42 / 64
〖第42話〗
しおりを挟む絡み合う二人分の吐息。ルミエの誘う甘い声。覚さんのやさしくルミエの頬を撫でる手。聴きたくもない二人の情事のため息や、息づかい、喘ぎ。ルミエの細い悲鳴似た声と、覚さんの眉間に皺を寄せ、苦しそうに身体を離し、吐精する瞬間を見た。
二人の関係は、前々から解っていた。でも、認めたくない自分がいた。現実は、残酷だ。見たくなかったけれど、足が竦んで動けなかった。それよりも、息を乱しながら、覚さんはルミエの金色の髪を撫で言った言葉に、俺は涙がとまらなかった。
「ルミエは、綺麗だな。本当に綺麗だ」
自分がモデルをするたび言われ続けた言葉だった。その言葉は何より俺を喜ばせた。
『洋之は、綺麗だな。本当に綺麗だ』
だからこの言葉が俺を切り刻んだ。ここを出ていこう。そう思った。あまりにも、惨めだ。はっきり、言おうと思った。ルミエは低血圧だからと最近は朝は食べないし、もう、俺には、覚さんと一緒の席につきたいと思う気持ちは、とうにない。ルミエに言われたからだ。
「家政夫が、ここでは主人と一緒に食事をするのかい?」
俺は覚さんを縋るように見た。何も………言ってくれなかった。恋人だったのは少しの間。いや、『恋人ごっこ』をしたのは少しの間。
あんなこと、言わなければよかった。それと、ろくに………甘えられなかった。あの日も雨だった。先生とのお別れの会。今日も少し似ている。
朝。霧雨より雨粒が大きな山の雨。しばらくしたら打ち付けるような雨に変わった。二階に上がり、覚さんの部屋をノックをする。
「どうぞ」
声が響いた。
「覚さん………もう、潮時ですよね。さよならです。出ていきます。お世話になりました」
「待ってくれ。少しだけでいい。君の絵が出来上がる。君に、持っていて欲しい」
こんな時に、絵か。俺が出ていくより絵が大事か。笑いたくなる。
「待ちません。覚さんは嘘をついた『きっと君を好きになるような気がする?』ならなかったじゃないか!好きなら、恋人なら、庇って欲しかった。あんな奴と寝ないで欲しかった!あなたは嘘ばっかり。もう、うんざりだ。あなたなんか大嫌いだ、顔も見たくない!あんたが俺を捨てたんじゃない、俺があんたを捨てるんだ‼」
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
妻と愛人と家族
春秋花壇
現代文学
4 愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 5 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 6 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 7 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。
8 愛は決して絶えません。
コリント第一13章4~8節
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる