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8章 アカデミー入学は前途多難!

7)大空散歩と竜族

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「おおぉぉーーーーっ!」

 厩舎出口で要塞外への外出許可を受け、白竜ミレハの背中の付けた鞍にのったアル君に手伝ってもらって彼の前に座らせてもらった私は、大空の上で歓喜の雄たけびを上げた。

「すごいすごーい! 飛行機よりも快適! 落ちないって素敵―!」

 こちらの世界に来て大空を飛ぶのは四回目……一番最初の『大空からの不意打ち大落下』を「飛ぶ」に入れなければ三回目になる飛竜の背に乗っての散歩はものすごく快適な物だった。

 鞍が付くと乗り心地と安定感がかなり違うと分かったので、空大猫のコタロウにも鞍を作ってもらおうと思いつつミレハを見れば、時折目を細めながら気持ちよさげに飛んでいる。

 ミレハの背中の上はほぼ揺れることがなく、飛竜酔いにもなってない。

 前世では数少ない飛行機搭乗経験しかない私ですが、全身にかかってくる重力圧迫もなく、頭にヘルメットかぶせられた感も、耳にキーンって来る感覚もなくってものすごく快適! 最高! 何かの魔法でもかかってるのかってくらい!

 あ、耳キーンって、もしかしたら年のせいもあったかもしれないけどね。

 ちなみに、飛竜の飛び立ち方は、鳥というよりは昆虫に近い。

 滑走路もいらないし、羽ばたいて羽ばたいて飛び立つ! とか、腕力と脚力と気合で! という感じでもなかった。

 羽ばたき一つでふわっと飛び上がる、ホバリング状態になったのだけど、きっと飛竜自体が魔法生物とか何かなのだろう。

 それからも、ハチドリのようにものすごい速度ではばたきまくって上昇というわけではなく、羽ばたき一つごとにぐんぐんと真上に浮かび上がり、その後は急加速したり、ゆっくり飛べたりしているのだ。
一つの動きで360度どんな角度でもどんな速度にでも飛行できる

「ルフォート・フォーマがあんなに小さく見える!」

「結構高度を上げているからね。」

 翼ケンタウロスのボルハン様の背中に乗った時よりも、コタロウに乗った時よりも高いところまで上がってみると、要塞の外が何となく地図のように見える。

 ん? 超でっかい匍匐前進っぽい姿の……頭とおしり?

 手で目をこすってみるが、その縮尺は変わらなくて、体を前のめりにしてしまう。

「え? 縮尺おかしくな……わっ!」

「危ないよ、フィラン。 なにがおかしいの?」

 体を前のめりにしすぎてバランスを崩した私のお腹に片方の腕をまわして抱き留めてくれたアル君。

「あ、ありがとう。 いや、あそこに異常にでっかい人がいるなぁって……。 もしかして魔族の中に巨人族とかいる?」

「一目巨大鬼とかはいるらしいけど……え? どこ?」

 首をかしげているアル君に、そこを指出して教える。

「ほら、あそこ。 土の中を泳いでるみたいな……」

「ん? あぁ、あれはダンジョンだよ。 嘆きの洞窟。 ルフォート・フォーマから一番近いダンジョンだったと思うんだけど、知らない?」

 嘆きの洞窟……あぁ! 兄さまに素材採取だよって言われて連れていかれたら、小ラージュ君とロギイ様と師匠にあったあれか!

「知ってる……けど、あれ作った人、やっぱり最低……。」

 犬かきで泳いでるのか、みたいに中途半端に土に埋まってるのに出てる部分が顔とおしりって最低じゃない? 意味わからないよね! 最低じゃん。

「フィランは錬金薬師だから薬草採取に行くんだよね? 要塞外に出れるかと思ったけど冒険者登録もしてあったし。 空散歩に誘ったけど、冒険者登録してなかったら登録だけで半日潰れちゃってたからね。」

「あ、そっか。 そうだよね?」

 あそこに行くために登録したんだったな。 あれから受験勉強で忙しくて採集は兄さまが行ってくれてたから出てなかったけど。

「じゃあ、ゆっくり要塞の周りを一周してみようか?」

 ちなみに現在はホバリング状態のままのんびり要塞の周りを遊覧観光の状態だ。 アル君とミレハは意思疎通できてるのか、その言葉でミレハの移送速度が変わった。

「すごいねぇ、ひとはばたきで要塞半周なんだね。 それにすごく気持ちよさそうに飛ぶんだね、可愛い。」

 目を細めながら気持ちよさそうに喉を鳴らしているミレハの首をなでる。

 るるる、と鳴らす音は、小鳥の鳴き声にも似ている。

「可愛い声。 歌ってるみたい。」

「実際、鼻歌みたいに謳ってるかもしれないよ。 白竜は『吟遊竜』って呼ばれているくらい綺麗な声の子が多くてね、騎乗竜としては人気が高いらしいんだよね。 ただそこは飛竜族だから、お金で売買できるものじゃないし、自分で捕える必要があるし、よほど機嫌が良くないとこんな風に謳ったり人を乗せることはしないけど。
 ここ数か月、王都と家の往復と、王都では厩舎での留守番だけだったからゆっくりお散歩なんてできなかったし、面倒なことに巻き込まれたりして気が滅入ってたんだけど、今日はフィランとこうしてお散歩できたから、ようやく機嫌が治って助かったよ。 ね、ミレハ。」

 アル君にそう言われて撫でられれば、先ほどまでよりも少し高い音で喉を鳴らす。

 やっぱり、とアルくんは笑ったけれど……。

「気が滅入るって、何があったの?」

 引っかかって聞いてみると、あ、聞く? と笑ったアル君。

「あ、ごめんね。 話したくないならいいよ。」

「いやいや、そうだな。 ちょっと愚痴を言ってしまおうかな。 フィランは竜族は初めて見たんだよね?」

 うん、と頷いた私に、アル君はミレハの手綱を握ったまま少しだけ考えてから口にした。

「竜族は基本的に、人よりも魔力も知能も高いし、人と共に暮らしている聖獣としては最も尊い存在と言われているんだけどね、それゆえに、まず家畜や騎獣のように飼いならすことは出来ない。 お眼鏡にかなった相手の事は心底大切にする半面、少しでも気に入らないものは全力で排除する。 そもそも大前提として、竜族が人前に出ることもあんまりないんだ。
 で、まぁそれを解ってても自宅から学校に通いたくて、ミレハに乗って初めて王都についた時にちょっとした話題になったらしくてね……高位貴族の令息がわざわざ交易層まで護衛騎士をたくさん連れてやってきて、いくらでも払うとかいろいろ難癖付けてきたんだ。 相手は貴族だし、丁寧に事情を話して断ったんだけど、今度は手に入れられないなら僕ごと殺すって騒いでね。」

「うわぁ。 最低……」

 かなり駄目な話だった、正直貴族の馬鹿ボンボンのテンプレ通りの行動にドン引きしちゃった。

「変なこと聞いてごめんね。 でも、それって大丈夫だったの?」

 貴族の、馬鹿ボンボンに巻き込まれて、さらに頭の悪い親まで出てきたら……何か実害はなかったのかな? まさか今でもミレハ狙われてる!? と心配で聞いてみる。

 それが伝わったのか、アル君は笑う。

「大丈夫だよ。 相手の付き人みたいな人が剣まで抜いてかなり大騒ぎしたんだけど、その家の護衛騎士が騎士団に連絡をしてくれて、すぐに騎士団の偉い人が来てくれて仲裁に入ってくれて、相手の貴族の親から結構な額の解決金と念書をもらえたんだ。
 なんでも、白竜を怒らせると家がつぶれるっていうジンクス的なものが貴族の中であったらしくて、もう二度と息子は近寄らせませんのでこれで何とかって。 そのうえ例の厩舎の使用権までくれたんだ。」

「そっかぁ、よかったね。」

 相手の親が馬鹿じゃなくて。

 最後まで言わなかったけど、伝わったのかな? ほんと、一安心、と笑うとうんうん、とうなづいたアル君。

「僕とミレハは防御魔法使ってるから全然平気なんだけど、ミレハのほうが怒っててね。 本当に、もう少しで攻撃波を出すところだったから、危なかったんだよ。」

「へぇ~……ん? あれ?」

 あ、自分たちの心配じゃなくて、相手の心配してたのか!

 ……竜の本気の攻撃波かぁ……。

「ねぇねぇ、アル君。 竜族の攻撃波ってどれくらいすごいの?」

「どれくらい……そうだなぁ……」

 う~ん、と考え込んだアル君は、次の瞬間とんでもないことを言った。

「まだ幼体のときに一度だけ、僕を魔物から守るときに全力で出したことがあるんだけど、見渡す限り何もなくなってたな……。」

「……見渡す限り?」

「そうだね。」

 うん、と頷くアル君に、恐る恐る聞いてみる。

「規模としては……?」

「え? どれくらいだろう……フィランに分かりやすく言うと、王都の一区画がなくなるくらい?」

「……地獄絵図だね。」

「師匠にめちゃくちゃ怒られたなぁ……。」

 そりゃそうでしょうとも、とは言えず、私は乾いた笑いを漏らす。

「薬草を取りに森の奥まで入ったところでミレハに会ってね、遊んでたところに魔物が出て囲まれちゃって、ミレハを抱っこして走ったんだけど、こけて血がでちゃったんだよね。 そしたら次の瞬間には森がなくなってた。」

「わぁ……」

 本当に規格外なんだなって、解りました。

「ミ、ミレハ、ナカヨクシヨウネ。」

 なでなで、とミレハの首をなでると、ミレハはまた、ルルルッと鳴いてくれた。
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