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〖5〗山の神様と人間と

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「春には、桜を見に行きましょう。夏には川遊びを。秋になったら、栗拾いと紅葉狩りに。白霜さまは目を閉じることが怖いと仰っしゃられましたが、怖くないでしょう?ずっと傍に、貴方の一番傍にいますから。同じものを見て、香りを感じて、水の冷たさに笑って。ですが、幸せの隣に居たいのですが、この約束を叶えられないのなら貴方自身となって、私の夢をかなえたいのです」

…………………………………………………………………
 ──白霜の生い立ち【過去】──
…………………………………………………………………

 この豊かな美しい、山の神様の眷属として出逢った私達。初めて出会った君は、可愛らしくて、気高くて。濡れたような黒いつやつやした黒曜石のような大きな瞳で、私を射るような瞳で見ていた。
 まだうら若い君は、小さな若い白兎。ふわふわの真っ白な毛をしていた。
 
 そして、私はただの武骨な白い狼。私は、この山の神様の眷属であることを、華……君に会ってから初めて正しく、歪みなく、誇りに思えた。君が私に生きる意味をくれた。この山を守り、山の神様と生きること──それまでの私は、君に会うまでの私にとって、生きる意味などはなかった。ただ毎日、旨い『飯』が、いや、旨い『餌』が食えればいい。それだけの、ただの、うらぶれた狼だった。
 
 この山の眷属だった両親は、この山の動物に崇められていた。強い熊も、賢者と言われる梟も、人間でも手を合わせる者がいた。今となってはそんな者はいない。もう人間は、山の神様も、山の神様の眷属も、信じない。狼の仲間も次々と人間に狩られて死んでいった。
 
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