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人魚の恋と蒼い月
ブルームーン〖2〗
しおりを挟む君が五歳の頃、僕の父さんが嵐を静めるお役目で幼い僕も手伝った。
高潮で、海に流されて死にかけているヒトを見た。見覚えのあるその子の運命は今日で終わろうとしていた。
けれど、生命の輝きを失いつつも、その子は儚く美しかった。黄泉の国に送る準備を整える父に僕は必死に泣きついた。
「父上、お願い、この子に、僕の寿命をわけてあげて」
「海月、無理やりに他のいきもの運命に踏みいることは、禁忌だ。それに、今助かったとしても、ヒトの場合は、無理やり取り替えた歯車の歪みで『死の穢れ』がつきまとう。到底この子一人で乗り越えられるものではない。十八まで生きながらえなければ、この歪みは消えない。諦めなさい」
「──豊穣の神、海神さま。この子に僕の魂の破片を。『死の穢れ』が消え去る時まで、この人間の傍らに我を置かせ給え」
僕は幼いこのヒトの息を吹き返えさせた。幼い人魚でも海神様の下にいる神の民に変わりはない。幼いヒトの息を吹き返えさせることなど雑作もない。
「海月!」
「僕が何があっても守るから!十八歳のこの子を見届けたら、海に帰るから!だから、だから………」
言葉にならない気持ちが、胸を締め付けせりあがってくる。
「この子供に、恋をしたか………」
父上の声は静かだった。
「この子に初めて会ったのは、蒼い月が見える日だったんだ。波打ち際で泳いでいるところを見られたの。昔、ヒトの子供に、泳ぐ姿を見られて、石を投げられたことを思い出して、僕は逃げ出そうとしたの。その子も僕を見たら『化物だ』って言って、石を投げるんだって思った。でもね、僕を見てこの子は『君はすごくきれいだね。君は人魚なんだね』って笑ってくれたんだ。そして、僕に林檎と蜜柑をくれた。『一緒に食べよう?』って。大きな蒼い月を見ながら一緒に食べたの。嬉しかった。父上『恋』って何?地上に行ったら解る?」
「残酷なほど解ってしまうから、父はお前を地上に行かせたくない。だが、今ここで、この子供を無理に黄泉に送ったら、お前は父を生涯憎む種を作ることになる」
──掟を守れ、父は帰りを待っている。今から言うことを肝に銘じろ。
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