてきた弟の幸せの方が大事なのだよ。勿論、私を目覚めさせた愛しいアルトに似たお前の幸せも。そして私はアルトしか愛せない。アルトは私の全てだ。だから今日、今すぐお前を後宮に送ったりしない』
「え……?」
衛兵、扉を開けよ。王様がそう言うと重厚なドアが開かれた。カツカツといつもの聞き慣れた足音がした。
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