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〖第23話〗
しおりを挟む珈琲を飲んで覚さんの目を見て、目蓋を伏せて、
「いい香りです。美味しいですけど、俺にはまだちょっと苦いかな。早いかも」
などと言い、俺は屈託なく笑うふりをする。俺の答えが気にいったみたいに、覚さんは満足そうに微笑み、口唇の端を持ち上げ珈琲を啜る。
俺は年相応に照れくさそうに笑うふりをして、覚さんを見つめることをせず、目蓋を伏せて、珈琲を飲む。カップに自分が映る。
笑うことばかり上手くなった嫌な顔がそこにはあった。心の中で目の前のひとを想う。
不毛な想いだ。虚しい想いだ。叶わない想いを引きずるほど、その時間が長くなれば長くなるほど擦りむいた傷は大きいのに。
──────────
もう、秋めいている草花、気温、風。毎週日曜日に、片道一時間かけて覚さんの運転で街に車で買物に行く。
綺麗に掃除がいき届いた車内。運転するとき、覚さんはいつもより、お洒落な眼鏡をする。俺は隣で覚さんをチラチラと見る。そんな俺を見て、何故か覚さんは上機嫌だ。
俺はこの時間がとても好きだ。窓から褪せてきた緑、ほんのり土の香りがする乾いてきた秋の風。虫の声に混じって覚さんの好きなクラシックのCDが車中に静かに響く。
「この曲、好きだな」
「ラヴェルの『水の戯れ』と言うんだ。キッチンの君だ。華奢な指で水と戯れている」
微笑みを交わしながら、覚さんと過ごした時間が増えていく。覚さんに想いを寄せる俺にとって、覚さんの、細やかなやさしさが嬉しかった。
そんな俺は、覚さんに惹かれた。一目惚れのように、会ったその日に恋に落ちた。けれど覚さんは俺にくれたのは『好意』ではなく『親切』だ。俺は見つめるだけ。覚さんにとって俺は『預かっている親戚の子』だからだ。泣きたい気持ちにさせる不毛な想いに蓋をして、隠して、普段通りに振舞いながら、笑いながら、運転席の覚さんを見つめる。
俺は、覚さんに何ができるか考える。たくさん温かな感情を貰った。傷ついた心は慰められた。俺は何ができること。
考えた先は料理ではないかと思った。前に、
『洋之が料理上手だから朝のオムレツが楽しみだ。中々自分ではああはできない』
苦笑いしながら
『甘えているのは私だな』
そう言われて、胸が掴まれる感じがした。インスタントの味噌汁はまだ飲んでいない。
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