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〖最終話〗果てのない旅
しおりを挟む段々視界が暗くなっての力が抜けていきます。白霜さまの声が小さく聞こえます。
「華……?華!嫌だ!返事をしてくれ!私を独りにしないでくれ!」
白霜さまの潤んだ叫びが山に響きました。
「助けてやっても良いぞ。愛しあう者を無理に引き裂き冥土に送ろうと、冥府の神もいい顔をしないであろう。その代わり、その兎が大切にしている簪を貰おうか」
そこにあの翁はいませんでした。目映い程に神々しい、豊かな黒髪を結いあげた美しい女神がいらっしゃいました。
女神が指を動かすだけで、華の髪からするりと桜の枝で作った粗末な簪が動き出し女神の手の中に収まります。
「と、冥府の使者が来る前に……」
フッと私に息を吹きかけると、視界はいつもの通りです。まだ、事態を把握しきれてない私を、力一杯、苦しい程に白霜さまは抱きしめました。
「私はあげるものがありません。どうして、私の命をお助けに………」
「白霜、お前は私が翁の姿で洞窟を訪ねた時、あれだけ腹が減っているのに、兎の肉を喰わなんだ。本当に、あの白兎を愛しているのじゃのう」
「お聞きしても宜しいですか?あなたさまは?何故私たちを………?」
私は、か細い声で女神に訊いた。女神は機嫌良く、
「訊くだけ野暮よの。まあ、簡単に言えばお前たちが気に入ったのよ。死ぬほど痩せても餌となる兎を食わない狼と、自分が死んでも狼を生かすために、餌となろうとする、憐れなほどに狼を愛した兎にな。私はこの山の神よ。そなたの生命の代償はこの簪じゃ。異論はないな?」
「──命を救っていただき有難うございます。残り短い命を大切に致します」
女神はニコリと微笑んで仰りました。
「再び命を吹きこんでやったのに、簡単に死なれては困る。そうだな、山の麓のここに棲め。新しい力を与えよう。普段は人間の姿だが新月の時には変化の力を失い、獣の姿に戻る、というのはどうじゃ?」
「仰せのままに」
二人は頭を下げました。女神は持っていた美しい翡翠の煙管に火をつけ煙を吸い込み私たちに煙をかけました。
「体力も戻ったはずじゃ。末長く幸せにな」
煙と共に女神は消えた。白霜さまは、私を抱きしめ声をあげ泣きました。いつの間にか私も泣いていました。
──────────
この山の女神の眷属の狼の私と兎の君は、山の神さまに愛されたのだよ。
新月だけは、隠し部屋に閉じ籠る。案外昔の思い出が込み上げ、悪いものではない。自分が獣だと再確認する。ただ、山の神様は私たちの寿命については触れなかった。老いることを知らない私たちに終わりはない。
終わりがないことは怖いはずなのに、君がいる私は、明日を待ちわびない日はない。
──────────Fin
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