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8章 アカデミー入学は前途多難!
4)適性試験と、あったかご飯。
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「Sクラス二番、ソロビー・フィランです。 ルフォート・フォーマの辺境の村が出身です。 現在は錬金薬術師として、二階層二区画で『猫の手』という薬屋を営んでおります。 属性試験は受けたことがありません。 専攻学科は薬術学、錬金術学を基本に薬学系を選んでいます。 よろしくお願いいたします。」
兄さまとヒュパムさんから叩き込まれたカーテシーを披露して、ゆっくりと水晶と向き合う。
「よろしい。 では、初めての適性試験の場合には、不正がないように水晶に触れるところから立会人が必要となる。 今回は私が行う。 名前の紙を持って水晶に。」
「はい。」
なるほど、と、先ほど書いた名前の紙を水晶の上に置き、その上に手を置いた。
属性、ちゃんと出るかな?
ドキドキしながら見ていると、手と水晶の間に挟まっているはずの紙がするするっと水晶に手の中から溶けるように消えてなくなり、水晶の中に灯っていた白い光が小さな七つの光に変わってきらきらくるくると回転しているのが見える。
そしてその中に私の名前とステータスが浮かび上がる……のだが。
その文字を見た時に思い出した。
わたし!
このままじゃ空来種ってばれちゃうのでは?!
はっとして顔を上げると、水晶を挟んだ反対側、そこにはアケロウス先生が立っていた。
「ソロビー・フィラン。 属性は……これは珍しい。 日と月、いわゆる光と闇属性、相対する属性を同格で持つとは。 契約精霊は七クラス、錬金術師としてはすでにレベル七十を超えており、これはSクラス教師に匹敵すると言って遜色ない。 魔力量は既定の星を超えたな。 これは素晴らしい潜在能力だ。 以後はSクラス上位から落ちぬように日々精進するように。 では、交代だ。」
「はい、ありがとうございます。」
流石アケロウス師匠先生! よかったぁぁ! 空来種ってばれなかったぁ! と、内心ガッツポーズをしながらアケロウス師匠先生に頭を下げて魔方陣を出ると、ジュラ様、ルナーク様、アルフレッド君以外の生徒が呆然として私を見ている。
「……え?」
あれ? わたしいま、何かしでかした?
きょろきょろとあたりを見回していると、くすくす笑いながら私の傍に来たルナーク様とジュラ様。 ちょうどいい、とこの状況を確認するために声を潜めて聞いてみる。
「あの、すみません……他の人の反応がおかしいんですけれど、私、何かしでかしました? あれ? 貴族のいじめですか? あ、もしくはわたし、ものすごい行儀の悪いこととかしました? 」
するとそれを聞いたルナーク様は、くすくすと口元を手で隠して肩を震わせた。
「もう、フィランったら。 皆様は貴女のステータスにびっくりしているだけよ。」
「貴族でもここまでずば抜けたのはないからなぁ。」
「そうなんですか?」
「そうよ? ★2か3で適性があると認定されて、★5なんて滅多にステータスとしては見ないわ。」
そこでこそっと、声を落とす。
「今までの適性検査で、クラスメイトの中で★5って言われた方、いた?」
そういえば、星がいくつか、なんて言ってなかったけど、適性あるなしって言ってたな……と思い返す。
「そういうことよ。 初めて受けたからよくわからないこともあるでしょう? 後でもっと詳しく教えて差し上げるわね。 さ、アルフレッド様の番よ」
そう言われて振り返れば、魔方陣の中にはアルフレッド君とアケロウス先生が立っている。
「Sクラス一番、アルフレッド・サンキエス・モルガンです。 以前は魔術工学の師匠とルフォート・フォーマの東の端に住んでいました。 専攻は魔術工学と、魔道具開発、魔法薬学です。 フィラン嬢と一緒で属性検査を受けたことはありません。 主席入学生として、その名に恥じないよう精進するつもりです。 よろしくお願いいたします。」
そこまでいって礼を取ると、名前を書いた紙を持ったまま水晶玉に触れる。
おなじく溶けるように消えた紙と、光を強める水晶。
「……これは。」
アケロウス様が一瞬押し黙ったのは、水晶玉の光が白いままだったからだ。
「あら……?」
横にいるルナーク様も面白い物でも見るように口元を抑えているし、ジュラ様は……なんだろう、たくらみ顔で満足げに笑っている。
「アルフレッド・サンキエス・モルガン。 君の属性については後で学園長と協議する必要があるため、ここでは控えさせていただく。 ステータスは今回の入学生では一部を除き、一番であろう。」
アケロウス先生が水晶に触れると、光が消えた。
「アルフレッド君は良き師匠に師事していたようだな。」
「はい、恩義ある師匠で大変感謝しています。 ありがとうございました。」
頭を下げ魔方陣からアルフレッド君が出たところで、午前中の授業終了の鐘が鳴った。
「これにて午前の授業は終了とする。 午後からは本格的に授業が始まるが、余計な揉め事に巻き込まれないよう、専用サロンで過ごすことを勧めよう。 では、解散。」
その言葉とともに、そこにいた教師陣は教室を出ていき、生徒だけが残された。
「あの、フィラン嬢……」
「はい?」
遠くにいたクラスメイト達が駆け寄り声をかけてきたため何事かと振り返った時だった。
「フィラン、アルフレッド様。 サロンに席を用意しておいてもらっていますわ、行きましょう? 四人でお昼をいただきましょう? 約束でしたものね。」
にっこり笑ったルナーク様が、私と、それから同じようにクラスメイトに声を掛けられているアルフレッド君に声をかけていた。
少しホッとした顔のアルフレッド君がクラスメイトに断ってこっちに向かってきたため、4人で1年棟に戻り、そこからSクラス専用サロンに向かおうとしたところだった。
「Sクラスの方でらっしゃいますか? サロンに向かわれるのであれば、ぜひ私たちもご一緒してよろしいですか?」
ニコニコ笑う令嬢と、その後ろに立つのは5人の男女。
首元のリボンから下げているのは……Aクラスの石で、私たちの同行を伺うように他の人からもめちゃくちゃ注目浴びてる。
Sクラス専用なのにAクラスの人が一緒にってどうなの? と首をかしげると『招待すれば入れるんだよ、あれはそれを狙っているんだ』と教えてくれたジュラ様……なるほど、そう言うもんかとため息をつく。
これ以上注目なんかやだし、4人でも多いのに。 なんなら、できればぼっちめしでいいのに……と訴えるようにルナーク様を見ると、にっこりととろけるような笑顔を声をかけてきたAクラスのグループに見せた。
その笑顔に、了承してもらえた、と後ろのメンバーも駆け寄ってきそうになったのだが。
「申し訳ありませんわ。 今日は四人で、と約束していて四人分のランチしか用意をしておりませんの。 まだ入学2日目、まずはクラスメイト同士で交流をもたれることをお勧めさせていただきますわ。 それでは、失礼しますわね。」
そのまま笑みを深め、誰よりも美しいカーテシーをしたルナーク様は、あっけにとられている他の生徒に見向きもせず、ジュラ様とアルフレッド君を先に歩かせると、私の手を取ってSクラス専用サロンへと向かって歩きだした。
「こら、フィラン。 ちゃんと髪の毛を乾かしなさい。」
「……そんな元気ありません……」
「風邪をひくよ?」
「わかってるんだけど……」
「……『スキル展開・混合魔法式・火と風――乾いた旋毛風』。」
兄さまのため息からの優しい声とともに、私のほぼ乾いていない髪の毛が舞い上がり、肩に落ちるときには完璧に乾燥したサラッサラの状態になっていた。
「兄さま、ありがとぉ。」
「どういたしまして。 しかしそんなに疲れて、夕ご飯は食べられるかい?」
「それは絶対に食べる。」
どんなに疲れても、眠くても、そりゃ食べるでしょ!
だって!
目の前に並べられた、ぬくもりのあるお気に入りの木の器に盛られた温野菜のサラダにこんがり焼かれた厚切りのお肉、それから私の大好きな、小さく刻んだ野菜とベーコンのチャウダーが柔らかな湯気を立てている。 兄さまお手製の、あったかくて素朴な晩御飯。
「兄さま、大好き。」
「急にどうしたんだい?」
絶対に一目でわかる上機嫌顔で椅子に座った私の目の前に、温めたパンを置いてくれたセディ兄さまは自分の椅子に座った。
「兄さまと、それから兄さまの作ってくれた美味しくってあったかい素朴なご飯に、フィランは今、心から感謝しているの。」
両手を合わせていただきます、と挨拶してからスプーンでチャウダーをすくう。
小さく刻まれた野菜、キノコ、それから燻製のお肉からでたうま味が、魔牛の乳のまろやかさで最高に美味しい一品に仕上がってる。
「フィランの兄さまが優勝!」
美味しさをかみしめて、今度はスプーンを置いてパンをちぎり、少しだけチャウダーを吸わせてから口の中に放り込む。
香ばしさと、まろやかさと、サクサクと、トロトロ。
「美味しい、神様ありがとうございます。 とっても美味しい。 兄さまと一緒に食べる兄さまのご飯美味しい最高! 私的優勝!」
「そんなに褒めてもらってうれしいけど、何があったんだい?」
「……それがね……」
そこから、美味しいご飯を食べながら、兄さまに朝からの事の顛末を一生懸命説明した。
朝登校して、階段上ってたら壁ドン(平手打ちは黙っておきました)からのやっかみ胸倉つかみ、ジュラ様……ラージュ殿下と皇妃様の仮の姿に助けられて教室に戻って適性試験からの、セレブご飯……。
「セレブの食事か。 それはいいものを食べたね、美味しかっただろう?」
「美味しかった? うんまぁたしかに美味しかったですよ。 でもね、兄さま!」
ルナーク様に手を引かれ連れていかれたのは、目が潰れそうな絢爛豪華なSクラス専用サロンの最奥。
予約していると言っていた半個室になっている一角に通されたかと思ったら、金細工に彫刻が見事な圧倒的最高級テーブルセットがあって、そばに控えていたメイドさんに椅子を引かれて座ったかと思えば、お昼ご飯だっていうのに、食前酒と前菜からスタートしたお食事。
あ、食前酒とはいっても酒精は抜かれているらしい。
が、だ。
「あれはね、庶民には拷問以外の何物でもないよ。」
「……拷問って、大袈裟な。」
「大袈裟じゃないもん!」
目の前で本業が皇帝と皇妃様の仮の姿のおふたりが、パーフェクトマナーで食事を食べ進めていくのを真似してみた訳だが、マナーレッスンの一環だったようで、傍にいた侍女に逐一助言という名のお叱りを受けながら、ひきつった笑顔を顔に浮かべて周りの人に合わせて食事を進めていく窮屈さ!
何の拷問やねん!
庶民にはきつい!
あ! そういえば庶民は私だけじゃない、助け合おう、仲間よっ!
と、アルフレッド君を見れば、何とも和やかに、時折指摘は受けているものの、上品に食事を進めているではないか。
辺境生まれ、辺境育ちじゃなかったの!?
この裏切者!
そう叫びたいのを我慢して、いただいたのだ。
多分、最高級で美味しいと言われる味のしない絢爛豪華なフルコースを。
「指と表情筋が死ぬかと思ったの……。」
カリカリに表面を焼いたドラゴンのしっぽ肉最高!
ナイトメアーのヒレ肉のソテー、ルフォート・フォーマの南国果実のソース~カプリコーンの角のスライスを添えて~ って、意味が解らなかった、何喰わされてたんだろ。
「兄さまの作ってくれたご飯を持っていきたい。 サンドイッチとかで私十分だよ……それで、教室でぼっちめしとかできたら最高……」
ため息をつきながらサラダを口に運び、体力回復ポーション改良版を飲む私に、兄さまが笑ってる。
「まぁまぁ、多分フィランに気を使ってるんだよ。 わがままを聞いてくれたお礼と思ってるかもしれないな。」
「そう思うなら、サンドイッチとかにしてほしい! 簡単美味しい庶民ご飯を食べたい!」
パンを引きちぎってチャウダーに浸した私は、ふいに思い出した事を目の前の兄さまに聞いてみた。
「兄さまは属性試験って受けたことある?」
「もちろん。 フィランは今日受けたんだったね、どうだった?」
「私はね、師匠が立会いしてくれたんだけど、光と闇同等だって言ってた。」
「それはそれは……」
目を見張り、考え込んだような顔をした兄さま。
「まぁ、日と月の精霊の加護を受けているくらいだから当たり前と言えばそうだが……」
スプーンを止め、考え込んだ兄さま。
え? なに? 不安になるじゃん……?
「なに? 何か問題あるの?」
そう声をかけると、兄さまはスプーンを持ち直し、食事を進めながら言う。
「珍しいんだ、かなり特殊な例になる。」
「そうなの? じゃあ、アルフレッド君もそうなのかな?」
「アルフレッド君?」
怪訝な顔をした兄さまに、アルフレッド君の適性試験であったことを話す。
「師匠が学園長と協議するって言ってたよ?」
「……それはそうだろう……今年は一波乱起きそうだな。」
「一波乱? なんで? 私もアルフレッド君も、やばいことしちゃった? 」
え? 退学? と首をかしげると、困ったように笑った兄さまは、食事と片付けが終わったら、ちゃんと説明するよ、と、食事を再開させたため、私も慌てて少し冷めはじめたチャウダーにスプーンを沈めた。
兄さまとヒュパムさんから叩き込まれたカーテシーを披露して、ゆっくりと水晶と向き合う。
「よろしい。 では、初めての適性試験の場合には、不正がないように水晶に触れるところから立会人が必要となる。 今回は私が行う。 名前の紙を持って水晶に。」
「はい。」
なるほど、と、先ほど書いた名前の紙を水晶の上に置き、その上に手を置いた。
属性、ちゃんと出るかな?
ドキドキしながら見ていると、手と水晶の間に挟まっているはずの紙がするするっと水晶に手の中から溶けるように消えてなくなり、水晶の中に灯っていた白い光が小さな七つの光に変わってきらきらくるくると回転しているのが見える。
そしてその中に私の名前とステータスが浮かび上がる……のだが。
その文字を見た時に思い出した。
わたし!
このままじゃ空来種ってばれちゃうのでは?!
はっとして顔を上げると、水晶を挟んだ反対側、そこにはアケロウス先生が立っていた。
「ソロビー・フィラン。 属性は……これは珍しい。 日と月、いわゆる光と闇属性、相対する属性を同格で持つとは。 契約精霊は七クラス、錬金術師としてはすでにレベル七十を超えており、これはSクラス教師に匹敵すると言って遜色ない。 魔力量は既定の星を超えたな。 これは素晴らしい潜在能力だ。 以後はSクラス上位から落ちぬように日々精進するように。 では、交代だ。」
「はい、ありがとうございます。」
流石アケロウス師匠先生! よかったぁぁ! 空来種ってばれなかったぁ! と、内心ガッツポーズをしながらアケロウス師匠先生に頭を下げて魔方陣を出ると、ジュラ様、ルナーク様、アルフレッド君以外の生徒が呆然として私を見ている。
「……え?」
あれ? わたしいま、何かしでかした?
きょろきょろとあたりを見回していると、くすくす笑いながら私の傍に来たルナーク様とジュラ様。 ちょうどいい、とこの状況を確認するために声を潜めて聞いてみる。
「あの、すみません……他の人の反応がおかしいんですけれど、私、何かしでかしました? あれ? 貴族のいじめですか? あ、もしくはわたし、ものすごい行儀の悪いこととかしました? 」
するとそれを聞いたルナーク様は、くすくすと口元を手で隠して肩を震わせた。
「もう、フィランったら。 皆様は貴女のステータスにびっくりしているだけよ。」
「貴族でもここまでずば抜けたのはないからなぁ。」
「そうなんですか?」
「そうよ? ★2か3で適性があると認定されて、★5なんて滅多にステータスとしては見ないわ。」
そこでこそっと、声を落とす。
「今までの適性検査で、クラスメイトの中で★5って言われた方、いた?」
そういえば、星がいくつか、なんて言ってなかったけど、適性あるなしって言ってたな……と思い返す。
「そういうことよ。 初めて受けたからよくわからないこともあるでしょう? 後でもっと詳しく教えて差し上げるわね。 さ、アルフレッド様の番よ」
そう言われて振り返れば、魔方陣の中にはアルフレッド君とアケロウス先生が立っている。
「Sクラス一番、アルフレッド・サンキエス・モルガンです。 以前は魔術工学の師匠とルフォート・フォーマの東の端に住んでいました。 専攻は魔術工学と、魔道具開発、魔法薬学です。 フィラン嬢と一緒で属性検査を受けたことはありません。 主席入学生として、その名に恥じないよう精進するつもりです。 よろしくお願いいたします。」
そこまでいって礼を取ると、名前を書いた紙を持ったまま水晶玉に触れる。
おなじく溶けるように消えた紙と、光を強める水晶。
「……これは。」
アケロウス様が一瞬押し黙ったのは、水晶玉の光が白いままだったからだ。
「あら……?」
横にいるルナーク様も面白い物でも見るように口元を抑えているし、ジュラ様は……なんだろう、たくらみ顔で満足げに笑っている。
「アルフレッド・サンキエス・モルガン。 君の属性については後で学園長と協議する必要があるため、ここでは控えさせていただく。 ステータスは今回の入学生では一部を除き、一番であろう。」
アケロウス先生が水晶に触れると、光が消えた。
「アルフレッド君は良き師匠に師事していたようだな。」
「はい、恩義ある師匠で大変感謝しています。 ありがとうございました。」
頭を下げ魔方陣からアルフレッド君が出たところで、午前中の授業終了の鐘が鳴った。
「これにて午前の授業は終了とする。 午後からは本格的に授業が始まるが、余計な揉め事に巻き込まれないよう、専用サロンで過ごすことを勧めよう。 では、解散。」
その言葉とともに、そこにいた教師陣は教室を出ていき、生徒だけが残された。
「あの、フィラン嬢……」
「はい?」
遠くにいたクラスメイト達が駆け寄り声をかけてきたため何事かと振り返った時だった。
「フィラン、アルフレッド様。 サロンに席を用意しておいてもらっていますわ、行きましょう? 四人でお昼をいただきましょう? 約束でしたものね。」
にっこり笑ったルナーク様が、私と、それから同じようにクラスメイトに声を掛けられているアルフレッド君に声をかけていた。
少しホッとした顔のアルフレッド君がクラスメイトに断ってこっちに向かってきたため、4人で1年棟に戻り、そこからSクラス専用サロンに向かおうとしたところだった。
「Sクラスの方でらっしゃいますか? サロンに向かわれるのであれば、ぜひ私たちもご一緒してよろしいですか?」
ニコニコ笑う令嬢と、その後ろに立つのは5人の男女。
首元のリボンから下げているのは……Aクラスの石で、私たちの同行を伺うように他の人からもめちゃくちゃ注目浴びてる。
Sクラス専用なのにAクラスの人が一緒にってどうなの? と首をかしげると『招待すれば入れるんだよ、あれはそれを狙っているんだ』と教えてくれたジュラ様……なるほど、そう言うもんかとため息をつく。
これ以上注目なんかやだし、4人でも多いのに。 なんなら、できればぼっちめしでいいのに……と訴えるようにルナーク様を見ると、にっこりととろけるような笑顔を声をかけてきたAクラスのグループに見せた。
その笑顔に、了承してもらえた、と後ろのメンバーも駆け寄ってきそうになったのだが。
「申し訳ありませんわ。 今日は四人で、と約束していて四人分のランチしか用意をしておりませんの。 まだ入学2日目、まずはクラスメイト同士で交流をもたれることをお勧めさせていただきますわ。 それでは、失礼しますわね。」
そのまま笑みを深め、誰よりも美しいカーテシーをしたルナーク様は、あっけにとられている他の生徒に見向きもせず、ジュラ様とアルフレッド君を先に歩かせると、私の手を取ってSクラス専用サロンへと向かって歩きだした。
「こら、フィラン。 ちゃんと髪の毛を乾かしなさい。」
「……そんな元気ありません……」
「風邪をひくよ?」
「わかってるんだけど……」
「……『スキル展開・混合魔法式・火と風――乾いた旋毛風』。」
兄さまのため息からの優しい声とともに、私のほぼ乾いていない髪の毛が舞い上がり、肩に落ちるときには完璧に乾燥したサラッサラの状態になっていた。
「兄さま、ありがとぉ。」
「どういたしまして。 しかしそんなに疲れて、夕ご飯は食べられるかい?」
「それは絶対に食べる。」
どんなに疲れても、眠くても、そりゃ食べるでしょ!
だって!
目の前に並べられた、ぬくもりのあるお気に入りの木の器に盛られた温野菜のサラダにこんがり焼かれた厚切りのお肉、それから私の大好きな、小さく刻んだ野菜とベーコンのチャウダーが柔らかな湯気を立てている。 兄さまお手製の、あったかくて素朴な晩御飯。
「兄さま、大好き。」
「急にどうしたんだい?」
絶対に一目でわかる上機嫌顔で椅子に座った私の目の前に、温めたパンを置いてくれたセディ兄さまは自分の椅子に座った。
「兄さまと、それから兄さまの作ってくれた美味しくってあったかい素朴なご飯に、フィランは今、心から感謝しているの。」
両手を合わせていただきます、と挨拶してからスプーンでチャウダーをすくう。
小さく刻まれた野菜、キノコ、それから燻製のお肉からでたうま味が、魔牛の乳のまろやかさで最高に美味しい一品に仕上がってる。
「フィランの兄さまが優勝!」
美味しさをかみしめて、今度はスプーンを置いてパンをちぎり、少しだけチャウダーを吸わせてから口の中に放り込む。
香ばしさと、まろやかさと、サクサクと、トロトロ。
「美味しい、神様ありがとうございます。 とっても美味しい。 兄さまと一緒に食べる兄さまのご飯美味しい最高! 私的優勝!」
「そんなに褒めてもらってうれしいけど、何があったんだい?」
「……それがね……」
そこから、美味しいご飯を食べながら、兄さまに朝からの事の顛末を一生懸命説明した。
朝登校して、階段上ってたら壁ドン(平手打ちは黙っておきました)からのやっかみ胸倉つかみ、ジュラ様……ラージュ殿下と皇妃様の仮の姿に助けられて教室に戻って適性試験からの、セレブご飯……。
「セレブの食事か。 それはいいものを食べたね、美味しかっただろう?」
「美味しかった? うんまぁたしかに美味しかったですよ。 でもね、兄さま!」
ルナーク様に手を引かれ連れていかれたのは、目が潰れそうな絢爛豪華なSクラス専用サロンの最奥。
予約していると言っていた半個室になっている一角に通されたかと思ったら、金細工に彫刻が見事な圧倒的最高級テーブルセットがあって、そばに控えていたメイドさんに椅子を引かれて座ったかと思えば、お昼ご飯だっていうのに、食前酒と前菜からスタートしたお食事。
あ、食前酒とはいっても酒精は抜かれているらしい。
が、だ。
「あれはね、庶民には拷問以外の何物でもないよ。」
「……拷問って、大袈裟な。」
「大袈裟じゃないもん!」
目の前で本業が皇帝と皇妃様の仮の姿のおふたりが、パーフェクトマナーで食事を食べ進めていくのを真似してみた訳だが、マナーレッスンの一環だったようで、傍にいた侍女に逐一助言という名のお叱りを受けながら、ひきつった笑顔を顔に浮かべて周りの人に合わせて食事を進めていく窮屈さ!
何の拷問やねん!
庶民にはきつい!
あ! そういえば庶民は私だけじゃない、助け合おう、仲間よっ!
と、アルフレッド君を見れば、何とも和やかに、時折指摘は受けているものの、上品に食事を進めているではないか。
辺境生まれ、辺境育ちじゃなかったの!?
この裏切者!
そう叫びたいのを我慢して、いただいたのだ。
多分、最高級で美味しいと言われる味のしない絢爛豪華なフルコースを。
「指と表情筋が死ぬかと思ったの……。」
カリカリに表面を焼いたドラゴンのしっぽ肉最高!
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ため息をつきながらサラダを口に運び、体力回復ポーション改良版を飲む私に、兄さまが笑ってる。
「まぁまぁ、多分フィランに気を使ってるんだよ。 わがままを聞いてくれたお礼と思ってるかもしれないな。」
「そう思うなら、サンドイッチとかにしてほしい! 簡単美味しい庶民ご飯を食べたい!」
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「もちろん。 フィランは今日受けたんだったね、どうだった?」
「私はね、師匠が立会いしてくれたんだけど、光と闇同等だって言ってた。」
「それはそれは……」
目を見張り、考え込んだような顔をした兄さま。
「まぁ、日と月の精霊の加護を受けているくらいだから当たり前と言えばそうだが……」
スプーンを止め、考え込んだ兄さま。
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「なに? 何か問題あるの?」
そう声をかけると、兄さまはスプーンを持ち直し、食事を進めながら言う。
「珍しいんだ、かなり特殊な例になる。」
「そうなの? じゃあ、アルフレッド君もそうなのかな?」
「アルフレッド君?」
怪訝な顔をした兄さまに、アルフレッド君の適性試験であったことを話す。
「師匠が学園長と協議するって言ってたよ?」
「……それはそうだろう……今年は一波乱起きそうだな。」
「一波乱? なんで? 私もアルフレッド君も、やばいことしちゃった? 」
え? 退学? と首をかしげると、困ったように笑った兄さまは、食事と片付けが終わったら、ちゃんと説明するよ、と、食事を再開させたため、私も慌てて少し冷めはじめたチャウダーにスプーンを沈めた。
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