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5章 冒険者ギルドとアイテム採集

2)ダンジョンに入る前の手続きにて。

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 夜明け前に起きた私は、前日にセディ兄さまに渡された服を着た。

 着心地の良いフリル多めの白いシャツに、浅葱色の厚手のハーフパンツっぽい仕様のオーバーオール。 それから鎧代わりだよと言われた厚手の皮で出来たノースリーブのお尻まで隠れるチュニックを着た。

 素材採集に邪魔にならない動きやすい髪にしておいてねと言われたため、髪の毛は高いところでツインテールにし、くるくるっとお団子にする。

 その髪型もかわいいわ! と、アルムヘイムの許可をもらい、階段を下りた。

「おはよう、兄さま。」

「おはよう、フィラン。 あぁ、よく似合ってるね。 髪型も可愛いよ。」

「えへへ、ありがとうございます。」

「うん。 今日は騎獣に乗るからね、スカートだと危ないから用意したんだけど、サイズもよかったね。」

「騎獣?」

 テーブルにつき、昨夜の残りのスープとパンを食べながら聞く。

「コタロウじゃダメなの?」

 大空猫のコタロウなら、ひとっ飛びなのでは? と思うが、一足先に食事を終えて、何人分だろうと思うお弁当を例の籠に詰めているセディ兄さまは困ったように笑った。

「う~ん、今日行くところはコタロウには不向きだな……」

「不向き?」

「空大猫は金属性だからね、今日行く場所は火属性だから、コタロウとは相性が悪いんだよねぇ……」

「……素材採集のピクニック、ですよね?」

「そうだよ?」

 ……素材採集のピクニックに属性関係ある?

 それに、空を飛ぶから風属性かと思ったら、金の精霊日に引っ張られる種族とか、その相対図がわからないんだよね。

 ……五行に沿ってるのかなって思ったけど、西洋ファンタジーだし……まぁ、そこは言わないお約束ってやつなのかな?

 自分の常識は他人から見れば非常識っていうし、郷に入っては郷に従えだよね!

 この辺りは要勉強だ。

 うん、と言い聞かせて食事を食べ進める。

「じゃあ何に乗るの?」

「今日はケルピーを借りているよ。」

「ケルピー! 水の馬!? この世界にもいるの? 人襲ったりしない?」

「あぁ、野生のものはこう、人を食ったりするんだけど、テイムした奴らはそういうことができないように、しっかり精霊の下で契約がされているんだ。 だから安全な乗り物だよ。」

 セディ兄さまは物知りだなぁなんて思いながら、出してもらったあったかハチミツミルクを飲み干すと、食器を洗って魔法で乾かす。

「兄さまはいつもと格好変わらないね?」

「あぁ。 まぁ向こうについたら用意はするけどね。」

 兄さまはいつも、深い緑色の丈の長いゆったりとしたチュニックのような服の上から作業用のベルトを付け、黒っぽいパンツと、すこししっかりしたひざ下丈のブーツスタイルでいることが多い。

 今日もそんな感じ。

 その上から旅人用のしっかりしたマントを付けているんだけど、うん、かっこいい! 素敵!

「フィランはこっちのローブを羽織って。」

 渡されたのは真っ黒の丈の長いローブ。

「まっくろくろで可愛くないよ?」

「これは隠者のローブって言ってね、下級の魔物の視界から姿を隠してくれるものだから、しっかり着込んでね?」

「……え? 魔物?」

 ローブを羽織ったまま固まってしまった私の前にしゃがみ、しっかりとローブのボタンをはめていく兄さま。

 さらっと言ったけど、聞き逃しちゃいけないこと言わなかった?

「兄さま、さっきから、属性とか、魔物とか言ってるけど、素材採集のピクニックって、どこに行くの?」

「うん? あぁ、こんな時間だ。 さぁ、いこうか。」

 お店を出るとまだまだ夜明け前。

 例の万物収納機能付き籠(試作品)を一つだけ持ったセディ兄さまは、これかなり便利だね、いいものもらったね、と、その籠をなでながら私と手をつないでくれた。

 ちなみに私の疑問には答えてくれていない。

「兄さま、行先は?」

 躊躇なく、神の木に向かって歩き出したセディ兄さまに、もう一度聞いてみると、笑ったセディ兄さま。

「ついてからのお楽しみだよ」

 う~ん、嫌な予感しかしません。

 そんなこんなで、連れていかれた騎士団駐屯地から、いつもとは違う色合いの転移ゲートを抜ければ、見たことがない騎士団駐屯地……。

 そこはなんと第一階層で、しかも王都の外へと繋がっている転移ゲートの前だったわけですよ。 ねえ聞いて、だまし討ちって知ってる?

 場外ピクニックだったわけですよ。 えーん、そんなの初めからわかってたら、必要なもの以外の、お宝素材採集スポットちゃんと調べておいたのに――っ!






 というわけで、冒頭に戻りますよ。

「王宮騎士・薬師のセンダントディ・イトラ様、その弟子で錬金薬師・ソロビー・フィラン様、王宮騎士ロギンティイ・フェリオ様、王宮魔導士・アケロウス・クゥ様。 嘆きの洞窟の素材採集でいらっしゃいますね。 ソルビー・フィラン様が冒険者ランクDですので、皆さま15階までしか許可できませんが、よろしいでしょうか?」

「了承している。」

 騎士様に話しかける段になって、やっとロギイさんの肩から降ろしてもらえた私。

 セディ兄さまが今回のダンジョン攻略の申請者らしくて、手続きを始めたんだけど……なんかものすごく場違いな称号とかしか聞こえなかったんだけどちょっと待って、みんな何者なの?

 あと、いま一人足りなくなかった?

「兄さま?」

 つんつん、とマントをつまむと、大丈夫だよ。質問は後でね。 って笑うけど。

 大丈夫じゃないでしょ! 何かをするときは「ほう・れん・そう!」って約束したの忘れたの!?

 ってみんなの後ろで門番の騎士様の言葉に突っ込みを心の中で入れながら、私はぎゅっとローブの内側を握った。

「特級クラスの皆さまですので、以下の注意点をお守りください。 もし、ダンジョン探索の際、救出クエストや、魔物の強襲クエストが発生した場合は、ソロビー・フィラン様を先に帰還させてクエスト優先をお願いいたします。 ソロビー・フィラン様は各階層に存在する緊急専用ゲートを使用し脱出してください。 その際は皆様の帰還まで、こちらで保護させていただきます。」

「了承した。」

 だから物騒なんだってー!

 しかも私は何にも了解してませーん!

 ダンジョンに入るってことも、ランクがDってことも全然知りませんでした~!

 一人で帰還とか、嫌すぎるしね!

 っていうか、いつ私、冒険者ギルドに登録してたの?

 そういえば兄さまが手続きはしとくって言ってたけど、このこと!?

「騙された……」

 ぼそっと心の声が口から出ちゃったのは、兄さまの耳に届いたらしい。

「騙したつもりはなかったんだけど……ごめん。 後でちゃんと説明するから服を引っ張るのはやめなさい。 あと、私は前衛に出るから、籠は持っててくれるかな?」

 そう言って頭をなでてくれるけど、毎回それでごまかされないからね!

 でも、もう入るの決定してるダンジョンだからね!

 我慢しますよ、今はね!

 兄さまが前衛に出るのもわかりますよ。

 持ってる武器から見ても、間違いなくこの中で一番起動が早いの、セディ兄さまですもんね。

 モンスターをハンターするゲームとか、好きだったからわかるもん。

「後で絶対教えてくださいね。」

「うん、大丈夫だよ。」

 ローブから手を出して籠を受け取ると、兄さまは至近距離で笑ってくれた。

 くっーーー!

 イケメンめっ!

 でも今回ばかりはその顔に騙されないんだからね!

 ダンジョン攻略後、覚えてらっしゃい!

 そんな話をしていたら、入場許可が下りたみたいで、騎士様が水晶玉を持ってきてくれた。

「それでは腕輪でのランクと本人確認をお願いいたします。」

 次々と皆様が腕輪を出す中、私の番になったので、腕輪をした手を水晶にかざすと、水晶は淡い金色の光を中にたたえた。

「はい、終了です。」

 照合完了って意味らしい。

 ご武運を、と、頭を下げられて私たちは門の前に向かう。

「さっきのあれな、ランクとか職業を偽ると光は赤くなって、即刻拘束されるから気を付けるようにな。 正直に言っとけば何にも怖くないぞ。」

「は、はぁ……」

 そう言って笑ってくださったのはロギイさんだけど、そんな巨大な獲物をぶん回しながら、15階までなら、肩慣らしにもならねぇなぁなんて言うような人に、怖くないって言われても怖いからね?

「さて、では入ろうか? 私たちが魔物は倒していくから、フィランは……あ~、ダンジョンにいる間は、彼の傍にいるんだぞ?」

 ちょっと言い淀んだ兄さま。

 なに? 何かあるの? と思ったら、そっと手をつながれた。

「僕が絶対にフィランを守るから安心してね。」

 と、顔は全く見えないけど、すごくかっこいい声で言われてしまった。

「えっと、ありがとうございます。」

 そんなこと言われたこと……黒歴史の中で一回あったけど、言われ慣れてないから照れちゃうよね!

 お顔見えないからイケメン反応で悶えなくても済んだけど、一度は女の子なら言われたいセリフだったから、いつもで思い出せるように、心の額に入れておこ!

 なんて思いながら、私は屈強な男と謎の男の子に囲まれてダンジョンの中へと入っていくのでした。







「……ところで、いくらダンジョンの入り口だからって、誰かの口から入るのってめちゃくちゃ抵抗あるし、気持ち悪くないですか? ご飯になった気分ですよね。 そもそも、もし最下層からの脱出口がお尻だったらどうしようって思っちゃったんです。 そこから出たら私たちダンジョンの排せつ物みたいですよ? 本当、最高に最低だし、あのダンジョン作った人の趣味、途方もなく悪い上に頭の悪さがわかりますよね! もう最悪でしたっ!」

 と、のちにフィランはヒュパムに語り、その話を聞いたヒュパムはセディのところに殴り込みに行った、という後日談を書く予定はないのである。
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