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〖第14集〗

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 ただの部下なら、護衛の仕事が嫌なら辞めさせ、別な仕事を与える。だが、范蠡にとって陸香は特別だった。年齢も殆んど変わらない中、幼い范蠡の子守りをし、両親を早くに失くした范蠡に寄り添い、范蠡の広い家のなかでの唯一の温もりを感じる場所になってくれた。

 心優しく、最も信頼する友のようでもあった。陸香の代わりなどいない。部下ではない。

「物のように扱うなど出来るわけがない……」

 范蠡は小さく呟くように言った。怯える陸香の耳には入らないくらいの小さな声だった。

 范蠡はやるせない。何故陸香はこんなことを言うのか。目の前で怯えて。震えて。范蠡にとって陸香は特別だ。罰せられるとでも思っているのか。そんなことは、范蠡はしないし、誰にもさせない。そんなことも解らないのかと、范蠡はどうしようもなく苛々する気持ちが込み上げてきた。

「出迎えも見送りも、もういい!私が嫌ならわざわざ顔を出す必要もあるまい!」

「申し訳………ありませんでした」

 陸香は片膝をつき頭を下げる。

「用事を思い出した。明日また来る」

「では………明日」

 力ない陸香の返答に范蠡は口走った言葉を後悔する。いつもそうだ、いつも。范蠡は陸香に素直になれない。陸香はいつも范蠡が見えなくなるまで頭を下げて見送る。范蠡は馬を走らせながら後ろを振り返る。陸香が、ずっと頭を下げている姿がつらかった。

********

 次の日、范蠡は馬をとばし、別邸を訪れた。陸香の出迎えの姿はなかった。

「明日と、言ったではないか………」
 
 元はと言えば范蠡が『出迎えも見送りもいい』と言ったからだ。けれど『本当に』陸香が居ない。陸香はいつも当たり前に出迎えて、

『また泥だらけですが。何処に行っていたのですか?』

 と困ったように笑い、玄関先で足を洗ってくれた。昔も、今も。陸香は暗がりでも解るような、白く細い指をしていた。

 当たり前が消えてしまうことが、これほどまでにつらいとは范蠡は知らなかった。伝えるべき言葉を、伝えなかったからだ。また理不尽に怒鳴られると思ったのだろうか。
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