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2章 ここで生きる準備をしよう

9)いざ!改築開始!(スキルってこわい!)

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 あぁ、異世界は今日もいい天気です。

 庶民層は、上にも下にも階層があって、日のあたりはどうなのよ? と心配になるかもしれませんが、そもそもなんだかよくわからない造りなので日当たり最高です、しかも我が家は真ん中より外側なので、お庭も日当たり完璧です!

 今日から新居の工事が入りますよ!
 
 というか現時点でもう入ってますよっ!

 なので私は、棟梁たちに、すぐに声をかけられるところにいてほしいと言われたので、出来上がりにウキウキしながら庭仕事をしようとしています。

 ようやくスローライフっぽい。 嬉しい、最高!

 素手で始めようとしていたら、親方が作ってくれた小型片手スコップも、持ち手に紐がしっかり巻いてあってしっくり手に馴染んで大変にいい感じですし、何より!

 何よりも!

「邪魔が入らないって、素晴らしい!」

 麻の手袋とスコップ、ワンピースと割烹着タイプのエプロン着用で準備万端!

「さあやるぞ! どんとこい!」

「お嬢ちゃん、そりゃなんの儀式だい?」

「気合を入れて畑仕事するための儀式です!」

 お店の窓から声をかけてくれた親方にガッツポーズを見られたので、開き直って力いっぱいのガッツポーズを見せました。

 こうか? と真似して、こりゃいい、気合入る! と奥に入っていきます。

 う~ん、平和!

 王都の建築はちょっと面倒くさいらしく、個人の資産となりうる土地は、借地でも所有を示すためにきっちり塀で区切らないといけないそうです。

 我が家は店舗兼住宅、なので入り口の門(扉はない)から15歩歩いて、この家唯一の出入り口であるお店の入り口があるわけですが、入り口からお店の玄関までの小道を挟んで両側の花壇を、薬草畑にするべく土いじりをこれからやります!

 薬草から買って薬を作るよりも断然お得!

 手間だけどお得!

 片手スコップ同様に、親方がちょちょいと端材で作ってくれた桶やバケツ、ガーデンツールを抱えながら庭の端っこに出たところで、すぐに花樹人のお兄さんと親方が手招きしてきました。

「ちょいとお嬢ちゃん、畑仕事の前に相談なんだが。」

「はい?」

「庭、裏庭しないか?」

 ニワ ウラニワニ シナイカ ?

 ……は? ちょっと言われてる意味わかんないです。

「早口言葉ですか?」

 ウラニワニハニワニワトリガイル、みたいな。

「なんじゃいそりゃ。 お嬢ちゃんはたまに訳の分からんことを言うのぅ。  いや店の前に畑があるより、裏庭の畑の方がいいんじゃないかと思ったんだが。 整備したアプローチの道がなくなる分、畑面積が広がるだろう?」

「あ~、まぁ、理想的っていえば理想的ですけど……物理的に無理なのでは?」

「ブツリテキってなんじゃい」

「いや、おうちを動かすってことですよね? 家引き? それってすごく時間かかるのでは?」

 転生前の世界では、そういう技術もあるってテレビで見たことあるけど、あれってすごい時間も手間もマンパワーもかかる一大仕事じゃなかったっけ?

 と、首をかしげれば、何言っとるんじゃい、みたいな顔で爆笑された。

「ほれ、うちには花樹人がおるからそこらへんは何とでもなるわい。」

 花樹人がいるから何とかなる……?

 いや意味わからない。

 しかもうちには大銀貨一枚という追加家賃なしにしてくれたいわゆる難点があるわけだが……。

「家の中の木は?」

「あぁ、花樹人が話付けとるわい」

 いや、どうやってよ!

 花樹人ってなに? 万能なの? 木とお話しできるの?

 たしかに樹木つながりで話せるって言われたらそりゃそうか、いや、そうじゃなく。

「どうやって……?」

「やってもいいか?」

「まぁ、はい。」

 畑が広がればその分手入れする手間が若干増えるけど、それでも自分の職業を考えれば庭は広いほうが収穫量アップで嬉しいに決まってる。

 収穫量倍増万歳!

 頷くと、親方は屋内の職人さんたちに叫んだ。

「おぉい、許可が下りたぞう!」

「じゃあみんな、一回出ろよ! 早くしろ!」

 よっしゃ! という声と共に建物の中に向けて親方と花樹人のお兄さんが大きな声を出すと、どやどやと出てくるカーペンターな皆様たち。

 門から外、つまり家の前の通りに私も併せて集合する。

 あ、コタロウも出てきた。

 話通じてるのかな?

「なんじゃい、このでかいのは……大空猫スカイキャットじゃないか。」

「いえ、うちのコタロウです。」

「そうじゃねぇ、そのデカいのの種族だ。 結構ハイランクの騎乗獣じゃぞ? 買ったのか? 随分高かっただろう。 うらやましいのぅ。」

「いえ、この子が子猫の時に拾ったんです。」

 まさか神様があっちの世界から連れてきました、なんていうこともできず、そう言ってあいまいに笑っておいた。

 しかし大空猫スカイキャット? ハイランクの騎乗獣? 後で検索だ、検索!

「拾っただと? これをか? ずいぶん慣れておるが、こうなるまでには何年もかかるぞ? ……お嬢ちゃんは魔獣調教師テイマーもやるのか?」

 魔獣調教!?

 いや、コタロウはただの子猫だったし!

 もう、どう言ったらいいかわからずヘラっと笑ってごまかしたタイミングで、家の中から獣人や鳥人や人間(亜種含む)花樹人を除く全員が出てきたことが確認された。

 用意が出来たら、コタロウについて色々聞きたいようだった親方も、みんなに指示を出していく。

 家の移動かぁ、どうやってやるのかなぁ? なんて思っていると。

「~~~~。」

 花樹人のお兄さんが玄関に触れてなにか、ちょっとわからない言語で話し出すと同時に、茶金の光と緑の光が建物を覆った。

 ずんっ!

 大きな振動にびっくりして目を閉じる。

 地震でも来るかな!? なんて身をすくめていたが何にもない。

「ほれ、終わったぞ。」

 ぽん、と背中を押されて目を開けると。

 先ほどまであった庭は目の前から消え、代わりに店の玄関があった。

「……え?」

「いや~、この技はなかなか使うことがないので、うまくいくか心配だったんですが、完璧だったね! 腕がなまってなくてよかった!」

 と、店内では、昨日ベッドを作ってくれた花樹人のお兄さんがにこにこしている。

 いや、そういう問題ではないのでは?

 なにこの力、剣と魔法の世界って怖い、みんなチートじゃない?

 なんて思いながら親方に背を押されて店内に入ると、木の場所はカウンターの横にずれた形になっている。 そうか、木の位置は変わっていないのか。 壁に埋まらなくてよかったね、と木の幹をなでると、ぱらり、一枚だけ葉が落ちた。

「え? 葉が落ちたよ? やっぱり悪影響だった?」

 はっぱをキャッチしながら慌てて周りを見ると、作業のために腕まくりしながら花樹人の男性がにっこり笑った。

「『神の木』は気に入った相手にはそうやって答えてくれるんですよ、葉が落ちた時は肯定、葉が落ちないときは否定。 それにその葉は薬の材料にもなるので……って、そんなこと錬金薬師のフィラン嬢には当たり前でしたね。」

「え……えへ、そうですね。 でもさすがにおうち自体の引っ越しは初めて見たのでびっくりしました。」

 すごく人のいい笑顔でそう言われ、ごまかすように笑った私は神の木の葉を懐にそっと忍ばせると裏庭になった畑に出るために部屋の奥に入った。

 のだが……

「えっとぉ……」

 両手に庭仕事一式を抱えたまま振り返る。

「裏庭に出れませんよ~。」

 そう、今までは裏庭じゃなかったものだから、窓しかない。 これじゃ畑に出れないじゃない! 窓? 窓から出ればいい?

 と、ばしばし壁を叩いていると、ちょっとどけてろ、と親方が来て……

 壁をこんこん叩くと、何やらモジョモジョ口の中でいい、壁に扉くらいの大きさに? 指を滑らせる。

 指を滑らしたところはかすかに赤い線が入っていて、赤ペンでも持ってた? とその作業をみていたのだが……どこからか取り出したでっかいハンマーをおもむろにそこに打ち付けた。

 ドゴーーーーンッ!

 バターン!

 パラパラ……

 もう、表現しがたく、音で表現してみましたが、いわゆる線の浮いたところだけ壁がぬけて、畑に倒れた……という感じですかね。

 うん、そのまんま。

 土ぼこりを浴びながら何がったのか脳内で処理するのにちょっと時間かかりましたが、これはひどい。

「おや、親方! 壁! 壁ない!」

「おう、抜いたからな! これが俺のスキル『建築の極意』だ。」

 自信満々に言われたが、いや、そうじゃない……。

「開けっ放し……防犯……。」

「急にやるからびっくりしましたよね、さすがにこのままにしませんよ、ご安心ください。 大丈夫です、ここに可愛い扉を入れますからね!」

 壁抜けて畑になっていて、涙目で口をパクパクさせていたのだろう、慌ててきてくれた花樹人の青年が、涙を拭いてくれながらフォローを入れてくれた。

 花樹人、優しい……ドワーフ、怖い……。

「壁も消さないと畑仕事もできませんし、ほんと、繊細な作業が嫌いなんです……あ、ドワーフがじゃないですよ、うちの親方限定です。 ドワーフは確かに力も強いですけど、繊細な作業も得意ですから! それから、扉の前に土除けの段差もちゃんと作りますから、フィラン嬢は心置きなく畑仕事しててください。」

「……はい……」

 にこにこと笑いながら、よいしょっ!と倒れた壁を持ち上げると一瞬で三分の二を砂利状に、残りをきれいに角をとって穴の開いた壁の足元に置き始めた花樹人のポテンシャルも怖い……どんだけの腕力とスキルがあるんですか、本当に怖い……。

「そうだ、フィラン嬢。」

「はい?」

 もう何も言うまいと、両手にしっかり庭仕事道具をもってとぼとぼと裏庭に出た私に花樹人は笑った。

「昨日、精霊と契約していたでしょう? いや~すごいですね、どこのギルドでもちょっとした話題になったようですよ。 精霊と契約すると、いろいろ便利ですよ。 もちろん、畑仕事も楽になりますから、ぜひ手伝わせてあげてくださいね。 あの子たちは力の差はありますけど、本当にいい仕事をしてくれるんですよ。」

 いや、うらやましいなぁ。

 本当にただ純粋に好意で言ってくれているんだろう。

 変わってあげたいですけどね……?

 パチン、とウインクしながら先ほどのがれきからコンクリート? 漆喰? みたいなのを作り出し、鼻歌交じりに仕事を始めた花樹人の言葉と、その言葉に反応してほわっとあったかくなった例の腕輪に、私はへらっと、ひきつった笑いを漏らすしかなかったのである。
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