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《エピローグ》②奏の目覚め

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奥の部屋のドアを開ける。そっと近づき奏を見たとき、丁度窓から朝日が斜めに差し、奏の長い髪の毛を金色に染めていた。

磁器のような白い肌、長い睫毛はアンティーク・ドールのようだった。

指も細くて、爪はうっすら桜色だった。
あまりの美しさに海は息をのんだ。


天使が眠ってる。


海は単純にそう思った。

 「お前を生んでから、眠ったまま。心拍数も血圧もそのまま。脳波も──ずっと眠ってる。無理な出産だとは本人が一番解っていた。

でも、お前を産みたいと言った。

愛しいと、会えないことはわかっていても、
お腹を撫でて、『幸せが待っているから』……と言っていた。ラムネ……好きだったな」




 海は泣きそうになる。もっと早く素直に『会いたい』と言わなかったか。

過去に数回、涼に遠回しに促されるようなことがあった気がすることを思い出す。

何故か子供扱いされているような気がして、拒んだ。

それに、お墓に連れていかれると思っていた。
海は過去の自分の行動を悔やんだ。

────────────── 

小さい頃からつけさせているネックレス『絶対に外すな』と言われている、赤い貝が樹脂加工してあるもの。

幼い頃、嫌な思いをしてから、学校でシャツの中に入れて隠している。

ネックレスなんて女の子みたいと周りから言われて嫌だった。でも、涼の言いつけを守らない方が怖いので、していた。




そして、小さい頃から身近にあった、色とりどりの貝。拾ったのは、『こう』なる五日前の奏だった。





瓶に入れられているたくさんの貝。
友達に『少女趣味』と笑われた綺麗なつやつやの貝は、

奏の涼との最後の思い出と、
これから自分自身と引き換えに海を産む奏の伝言だった。 
『こんなに、美しい貝がある。君の未来は輝いているよ。
だから、心配しなくて良い。
でも、ごめんね。僕は君を腕に抱けない。
あとね、皆にお揃いの赤い貝。
赤色には魔よけのちからがあるんだよ。
君を守ってくれるように』 



涼が、この部屋に来る途中、生まれてくる海へ残すように言った奏の言葉を海に伝えた。 
涼に手を引かれベッドの真横に行く。 


「奏、特別なお客様だ。君と俺の大切な子供だよ。ほら、挨拶を」 

「鷹司、海です。奏、さん?眠ってるん、ですか?起きて。起きて。起きて下さい!
父さんがこのドアを出ると、いつも悲しそうにしてるんです。
多分泣いてるんです。
僕もたくさん奏さんに謝らなきゃ。

拾って貰った貝、三個友達に、
あげちゃった。ごめんなさい。ごめんなさい。

ネックレスも昔、自慢してたら、
悪いひとに見つかって、壁に投げつけられて、傷、ついちゃった。僕が怪我した方がよかった!怪我はなおるけど、
ネックレス、欠けちゃった。治んない。
悔しかったけど、仕方ないやって思ってた。

しかも友達から『女の子みたい』って、
恥ずかしくて、してるのが嫌で。
奏さんがどんな思いで拾ったか、僕のこと思ってたかなんて、考えなかった」



 そう言うと、海は大声で泣きながら眠る奏にしがみついた。 


「海、やめなさい。もういい!貝のことは説明しなかった父さんが悪い!
奏ごめんね、心配かけて。また来る。
海!こら!奏から離れなさい!こらっ奏から手を離せ!」 

涼は海を引っ張るが、海は涼に逆らい奏のベッドのマットレスを掴んで離さない。
涼も諦めて傍らで様子を見守った。 

「奏さん、でもね、これ、いつも持ってるんだよ。傷はついちゃったけど赤い貝のネックレス、してるよ。
ずっと持ってるよ。
奏さんの枕元の貝とお揃い。

僕の名前も奏さんがつけてくれたんでしょ?

父さんと奏さんと僕と三人で、ううん。流おじさまと、楓おじさまと五人で海に行こうよ。海辺のコテージには父さんはいつも行かないんだ。流おじさんは
『奏を思い出してつらいんだろう』
って。だから、いつも僕一人で泳ぐんだ。

奏さん、起きて。起きて!お願いだよ。目を開けてよ──名前を呼んでよ。奏さんがつけてくれたんでしょ?名前を呼んでよ!奏さぁん!」 

海は膝をつき、奏の胸に突っ伏して泣いた。泣いて泣いて泣きじゃくった。

不意にやさしく髪を撫でる冷たい手。目を擦る。 海が顔をあげると、綺麗な顔をした、瞳が薄い茶色の綺麗なひとが微笑んでいた。
もう一度、目を擦る。泣いているのは奏も同じだった。



──────────続
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