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4章 私のお店、開店します!

9)セディさんvs日・月の精霊(間接的心理戦?)

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「いい、フィランちゃん。」

「……はい……。」

 目の前にはこれ以上ないくらい真剣な目をしたヒュパムさん。

 絶賛至近距離で、心臓が狂喜乱舞中……だが、話の内容は笑えない。

「付きまといは犯罪よ! だから絶対にやめなさいね。 私はこんなに可愛いあなたを騎士団へ突き出すなんて絶対に嫌よっ! 後、何か新しいことを考えたりやりたい時には、まずか、後見人さんに必ず! 必ず言うのよ、いい? わかったわね? ホウ・レン・ソウは忘れないようにね、でも一応くれぐれも言っておくけれど、『相談が一番先』だからね!」

「はぁい……」




 お見送りの際、しっかり肩をつかまれ、目と目を合わせさせられたうえで、現代社会の常識をしっかりと言い聞かせられているのは、見た目は思春期真っただ中の可愛い女の子、中身はアラフォー(四捨五入は禁止)。 ホウレンソウは私がみんなに教えました。

 こんにちは、錬金薬師のソロビー・フィラン14歳です。

 推しと好きの違いあたりから、すっかり出会ったときのオネエ店員さんモードに切り替わったヒュパムさんにぎゅうぎゅうと抱きしめられ、本当に気を付けなさいよ! と何度も言われたその別れがあんまりにも長いため、しつこい上司を私から力づくで引き離し、そのまま引きずったトーマさんと、引きずられながらも笑顔で手を振っていたヒュパムさんに、ひきつった笑顔で手を振って見送ったのがつい10分前。

「疲れたぁ……。」

 ヒュパムさんが見えなくなって、ようやく肩の力が抜けた私は、時計の時刻を見て気持ちを上げた。

「さて、セディ兄さま。 そろそろお店の看板出しましょう……かっ!?」

 えぇ、再開店にむけて気持ちを上げて声をかけたわけですが、そこには笑顔のくせに鬼の形相のセディ兄さまがいたんですよ。

 え? なんで!?

 その形相、隠していた最悪の出来のテストを見つけたお母さんのごとく!

 この時の時の私の心境がわかるものがいたら、手を挙げよ!

 っていうか慰めよ!

「フィラン…」

 あぁ、声まで低い……現実逃避終了のお知らせですよ……。

「その前に私とも少し話をしようか。」

 なんですか? これ以上何かお話がありますか?

 って言いたかったけど、ありますよね?

 でも私、出来れば全力で拒否したい!

「……えっとぉ……でもそろそろお店を開けないと。 ほら、まだ閉店時間には早いし……」

 全力で!

 お店を開けて!

 お客さんを入れて!

 この『今からお説教だぜ!』の空気を回避したい!

 お願い、気が付いて兄さま!

「今日はもう閉店でいい。 夕方のお互いの仕事の前に、後見人として言いたいことがある。」

「そ、それは昨日の夜も十分お話ししましたし、別に今じゃなくても……」

「フィラン?」

 阿修羅のような顔ってこういうことですね。

 わたし、奈良のイケメン阿修羅像が日本の阿修羅像の中で一番好きです!

 え? いらない情報? 現実を見ろ?

 そうですよね……。

「……はぁい……」

 現実、現実かぁ……。

 ちらりを見たセディ兄さまの顔は、出会って1週間ちょっとですが、今後絶対見たくない、最高に氷点下の笑顔でした。 合掌。






 そのまま同じテーブルについて、説教再開なのでありますが、ここは私のメンタルがかなり削られたので、割愛させていただきます。

 ひとしきり言いたいことを言ったのでしょうね……紅茶を一口飲んでため息をついたセディさんが、私を真正面から見ています。

「わかったかい?」

 氷点下ブリザードも、慣れればド迫力イケメンの説法独演会……推しのイベント! と、必死に脳内変換して乗り切りました。

 それもそろそろ終わりのようですので返事をします。

「はぁい……」

「……本当に分かったのかい?」

 返事の仕方が気に入らなかったのでしょうか。

 お母さんモード突入のセディ兄さま、眉間にしわを刻み私にすごんできますが、もう、何回目のループになるの、嫌だなぁって思ってたのがつい口に出たのがこちら。 私の発言です!

「わかりました。 ……っていうか、さっきからわかったって言ってるのに、何度もしつこい……(ボソっ)」

「……フィラン?」

「あ。」

 口の中でつぶやいたはずが、もろに全部聞こえていたようです。

 おっと失言。

「え~と、えぇとね……」

 いろいろ超高速で言い訳を考えるけど……駄目だ! もう言い訳は思いつかん!

 ここは開き直るしかない!

 えぇい! 開き直ってしまえ!

「だって! セディ兄さまもヒュパムさんも、おんなじこと何回も言うんだもん! 確かにちょっと頭のネジが外れた行動はしたけど、だからって犯罪犯したわけでもないのに、なんで恋愛観まで強制されなきゃいけないんですかっ! 私はただ見守りたいって言ってるだけだもん! セディ兄さまのばーかっ!」

「こら、フィラン!」

 なんだか名前を呼ばれて呼び止められてますが知るもんか!

 人の性癖に文句付けるなんてそんな理不尽、私の最愛の推しの後ろ足で蹴られちゃえ!

 椅子から立ち上がってダッシュで二階に上がって腕輪で鍵を閉めるとへなへな……とその場に座り込んじゃった。

 足がガクガクしてるし、手も震えてる。

 あぁ、私、いろいろ限界だったんだ、きっと。

 叱ってくれる人がいるのも、心配してくれる人がいるのもありがたいけど!

「推しぐらい好きに愛でさせろや! 馬鹿ぁ!」

 そこまで叫んだらボロボロ涙が落ちてきて、年甲斐もなくでっかい声出して泣いた。

 力いっぱい泣いた!

 扉の向こうで私の名前を呼ぶ声が聞こえるけど知るもんか!

 自分の泣き声でそんなものは聞こえないよ!

『なぉ~ん』

 でっかいコタロウが傍によって来て顔を舐めてくれるまで、本気で泣いた。

「痛い、嬉しい、痛い、痛い。 ……コタロ、痛っ、やめて……。」

 おかげで涙も引っ込んだ。

 引っ込んだけど、気持ちの収まりがつかない。

 扉の向こうからは、もう名前を呼ぶ声も聞こえない。

 子供のようにキレて騒いだ私に、あきれて、部屋に戻ったのだろう。

 そうだよね、お仕事でここにいるんだもん、子供のお世話なんて、めんどくさくなっちゃうよね。

 もしかしたら兄さまは、担当変えてくださいって、ラージュ陛下に頼むかもしれない。

 やっと慣れてきたのに、それは寂しいな……心配してもらったのに、逆切れしちゃったし、ちゃんと謝らなきゃ。

「……謝る……。」

 いや、今は無理だ……。

「コタロウ、どうしよう、この年でお前のかーちゃんでべそレベルの暴言はいちゃったよ。」

 なんたって、口で言っても勝てないからね!

 ……嫌。

 本当にもう、自分の性格も今までの行動も、嫌になっちゃうよ。

 せっかく異世界転生したのに、こんなトラブルしんどい。

 また、じわっと滲んできた涙をぬぐったら、視界にキラキラしたものが入ってきて顔を上げた。

『仕方がない子ですのね。 でも、二人が喧嘩したのはちょっと胸がすっとしましてよ?』

 腕輪の中の指輪が一つ光って、隣には金色の光の声の主がいた。

「アルムヘイム?」

『気に入らなかった相手が、情けなくもへこんでいる顔が見れたので、意趣返しには完璧でしたわ。 なので、今ならフィランのわがままなんでも、そうね、家出でも何でも付き合って差し上げますわ。』

 にっこり笑って私のほっぺを触るアルムヘイムに、首をかしげる。

「へこんでる?」

『あぁ。 お前に怒鳴られて閉じこもられたのがよっぽどショックだったみたいで、真っ青な顔で頭抱えながら夕食の準備をしているな。』

「ヴィゾヴニル?」

 にゅっと床から抜けて出てきたヴィゾヴニルは、珍しくお腹を抱えて笑いながら私の前に現れた。

「へこんでるって……」

 誰が? と聞く前に、彼は私の頭をなでて言った。

『あの花樹人、またやってしまったぁ、これじゃ今までと一緒じゃないかっ! て、唸りながら野菜をめちゃくちゃ切っているよ。』

 唸りながら野菜を切ってた?

 またやった?

「なにを?」

 コタロウに舐められながらもそう聞いた私に、こつん、と痛くない拳骨をくれたヴィゾヴニルは、笑っている。

 代わりに教えてくれたのはアルムヘイム。

『なんでも、眠りこけてる妹にも昔何度か同じことして、そのたびに同じ反応されて無視されていたそうよ。 それを思い出してしまったみたいね。 あの情けない顔ったら! ふふ、フィランに怒鳴られたからって、こんなことで取り繕うこともできなくなるなんてまだまだね。 今までいけ好かない気に入らない出来損ないの花樹人って思っていたけれど、なかなか面白いわ。』

 くすくすと笑いながら、アルムヘイムは私を見る。

『わたくしたちの可愛いフィランが、ラージュの命令だけじゃなくて、ちゃんと大事にされているってわかったから、あれが傍にいることを、わたくしもヴィゾヴニルも許してあげるわ。』

 ふふっと笑ってアルムヘイムはヴィゾヴニルを見ると、彼も同意した。

『こちらとしても今回はしっかりやりこめる事ができたから、許してやろう。』

 その笑顔があんまりにも満足げで、綺麗で……背すじが少し寒くなった。

 ……ねぇ、2人ともなにしたの?

 私が大泣きしている間に、腕輪から抜け出してセディさんになにかしたのは間違いない!

 しかし、悪い顔してる精霊2人には聞いてはいけない気がします。 聞きません、私、いい子だから。

 敵にしてはいけない相手は怒らせません!

 ……あ、でも、そうすると……。

 このままでは、よろしくないよねやっぱり。

 私の態度は、絶対に悪かった。

『ちゃんと考えられたようね?』

 にこっと、アルムヘイムは笑うと私をぎゅっと抱きしめてくれた。

『素直でかわいい、わたくしたちのフィラン。 その心根のままに、行動なさい。』

「うん、うん。 セディ兄さまにはあとで謝る。 でもやっぱりちょっとむかつくから、気分転換はしたい。」

 アルムヘイムと目が合った。

「家出は出来ないけど、一回頭は冷やしたいです。 付き合ってくれる?」

『えぇ、もちろんよ、かわいいフィラン。』

 彼女は破顔して、そばに寄ってきていたヴィゾヴニルに目をやると、彼も肩を竦めて笑った。

『では、コタロウに乗って夕暮れの空の散歩をしてはいかがかな?』

「コタロウに乗って……?」

 コタロウを見れば、でっかいあくびをした後で、にゃ~んと可愛く鳴いた。

 同時にお魚スメルが届いてきた。

 ……お昼はセディさんにお魚もらったんだね、コタロウ。 おいしかったかい……?

 いや、そうじゃなく。

「コタロウで空のさんぽ? 猫だけど?」

大空猫スカイキャットでしょ? その名の通り、風に乗れば空を飛ぶよ。 それに夕暮れだもの、ヴィゾヴニルが力を貸してくれるわ。』

 そういえばコタロウ、ただのでかい猫じゃなかったんだっけか。

「コタロウ、お散歩行く?」

 と聞けば、な~ん、と鳴いてゴロゴロ喉を鳴らして近づいてきたから、のせてくれるって事だろうと解釈する。

 よし、そうとなれば。

 隠し持っていたお菓子と美味しく改良したポーションを一本もって、部屋の一番大きな窓を開けた。

『さ、いらっしゃい!』

 ぽーん、と先にコタロウが飛び出し、窓の外で待っててくれる。

『ほら、フィラン』

 手を取ってくれたヴィゾヴニルの力で浮いた私はコタロウの背に乗っかった。

『さ、神の木の枝の先っぽまで、ひとっとびよ!』

 アルムヘイムとヴィゾヴニルの先導で、私を背に乗せたコタロウは空を走り出した。

 ……どこにつかまったらいいかわからなくて、毛をぎゅっとつかんだら束で抜けちゃったのは御愛嬌、ってことで……

 ごめんね、コタロウ!
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