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〖第31話〗
しおりを挟む「私も人間だからね、あの二人を羨んだよ。友次を憎んだ。正美さんも憎んだ。悪態もさんざんついた。私も若かったからね。正直に言えばあの二人に対して、特に友次に対して『どうして?』という言葉が喉から出そうになったことが何度もある。だが、切れた糸は戻らないんだ。時間が戻らないのと一緒だ。友次には今も、たまにからかうように悪態をついてしまうが、心からではないよ。結婚式の後、少しして君は生まれた。あの頃は、友次も正美さんも、妬ましくて、恨めしくて。それでも、赤ん坊の君は、私を見て、笑って、小さい手で私の指を掴んだ。温かくて、可愛らしくて。いとおしかった。涙が出た。私は君に救われた。君を憎んだことなど一度もないよ」
泣き虫、ひろ。私を救った君のお願いを一つだけ聞くよ。何がいい?よく考えなさい。 そう言った覚さんの懐から顔を出した俺は言った。
「俺を覚さんの恋人にして。覚さんのこと考えると毎日がしあわせだよ。だけど考えるんだ。嫌われたくない、怖いって。捨て犬みたいに追い出されたらどうしようって。しあわせなのに、毎日、不安なんだ。今度は覚さんが、俺を救って。お願い………」
覚さんは感情を隠すことは苦手みたいだ。つらそうな顔をしている。
「取り敢えず、寝ようか」
「え………急に言われても、俺……準備も何も………」
恋人にして。とは言ったけど急に、言ったばかりでこんな、と。俺はワインで赤くなった顔を更に赤らめ俯いた。覚さんは、俺の長めの髪をワシャワシャと撫で、愉しそうに言った。
「『取って食ったり』しないよ」
意識した自分が恥ずかしい。今まで付き合った奴の中で、気にいったらその日にしてた。夜の街の、後腐れない奴だけだけど。
「安心するよ、ひとの体温は。アルコールも回って温かいから。おいで」
覚さんは俺をベッドに促した。
「あ、温かいね………」
覚さんは後ろから包むように抱きしめた。足先を絡める。手の指先も絡める。思いも絡め取れたら、どれほどいいか。
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