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〖第1話〗
しおりを挟むそうして人類は永遠の眠りについた。理由を──いや秘密を知る者は誰もいない。私を残してこの研究所に誰もいなくなったからだ。そうして……。私はペンを置いた。頭を抱えて泣いた。いくら泣いても、独りだ。
あのひとはもういない。人類がいなくなったことより、あのひとがもういないことがつらい。なんて私は浅ましく、卑しいんだろう。ごめんなさいDrシグマ。私は欠陥品です。あなたに恋をしていました。決して告げてはいけないことだと解っていたから言えなかった。あなたは私の笑った顔が好きだと言った。だから笑った。本当はいつもあなたにしがみついて泣きたかった。
研究所の人達と白衣と同じ生地で縫製された粗末なワンピース。あなたは不器用に『海』と左裾に小さく青い糸で名前を縫いとってくれた。十歳だった。あの時、始めて透明アクリルの筒の中の培養装置の外に出る私への誕生日プレゼント。嬉しかった。あの研究所で私の味方はあなたしかいなかったけれど、あなたがいるだけで幸せだった。幸せだったんですよDrシグマ。
あなたは私のせいで死んだ。私を創ったから。私の秘密があなたを殺した。きっと国連は《シグマと私しか知らないこと》に気づいているのではないか。上層部の連れ去られる前のあなたはそれでも生きろと言った。だから私は生きた。研究所員の度を越えた嫌がらせも耐えた。いつの間にか、研究所員は時の流れには逆らえず死んでいった。彼等の死は私に何の感慨も起こさせなかった。
悲しいことは一番若い私は生きる時間が必然的に長く、この身体ゆえに生き残り、そして、時間は脳を老らせ、Drシグマを忘れていくことだ。あなたの温度を、聲の形を、眼差しを。私の名前を呼んで目を細め、頭を撫でる優しい掌の感触も。
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