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〖第28話〗
しおりを挟む覚さんの方に見上げると困ったように眉を下げる覚さんの瞳にぶつかる。涙でグシャグシャになって赤くなった俺の顔をみて、
「こんなに泣いて、可哀想に。目が腫れてるな。冷やそう」
隣に覚さんは腰を下ろし、冷えた濡れたハンカチで丁寧に俺の涙を拭う。覚さんのハンカチ越しの手がひんやりとして、やさしくて、俺の涙腺はさらに緩む。
「出ていけなんて…言わない…よね? 嫌いに…なったり……しないよね?…矢印で…『好き』に…いれてくれたよね? ここに…居たいよ……覚さんの…傍に置いてよ」
ヒックヒックと、息が苦しい。
「馬鹿だな…洋之。君は……」
近づく吐息。目を瞑る。口唇まで、あと三センチメートルの距離。息を止める。けれど、ふっと、覚さんの気配が遠ざかる。
「………飲み物、だったね…後で話を聞かせてくれ」
同情でも、憐憫でも良かったのに。抱きしめてもらったとき、このまま消えてしまってもいいと思った。
けれど、一息ついて考えた。これで良かったのだ。あのまま口唇を重ねていたら、俺は、しあわせ過ぎて、人魚のように、泡沫に消えてしまうかもしれない。
だって、今も覚さんの吐息の温もりが消えない。
──────────
しばらくして覚さんが持ってきた、まんまるな赤い丸が描いてあるワイン。
「覚さんも、お酒飲むんだね。飲まないって言ってたのに」
「たまにね。若いひとは知らないと思うけれど、昔はワインだったらこれがメジャーなものだったんだよ」
かなり甘口だけど、飲み過ぎないようにしている。洋之も、気をつけて。そう言われ、グラスに注がれた赤。一口飲んでみると甘くて飲みやすくて、じんわり甘くて喉が温かくなる、美味しい飲み物。
「すごく美味しいよ。甘くて、飲みやすいね」
しばらく、雑談をして、ワインを飲んだ。それからあまりしたくはないが本題へ入る。
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