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人魚の恋と蒼い月
ブルームーン〖7〗
しおりを挟むああ、ヒトになりたかったな。今度生まれ変わることがゆるされるならヒトになりたい。君の隣を歩って、また君に恋したい。僕はありったけの勇気を振り絞って、君の口唇に触れるだけのキスをした。
やっぱり僕は消えてしまうんだ。心臓が変だからだ。
ドクンと何回も大きく脈を打って痛いくらいだ。視界も意図せず潤んで狭く霞む。情けない声にならない声が漏れる。
涙がみっともなく零れて落ちる。情けなく泣きながら僕は言葉を繋げる。声が、潤む。最後くらい綺麗に消えたかった。なのに手が震えて、涙がとまらない。
「き、気持ち、悪いよね、僕。でも、ずっと君が好きだった。だから、これでお別れ。たぶん、もうすぐ消える。消える僕から君への最後の誕生日プレゼントをあげる」
軽く首をかしげて、僕は言った。
「──ねえ君は何が欲しい?どんな願いも叶えてあげるよ」
僕の一番大切なヒト。愛したヒト。僕は君の心が欲しかった。友達ではなく、恋人になりたかった。
「──海月は人魚なんだろ?俺、知ってる。憶えてるよ。俺が小さいとき高潮から助けてくれたのは海月だろ?淡い紫の鱗がブルームーンみたいだった。あと、蜜柑と林檎を一緒に食べたことは?憶えてないのか?波打ち際を游ぐ海月は、絵本に出てくる通りで、ため息が出るくらいに、本当に綺麗だったよ」
幸せだと思えた。嬉しかった。君に綺麗と言われて、本当に嬉しかった。心の底から、泡沫になりたくないと思った。まだ君とさよならしたくない。
まだ消えたくない。君と話したいことが、まだ、山ほど。そして、伝えたかったことも、まだ、たくさん──。
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