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63・【中盤より他者視線】法王の祝福と、質疑応答

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今回のお話は 女性蔑視甚だしい発言妄想を繰り返す人物の視点があります。
苦手な方はどうぞ途中までで収めてください、 次回流れはわかるようにします。

大事なことですのでもう一度。 本当に駄目な発言を繰り返す人が出てきます。

******




 私は静かにカーテシーを行うと、2歩下がってマミの斜め後ろに寄り添うように立ち、手を握り、肩に手を置く。

「それでは問おう。」

 ダンッ!

 聖王猊下の隣、杖で床をついた司祭は、純白のドレスに身を纏い、ミズリーシャと手をつないだマミを見た。

「え……っと?」

 私の方を見たマミに、そっと伝える。

「マミ。 名前と、その肩書――自分がこの世界でなんと呼ばれていたか。 それから、聖王猊下の前で嘘をつかないと誓うの。」

「わ、わかった。」

 開いた手で胸を押さえたマミに、1つ、2つと深呼吸をした後、口を開いた。

「あたし……ううん。 私の名前は糸沢真美です。 肩書? は、元居た世界ではコウコウセイをやっていて、この国に召喚されてからは『聖女』と呼ばれていました。 今はアリア修道院で修道士見習いとしてお世話になっています。 それから……。 私は、せいおうげいかの前で、決して嘘をついたりしません。 この世界の神様と、私の世界の神様と仏様に本当に心から誓います。」

 それに頷いた聖王は、自らの胸にかけられていた小さな白い球が連なった、教会のたシンボルのついたネックレスを外し司祭に渡すと、受け取った司祭はそれを手に持つ杖にかけた。

「猊下により、神の天秤はかけられた。 誓約を行った者には天秤のおもりを付けてもらう。 これは聖王猊下が神の代行者と言われるゆえんの錘である。」

 数名の司祭が、何かをもって私たちの元にやってきた。

「……ロザリオ? あ、でもちょっと形が……」

「教会の祈りの場で使われる教会のシンボルのついたネックレスよ。 ただしこれは、神の奇跡と言われる教会の宝物のひとつ。 神の天秤。」

 マミの言葉に思い返してみれば、形は違うがそうともみえる。 物心ついた時から使っていたから何も不思議に思わなかった。

 周り見れば、私たちだけではなく、宣誓をしたエルフィナ殿下、シャルル殿下、ウルティオ様、そして告発されたドルディット国王夫妻の前にもそれは届けられていた。

「授けられたものは、自らの手で天秤を首に。」

 言われ、私とマミはそれを手に取った。

「え? これを首にかけるの? ちょっと怖い……。」

 たしかに、何も知らないまま神様の裁きの天秤を手に持てと言われれば、後ろめたくなくとも怖いだろう。 私は手にしたそれを首から下げ、マミに見せる。

「ほら、大丈夫よ。 この世界の神様の祝福を受けたものだもの。 嘘をつかなければ何もないわ。」

「……う、うん。」

 私の説明に、少し戸惑いながらもマミはそれを首から掛けた。

 エルフィナ殿下も、シャルル殿下も、ウルティオ様も、すでに装着し終わっている。

 終わっていないのは……。

「無礼な! 一国の王にそのようなものを着けよと言うのか!?」

「そうです、あんまりです! 私たちの訴えを聞くことなく、一方の証言を鵜呑みにするなんて! 教会の横暴ですわっ!」

 この世界に住む人々が信仰する教えの、その頂点にある人に対し暴言を吐く国王と王妃など聞いたことがない。 当然二人には冷たい視線が注がれているが、もちろんそんな視線に彼らは気づいていない。

 疚しい事しかない彼らである。 それをつける意味を熟知どころか覚えていなくても、拒否するつもりのようだ。

(この世界における教会のありように関しては、この国では『神殿』のせいでかなりおろそかになってしまっているけれど、周辺諸国の目もあり、貴族の中では周知の事実のはず。 なのに一国の王が、これだけの人を前にそんなことを言うなんて……恥知らずにもほどがあるわ。)

 不安げなマミの手を握りながら、しかしこのままでは先に進まない。 どう動くべきか考えていた私よりも先に、彼らに話しかけたのはウルティオ様だった。

「ドルディット国王ともあろう方が、何とも狭量なことをおっしゃるのですね。」

「何だと!」

 すでにシンボルをその旨につけたウルティオ様は、静かに微笑みながら彼らに言う。

「聖王猊下はシンボルを首から下げることによって、正当な裁きを始めようとなさっています。 つまり、ここから先の我らの発言に対し、嘘偽りないと誓約した事を形になさったのです。 逆に言えば、とおっしゃってくださったのですよ? 私たちはもちろんの事、貴方方がここまで口にした言葉に#としてもと。 このように御心広い聖王猊下の温情を、貴方は足蹴にされるおつもりですか?」

 ウルティオ様の発言を聞き、はっとした顔をした国王夫妻は互いに顔を見合わせると、やや安堵の色をその顔に滲ませ、司祭たちを振り払うように突き放し、奪い取るようにしてそのシンボルを手にした。

「どこの下賤の女の産んだこともわからぬ若造の言い分を聞いたわけではないが、いいだろう! 受けてやろうではないか!」

 余裕のない表情で、しかし自分に優位であることに口の端を上げたドルディット国王は、千切れてしまうのではないかと思うほど乱暴にそれを首から掛けると、再び自分を取り囲もうとする司祭をさらに振り払い、王妃の腕を掴んで立たせ、先ほどまで座っていた席についた。

「国王陛下、王妃殿下。 そちらの王冠とティアラは、お付けにならなくてもよろしいのですか?」

 壇上に転がるそれを見、声をかけた私に国王陛下はだんっ! と肘置きを拳で叩いた。

「我が頭上から落ち穢れた物など何故つけられようか! たかが公爵令嬢の分際で意見を申すな!」

(たかが、ね。 そのたかが公爵令嬢を王命を使って王家に引きずり込もうとしたのは誰だったかしら。)

 その言葉に私が呆れていると、壇上に近い貴賓席に座っていたハズモンゾ女公爵様が微笑んだのがわかった。 きっとどこかで父も目を光らせているだろう。

(あらあらまぁまぁ。 恐ろしい……。 陛下は私の出自をすっかりお忘れなのかしら? 鳥頭にもほどがあるわ。 しかも、国宝とされる宝玉を掲げる王冠を放り出すなんて。)

 王としてあまりにも情けないと、溜息をしか出ない。

 表情は替えないまでも、明らかに父王の言動と態度に落胆しているお二人の姿がある。

 しかし、これならばあまり時間をかけることなく、あっさり終わりそうだ。

 壇上の司祭様が、杖を一つ、床に叩きつけた。













【注意・ドルディット国王視点】



(神の天秤だと!? たかが教会のシンボルであろうに、もったいぶりおって!)

 壇上に用意された椅子に座った法王とその傍に立つ司祭の後ろで、自国の文官や侍従が教会側の指示により慌てて用意した大きな机が用意したと同時に、公平であることを証明するために衆目が集まるこの場で、呼びこまれた数人の濃紫の法衣を身に纏った教会関係者によって、エルフィナとシャルルが提出した2冊の書と大量の書付の確認作業が始まっていた。

 その中には、ドルディット国神殿建設当時の、聖女召喚につながる重要な書きつけも見えて、ドルディット国王は焦った。

(くそっ! くそ! どうしてあれがあそこにある! 王太子であるジャスティにもまだ知らせていなかったというのに、どうやってエルフィナとシャルルが見つけた?! 絶対に見つからぬように、厳重に、王の執務室の奥へ隠していたというのにっ!)

 表情に出さぬように注意しても、つい、昔からの癖でがりがりと爪を噛んでしまう。

(くそっ! エルフィナめ! 昔は従順で可愛げもあった癖に、生意気にも親の目を欺くなど、小賢しい! ミズリーシャが我が国から離れられぬよう仲良くさせようと共に過ごさせたのが仇になったかっ! しかも、比較的扱いやすいシャルルまでをも巻き込みおって!)

 檀下にいる、親を告発しようなどという恥知らずな娘と息子を憎々しく睨みつけるも、彼らはこちらを一体見ることなく、静かにそこにいるのが腹立たしくて仕方がない。

(父親の、国王の言う事をそれ大人しく聞くことすら出来ないのか。)

 その点においては、多少愚かであっても、自分によく似、父上のように立派な王になりたいと慕ってくれていたジャスティは可愛かった。 聖女に恋をしたことで愚者となり下がり、早々に切り捨てたのが惜しいほどに、手駒としてはの彼は、同じく従順な手駒である王妃同様に可愛かった。

(この茶番を乗り切ったら毒杯……いや、それでは腹の虫がおさまらん。 如何してやろうか……。)

 どうせなら、泣き叫び、乞い縋って自分に服従を誓うようなものがいい。 その過程で何かあってもそれはそれで親に逆らったのだから仕方がない。

 幸い、自分には子はもう一人いる。 彼女を王太女にしたし、王配という言葉をちらつかせ、金を出させ、大人しく言う事を聞かせればいいだけだ。

(よし、決まったな。)

 そう考えて視線を移した王の視界に、黒髪の男が入って舌打ちをする。

(ハツネめ! 胎の子ともども黙って死んでいればよかったものを……っ! おおかた|狐女アマーリアが手助けしたか……。)

 先王が後片付けをしたと聞いていた。 生まれてすらいないと思っていた子がそこにいると言う事実に、ぞっとする。 それは墓場から這い出て、自分を足元から絡め捕る化け物のように思え、見るのも嫌だと目を背けた。

 の存在を知っているから、余計なのだろう。

亡霊せいじょめ。 ただ黙って眠っていればいいものを。 いや、しかし大丈夫だ。 証拠としてあの場にあがっているのは文献のみ。 アレさえ見つからなければ言い逃れは出来る。)

 そもそも、『聖女召喚』などというが成り立ち、継続して行えているのは、があるおかげ。 しかしそれでも『召喚』の際、有益な者と役立たず、又は有害な者。 その分別すらできず、無作為にそこにある魂を呼び込む欠陥品。

 初めて見た時は捨ててしまえばいいと思った。 父王に進言もした。 しかしアレは、聖女召喚の奇跡を起こす国の秘宝であり、そのお陰で国が栄えたと言われれば何も言えない。 ゆえに、元は王宮の奥底に隠してあったが、あまりにも不気味な遺物のため、自分が即位したのち、神殿の奥底に移し、厳重に保管した。

(アレさえ見つからなければ、書きつけは過去に記されたただの伝承と言い訳できる。)

「あなた、どうなさるおつもりですか……?」

 爪を噛みながらそう考えていた王は、声を掛けられ顔を上げた。

 小さな声で問うてきた王妃を見れば、この茶ばんの疲労のせいか、朝まであった美しさが失われていた。 もとより政略結婚。 見た目の愛らしさだけで選んだ相手。 そんな女がたったわずかな時間によくぞこれだけと思うほど更けこんでいる。

(醜いな。)

 そう感じてしまえば、愛玩・性欲あいじょうは、あっという間にしぼんでいく。

「お前は王妃なのだ、何も言わず、いつものようにそれにふさわしく微笑んでいろ。」

 よけないことはしゃべるなと言いたいところだったが、そうもいかない。 言葉を濁せば、彼女は頷き、やつれた顔で微笑んだ。

(花の命は儚いものだ……これも用済みだな。)

 そう思った国王は、視線の先を見やった。

 視界に入ったのはミズリーシャだ。

(こうしてみれば流石、目を引くな。 もう少し出るところが出ていたほうが私好みではあるが、顔も血筋も最高級、お飾りとして申し分はない。 自尊心の高い女を屈服させるのも嫌いではない。  私をこんなことに巻き込んだ償いとして公爵に差し出させるか。)

 漆黒のドレスを纏い、出来損ないの聖女を支えるミズリーシャの頭の先から足の先までなめるように見た後で、彼女と共にいる白いドレスの女を見れば、心底うんざりする。

(出来損ないの聖女の癖にのこのこ現れるとは……あの時死んでいなかったのか。 逃がしていたのはバカ娘か? まったく余計なことしてくれる……あれがそうだと教会側に知られないようにせねばならん。)

 幼い頃から得意だったいいわけだ、なんとでもなる。

 そう考えた時、杖を突かれる音が会場内に響いた。

 提出された物の、簡単な調査が終わったのだろう。

(くそ、偉そうに。)

 そう思いながらも、しっかり状況を把握しなくてはならないと、王は背を伸ばす。

 司祭は静かに、檀下にいる『錘』となったものへ問い始めた。

「改めて問おう。 ドルディット国が第一王女エルフィナ、第二王子シャルル。 両名の宣誓に変わりないか?」

「ございません。」

「私もございません。」

 殊勝に答える二人に怒鳴りたいのを、王は爪を噛んで抑え込む。

「ローザリア帝国ハズモンド公爵家ウルティオ。 宣誓に変わりないか?」

「はい。 聖王猊下の御前にて、ローザリア帝国ハズモンド公爵家ウルティオ・アメサギ・ハズモンド。 神に誓って嘘偽りを決して口にしないことを誓い、この場にてドルディット国にて召喚された我が母、そして名もなき聖女たちの救済と名誉回復と、ドルディット国及び神殿で繰り返されてきた、悪しき慣習を終わらせていただけるよう、心より願います。」

(はっ、何が聖女の救済と名誉回復だ。 名誉を貶められたのはこっちの方だ! 亡霊の残骸が! 我が国の礎となれるだけありがたいではないかっ!)

 怒りに任せて爪を噛めば、びりりっと指先に痛みが走り、それにさらに苛つき、舌打ちして乱暴にその指先をトラウザーズにこすりつけた。

 ミズリーシャと聖女も宣誓を確認された後、司祭は王を見た。

「告発されたドルディット国王、王妃には、これらに対し神に誓って虚偽なく発言するように。」

神に誓って。」

 努めて笑顔を作り、頷きながら、心の中で毒づく。

(何が誓うか、偉そうに! ふざけるな! シンボルこれだって、ただの脅しに決まている!)

 先ほどまでみっともない姿を自らが曝した事などとうに忘れ、彼は目の前の司祭の事を腹の奥でせせら笑う。

 彼は自分に対してどのような視線が突き付けられているか気が付かない。

 努めて友好的に穏やかに(と本人は思っている)微笑む彼に、聖王猊下に付き従う司祭は静かに口を開いた。

「問おう。 ドルディット国王よ。 ドルディット王国は世の創造神の定められた規律に従う『教会』とは別の『神殿』において、太陽神を祖とするドルディット王家信仰を国民に広めているのは誠か。」

(問題ないな。)

「聖王猊下に申し上げます。 たしかに我が国では『神殿』があり、そのような考えがございます。 しかしそれは我が国の神話を元に作られた物であり、それを国民にしたことはございません。 神殿の教えを貴ぶのは、国民の愛国心からに相違ありません。」

「……了。」

 司祭様は聖王猊下と目を合わせ、頷かれた。

 偉そうに、と思いながらも質問に答えられた安堵感で、わずかに緊張は緩む。

「問おう。 『神殿』では『英知を持つ黒髪の乙女』がドルディット王家の祖となる太陽神から遣わされる。 その乙女は王家に次ぐ地位が与えられ、国のために『聖女として勤める』とある。 相違ないか。」

 ドルディット王は静かに頷く。

「申し上げます。 先ほどは私も、この大事な式典に予期せぬ邪魔が入ったことで大変に混乱し、取り乱してしまいました。 そのため少々異なる返答をしてしまいました。 その質問に、相違ありません。 神殿を通じ、我が一族の祖である太陽神は、我が国に英知をもたらす知識をお授けくださいます。 そしてその知識を持った乙女の事を『聖女』と名乗らせております。」

 パキリッ

 その耳に、何かが割れた音がした。

(なんだ?)

「……了。」

 猊下の声に、司祭様は頷く。

 先ほど聞こえた何かが割れる音が気にはなったが、答えを認められたことの方が彼の中では大きかった。

(なんだ、嘘を言ってもバレもしない。 やはり只のはったりか。)

 内心、腹を抱えて笑う彼に、司祭は静かに続ける。 

「問おう。 その神から英知を授かりし黒髪の乙女『聖女』は、どのようにしてこの国に現われるのか。」

「申し上げます。 かの乙女はこの国のどこかに生まれます。 乙女はこの世界に珍しい黒髪をしておりますので、それを目印に神殿の神官が探しだすのです。」

 パキリッ

「……了。」

 何かが割れた音がしたが、何度も鳴るのであればそれは天井や壁の軋みだろうと思い、それよりも、嘘偽りを述べても『ばれない』事に歓喜した。

(これならば勝算は私にある。 聖女の事が他国に知れた際にはこう答えよと口伝えされた筋書き通りに答えればいいだけだ。)

「問おう。 20余年前、『聖女ハツネ』には何があったのか。 ウルティオ・アメサギ・ハズモンドは貴殿と聖女ハツネとの間の子であるのか。」

「申し上げます。 聖女が誕生したことは人伝に聞いておりましたが、当時私は王太子であり、日々研鑽に忙しい身でありました。 また、ので、その聖女の事は、見たことも会ったこともありません。 以上の理由から、その青年の素性に私は関わりがないと断言します。 ただ、我が王家の秘宝の瞳を有している事を考えれば、先王の落胤ではと推察します。」

 パキリ、パキリ、パキリ、パキリ……っ。

(うるさいな。)

 聞こえむ音にわずかに眉間に皺を刻みながらもそう答えると、司祭は聖王と顔を見合わせ、頷いた。

「了。」

(ようやく終わるか?)

 そう思ったドルディット王だが、司祭による質問は続けられた。

 国の所有する書籍について、子2人が告発した事柄について、王家と神殿と聖女の在り方について等。

 様々な質問のすべてに、その場しのぎの嘘とはったりで答えていくが、すべては『了。』と承諾される。

 あまりもお粗末である質疑応答だと、気持ちに余裕が生まれた彼は、徐々に調。 イスに深く腰掛け、足を組み、腕を組み。 にやりと笑って檀下にいる者達を見る。

(さぞかし焦っている事だろ……ん?)

 その予想に反し、聖女以外は平然とした顔をしていることにいら立ちを感じる。

(なんだ? 随分澄ましているな? いや、貴族だからな。 顔にはださんが内心は焦っているだろう。 )

 そう思うと笑いが漏れそうになるのををぐっとこらえたところで、次の質問が聞こえた。

「問おう。 あれにあるマミ・イトザワ嬢はドルディット国の『聖女』か。」

(きたか。)

「それについては、申し上げさせていただこう!」

 ドルディット王はその質問に、立ち上り、両手を広げ、人の集まる会場に向いて立った。

「そこにいるマミ・イトザワなる小娘は、我が国の神話を利用し、自分を『聖女』と偽り、我が国、我が神殿を騙してその地位を手に入れ、色香で数多くの令息、そして王太子であったジャスティを堕落させた、社交界、貴族会を騒がせた稀代の悪女でございます。」

 その言葉に、会場は大きくどよめいた。

 同時に、甲高い悲鳴が上がる。

「……嘘よっ! 嘘っ!」

 パキリ、パキリ、パキリと何かを軋む音に重なるマミの声にうんざりした顔をし、ドルディット王は大袈裟にため息をついた。

「お集りの皆様! ご覧ください、あの醜悪な態度を。 私の息子を名乗るの男といい、その女といい。 このように邪悪な者達が我が国の王子と王女を騙し、国を乗っ取ろうとしているのです! 本来であれば立太子というこの国の行く末を決めるだ大切な式典を、このように汚されるとは……っ。 我が国こそ真の被害者!  しかも先王の落胤の可能性のあるその男ならいざ知らず、第一王子を廃嫡へと導いた娼婦風情が、よくこの場に来られたものだ! 身を弁えよ!」

「嘘つかないで!」

 マミの声が会場に響く。

「私の事を聖女だと言ったのはこの国の神官と国王あんたたちじゃない! この国の神官たちがあたし達を異世界から勝手につれてきた! 私がやったことは確かによくない事だった! けど、他の聖女様たちまで馬鹿にするのは許さないっ!」

「なにを言っているのかわからんな。 異世界? なんだそれは? 聖女召喚? それはどうやって行うものなのだ? ありもしない異世界から人間を呼ぶなど、そんな夢物語の様な技術はどこにある。 常識と知性ある人間がそれを聞いて信じるとでも? そうやって周りの人間を欺き、騙し、男を手玉に取って、さぞ愉快であっただろう。」

「――あたしはっ! あたしたちは! ここにいる人たちみたいに自分の世界で普通に暮らしていたの! そこから、急に全然別の世界に無理やり連れてこられて! 英知を出せといわれて、罵られて、馬鹿にされて! どれだけ辛くて苦しかったかわからないの!?」

「それも貴様のただの妄想だろう? 騙せないと気づけば憐れみを乞うか……。 あぁ、皆様、聞いてはいけません。 愛しい我が息子のように、騙され、道を踏み外してしまうかもしれませんよ。」

「……このっ!」

「マミ、落ち着いて。」

 今にも飛び掛からん勢いの娘を抱き締め止めるミズリーシャに、国王は笑い飛ばした。

(何を言っても無駄だ、異世界の小娘一人、どうとでもなる。)





「――了。」





 バキリッ。

 ひときわ大きな何かが割れる音とともに、司祭が持つ杖は雷を受けたように裂け、同時にドルディット国王が下げていたシンボルと連なる粒がはじけるようにあたりに散った。

「なにっ!?」

 何が起こったのかかわからず、足元に散らばる破片に目を見開いたドルディット王が次の瞬間に見たものは、床に散らばった小さな玉と、真紅の法衣の裾。

「くっ! 貴様ら! 何を!」

 自分が床に押さえつけられていると解った国王の耳に、信じられない言葉が聞こえた。

「――聖王猊下! 神殿の地下より、過去盗難にあったと文献にあった教会の秘宝の埋め込まれた『少女の木乃伊』が見つかりました!」
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