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79 クリストフ

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 翌日。

 蒼穹の中央には、全てを照らし出す眩い太陽が輝きを放っている。

 俺とクロイスが城の鍛錬場へ向かうと、道中で新婚の二人がにこやかに手を振りつつ駆け寄ってきた。

「ビイ!」
「クリストフ」

 隣にいる赤髪の可愛らしい王太子妃に会釈をすると、彼女は照れくさそうに微笑みながら会釈を返す。うーん、初々しい。

 クリストフが俺の肩を抱き、耳元で囁いた。

「ビイが勝てることを祈ってるよ」
「え」

 なに、まさかクリストフは今日の決闘の内容を知っているのか?

 考えてもみなかった可能性に動揺して固まっていると、クロイスが反対側の耳に顔を近付けてこれまた囁く。

「ビイ、クリストフと俺の仲を知ってるでしょ? 筒抜けに決まってるじゃない」
「え……ええええっ!?」

 まさかの筒抜け。嘘だろ。

 クリストフが続ける。

「そうそう、昨日のビイの屋敷の結界は外では大騒ぎだったんだよ。お父様が何時間も攻撃して中に入ろうとしてるのを見て、厄災の再来か! なんてなっちゃってさ」
「あー……」

 あいつ必死だったもんな。そりゃ周りも焦るよな。

「そ。だからビイに何かあったんじゃないかってお母様も心配してたよ」

 クロイスが、そのまま俺の腰を引いてクロイスの元に引き寄せる。クリストフはクロイスの独占欲丸出しの行動を見て驚くかと思いきや、あははと軽やかに笑った。え? まさか筒抜けって、全部筒抜けなのか?

「クロイス、ビイに僕が知ってるってこと、話してなかったの? 嫌だなあ。心配していたのは僕だって一緒なのに」
「昨夜は他にすることが山のようにあってね」

 しれっと答えるクロイスを、ぽかんと見上げる。クロイスは、二人の前だというのに俺のこめかみに口づけを落とした。え、嘘。

 クリストフが苦笑する。

「まあ、ビイの首を見れば忙しかったのは分かるけど。あれ、首……だけじゃないか、うわ、胸元も凄いな」

 クリストフが俺の胸元を覗き込むようにして見ていた。あ、はい。凄いです、すみません。それにしても、どう反応すりゃいいんだ、こんなの。

 焦りすぎてひたすら固まっている俺に、クリストフが説明を重ねていく。

「とにかく、昔っからビイのことが大好きなクロイスに、僕は色々とだしに使われていたってことだよ」
「クリストフだってビイが大好きだっただろ」
「お前とは好きの種類が違うんだよ」

 あはは、と笑うクリストフ。俺は内心「ええええー!」と叫びまくっていたけど、やっぱり何も言えずに固まり続けていた。

 でも考えてみたら、こいつらはクリストフが結婚するまでほぼ一緒に過ごしてきていた。それに非常に仲もいい。俺への愛を語るくらい、クロイスだったらやりそうだった。

「昨日のクロイスからの報告で、僕の決意も固まったよ」
「ほ、報告?」

 一体何のことだろう。クリストフとクロイスを交互に見やると、クロイスが教えてくれた。

「昨日、転移魔法でクリストフには経緯を記した手紙を送っていたんだ。クリストフにもお母様にも警戒をしてもらいたかったのもあるしね」
「え、じゃあオリヴィアにも今日の決闘のことは……」

 この質問には、クリストフが答える。

「伝えたよ。ただし、具体的な理由については伝えていない」

 伝えないで済むに越したことはないからね。スッと目を細めたクリストフを見て、俺がずっとぽやんとしてると思っていたのは俺の間違いだったんじゃないかと思い始めた。

 でも、考えてみたらそりゃそうだ。この策士のクロイスと四六時中一緒にいて渡り合ってきたんだから、ただのぽやんな筈がないじゃないか。

 あんぐりとクリストフを見た。俺の方が色々とぽやんだったのかもしれない。周りが見えていなさすぎだろう、俺。

「お母様の為には、知らない方がいいとは思っているからね」

 そりゃそうだろう。自分が長年信じてきた夫の不義なんて、誰が目の当たりにしたいものか。

 クリストフが、薄く微笑む。

「だけどね、どちらに転ぼうが、僕は父をこのままにするつもりはないよ」
「え? クリストフ?」

 なんだどういうことだよ。話の展開が読めなくて、情けないけど俺はまた二人を交互に見た。

 今度はクロイスが教えてくれる。

「ビイ、クリストフはね、怒ってるんだよ」
「怒ってる? 何に?」

 クリストフに目線を移動すると、クリストフは微笑んだまま答えた。

「最初に、長年に渡り僕の大好きなビイを苦しめていたこと。僕たちをビイを脅すネタに使っていたなんて信じられないよ」
「クリストフ……」
「しかも、僕の半身であるクロイスを殺すって? あり得ない」

 あ、これ本気で怒ってるやつだ。クリストフの笑顔を見て、思った。滅茶苦茶怒ってる。怒気が揺らいでいるように見えてくる。怖え。

「ということで、ビイは絶対に勝負に勝つこと。僕たちが立会人になるから、思う存分に叩きのめしてね」

 にっこりと言われた俺は。

「あ、はい」

 とタジタジになりながら答えることしかできなかったのだった。
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