愛して、許して、一緒に堕ちて・オメガバース【完結】

永遠の蛍火・奏の秘密の能力〖12─③〗

「小さい頃、何が好きだった？」

 やさしく涼は問いかける。

 「研究所で飼われてた生き物かな。 あの子達は『普通の世界』を生きてる。 人は違う。穢い。そう教え込まれたから。ドクターも蔑視主義だった。

『何で駄目なの？あの金魚さんもお顔が違うよ。人は違くちゃダメなの？』

幼い僕がそう言ったら研究員の人がケースに入った金魚を目の前で殺した。
怖かった。あそこに僕の意見は、なかったんだ。 
悲しくて部屋に閉じ籠ってるところをドクターに泣きついたら、
二度とその研究員は研究所から見なくなった。 でも、ドクターに言われたんだ。 

「九条の理念は『異端の排除』だよ。受け入れなさい」

最近まで僕はあの金魚を忘れてた。人も穢くなんかないのに。
ただの生まれつきの個性だ。
αもβもΩも。
『異端の排除？』御曹司がこれ以上もない『異端』なのに。
僕は『どれでもあってどれでもない』って言われてる。
まあ……遊びの時でもαの優位性を使って、Ωみたいに抱かれながらも絶対に噛ませたりなんかしなかったけど」

「──好きだった食べ物は？」

「シュワーってする甘いの。瓶で丸いガラスが入った……。何か切なくなった」

「ラムネ？」

うん！と奏は笑う。
けれど、笑顔はもう慣れてきた夜目の薄闇に消えて暗い顔になる。

まるで、奏は、自分には笑うことも許されないと思っているようだと涼は思えた。

「ちょっと待って」

涼はキッチンに消える。暫くしてグラスで出してくれたのはグレープフルーツの炭酸だった。 

「ソフトドリンクを炭酸に出来る機械があるんだ。元は今日の夕飯の残りのグレープフルーツジュースだよ。ラムネじゃなくてごめんね」 

「ううん、美味しいよ。ありがとう」

 一生懸命の気遣い。涼はやさしい。 誰よりも。
マシュマロに包まれている気分だ。でも優しさがつらい。飲み干したグラスをサイドテーブルに置く。 涼はすっとそれを取りに立ち上がり手早くマグカップと洗う。