妖精の園

華周夏

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【第63話】妖精の気・想い出づくり

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毎日、朝と夜の時間。妖精の気をフィルの両手を包みレガートは妖精の気をフィルに送る。

暖かい金色の粒子が流れ込んでくるようだとフィルは感じる。
いつの間にか約一ヶ月は経った。 

レガートと過ごす時間はつらい。

レガートが、
悲しい、
つらいと全身で訴えているように感じる。



 ある日のことだった。

暖かな日が差す初冬には珍しい日だった。 



『車椅子で表に出ないか?』
 
と、レガートは言った。 

『私に触れられるのは、嫌なんだろう?肩を支えるのも』 

気まずいが、レガートの言葉に、フィルは小さく頷くしかなかった。レガートは、

『昼過ぎにまた』

といつもより淋しそうに部屋をあとにした。 







硝子細工の小さな蓮の花のようなものが咲いて流れる小川を見に行った。昔訊いたことを思い出す。 

「エーエフの結晶?」

 陽の光を浴びてきらきら光って綺麗だった。 

『ああ。退魔の力がある。綺麗だな……』 

小さな喫茶店でリトの家で出しているホットワインを少し飲んだ。

甘くて身体が暖まり、良い香りがした。



シナモンの香りがする小さな美味しいビスケットも食べた。じっと見つめる視線に、 

『どうしたの?』 フィルが言う、

『もっと一緒に色々な思い出を作れば良かったな』 






そう、レガートは言った。 

ドラゴンの厩舎にも行った。

赤ちゃんドラゴンはとても大きくなっていた。

フィルには耳を澄ますと声が聞こえる。
伝えたいと思えば言葉は伝わる。 




《お別れなの?》 

大分、大きくなった赤ちゃんドラゴンは言った。 

《そうかもしれないね。お母さんみたいな立派なドラゴンになるんだよ》 

クークーと寂しそうに鼻を鳴らし、 

《嫌だよ。寂しいよ。扉の前に立ってるあいつが悪いんでしょ?フィルをいじめた。火を吹こうか?》 

レガートをチラッと見てから訴える赤ちゃんドラゴンにフィルは、 

《あのひとは悪くない。私の我儘。故郷が恋しくなった。もう、家もないだろうけどね。ここは美しいけど、私は苦しい。私にはちょっと汚れてるくらいが丁度いいの》 

《空は一緒。何処でも一緒。繋がってるから。早く大きくなってフィルをのせてあげるから、帰らないで》

 

この妖精の国に初めて来た日を思い出す。
レガートに抱き上げられて空を飛んだ日。
あの日私は恋をした。

紫の綺麗な羽根の長い黒髪の妖精に、
落ちるような恋をした。
初めて見た金色の雫。



いつまでも抱きしめていたい想いだった。
……今も覚えている。







金色の灯火はあのとき確かに心の奥で小さく灯った。今は消えかかり、心に、身体に、焼ける痛みが疼く。 

《……解った。考えておくね》 

やんちゃな赤ちゃんドラゴン。他の二匹は眠いのかお母さんドラゴンの翼の中で寝息をたてている。 

《レガートがクレシェンドの幻術の夢の中ですら愛したのはフィルだよ。中身は違かったけどね……でもフィルの格好に化けなきゃクレシェンドはレガートが相手にもしないと思ったんだよ》 

お母さんドラゴンは言う。
赤ちゃんドラゴンは頷くように加減して小さな火を吹いた。 

《今までつらかったね。実際レガートがクレシェンドに操られてるときの仕打ちは……》 

《ちょっと待って!操られてるときって?》 


声を大きくして、フィルは握りしめていたドラゴンとの柵から身を乗り出した。 




《操られるは言葉通り。クレシェンドの標的はレガートじゃない。フィルだよ。レガートを操ってフィルを絶望に追い込むこと。術にはまったレガートは身体をクレシェンドに乗っ取られてた。『覚えてない』とか言ってなかったかい?》


 フィルは何度も頷いた。 

《レガートは霧がかかったみたいって。
ぼんやりした夢を一生懸命思い出そうとしているみたいだって言ってたけど。クレシェンドは、なんでこんなひどいことをするの?……レガートも苦しんで、私も苦しんで……どうして…》



 フィルはお母さんドラゴンの木の柵に爪を立て瞳を潤ませた。
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