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さよならの海辺
しおりを挟む「このボトルメールって、海に流したら、何処に行くんだろうな」
少し寂しそうに君は言う。でも、僕の父さんが漁師だから解る。君─章太郎─の夢を打ち砕いて悪いけれど、ここら辺の潮の流れは一週間もすれば、またここに流れは戻ってくる。すなわち、このボトルメールの旅は一週間そこらでスタート地点に戻ると言うことだ。
「もうこいつと会うことはないんだよな。アメリカとか、フランスとか行くのかな」
君は少し頭が悪い。フランスは大西洋を通らないといけないので無理だ。それでも僕は「そうだね」と言い君を見つめる。
「手紙、入れてたみたいだけど、何を書いたの?」
「ラブレターだよ!もうサヨナラだけどいいんだよっ!」
解っているよ。手紙の裏地に『すきだ!』と言うペンで書いた文字が透けてる手紙がラブレター以外にはないだろう。君は、隣の組の沙羅ちゃんが好きだ。でも、沙羅ちゃんは3組の加賀君が好きで、しかもお父さんの転勤で5日後、東京へ行ってしまう。
「気持ちだけでも、伝えてきなよ。ボトルに入れても、伝わらないよ」
夕焼けに照らされた君は素敵だった。ああ、もしも僕が女の子だったら。沙羅ちゃんみたいに髪が長くてフリルのスカートが似合ったら、君は僕のことを想ってボトルにラブレターを入れてくれたかな。
迷う君の背中を僕は押した。一生の後悔にはさせたくなかった。
「……でも、もう遅いだろ」
「した後悔、しなかった後悔、結果は同じかもしれないけど、解るだろ?」
暫く間を置いて、章太郎は夕焼けの砂浜を駆けていく。焼けた肌に、沈みかけの太陽の光が染まる。
「海に流しておいてくれよ!一週間くらいたったら、海から戻ってきたボトルメール見て、泣くから肩貸して!ガリカリ君、奢れよ!」
君は振り返って笑った。知ってたのか。ここの潮目の事くらい、君も解っているよなと、僕は自嘲しながら涙目で西の空を仰ぐ。
本当は一週間後、君の流した一本の瓶を開けて君が本当に恋を終わらせるのを、隣で慰めたかった。
けれど来週の君はきっとバツが悪そうに、笑ってるだけだ。
『後悔しなかったよ、ありがとう』
なんて僕に笑いかけながら。戻っても来ないボトルメールに、
『きっと、フランスに行ったんだよ』
なんて嘘をつく。君は涙目で笑うんだろうな。届かなかったボトルメールを思って。
いいじゃないか、伝えることが出来る君は。僕は伝えることすらできない。
「アイスなんて、奢るかよっ!」
最初は自分の瓶だけにいれるはずだったパチンコ玉を両方のボトルに入れて、コルク栓をし、僕は瓶を海に投げた。涙がとまらなかった。海の底に、沈んでしまえば良い。叶わないなら、尚更だ。
君が沙羅ちゃんを好きな気持ちも。
僕が君を好きな気持ちも。
君への想いを綴った、くだらない手紙も。
───────【FIN】
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