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3章 生活の基盤をしっかりたてよう!

2)薬草の仕分けと、故郷の味への光明!?

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『いまフィランが手に持っているデオリ草は傷薬を作るときの基本になる薬草。 右手側の左の籠に入っている青い花が咲いているのが解毒薬を作るときの基本の草のマンデオ草、その隣の赤い花はアマンデオ草で状態異常の時の体力回復ポーションの基本草だよ。 マンデオ草とアマンデオ草はとても似ているから花がない状態だと間違えやすい。 必ず葉っぱにある特徴を覚えてね。』

 ふんふん、なるほどなるほど。

『デオリ草は水を張った桶につけて、丁寧に揉み洗いするんだよ。 地面や岩に張り付いて育つし、水を多く含むような作りになっているから土や埃を囲いやすい。 溜め水で洗う目安は、水が綺麗になるまで、だね』

「これ、シダ苔みたいだもんねぇ……」

 形状は、向こうではやった、苔玉や蘭の花の根元に入れる吸水性のいいもじゃもじゃのコケのような奴だ。

 それを習ったとおり、大きめの桶に溜め水をして、丁寧に丁寧に揉み洗いを繰り返していく。

 小さな土も出ないくらいまでしっかり洗ったら新しい籠に入れる。

 一度洗い終わった土やほこりで汚れた水は、隣で待機している水の精霊であるアンダインが、埃や土だけを取り除いて綺麗な水に戻してくれる。

 それを2~3回繰り返すとようやく水が汚れないようになってきたので、市場で買った洗いざらしの乾燥用の大きな布を店舗の床に広げ、その上に薬草を薄く広げて水が切れるのを待つ。

「これ、自然乾燥じゃないとだめなの?」

 これだけ水を含んだ草の自然乾燥ってすごく時間かかる気がするんだけど、魔法で乾かしちゃダメなのかな? 薬効が変わるとかあるのかも?

 わたしが言わんとしたことが分かったのだろう、エーンートは笑った。

『ううん、魔法で大丈夫だよ。 だけどどうせなら一気にやりたくない?』

「あ、そっか。」

 すごい数の薬草全部洗い終わってから一気にやれってことね、ハイハイ。

「すっごい重労働……。」

 次はマンデオ草をひっぱり出して、じゃぶじゃぶ洗いながら水を切る。

 紅花の花に似た可愛い青い花がたくさん水のしずくを含んで揺れるのを見て聞く。

「これ、花はどうするの?」

『そのまま使うよ。 まずは基本の薬つくりをするって言ってたでしょ?』

「うん。 何かない限りはずっとやっていく仕事だから、基本をしっかりマスターして次に進みたい!」

 アイアム勤勉なジャパニーズ社畜出身!

 効率も大事だけど、基本はもっと大事!

 基本がしっかりしていれば、応用はいくらでもできるようになる。

 これ学校の勉強やお裁縫や料理もそうで、手仕事は絶対に手間を惜しんではいけないんだよって、私があちらで敬愛していた火付け盗賊改め方の偉い人も言ってた!

 そう! これは上達への第一歩!

 与えられたスキルに胡坐をかいてはいけない! なんたって、1回も作ったことないのに、絶対成功効果2倍! みたいな過分な錬金調薬スキルもらっちゃってるんだから……。

「頑張る!」

 花を潰さないように気を付けならが、溜め水でじゃぶじゃぶ洗ったら、花持ちの薬草は籠じゃなくって下の方を5本ずつくらいに分けて紐で一度しばり、壁から壁に渡された物干仕様の紐に引っ掛け、落ちないように別のひもで固定する。 ここまでが洗浄の行程。

 今度は赤い花を持つアマンデオ草に取り掛かる。

 マンデオ草と同じ工程を丁寧に行い、水を切りながら聞いてみる。

「基本のって言ってたけど、花だけとか葉っぱだけとかで使うこともあるの?」

『つかうよ~。 マンデオ草の草だけで作ると中級薬、マンデオ草の花だけ使うと上級薬になるよ。』

 つまり、全体で使うと低級ポーション、茎と葉だけだと中級ポーション、一番少ない花の部分だけを使うと上級ポーションになるってわけだ。

 ちなみに特級ポーションになると、根っこだけを使うらしいが、この薬草、根っこがほとんどない草だから、集めるのは厳しいなぁと思う。

「手間と収穫量の違いってことなのかな?」

『薬効がどこに一番出やすいかにもよるんじゃないかなぁ。』

 なるほどねぇ、と思いながらアマンデオ草も下処理を終える。

 ちょっとお茶でもしようかなって思ってエーンートを見れば、今度はこっち! と手招きされた。

 お茶飲む暇もないのか~、やっぱり調子に乗って収穫するんじゃなかったなぁと自分の行いを反省しつつ近づくと、それはこの世界暮らし三日目の私でも見慣れてきたつやつやの葉っぱ。

「神の木の葉?」

 それは店内に堂々と立つ木の葉っぱ。

 実は一枚私の懐にも入ってるので、それも取り出した。

『フィランがさっき薬草洗いながら調剤するって宣言したときに、お店の神の木が応えて落としてくれた分だからちゃんとひろっといたよぉ。 これはさっと水洗いしてから細かい汚れをぬぐい取るように乾いた布で拭いて、糸で縛って吊るして乾燥ね。 それにしてもフィランは真面目だね。 そのスキルレベルなら、下級品は作らない! とか、高級品だけ作る方が楽なのに。 でもまぁ、まずは調薬のスキルを使いこなすところから始めたほうがいいって言ってたから、この仕事はフィランにあっているのかもね。』

「そうそう、そう思うよ、今本当にそう思うよ……」

 まさかの馬鹿正直な勤勉さ、これって良し悪しなんですけどねぇっていうか、ブラック企業に取り込まれる思想だからよくないんだけどね……

「でもまぁ、向いてるって言って貰えるなら、それでいいんだよねぇ……できる限りは頑張るよ」

 そんな言葉を勝手に理解した顔になって、20枚ほどの葉を一枚一枚丁寧に丁重に洗い、これまた丁寧に乾拭きをして、一瞬心のどこかで余裕ができたんだろう。

 ふと、気が緩んだ時に急にエーンートの言葉が思い出された。

 ん? 言ってたよ? 何を? 誰が? 誰に対して?

「いつだれがどこで誰が何を言ってたの?」

 エーンートを振り返ると、けろっとした顔で言う。

『フィランが僕たちを呼ぶ直前に、そういえばって神様が。 ……って、フィラン! 変な顔になってるよ? 落ち着いて、フィラン!』

 顔の全パーツが顔の真ん中に一気に寄ったような苦虫を噛み潰した顔になったのは許してほしいけど、そうじゃない。 

「……神様、暇なの?」

『暇じゃないよ? でも気まぐれでも愛情深い方だから、お気に入りにはべったりになるよ。 今はフィランにべったり~。』

『べったりだよねぇ~』

 アンダインが水を綺麗にしながら笑う。

『神様、とっても気まぐれだけど、ここまでご執心は珍しいよ。今まで二人くらいしか見たことない~』

『ないね~』

 くすくす笑いながら話をしている二人に、首をかしげる。

「その二人って誰?」

『『それはないしょ~。』』

 人差し指を自分たちの唇に当てて満面の笑みで笑った精霊二人に、ちょっと背筋が寒くなりながらあまり深く考えないようにしようって頭の中を切り替える。

 そうです、えらい人の気持ちの中に深入りしても絶対にいいことはありません。

 平穏が一番!

 穏やか一番!

 神の木の葉の軸のところをひもで縛りながら十枚ずつぶら下げる。

「次はどれ?」

『この籠のエイゼン草と綿草を分けて洗って~。 綿草は、洗う前に綿の花の部分を取るの~。 糸の材料になるよ。 やり方は後でグノームに聞いて~。』

「わかった。」

 大きめの布と、少し小さい布を床に広げ、籠の中の草を全部取り出すと、ふわふわの花を摘んで小さいほうへ、葉っぱと茎は洗い桶の中に入れる。

 混じって入っているエイゼン草という向こうの人参の葉のような草は、別の洗い桶に入れる。

 ひたすらに、黙々と草と格闘……嫌いじゃない!

 むしろ好き!

 ぶちぶち花を摘んで籠と桶に入れて、たまに間違い探しみたいにエイゼン草を取り除いて……あれだ!

 ちりめんじゃこのエイリアン探しみたい!

 たことかみつけると嬉しいんだよねぇ……あ、ご飯、米のご飯食べたいなぁ、米ってあるのかな……大根おろしとちりめんじゃこに醤油垂らして食べたい……醤油あるかな?

「エ-ンート」

『なぁに?』

「この世界に米……ライスってあるかなぁ?」

『あるよぉ。 花樹人の王様が立ってる、東の王国から独立した東の島国の主食だよ~。』

 神様、ありがとう! 東の島国の主食ってだけで今俄然やる気出た!

 だって極東の島国、食を追求することに関しては貪欲なまでに新しい味を求めて極める美食の変態・日本の主食米が、あのなんだかすごいポテンシャル(完全にいい意味での偏見ですよ!)を有する花樹人の王様の御膝元・東の島国の主食って!

 期待するなっていう方が難しい。

「いつか行けるかなぁ……。」

『僕たちは精霊だからひとっとびだけど、人はどうだろう?』

「ぬう……わからないか……あ。」

 ぶちぃ! と花をちぎった時に思い出した。

「へい! 知識の泉、検索! 花樹人の王様の島国!」

 ――検索結果。 花樹人の王の治める小国『アレンス・パサヴィ』は、東の大国『タンアレス』の圧政から独立した極東の島国で、神の木に螺旋状に要塞を築く小国です。 国土は……、人口は……、種族配分は……。

 うん、そこの情報は今いらない……

「再検索、その国の食文化!」

 ――再検索します。 アレンス・パサヴィの主食はライス。 白くて小さい炭水化物の塊です。 また、発酵食品と言われる菌を使用して加工した食品も数多く、他国からの食文化も混ざり合ったた食文化の国です。

「よっしゃぁ! 優勝!」

 左手に集めていたエイゼン草を籠にぶち込んで、覇王のポーズを決めた。

「どうやって行くのかなぁ! 渡航期間と旅費、検索!」

 ――検索します。 ここからかなり遠方になりますので、馬車で5週間ほど、騎乗獣便で3週間となります。 転移門での入国は認められておりません。 旅費は馬車と宿泊で相場は大金貨50枚からとなっています。

「たっか! 何年分の年収よ……ちなみに騎乗獣便は?」

 ――最低根で大金貨100枚前後です。

「馬鹿――――――!」

『あ! 薬草は丁寧に扱わなきゃダメ!』

「ご、ごめんね!」

 思い余って薬草を籠にぶち込んじゃったのをエーンートに咎められて謝りながらも、あぁ、夢見なきゃよかった、でも聞いちゃったら食に貪欲な日本に似た片鱗を持つっぽい花樹人の王様の立つ国にすぐにでも行きたい! 後、国名をもうちょっと覚えやすく短く簡単な形にしてほしい! と思う。

「まじめに働いてお金貯めよう!」

 よし! 仕事頑張る目標はそこに狙いを定めたぞ!

 とぶち込んでしまった薬草をなでながら、わたしは心の底から決意したのでした
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