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枯れたジキタリスの花
〖第2話〗2年の歳月の過信
しおりを挟む入学式の前の日、思いきって飛び込んだお洒落なヘアカットのお店に行って髪を整えた。店員さんが満足そうに笑った。
鏡に映った自分は、ふわふわした髪は一緒だけど明るくて、縮れた髪はパーマのうねりのようだった。
以前の自分とは別人になっていた。もう、ジャージ君じゃない。モップ君でもない。
新しくなった自分を見て貰えると思った。
──────────
「佐伯、光宏さんですよね?相模です。相模明彦です!やっと、追いつきました」
先輩の答えは僕の目の前を真っ暗にさせた。
『誰?忙しいんだけど。見て解らないかな』
先輩は、早川さんと言う佐伯先輩と同期の先輩と談笑中だった。ああ、この人だ。今、先輩のこころの中にいるのは──。
諦めきれなかった僕は、立ち尽くし、なおも話しかけようとした。先輩は舌打ちをし、更に視線で僕を追い払った。
『さっさと消えろ』
冷たい視線はそう言っているように思えた。校舎の裏の目立たない所で僕は泣いた。
泣いても泣いても涙が出てきた。好きだった。本当に好きだったんですよ。支えでした。躓きそうだったときの支えは先輩でした。親しく話していた明るそうな男の人を『孝明』と優しく先輩は呼んでいた。
あの眼差しもあの声音もあの笑顔も、かつては僕のものだった。あの場所は僕が居た場所だった。あのひとに必要とされないなら何でここに来たんだろう。
憎い
悔しい
悲しい
悲しい
先輩………僕は、その程度だったんですね。 好きだったのに………僕はあなたを追いかけたのに。
嫉妬の火で燃え尽くされそうだ。先輩も先輩の同期のひとさえも不幸になればいいと思った。自分がどんどん嫌な人間になっていく。
僕は逃げた。先輩を忘れたくて、先輩の、見るからに早川さんに想いを寄せながら言えないでいるような切ない『恋する瞳』を向けながら、それを隠して親しさを装う、かつての自分のような佐伯先輩なんて見ていたくなくて、大学に馴染まないうちに、イギリスに留学して、ひたすらに、勉強した。
未練がましく持ってきてしまった、先輩の描いたジキタリスの絵。
僕は先輩に会うまで連絡を取らなかった。合格した僕に先輩が『待っていたよ』と褒めてくれる。あの眼差しを信じていたからだ。2年の歳月を僕は過信していた。
先輩だって恋をする。まして、僕なんて好きになってくれたのが奇跡みたいなものだったのに。
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