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〖第61話〗
しおりを挟む初めて人の行為を『穢い』と思った。勿論自分の行為を高尚だとは思わないが、仮にも親じゃないのか?俺の存在は母にとって虫にも劣る存在とは解っていたけれど、あまりにも。いたたまれない。
俺は無表情でドアを開けて、
「お楽しみのとこ悪いんだけどさ、母さんに話があるんだけど。ピアノの先生?だよね。席はずしてくんない」
男は顔を真っ赤にして身支度もままならないまま逃げるように去った。母は手早く身支度を整え、コンパクトで口紅を塗りなおした。
「空気くらい読みなさいよ。いいとこだったのに」
「いい加減、家に男引っ張りこむのよしたら。父さん、この家に今いるんだろ」
「男が男の家で日課みたいに寝るよりいいわよ。気持ち悪い。早瀬の家の恥ね」
友次さんは、妊娠したら用済み──早瀬の特権意識。化石頭を白粉で皺を隠した中年女。恋愛対象が男じゃ何故いけない?俺は誰も傷つけたりしてない。生きづらい世の中だとも知ってる。ただ俺じゃ家を継げないから、分家から養子を取ることには責任を感じる。
「親父にも昔、同じようなこと言ったんだ」
努めて冷静に俺は母にからかうような口調で言った。怒鳴って襟首を掴んで揺さぶってでも真実を知りたかったが、終始好意的な顔を崩さず言った。
「言わないわよ。大事な早瀬ブランドだもの。あそこら辺の大地主。都市部にも土地をもってビルも何個も持ってる。妊娠すれば贅沢三昧って皆、友次さんを狙ってた。そんなときに、友次さんが私の泊まってたペンションに植わっていた月下美人とか言う花を写真に撮りたいって夜来たの。もう、覚さんと友次さんは噂になっていたけど、駄目もとで言ったわ『二人の関係、みんなにばらしちゃおっかな。嫌なら一晩付き合って』って。そしたら友次さん、バカみたいに引っ掛かって『お願いだから秘密にして下さい。覚さんに迷惑かけたくないんです』って。もうみんな知ってるのに。ねぇ。本当に呆れるくらい単純すぎて笑っちゃう」
身体が真っ白になるほどの怒り。握る手が震えた。
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