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57 既視感

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 厳かな雰囲気の中で執り行われた立太子の儀は、以前ロイクが挑んだ戴冠式とちょっと似ていた。

 主役がロイクじゃなくてクリストフってところと王冠がないところ以外は、まあ大体一緒だ。雑かもしれないけど。

 三日後にはクリストフの結婚式が控えているので、今日の式典はそこまで仰々しいものじゃなかった。参列者も少ない。

「じゃあ俺はこれで」
「ビイ、来てくれてありがとう!」
「おう! 格好よかったぞー!」
「やったあ!」

 無事に王太子になったクリストフに軽く手を上げると、俺は玉座の間からふらりと出ていく。王家の皆はまだ細々とした誓約書関係の書類への署名やら何やらあるらしかった。

 俺は王家じゃないのでここで解放される。

 周りが何となく浮足立った雰囲気の中、急いで用を足そうと便所へ向かった。

 三日後の夜、俺は深夜にこっそりと屋敷から出ようと思っている。旅に出るのはかなり久々なので、野宿する時に必要な道具や携帯食料に水筒など、新規で購入する必要があった。

 前々から買っておけばよかったんだろうけど、ロイクがいつどこから俺を監視しているか分かったもんじゃない。

 以前、フラッと市場で服を買っていたら、後日ロイクが「そういえば先日市場でファビアンを見かけたんだよ。声を掛ける前に立ち去ってしまって残念だった」と言ってきた。

 これ絶対見かけたじゃねえな、追ってきたな、と思ったものだ。

 俺が屋敷を未だに出入り禁止にしているから、ロイクの野郎は屋敷にはあれから一度も入ってきてない。だけど、屋敷の敷地を一歩外に出れば違う。

 王様って暇じゃない気がするのに、何故こいつは彷徨けるんだろうか。全く以て謎だった。

 ということで、ロイクに用事があるかはっきりしない時間帯に旅支度をするのは恐ろしくて、この時を待っていたのだ。

 暗部の監視を付けられている可能性もあったけど、言っちゃ悪いが今の暗部はラザノよりも遥かに腕が劣るのか、見られている時は気配で分かった。気配が分かれば、撒くのは簡単だ。

 まあそれはともかく、ロイクが国事で拘束されている今が買い出しをするには一番いい時間帯ってことだ。

 小便用の便器に向けて、結局一回もどこに突っ込まれることもなかった可哀想な俺の雄を取り出す。まあもういいけど。

 買い出しする物を頭の中で並べながら、小便が描く液体の弧をぼんやりと眺めた。

 直後。

「その衣装はどういう意味だい?」
「うわあっ!」

 低い声に耳元で囁かれ、俺は文字通り飛び上がる。あ、ちょっと便器からはみ出た。きったねえ。

 慌てて軌道修正したけど、何かこれは既視感がありまくる。

「おま……っ! 何やってんだよ!」
「私も用足しをしたくなってね」

 俺の肩越しに顔を覗かせて微笑んでいたのは、案の定というかロイクの野郎だった。

 いつかの時のように、上から俺の雄をジッと見下ろすロイクの目には、明らかな興奮と苛立ちが見て取れる。やめろ、俺のモノを見ないでくれ。

「見るなよ!」
「久々に見たけど、まだ可愛い色をしてるね。可愛いなあ、触りたいなあ」

 ゾワッと鳥肌が立った。意味が分からない。何なんだよこいつ――。

 ふ、と首筋に息が吹きかけられる。

「もう一度聞く。その衣装、あの子とお揃いだったよね? それはどういう意味かな?」

 ドキン、と心臓が嫌な風に飛び跳ねた。拙い、こいつ勘違いしてクロイスを疑い始めてる。

 俺は急いで事実を説明することにした。

「これは、俺が古い衣装を着ていこうとしたら、呆れたクロイスが仕方なく用意してくれたやつだよ! 勘違いすんなボケ!」
「へえ? 仕方なく、でお揃い? しかも二人の着ていた色はどういうことかな」

 一瞬ロイクの顔を見たら、笑顔が消えて不気味な無表情に変わっている。こ、怖え。

「これは、色は何にしようか悩んでたクロイスに適当に目の前にある色を指して『これでいっか』って言ったんだよ!」

 こればかりは、嘘で乗り越えるしかない。

「ふうん? ――ねえ、まさか二人はそういう関係じゃないよね?」
「ば……っ!」

 ああもう、クロイスの馬鹿! がっつり疑われてるじゃないか! こいつは恋愛的な好意を感じた途端、殺しにかかるんだぞ!

 頭を抱えたくなったけど、小便が終わるところなので必死で留まった。雄を触った手で髪の毛を触りたくないし、ましてやこんな高価そうな衣装に触った日には。

 噛みつくように怒鳴る。

「馬鹿を言うな! 俺たちは師弟だし、年が幾つ離れてると思ってんだよ!」
「ファビアンがそうでも、クロイスがそう思っていない可能性はあるな」

 ああもう、悪いクロイス! 元はと言えば、お前のせいだから許せ!

「しつこいな! クロイスには昔っからいい人がいるんだよ! だから俺に対してそういうのはないの!」
「いい人? そうなのか?」
「そうだよ! 自分の子供の恋愛くらい把握しとけよボケ!」

 俺の言葉に、ロイクは無表情から朗らかな笑顔に変わっていった。

「……ああ、そうなんだ。なんだ、よかった」

 そう言いながら、俺の両肩を掴んで耳の裏に唇を押し当てる。うえっ。

「……ッ」

 次の瞬間、俺のケツにぐり、と押し付けられたのは、ロイクの勃ちつつある雄だった。

 こいつ、いい加減に――!

 ようやく放尿が止まった雄を急いで服の中にしまい込み、突き飛ばしてやろうと気合いを入れたその瞬間。

 ロイクの低い呟きに、俺の全身が凍ったように固まった。

「よかった。自分の子供を殺すのは気が引けたから、本当によかったよファビアン」

 愛してるよ、ファビアン。

 ゆるゆると完全に勃ち上がった雄を俺のケツに擦りつけながら、ロイクが病的な愛を囁いた。
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