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金色の回向〖第3話〗
しおりを挟む「──あなた、横川領くんよね。私は中野虹子」
何か懐かしいものを見るかのように虹子さんは俺を見た。
「『あなた』なんて初めて言われた。何で俺の名前知ってるの?」
「その通学鞄に書いてあるじゃない」
可笑しそうに左手を虹子さんは口元に添える。俺は少し照れ臭くて後頭部を掻いた。虹子さんを見ていると俺はただのガキになっていく。あたりまえか。
虹子さんは、苦笑いしながら玄関をガラガラと開け、部屋を案内していく。どの部屋も掃除が行き届いていて、尚且つ趣味が良い内装で、各部屋リフォームがしてあった。古い平屋の一戸建て。趣味の良い玄関。一番奥の部屋が虹子さんの寝室だった。ベッドも、アンティークの和箪笥も趣味がいい。部屋に立ち込める甘い匂いは京都で買ったお香だという。全ての部屋がガラス戸で外に面していた。大人の女性の匂いしかしない。緊張する。暫くして虹子さんが綺麗な朱塗りのお盆を持ってきた。
「はい、水羊羹。あと、冷たい麦茶。女性の部屋は、初めて? 領ちゃん」
虹子さんのからかうような声に、不機嫌を装いながら、硝子の平皿に乗せられた水羊羹を、添えられた黒文字で一口食べる。
「あ、美味い!」
得意気な顔をして虹子さんは笑う。水羊羹を食べ終わると、
「暇なとき、おいで。甘くて美味しいものあげるから」
そう虹子さんは言った。俺を見る視線は、何処か辛そうだったけれど、俺には何も出来ないことは何となく解った。そんな顔だった。
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