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6.5 みんなの視点から4
コルトサニア商会の一日(フィランのげんなりを添えて)
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「ヒュパム、お久しぶりねぇ!」
白地に金の装飾が施され、白い小型の騎竜4頭に引かれた馬車から、護衛騎士のエスコートを受けながら降りてくるのは、年齢不詳、絶世の美女、この国の皇妃ルナック・マルス・オクロービレ・ルフォートその人である。
漆黒の髪を緩やかに背中に流し、シンプルながらも品の良いドレスに身を包んだ女性は、にっこりと笑う。
「これは皇妃殿下、こちらへのわざわざのお越し、誠にありがとうございます。」
対して迎え入れるのは、使用人全員が笑顔を張りつけたまま一糸乱れず腰を折る、ルフォート・フォーマひいては大陸一と言われる商会である、コルトサニア商会のオーナーと精鋭店員の面々だ。
「皆、頭を上げて頂戴。 かしずかれるのも仰々しいのも苦手なのよ。 それに今日はとても楽しみにしていたの。 ここに来れば珍しいものをたくさん見せてくれるのだもの、今から楽しみだわ。」
「誠心誠意頑張らせていただく所存ではございますが、果たして皇妃殿下のお眼鏡にかかるものがありますでしょうか。」
「あら、謙遜だわ。 いつも楽しませていただいていてよ。」
「ご期待を裏切らぬよう此度も頑張らせていただきます。 それでは、ご案内いたします。」
皇妃とヒュパムの一連のあいさつが終わった後、オーナーであるヒュパム自ら案内をする。
お忍び……と名目上はなっている、この王都要塞ルフォート・フォーマ皇帝の正妃である皇妃が、貴族層第三区画の中央通りの一等地に本店を構えるコルトサニア商会の本店に訪れるのは実に三回目であるのだが、何度お招きしてもこれに慣れることはない。
まず予定された一日、商会を閉店することを事前に客へ知らせ、王宮から送られた警護を最善な計算の上で配置し、室内の安全や部外者の侵入経路の遮断、お出しするお茶や菓子の吟味と毒見など、少なくとも三日以上前から王宮側と連絡を取りながら、商会の準備・清掃にあたるのである。
正直、王宮へ行く方が絶対に楽なのであるが、今回はどうしても出向くと言って聞かなかった皇妃殿下のお相手をするのは、コルトサニア商会オーナー、ヒュパム・コルトサニア本人である。
彼は身を引き締めて、恭しく先導し、店内の貴賓用ゲートを使用して貴賓室のあるフロアにつくと、さらにその上の階にある王族専門のフロアへ到着した。
「こちらは北国より取り寄せました、菓子にございます。 お茶も同じく北国の特産品の中でも最上のものをご用意させていただきました。」
テーブルの上に並べられた菓子に、にこやかに笑む皇妃は
「まぁ素敵。 かわいらしい菓子ばかりですこと。」
お茶もお菓子も最高級品で、皇妃の毒見役が横で毒見をしてのち皇妃が口にする。
「とても美味しいわ。 さすがよ、ヒュパム。」
「ありがとう存じます。」
にこっと笑う皇妃に深く頭を下げると、皇妃はそうそう、と笑顔になる。
「ところで早速なんだけど、今日はね、アカデミーに入学したときに必要になる物をそろえたいの。 そのころの年代の男性の物を一式。 それから、新しい場所で、新生活を送るにあたって必要な物もあると嬉しいわ。」
皇妃が何を所望するか事前に王宮と相談の上で用意していたのだが、それとは全く違ったものを所望されたヒュパムは、さようでございますか、と続ける。
「失礼ですが、贈り物でいらっしゃいますか?」
「ふふ。 じつは皇帝陛下の遠縁にあたる子息がこっちのアカデミーを受けると言っていてね。 王宮の奥にあるわたくしの離宮で預かることになったのよ。 試験に落ちるような馬鹿な子ではないから、いまから用意してしまおうかと思ったのだけれど、公爵家の嫡男がこちらの商会ですべてそろえたと言っていたのを思い出したしてね。 ヒュパムならばよいものを選んでくれるでしょう?」
そう言ってにこにこと笑顔を振りまく皇妃は、いったいどんなものが必要なのかしら? と聞いてくるので、そうですね、とヒュパムは後ろに控える使用人に合図を送る。
「アカデミーの学舎内には従者は連れていくことができません。 ですので基本、自分の事は自分で行うこととなっております。 専用棟での授業で学舎内を移動される際や、ご令息であれば剣や柔術の授業もございますので、脱ぎ着しやすいお衣装を用意する必要もございますが、こちらはアカデミー入学の前に採寸がございますので大丈夫でございましょう。 基本的な持ち物と言えば、学園内でお持ちになるような鞄に筆記用具が一般的ではないでしょうか。」
「まぁまぁ、そうなのね? それで、どんなものがあるかしら?」
「今、見本になるようなものをご用意させますね。 お贈りになるご令息のお好きな色や、決められたお色はございますか?」
「そうねぇ、緑や金、黒あたりが好きだけれども……」
「皇帝閣下と好みが似ていらっしゃるのですね。」
「そうね。 あぁ、でもそうだわ。」
ティカップを音もたてずに置き、ポン、と手を打った皇妃はニコッと笑った。
「最近は紫も好きなようね。」
「紫、でございますか。」
令息が持つには華やかな色ではあるが、気品のある人気の色でもある。
「そうなのよ。 最近ご執心の女の子の瞳の色よ。」
「ではそれらで用意してみましょう。」
合図を送ると数人の使用人たちが部屋を出て品物の見本を取りに行く。
「うれしいわ。 あ、そうそう。 それとは別なんだけれど、最近は若いお嬢さんたちの間では何が流行っているの?」
「流行りでございますか? ドレスの形ですと柔らかなラインの物になりますね。 腰で絞ってふわっと広げるような華美なものではないようです。 またアクセサリーですと、普段使いの可愛らしい安価なものが人気になっておりますね。 当商会が独占で扱わせていただいている人魚の装飾品も人気でございます。」
さりげなく商品を勧めてみると、これは意外とよかったようだ。
「あの海の宝石のアクセサリーね。 この間のお茶会でも年若いご令嬢がつけていて大変可愛らしかったわ。 あぁいう物も素敵ね。」
「さようでございますね。 皇妃殿下、先ほどのお品でございますが、こちらのようなものが必要でございます。」
部下が恭しく持ってきたペンや、ペンを入れるケース、インク瓶などを大きく広げて見ている皇妃は、2時間ほどあれこれ選んだあと、自分の小物なども合わせ、様々な物の購入の手続きを済ませ大満足で帰っていった。
再び使用人一同でお見送りをした後に、注文された商品を丁寧に梱包された荷物をヒュパムを先頭に王宮へ届けた。
そして同じころ、店に残っていた店員の元へ、皇妃殿下が買ったものとほぼ同じ品目で、少女用の物と、それとは別にワンピースや装飾品の類の一覧を持った文官が現れ、これと一緒に届けてほしい、と、手紙を一通おいていったのである。
「……兄さま、皇妃様って、天然なんですか?」
「う、う~ん……」
腕を組んで困ったように眉間にしわを寄せて、首をひねっているセディ兄さま。
部屋で開封を始めた箱の中から出てきた最高級品の鞄や靴、勉強の本に筆記用具にあたるものを広げながら、げんなりする。
「まだ受験すらしてないですよ……。」
「落ちると思っていないからなんだ、きっと……。」
「後、なんで金と黒ばっかりなんですか? 女の子の持ち物ですよね?」
「う、う~ん……」
出てくる出てくる、黒地に金の華奢な装飾のされたお道具たち。
なぜ若い娘にこのような色合いの高価な物を大量に送りつけようと思ったのか……正直、くっそ成金趣味です!と放り投げたいくらいであるが、不敬になるのかな。
げんなりしながら、まだまだある荷物にセディと共に立ち向かうフィランは、一番最後の箱で、あの日ヒュパムとフィランを結び付けた人魚の櫛を見つけるのである。
白地に金の装飾が施され、白い小型の騎竜4頭に引かれた馬車から、護衛騎士のエスコートを受けながら降りてくるのは、年齢不詳、絶世の美女、この国の皇妃ルナック・マルス・オクロービレ・ルフォートその人である。
漆黒の髪を緩やかに背中に流し、シンプルながらも品の良いドレスに身を包んだ女性は、にっこりと笑う。
「これは皇妃殿下、こちらへのわざわざのお越し、誠にありがとうございます。」
対して迎え入れるのは、使用人全員が笑顔を張りつけたまま一糸乱れず腰を折る、ルフォート・フォーマひいては大陸一と言われる商会である、コルトサニア商会のオーナーと精鋭店員の面々だ。
「皆、頭を上げて頂戴。 かしずかれるのも仰々しいのも苦手なのよ。 それに今日はとても楽しみにしていたの。 ここに来れば珍しいものをたくさん見せてくれるのだもの、今から楽しみだわ。」
「誠心誠意頑張らせていただく所存ではございますが、果たして皇妃殿下のお眼鏡にかかるものがありますでしょうか。」
「あら、謙遜だわ。 いつも楽しませていただいていてよ。」
「ご期待を裏切らぬよう此度も頑張らせていただきます。 それでは、ご案内いたします。」
皇妃とヒュパムの一連のあいさつが終わった後、オーナーであるヒュパム自ら案内をする。
お忍び……と名目上はなっている、この王都要塞ルフォート・フォーマ皇帝の正妃である皇妃が、貴族層第三区画の中央通りの一等地に本店を構えるコルトサニア商会の本店に訪れるのは実に三回目であるのだが、何度お招きしてもこれに慣れることはない。
まず予定された一日、商会を閉店することを事前に客へ知らせ、王宮から送られた警護を最善な計算の上で配置し、室内の安全や部外者の侵入経路の遮断、お出しするお茶や菓子の吟味と毒見など、少なくとも三日以上前から王宮側と連絡を取りながら、商会の準備・清掃にあたるのである。
正直、王宮へ行く方が絶対に楽なのであるが、今回はどうしても出向くと言って聞かなかった皇妃殿下のお相手をするのは、コルトサニア商会オーナー、ヒュパム・コルトサニア本人である。
彼は身を引き締めて、恭しく先導し、店内の貴賓用ゲートを使用して貴賓室のあるフロアにつくと、さらにその上の階にある王族専門のフロアへ到着した。
「こちらは北国より取り寄せました、菓子にございます。 お茶も同じく北国の特産品の中でも最上のものをご用意させていただきました。」
テーブルの上に並べられた菓子に、にこやかに笑む皇妃は
「まぁ素敵。 かわいらしい菓子ばかりですこと。」
お茶もお菓子も最高級品で、皇妃の毒見役が横で毒見をしてのち皇妃が口にする。
「とても美味しいわ。 さすがよ、ヒュパム。」
「ありがとう存じます。」
にこっと笑う皇妃に深く頭を下げると、皇妃はそうそう、と笑顔になる。
「ところで早速なんだけど、今日はね、アカデミーに入学したときに必要になる物をそろえたいの。 そのころの年代の男性の物を一式。 それから、新しい場所で、新生活を送るにあたって必要な物もあると嬉しいわ。」
皇妃が何を所望するか事前に王宮と相談の上で用意していたのだが、それとは全く違ったものを所望されたヒュパムは、さようでございますか、と続ける。
「失礼ですが、贈り物でいらっしゃいますか?」
「ふふ。 じつは皇帝陛下の遠縁にあたる子息がこっちのアカデミーを受けると言っていてね。 王宮の奥にあるわたくしの離宮で預かることになったのよ。 試験に落ちるような馬鹿な子ではないから、いまから用意してしまおうかと思ったのだけれど、公爵家の嫡男がこちらの商会ですべてそろえたと言っていたのを思い出したしてね。 ヒュパムならばよいものを選んでくれるでしょう?」
そう言ってにこにこと笑顔を振りまく皇妃は、いったいどんなものが必要なのかしら? と聞いてくるので、そうですね、とヒュパムは後ろに控える使用人に合図を送る。
「アカデミーの学舎内には従者は連れていくことができません。 ですので基本、自分の事は自分で行うこととなっております。 専用棟での授業で学舎内を移動される際や、ご令息であれば剣や柔術の授業もございますので、脱ぎ着しやすいお衣装を用意する必要もございますが、こちらはアカデミー入学の前に採寸がございますので大丈夫でございましょう。 基本的な持ち物と言えば、学園内でお持ちになるような鞄に筆記用具が一般的ではないでしょうか。」
「まぁまぁ、そうなのね? それで、どんなものがあるかしら?」
「今、見本になるようなものをご用意させますね。 お贈りになるご令息のお好きな色や、決められたお色はございますか?」
「そうねぇ、緑や金、黒あたりが好きだけれども……」
「皇帝閣下と好みが似ていらっしゃるのですね。」
「そうね。 あぁ、でもそうだわ。」
ティカップを音もたてずに置き、ポン、と手を打った皇妃はニコッと笑った。
「最近は紫も好きなようね。」
「紫、でございますか。」
令息が持つには華やかな色ではあるが、気品のある人気の色でもある。
「そうなのよ。 最近ご執心の女の子の瞳の色よ。」
「ではそれらで用意してみましょう。」
合図を送ると数人の使用人たちが部屋を出て品物の見本を取りに行く。
「うれしいわ。 あ、そうそう。 それとは別なんだけれど、最近は若いお嬢さんたちの間では何が流行っているの?」
「流行りでございますか? ドレスの形ですと柔らかなラインの物になりますね。 腰で絞ってふわっと広げるような華美なものではないようです。 またアクセサリーですと、普段使いの可愛らしい安価なものが人気になっておりますね。 当商会が独占で扱わせていただいている人魚の装飾品も人気でございます。」
さりげなく商品を勧めてみると、これは意外とよかったようだ。
「あの海の宝石のアクセサリーね。 この間のお茶会でも年若いご令嬢がつけていて大変可愛らしかったわ。 あぁいう物も素敵ね。」
「さようでございますね。 皇妃殿下、先ほどのお品でございますが、こちらのようなものが必要でございます。」
部下が恭しく持ってきたペンや、ペンを入れるケース、インク瓶などを大きく広げて見ている皇妃は、2時間ほどあれこれ選んだあと、自分の小物なども合わせ、様々な物の購入の手続きを済ませ大満足で帰っていった。
再び使用人一同でお見送りをした後に、注文された商品を丁寧に梱包された荷物をヒュパムを先頭に王宮へ届けた。
そして同じころ、店に残っていた店員の元へ、皇妃殿下が買ったものとほぼ同じ品目で、少女用の物と、それとは別にワンピースや装飾品の類の一覧を持った文官が現れ、これと一緒に届けてほしい、と、手紙を一通おいていったのである。
「……兄さま、皇妃様って、天然なんですか?」
「う、う~ん……」
腕を組んで困ったように眉間にしわを寄せて、首をひねっているセディ兄さま。
部屋で開封を始めた箱の中から出てきた最高級品の鞄や靴、勉強の本に筆記用具にあたるものを広げながら、げんなりする。
「まだ受験すらしてないですよ……。」
「落ちると思っていないからなんだ、きっと……。」
「後、なんで金と黒ばっかりなんですか? 女の子の持ち物ですよね?」
「う、う~ん……」
出てくる出てくる、黒地に金の華奢な装飾のされたお道具たち。
なぜ若い娘にこのような色合いの高価な物を大量に送りつけようと思ったのか……正直、くっそ成金趣味です!と放り投げたいくらいであるが、不敬になるのかな。
げんなりしながら、まだまだある荷物にセディと共に立ち向かうフィランは、一番最後の箱で、あの日ヒュパムとフィランを結び付けた人魚の櫛を見つけるのである。
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