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〖第3話〗
しおりを挟む今年の冬はいつもよりは幾分かは暖かい。毎年、湖や、海さえ凍る冬ですが、遠くの海は凍りましたが、近くの海は凍りつきませんでした。きっと王子さまは月の神様に愛されているのです。
季節は巡ります。あともうすぐで春になります。
王子さまは元気がありません。きっとご自分だけを残して過ぎ去る季節がおつらいのだと思いました。
「ほらお食べ。この塔のまで来るには海風が強く体力を使うだろう。毎日来てくれてありがとう。冬は君に甘えてしまった。いつもすまないね。きっと私を看取ってくれるのは、きっと君なんだろうね」
明るく振る舞おうとする王子さまが痛々しかった。涙が込み上げてきます。つらくて、やるせない気分でした。
死んでしまうなんて、 ひどいことを仰らないで下さい。王子さまが死んでしまったら、私は何を生き甲斐にすればいいのですか?私は毎日、月の神様にお願いします。
どうか、王子さまが幸せになりますように。王子さまが元気になりますように。ですが、途中、穢い考えのもう一人の私が、私に話しかけます。
『王子さまが銀色の髪を取り戻して碧い瞳を得たら──塔から出たら、お前のことなど気づかない。鼻にもかけてもらえない』
『美しい王子さまは自分の知らない誰かと結ばれ恋を知る。お前はそれに耐えられるか?』
解っています。私は王子さまが好きなのです。ですが王子さまは、私を『寂しさを紛らわす話相手』くらいしか見てくださいません。
それでも良かったはずなのに、それでも身の丈に合わない幸せなのに、いつしか自分は欲張りになりました。
見つめるだけでよかったのです。
それが声を聞いて、不意に流れてくる微笑みを受けとめて。私は王子さまよりずっと早く『恋』を知りました。
──私は充分王子さまを見つめました、ご飯をもらって、タカタカの実も、毎日もらって。私の気持ちを伝えることは出来ませんでしたが、幸せでした。
意を決して、私はある満月の夜に集めた十二滴の涙を集めて国の重鎮の白魔導師さまの元へ忍び込みました。
この人ならきっと私のことを解ってくれます。話を聞いて下さいます。賢者と呼ばれる人だと、この国の皆が口を揃えて言っているのですから。
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