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楓の過去と流の秘密〖17─③〗
しおりを挟むだから、私がいる。
私はαとしてあの子と子を成すつもりはない。死ぬまで奏を守り続けよう。そう、思っていました。 ………今あの子が愛しい。
あの子の私を見る目が憧憬から恋慕に変わっていくのは解りました。
でも、見ないふりをしていました。けれど、泣きながらあの子は言ったんです。初めての『仕事』の後、 『一緒に堕ちて』 って。
あの時から私はあの子を見る目が変わりました。 私は罪と解りつつαとしてあの子を抱いた。あの子を愛した。
愛してしまいました……。
あの子が愛しくて悲しくて。 奏には言えません。 死んだ方がましです。
ですがこの『死んだ方がまし』なことを、重ねてきました。奏も──望みました。
何処で覚えてきたか解らない媚態をつくり、私を呼ぶんです。
『ドクター、抱いて』 と、言うんです。
ですが、今『人魚』が望む海はもう私ではない。涼くんです。
かつてのあなたに似ていますね。
精練で、
正直で、
素直で、
優しくて。笑顔なんて私が大好きだった兄さんの若い頃のままです。
奏可愛さに意地悪をしましたが、
話をするうちに過去へ戻っていく気がしました。 懐かしくて、泣きそうになりました。
確かに鷹司の御曹司は涼くんしかいない。
だから頼みます。
二人を逃がしてやって下さい。
鷹司の力で匿ってやって下さい。
これではあまりにも『人魚』が憐れです。
お願いします、兄さん」
楓はグラスを両手で持ち、うなだれる。グラスのブランデーが揺れた。
「中々出来ない相談だな」
アルコールが少し回った顔で、流は笑う。
「涼は、お前の子だよ。楓。私とお前の子だ」
楓の手からグラスが滑り落ちる。
困ったようにそして何処か嗜虐的に笑う流をよそに、楓は凍りついた。
そしてカタカタと震え始め、叫ぶように泣き続けた。
『知らずに愛した双子の兄を求めるか、生みの親を愛するか。見物だな』
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