蝶々の繭〖完結〗

華周夏

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〖第42話〗

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 絡み合う二人分の吐息。ルミエの誘う甘い声。覚さんのやさしくルミエの頬を撫でる手。聴きたくもない二人の情事のため息や、息づかい、喘ぎ。ルミエの細い悲鳴似た声と、覚さんの眉間に皺を寄せ、苦しそうに身体を離し、吐精する瞬間を見た。

 二人の関係は、前々から解っていた。でも、認めたくない自分がいた。現実は、残酷だ。見たくなかったけれど、足が竦んで動けなかった。それよりも、息を乱しながら、覚さんはルミエの金色の髪を撫で言った言葉に、俺は涙がとまらなかった。

「ルミエは、綺麗だな。本当に綺麗だ」

 自分がモデルをするたび言われ続けた言葉だった。その言葉は何より俺を喜ばせた。


『洋之は、綺麗だな。本当に綺麗だ』


 だからこの言葉が俺を切り刻んだ。ここを出ていこう。そう思った。あまりにも、惨めだ。はっきり、言おうと思った。ルミエは低血圧だからと最近は朝は食べないし、もう、俺には、覚さんと一緒の席につきたいと思う気持ちは、とうにない。ルミエに言われたからだ。

「家政夫が、ここでは主人と一緒に食事をするのかい?」

 俺は覚さんを縋るように見た。何も………言ってくれなかった。恋人だったのは少しの間。いや、『恋人ごっこ』をしたのは少しの間。

 あんなこと、言わなければよかった。それと、ろくに………甘えられなかった。あの日も雨だった。先生とのお別れの会。今日も少し似ている。

 朝。霧雨より雨粒が大きな山の雨。しばらくしたら打ち付けるような雨に変わった。二階に上がり、覚さんの部屋をノックをする。

「どうぞ」

 声が響いた。

「覚さん………もう、潮時ですよね。さよならです。出ていきます。お世話になりました」

「待ってくれ。少しだけでいい。君の絵が出来上がる。君に、持っていて欲しい」

 こんな時に、絵か。俺が出ていくより絵が大事か。笑いたくなる。

「待ちません。覚さんは嘘をついた『きっと君を好きになるような気がする?』ならなかったじゃないか!好きなら、恋人なら、庇って欲しかった。あんな奴と寝ないで欲しかった!あなたは嘘ばっかり。もう、うんざりだ。あなたなんか大嫌いだ、顔も見たくない!あんたが俺を捨てたんじゃない、俺があんたを捨てるんだ‼」
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