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9.5 みんなの視点から7
イケメンに殺される!(1)~過保護保護者による可愛いあの娘争奪戦!~
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珍しく前書き。
このお話は本編にかかわってくるお話なのですが、作者的へたくそなのでどこに入れていいのかわからず、あと
フィランのクソデカ感情をはっちゃけたくて
閑話に入れることにしました。ご笑覧いた抱きたいんですけど、色々と面倒くさい貴族の体裁上、なんやかんやでごめんなさい。
それでは、お楽しみください。
――――――――――
「やぁ、フィラン嬢、おかえり。」
「ヒュパムさ……ん、様!」
放課後。
薬学管理棟から教室に戻り、鞄に教科書や配られた書類を詰め込んで校門に向かった私は、校門のところに立ち手を挙げて微笑んでくれている美しい人に、奇声をあげそうになるのを何とか抑えて駆け寄った。
「どうしたんですか? 私から行きま……いえ、伺いますと事前にお伝えしたはずですが……もしかして時間を間違えていましたか?! ごめんなさい、えっと、今から商会に向かうところでしたよ? 後、その姿は……。」
私が噛み噛みの上、言い淀んじゃったのも仕方がない。
絶対私のせいじゃない。
本日のヒュパムさんは、ものすっごい本気ののヒュパム・コルトサニア伯爵なのである。
ちょっと何を言ってるかわからない?
それではしっかり説明しよう!
本日の彼は、真紅の百合の頭に、いくつもの繊細な鎖と宝石を連ねた飾りをつけて、さらに黒地に黒を見紛う美しい深紅の糸で繊細な刺繍がしっかりと施された、綺麗な、いわゆる貴族様がなんかすごいことをする時だけに着るみたいなお洋服で身を包み、そのご尊顔にこれでもかっ! てほどの美しい笑顔を浮かべてにこやかに紳士的に私に手を差し出してきてくれてるんですよ!
伝わったかな、この感動! 圧倒的美っ!
だから、めっちゃ人目集めまくってるーっ! そばにいるから私にも視線がぁぁぁ!
辛い、辛すぎる。
ぜひ国宝級イケメンのヒュパムさんだけご覧下さい!
私はただの敷布だと思ってください!
えーん、どうしてこうなった。
戦々恐々としている私に、更に極上の笑顔を向けてくるヒュパムさん、ヒュパム様、コルトサニア伯爵様……あぁ、動揺する。
「なんでそんな目立つ……いえ、素敵なお姿で……?」
「いや、最初は当初の予定通りに待っているつもりだったのだけどね。」
もう、動揺著しくも一応苦情だけは申し立ててみた私にだけ笑顔を向けてくれる。
これはうぬぼれじゃないよ!
だって私と視線が合ってるんだもん、みんなへのファンサじゃないよ!(大混乱中)
「実は先程、後見人殿から、私の可愛いフィラン嬢を大切にお迎えに上がっても良いという栄誉を預かってね。 さてフィラン嬢、馬車にどうぞ。」
「へ?」
促されて見た先には、小型の赤い竜が二頭立ての、上品なマホガニーを土台に大きく赤百合の紋章の彫刻の入った、これまた芸術品のような馬車がいて……それはもう、目をひん剥いてしまった。
「え? 馬車? 歩きでなく? っていうか、派手……え?」
乗る?
庶民の私が?
こんなお高そうな、ここにある馬車の中で一番贅を尽くして造られた馬車に?
私が? (2回目)
なんで?!
「さぁ、どうぞ? フィラン嬢。」
混乱の中、それでもにこにこ笑顔のヒュパムさんに手を取られ、エスコートされた私は足元に気を付けながら乗り込んだ。
促されるまま、可愛いクッションがたくさん置かれている馬車の、偉い人が座るところよ、と言われる席に腰を下ろすと、その座り心地の良さにびっくりする。
「わ、ふわふわ! 最高っ!」
「これはコルトサニア家が王宮へ向かうときや、貴賓用に使う一等馬車だからね。」
「え? 一等の馬車!? 私がそんなすごい馬車に乗ってもいいんですか?」
「もちろんだとも。」
私に続いて馬車に乗り、私の正面に座ったヒュパムさんはコンコン、と従者さんに合図を送るように天井を叩いた。
するとすぐに、スムーズに走り出した馬車。
あんまりにも市井の馬車と違いすぎて、馬車の概念変わる~と思いながら、横についた歪みひとつないガラスのはめられた窓で外をのぞくと、うらやましそうに、しかもかなり悪い目つきでこちらを見ているご令嬢の面々が……えぇ、見えてというか、目が合っちゃって、慌ててカーテンの陰に隠れた。
「こわ……怖い……。」
そんなガクブルな私の様子を、ヒュパムさんがくすくすと肩を揺らして笑って見ている。
「笑い事じゃないですよぅ。 また絡まれたらどうしよう~、怖い~。」
「それは大丈夫だよ、たぶん。」
不安を口にした私に、優しく笑いかけてくれる。
「あの令嬢達が後ろ盾の意味も解らないほどお粗末な頭をしていなければね。 それにしてもあのご令嬢たち、見たところうちと取引のある家のご令嬢たちのようだが、ずいぶんと躾が行き届いていないようだ。 ご実家の教育が手に取るようにわかる。
いいかい、フィラン嬢。 我々は人だから、その時々で色々と思うけれどね、いついかなる場合でもそれを顔に、声に、態度に出してはいけないよ。 それが私的な場所でなければ特に、だ。 社交の場、商談の場、街中での友人との会食の場、1人で街歩きや買い物をしている時でも、何処に誰の目や耳があるかわからないし、どう取られるかもわからない。 たった一瞬の気の緩みが大きな罠になったりする。 どうしても憂さが晴らしたいときは完全にプライベートな場所だけにするんだね。」
かなり深い溜息をつきながら、彼女たちの行動にあきれ、私に言い聞かせるヒュパムさん。
そうはおっしゃいますが、ヒュパムさんのあの口調と庶民層でのお仕事の様子は、今言った問題の案件に入らないのでしょうか……?
と思ったが、そこは言わずにきちんと返事をしておく。
そう、私はなんとなく(最近ちょっと自信なくした)空気が読める女の子!
話題を変えよう!
「ところで、お屋敷ってなんですか? 商会に行かれるんじゃないんですか?」
「あぁ、予定を変更して申し訳ないけれど、ちょっと商会では駄目な用向きなんだ。」
ふぅ、っとため息をついて頭を振る。
「私の屋敷も今はてんてこ舞いだよ。 あぁ、フィラン嬢は屋敷についたら、まず侍女と一緒に着替えをしてほしい。 洋服もお飾りも用意してある。 これは私個人からのアカデミー入学祝いだ。 身なりを磨くの間、私はサロンで用意をしているから、ゆっくりと身支度を終えたら侍女と一緒にそちらへおいで。」
「……え?」
顔が引きつるのを止められませんよ?
「なんで着替える必要があるんですか? しかもサロン? え? いやな予感しかしないんですが……」
お貴族様+お屋敷+サロン=圧迫面接、でしょ!?
「フィラン嬢の見知った顔ばかりだとは思うけれど、今回は少しばかり、いつもよりも正式な場だからね。」
「正式な?」
お呼ばれとか、商品開発会に正式とか正式じゃないとかあるの?
「後見人殿から聞いていないの?」
兄さま?
首を傾げるとヒュパムさんは腕を組んだ。
「まぁ、着いたらちゃんと説明するの必要があるようだけれど……。 今の時点で説明不足の状態ならば逆にアプローチを…?」
「逆?」
何の話よ、さっぱり分からないよ……。
「あの、出来ればもう少しちゃんと説明……」
そう聞こうとしたところで、馬車がスムーズに動きを止めた。
「あぁ、ついたね。 ようこそ、コルトサニア邸へ。」
「はい、お邪魔します……って、そうじゃなくって説明……をっ!?」
と思っていたのもつかの間、馬車が止まってからヒュパムさんのエスコートで馬車を降りて……目がつぶれたかと思いましたよ。
絶句です、絶句。
それはもう、びっくりするくらい美しい白亜のお屋敷の目の前なんだもん。
で、だよ。
あんまりにも浮世離れしちゃっているものだから、私とヒュパムさんのとんでもない身分違いを思い知らされた気がして、ショックで意識朦朧状態、立ってられない。 たぶんグラングランしている間に、私は大勢の花樹人の侍女さんに連れられて、あれよあれよとひん剥かれて、他人様に見せられない部分まで洗われて……乙女としての人権を失ってしまいました。
……合掌……
――ではなく!
お風呂に入れられて、あかすり? リンパマッサージ? 前世でも体験したことがない極上! 全身ピーリング付き高級エステを体験させられたうえ、お化粧に髪の毛もセットされてから、おドレス様を着せられて、疲労困憊でフラッフラになったところでやっと解放。 侍女さんに優しく支えてもらってサロンとやらに連れてこられました。
ここまでの侍女さん達のありがたくもありがたくないナイスなお仕事に、何の反論も反抗もできず。
……まな板の上の鯉ってこんな気持ちだったんだね。 今まで美味しく食べるだけでごめんね……再び合掌。
「お疲れ様、フィラン嬢。 あぁ、とても可愛い、よく似合っているよ。」
――終わってなかったです。
白亜のお屋敷にふさわしい、白磁を基本に金の装飾と、要所に赤い宝飾が施された清潔感に溢れたサロン? とやらに入ると、ソファに座って書類らしきものをトーマさんと確認していたヒュパムさんが、ものすごく嬉しそうに破顔して、わざわざソファから立ち上がって迎えてくれた。
「えっと、ありがとうございます?」
フラフラのまま戸惑いながらそう言うと、にっこり笑ったヒュパムさん。
今日の口調は英国紳士風最高美男子バージョンですが、庶民層で店員さんしたり、私と商品開発しているときの女性的柔和接客バージョン、どっちが素なんだろうなぁ。
ま、どっちでもいいけどね。 ヒュパムさん大好きだから。
深く考えるのをやめると、ヒュパムさんに手を取られ、促されるままに彼の隣に座らされた。
見計らったように侍女さんによって恭しく運ばれてきた淡い金褐色の薫り高いお茶と、小さなマカロンの乗った可愛いケーキが目の前に置かれる。
わぉ、いい仕事してますね!
タイミングも、心配りも、お茶の入れ方も、お菓子も最高です! っと絶賛したいです。 エステの恨みは忘れないけどな。
「さ、アカデミーでは勉強ばかりで疲れているだろう? お客様がいらっしゃるまで、甘いものでも食べてゆっくりするといいよ。」
「へ? お客様?」
ヒュパムさんにケーキの乗ったお皿を持たされて、なのになぜかそのまま給餌のようにあーんされた私は、口に入った小さめのマカロンをもぐもぐしてから問い返す。
が、しかしそれに対しての答えはもらえなかった。
「そういえばフィラン嬢、そろそろ特別演習の時期ではありませんか?」
「はい、よくご存じですね……って、そういえばトーマさんの娘さんがいらっしゃるんでしたね?」
ケーキをもぐもぐごっくんしながら返事と、それから質問すると、えぇ、と笑ったトーマさん。
「クラスメイトなのですが、フィラン嬢の傍にはいつも誰かがいるから話せたのは一度だけ、特別演習もチームが違ってしまったと残念がっていましたよ。」
「不可抗力なんですけどね……ごめんなさい。 ぜひ気にせず話しかけてねってお伝えください。」
ありがとうございます、と笑うトーマさん。
笑顔で返答はしたものの、ぶっちゃけ娘さんはどの人だ? とトーマさんの頭を見た。
カスミソウの頭……カスミソウ……。
あぁ、私とアル君におのぼりさんっていったお嬢さんだ!
あの人かぁ、父親であるトーマさんのイメージと大分違うなぁ!
と、あーんしてもらいながら考えていると、コンコン、と廊下から扉を叩く音がした。
「入れ。」
「失礼いたします。 旦那様、お客様がお見えでございます。」
しっかり腰を折ってから背筋を伸ばして話すのは、不思議な花の頭の花樹人の執事(?)さん。
「お通ししてくれ。」
「かしこまりました。」
恭しく再び腰を折った執事さん(?)が出ていき、しばらくすると再び扉を叩く音がした。
「フィラン嬢。 申し訳ないけど一度立ち上がって頭を下げてくれるかな?」
「え? はい。」
「申し訳ないね、一応ここでは目上の方なんだ。」
パチン、とウインクしたヒュパムさん。
おおぉぉ、かぁっこいい~!
心の中でコサックダンスを踊ってそのイケメンっぷりにバンザイしながら、ゆっくりと例の足腰を鍛えると言っても過言ではないカーテシーをした。
「お連れいたしました。」
その言葉の後、ゆっくりとした靴音が聞こえる。
「いつもあの子がお世話になっているのに、ご無沙汰をしてしまって申し訳ない。 本日はお招きいただきありがとう。
このお話は本編にかかわってくるお話なのですが、作者的へたくそなのでどこに入れていいのかわからず、あと
フィランのクソデカ感情をはっちゃけたくて
閑話に入れることにしました。ご笑覧いた抱きたいんですけど、色々と面倒くさい貴族の体裁上、なんやかんやでごめんなさい。
それでは、お楽しみください。
――――――――――
「やぁ、フィラン嬢、おかえり。」
「ヒュパムさ……ん、様!」
放課後。
薬学管理棟から教室に戻り、鞄に教科書や配られた書類を詰め込んで校門に向かった私は、校門のところに立ち手を挙げて微笑んでくれている美しい人に、奇声をあげそうになるのを何とか抑えて駆け寄った。
「どうしたんですか? 私から行きま……いえ、伺いますと事前にお伝えしたはずですが……もしかして時間を間違えていましたか?! ごめんなさい、えっと、今から商会に向かうところでしたよ? 後、その姿は……。」
私が噛み噛みの上、言い淀んじゃったのも仕方がない。
絶対私のせいじゃない。
本日のヒュパムさんは、ものすっごい本気ののヒュパム・コルトサニア伯爵なのである。
ちょっと何を言ってるかわからない?
それではしっかり説明しよう!
本日の彼は、真紅の百合の頭に、いくつもの繊細な鎖と宝石を連ねた飾りをつけて、さらに黒地に黒を見紛う美しい深紅の糸で繊細な刺繍がしっかりと施された、綺麗な、いわゆる貴族様がなんかすごいことをする時だけに着るみたいなお洋服で身を包み、そのご尊顔にこれでもかっ! てほどの美しい笑顔を浮かべてにこやかに紳士的に私に手を差し出してきてくれてるんですよ!
伝わったかな、この感動! 圧倒的美っ!
だから、めっちゃ人目集めまくってるーっ! そばにいるから私にも視線がぁぁぁ!
辛い、辛すぎる。
ぜひ国宝級イケメンのヒュパムさんだけご覧下さい!
私はただの敷布だと思ってください!
えーん、どうしてこうなった。
戦々恐々としている私に、更に極上の笑顔を向けてくるヒュパムさん、ヒュパム様、コルトサニア伯爵様……あぁ、動揺する。
「なんでそんな目立つ……いえ、素敵なお姿で……?」
「いや、最初は当初の予定通りに待っているつもりだったのだけどね。」
もう、動揺著しくも一応苦情だけは申し立ててみた私にだけ笑顔を向けてくれる。
これはうぬぼれじゃないよ!
だって私と視線が合ってるんだもん、みんなへのファンサじゃないよ!(大混乱中)
「実は先程、後見人殿から、私の可愛いフィラン嬢を大切にお迎えに上がっても良いという栄誉を預かってね。 さてフィラン嬢、馬車にどうぞ。」
「へ?」
促されて見た先には、小型の赤い竜が二頭立ての、上品なマホガニーを土台に大きく赤百合の紋章の彫刻の入った、これまた芸術品のような馬車がいて……それはもう、目をひん剥いてしまった。
「え? 馬車? 歩きでなく? っていうか、派手……え?」
乗る?
庶民の私が?
こんなお高そうな、ここにある馬車の中で一番贅を尽くして造られた馬車に?
私が? (2回目)
なんで?!
「さぁ、どうぞ? フィラン嬢。」
混乱の中、それでもにこにこ笑顔のヒュパムさんに手を取られ、エスコートされた私は足元に気を付けながら乗り込んだ。
促されるまま、可愛いクッションがたくさん置かれている馬車の、偉い人が座るところよ、と言われる席に腰を下ろすと、その座り心地の良さにびっくりする。
「わ、ふわふわ! 最高っ!」
「これはコルトサニア家が王宮へ向かうときや、貴賓用に使う一等馬車だからね。」
「え? 一等の馬車!? 私がそんなすごい馬車に乗ってもいいんですか?」
「もちろんだとも。」
私に続いて馬車に乗り、私の正面に座ったヒュパムさんはコンコン、と従者さんに合図を送るように天井を叩いた。
するとすぐに、スムーズに走り出した馬車。
あんまりにも市井の馬車と違いすぎて、馬車の概念変わる~と思いながら、横についた歪みひとつないガラスのはめられた窓で外をのぞくと、うらやましそうに、しかもかなり悪い目つきでこちらを見ているご令嬢の面々が……えぇ、見えてというか、目が合っちゃって、慌ててカーテンの陰に隠れた。
「こわ……怖い……。」
そんなガクブルな私の様子を、ヒュパムさんがくすくすと肩を揺らして笑って見ている。
「笑い事じゃないですよぅ。 また絡まれたらどうしよう~、怖い~。」
「それは大丈夫だよ、たぶん。」
不安を口にした私に、優しく笑いかけてくれる。
「あの令嬢達が後ろ盾の意味も解らないほどお粗末な頭をしていなければね。 それにしてもあのご令嬢たち、見たところうちと取引のある家のご令嬢たちのようだが、ずいぶんと躾が行き届いていないようだ。 ご実家の教育が手に取るようにわかる。
いいかい、フィラン嬢。 我々は人だから、その時々で色々と思うけれどね、いついかなる場合でもそれを顔に、声に、態度に出してはいけないよ。 それが私的な場所でなければ特に、だ。 社交の場、商談の場、街中での友人との会食の場、1人で街歩きや買い物をしている時でも、何処に誰の目や耳があるかわからないし、どう取られるかもわからない。 たった一瞬の気の緩みが大きな罠になったりする。 どうしても憂さが晴らしたいときは完全にプライベートな場所だけにするんだね。」
かなり深い溜息をつきながら、彼女たちの行動にあきれ、私に言い聞かせるヒュパムさん。
そうはおっしゃいますが、ヒュパムさんのあの口調と庶民層でのお仕事の様子は、今言った問題の案件に入らないのでしょうか……?
と思ったが、そこは言わずにきちんと返事をしておく。
そう、私はなんとなく(最近ちょっと自信なくした)空気が読める女の子!
話題を変えよう!
「ところで、お屋敷ってなんですか? 商会に行かれるんじゃないんですか?」
「あぁ、予定を変更して申し訳ないけれど、ちょっと商会では駄目な用向きなんだ。」
ふぅ、っとため息をついて頭を振る。
「私の屋敷も今はてんてこ舞いだよ。 あぁ、フィラン嬢は屋敷についたら、まず侍女と一緒に着替えをしてほしい。 洋服もお飾りも用意してある。 これは私個人からのアカデミー入学祝いだ。 身なりを磨くの間、私はサロンで用意をしているから、ゆっくりと身支度を終えたら侍女と一緒にそちらへおいで。」
「……え?」
顔が引きつるのを止められませんよ?
「なんで着替える必要があるんですか? しかもサロン? え? いやな予感しかしないんですが……」
お貴族様+お屋敷+サロン=圧迫面接、でしょ!?
「フィラン嬢の見知った顔ばかりだとは思うけれど、今回は少しばかり、いつもよりも正式な場だからね。」
「正式な?」
お呼ばれとか、商品開発会に正式とか正式じゃないとかあるの?
「後見人殿から聞いていないの?」
兄さま?
首を傾げるとヒュパムさんは腕を組んだ。
「まぁ、着いたらちゃんと説明するの必要があるようだけれど……。 今の時点で説明不足の状態ならば逆にアプローチを…?」
「逆?」
何の話よ、さっぱり分からないよ……。
「あの、出来ればもう少しちゃんと説明……」
そう聞こうとしたところで、馬車がスムーズに動きを止めた。
「あぁ、ついたね。 ようこそ、コルトサニア邸へ。」
「はい、お邪魔します……って、そうじゃなくって説明……をっ!?」
と思っていたのもつかの間、馬車が止まってからヒュパムさんのエスコートで馬車を降りて……目がつぶれたかと思いましたよ。
絶句です、絶句。
それはもう、びっくりするくらい美しい白亜のお屋敷の目の前なんだもん。
で、だよ。
あんまりにも浮世離れしちゃっているものだから、私とヒュパムさんのとんでもない身分違いを思い知らされた気がして、ショックで意識朦朧状態、立ってられない。 たぶんグラングランしている間に、私は大勢の花樹人の侍女さんに連れられて、あれよあれよとひん剥かれて、他人様に見せられない部分まで洗われて……乙女としての人権を失ってしまいました。
……合掌……
――ではなく!
お風呂に入れられて、あかすり? リンパマッサージ? 前世でも体験したことがない極上! 全身ピーリング付き高級エステを体験させられたうえ、お化粧に髪の毛もセットされてから、おドレス様を着せられて、疲労困憊でフラッフラになったところでやっと解放。 侍女さんに優しく支えてもらってサロンとやらに連れてこられました。
ここまでの侍女さん達のありがたくもありがたくないナイスなお仕事に、何の反論も反抗もできず。
……まな板の上の鯉ってこんな気持ちだったんだね。 今まで美味しく食べるだけでごめんね……再び合掌。
「お疲れ様、フィラン嬢。 あぁ、とても可愛い、よく似合っているよ。」
――終わってなかったです。
白亜のお屋敷にふさわしい、白磁を基本に金の装飾と、要所に赤い宝飾が施された清潔感に溢れたサロン? とやらに入ると、ソファに座って書類らしきものをトーマさんと確認していたヒュパムさんが、ものすごく嬉しそうに破顔して、わざわざソファから立ち上がって迎えてくれた。
「えっと、ありがとうございます?」
フラフラのまま戸惑いながらそう言うと、にっこり笑ったヒュパムさん。
今日の口調は英国紳士風最高美男子バージョンですが、庶民層で店員さんしたり、私と商品開発しているときの女性的柔和接客バージョン、どっちが素なんだろうなぁ。
ま、どっちでもいいけどね。 ヒュパムさん大好きだから。
深く考えるのをやめると、ヒュパムさんに手を取られ、促されるままに彼の隣に座らされた。
見計らったように侍女さんによって恭しく運ばれてきた淡い金褐色の薫り高いお茶と、小さなマカロンの乗った可愛いケーキが目の前に置かれる。
わぉ、いい仕事してますね!
タイミングも、心配りも、お茶の入れ方も、お菓子も最高です! っと絶賛したいです。 エステの恨みは忘れないけどな。
「さ、アカデミーでは勉強ばかりで疲れているだろう? お客様がいらっしゃるまで、甘いものでも食べてゆっくりするといいよ。」
「へ? お客様?」
ヒュパムさんにケーキの乗ったお皿を持たされて、なのになぜかそのまま給餌のようにあーんされた私は、口に入った小さめのマカロンをもぐもぐしてから問い返す。
が、しかしそれに対しての答えはもらえなかった。
「そういえばフィラン嬢、そろそろ特別演習の時期ではありませんか?」
「はい、よくご存じですね……って、そういえばトーマさんの娘さんがいらっしゃるんでしたね?」
ケーキをもぐもぐごっくんしながら返事と、それから質問すると、えぇ、と笑ったトーマさん。
「クラスメイトなのですが、フィラン嬢の傍にはいつも誰かがいるから話せたのは一度だけ、特別演習もチームが違ってしまったと残念がっていましたよ。」
「不可抗力なんですけどね……ごめんなさい。 ぜひ気にせず話しかけてねってお伝えください。」
ありがとうございます、と笑うトーマさん。
笑顔で返答はしたものの、ぶっちゃけ娘さんはどの人だ? とトーマさんの頭を見た。
カスミソウの頭……カスミソウ……。
あぁ、私とアル君におのぼりさんっていったお嬢さんだ!
あの人かぁ、父親であるトーマさんのイメージと大分違うなぁ!
と、あーんしてもらいながら考えていると、コンコン、と廊下から扉を叩く音がした。
「入れ。」
「失礼いたします。 旦那様、お客様がお見えでございます。」
しっかり腰を折ってから背筋を伸ばして話すのは、不思議な花の頭の花樹人の執事(?)さん。
「お通ししてくれ。」
「かしこまりました。」
恭しく再び腰を折った執事さん(?)が出ていき、しばらくすると再び扉を叩く音がした。
「フィラン嬢。 申し訳ないけど一度立ち上がって頭を下げてくれるかな?」
「え? はい。」
「申し訳ないね、一応ここでは目上の方なんだ。」
パチン、とウインクしたヒュパムさん。
おおぉぉ、かぁっこいい~!
心の中でコサックダンスを踊ってそのイケメンっぷりにバンザイしながら、ゆっくりと例の足腰を鍛えると言っても過言ではないカーテシーをした。
「お連れいたしました。」
その言葉の後、ゆっくりとした靴音が聞こえる。
「いつもあの子がお世話になっているのに、ご無沙汰をしてしまって申し訳ない。 本日はお招きいただきありがとう。
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ファンタジー
目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。
そんな魔法だけでどうにかなるのか???
地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
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