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43 双子の王子
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なに、この二匹のちびっこいの。
俺が目を大きく開いて固まっていると、黒髪に灰色の瞳の男の子が俺の顔に顔をぐっと近付けてきた。無表情が怖い。
と、金髪碧眼の方が俺の顔を両手で挟み、自分の方に向けようとする。いて、首捩れるって。
今度は黒髪の方が眉を顰め、負けじと俺の顔を両手で挟んで自分の方に引っ張り始めた。いた、痛い痛い。
すると、オリヴィアが怖い顔をして子供たちを叱り始めた。
「こら! クリストフ! クロイス! ファビアンは怪我人なのよ!」
「あ、まさかこいつらオリヴィアの子……?」
話題に出さないからすっかり忘れていたけど、そういやオリヴィアは双子の母親だった。双子の王子が生まれたって聞いたのは、聖国マイズ内を進軍の最中。もう三年近く前の話だ。
――そっか、もうそんなに経ってたんだな。
オリヴィアが苦笑する。
「ええ、そうよ。騒々しくてごめんね? 自分たちもファビアンの所に行きたいって言って聞かなくて。――こら! ファビアンの首がもげちゃうからやめなさい!」
もげはしないけど、前後にぎぎぎ、と同時に引っ張られるのは頬の皮膚が引きつれて普通に痛い。いたた、こいつらちびっこい癖に力強くないか。
「こらー! 痛い痛いしちゃダメでしょー!」
オリヴィアの叱り方が意外で、ああ、ちゃんと母親をやってんだなあなんてちょっと感心してしまった。
改めて、ちびっこ二人を見てみる。
金髪碧眼の方は、色合いがロイクっぽい上に面影があって、一瞬心臓が嫌な風にドキッとしてしまった。だけど、俺の頬を挟んだままにっこにこに笑っている姿を見ている内に段々と、「あ、別人じゃないか」って思えてくる。
なんて言うか、作為のない無邪気な笑顔だったから。まあ、三歳程度の子供の笑顔にロイクみたいな作られた聖人君子面が見えたら、とんでもなく嫌すぎるけど。
「にーちゃ、おでこ痛い痛い?」
「おでこ?」
相手がロイクだったら会話はおろか目を合わせるのだってごめんだったけど、こいつはあいつの血を引くとはいえ幼い子供だ。オリヴィアにしていたような子供っぽい態度を取り続けるのも気が引けて、つい普通に問い返してしまった。
金髪碧眼が、コクコクと頷く。動作がどこからどう見ても子供だからか、ロイクの面影がどんどん消えていくように思えた。
「ここ、痛そう」
金髪碧眼はようやく俺の顔から手を離すと、再び俺の眉間を指で伸ばし始める。……あ、ここに皺を寄せていたから、それで痛がってるって思っちゃったのかな?
「ええと……」
なんて言うべきか。痛くないよって言った方がいいのかな。でもじゃあ何で皺を寄せてたんだとか聞かれたら、それはそれで面倒な気もする。
俺が返事に窮していると。
金髪碧眼が「痛いの痛いのー飛んでいけっ」と言ったかと思うと、俺の眉間にちゅ、と口づけをしてきた。うおっ。
子供特有のなんとなく甘ったるい柔らかさに、俺は反応できず固まってしまう。
「クリストフずるい!」
すると突然、黒髪の方が怒り出したじゃないか。え、ここって怒るところ? よく分かんねえ……と思っていたら。
さっきの無表情から一転、ぶすっとした表情に変わった黒髪が、俺の頬を挟む手に力を入れる。こっちはちっともロイクに似てないけど、なんかとんでもなく綺麗な顔をした子だった。オリヴィア似なのかな? 金髪碧眼のクリストフっていう方に比べると、かなりの女顔だ。
「ボクだって負けないもん!」
「あっ! クロイスずるい!」
俺の顔は思い切り黒髪の方に向けられ、俺の首がゴキッと鳴った。痛い。
「痛いの痛いのー飛んでいけっ!」と言いながら、黒髪は俺の唇に唇をぶちゅっと押し当てる。
うわ、口も顔も手も全部ちっこい。ぎゅってなってる顔が可愛いんだけどコイツ。
「やだ! クロイスってば何してるのよ!」
オリヴィアが慌てて止めようと飛んできたけど、クロイスと呼ばれた黒髪は「ぶふーっ!」と息を隙間から吹き出しながら、更に唇を押し付けてきた。
……おいおい、何やってんだこのちびっ子。
ていうか二人とも、さすがはあの手の早いロイクの息子だよな。会って僅かしか経ってないのに、おでこと唇を奪われたんだけど。
それでも、跳ね除けるのも何だか可哀想で、俺がそのまま固まっていると。
ようやく顔を離したクロイスが、小首を傾げた。
「……にーちゃ、痛い痛いの飛んでいった?」
「お、おう……」
すると、クロイスの女の子みたいな可愛らしい顔に、ぱああ、と初めて見るこれまた可愛らしい笑みが広がる。
「ボクのヨシヨシ、上手だった!?」
「お……おう」
と、今度はクリストフが俺の顔をぐきっと自分の方に向けた。俺の首、大丈夫かな。
「ボクだって!」
うーっと窄められたちっこい唇が迫ってくる。
……あ、もうダメ。
「く……っ」
「ファビアン?」
オリヴィアが目をまん丸くして俺を見ていた。ちびっ子たちは、キョトンとしている。
「く、くく……っ! はは、あはははっ!」
子供なんて、卑怯だろ。意地を張ってた俺の方が子供みたいじゃないか。
「はは、ふふふ……っ! う、ううう……っ」
「……にーちゃ、やっぱり痛い痛い?」
クリストフが眉を垂らす。
「ぎゅっとするの」
クロイスが、俺の首に抱きついてきた。
「ぎゅーっ」
クリストフもくっついてくる。
「ぎゅーっ」
「あ……ああ、うわあああ……っ!」
気付けば俺は両腕にちびっ子二人を抱き、誰よりも子供みたいに泣いて泣いて泣きまくっていたのだった。
俺が目を大きく開いて固まっていると、黒髪に灰色の瞳の男の子が俺の顔に顔をぐっと近付けてきた。無表情が怖い。
と、金髪碧眼の方が俺の顔を両手で挟み、自分の方に向けようとする。いて、首捩れるって。
今度は黒髪の方が眉を顰め、負けじと俺の顔を両手で挟んで自分の方に引っ張り始めた。いた、痛い痛い。
すると、オリヴィアが怖い顔をして子供たちを叱り始めた。
「こら! クリストフ! クロイス! ファビアンは怪我人なのよ!」
「あ、まさかこいつらオリヴィアの子……?」
話題に出さないからすっかり忘れていたけど、そういやオリヴィアは双子の母親だった。双子の王子が生まれたって聞いたのは、聖国マイズ内を進軍の最中。もう三年近く前の話だ。
――そっか、もうそんなに経ってたんだな。
オリヴィアが苦笑する。
「ええ、そうよ。騒々しくてごめんね? 自分たちもファビアンの所に行きたいって言って聞かなくて。――こら! ファビアンの首がもげちゃうからやめなさい!」
もげはしないけど、前後にぎぎぎ、と同時に引っ張られるのは頬の皮膚が引きつれて普通に痛い。いたた、こいつらちびっこい癖に力強くないか。
「こらー! 痛い痛いしちゃダメでしょー!」
オリヴィアの叱り方が意外で、ああ、ちゃんと母親をやってんだなあなんてちょっと感心してしまった。
改めて、ちびっこ二人を見てみる。
金髪碧眼の方は、色合いがロイクっぽい上に面影があって、一瞬心臓が嫌な風にドキッとしてしまった。だけど、俺の頬を挟んだままにっこにこに笑っている姿を見ている内に段々と、「あ、別人じゃないか」って思えてくる。
なんて言うか、作為のない無邪気な笑顔だったから。まあ、三歳程度の子供の笑顔にロイクみたいな作られた聖人君子面が見えたら、とんでもなく嫌すぎるけど。
「にーちゃ、おでこ痛い痛い?」
「おでこ?」
相手がロイクだったら会話はおろか目を合わせるのだってごめんだったけど、こいつはあいつの血を引くとはいえ幼い子供だ。オリヴィアにしていたような子供っぽい態度を取り続けるのも気が引けて、つい普通に問い返してしまった。
金髪碧眼が、コクコクと頷く。動作がどこからどう見ても子供だからか、ロイクの面影がどんどん消えていくように思えた。
「ここ、痛そう」
金髪碧眼はようやく俺の顔から手を離すと、再び俺の眉間を指で伸ばし始める。……あ、ここに皺を寄せていたから、それで痛がってるって思っちゃったのかな?
「ええと……」
なんて言うべきか。痛くないよって言った方がいいのかな。でもじゃあ何で皺を寄せてたんだとか聞かれたら、それはそれで面倒な気もする。
俺が返事に窮していると。
金髪碧眼が「痛いの痛いのー飛んでいけっ」と言ったかと思うと、俺の眉間にちゅ、と口づけをしてきた。うおっ。
子供特有のなんとなく甘ったるい柔らかさに、俺は反応できず固まってしまう。
「クリストフずるい!」
すると突然、黒髪の方が怒り出したじゃないか。え、ここって怒るところ? よく分かんねえ……と思っていたら。
さっきの無表情から一転、ぶすっとした表情に変わった黒髪が、俺の頬を挟む手に力を入れる。こっちはちっともロイクに似てないけど、なんかとんでもなく綺麗な顔をした子だった。オリヴィア似なのかな? 金髪碧眼のクリストフっていう方に比べると、かなりの女顔だ。
「ボクだって負けないもん!」
「あっ! クロイスずるい!」
俺の顔は思い切り黒髪の方に向けられ、俺の首がゴキッと鳴った。痛い。
「痛いの痛いのー飛んでいけっ!」と言いながら、黒髪は俺の唇に唇をぶちゅっと押し当てる。
うわ、口も顔も手も全部ちっこい。ぎゅってなってる顔が可愛いんだけどコイツ。
「やだ! クロイスってば何してるのよ!」
オリヴィアが慌てて止めようと飛んできたけど、クロイスと呼ばれた黒髪は「ぶふーっ!」と息を隙間から吹き出しながら、更に唇を押し付けてきた。
……おいおい、何やってんだこのちびっ子。
ていうか二人とも、さすがはあの手の早いロイクの息子だよな。会って僅かしか経ってないのに、おでこと唇を奪われたんだけど。
それでも、跳ね除けるのも何だか可哀想で、俺がそのまま固まっていると。
ようやく顔を離したクロイスが、小首を傾げた。
「……にーちゃ、痛い痛いの飛んでいった?」
「お、おう……」
すると、クロイスの女の子みたいな可愛らしい顔に、ぱああ、と初めて見るこれまた可愛らしい笑みが広がる。
「ボクのヨシヨシ、上手だった!?」
「お……おう」
と、今度はクリストフが俺の顔をぐきっと自分の方に向けた。俺の首、大丈夫かな。
「ボクだって!」
うーっと窄められたちっこい唇が迫ってくる。
……あ、もうダメ。
「く……っ」
「ファビアン?」
オリヴィアが目をまん丸くして俺を見ていた。ちびっ子たちは、キョトンとしている。
「く、くく……っ! はは、あはははっ!」
子供なんて、卑怯だろ。意地を張ってた俺の方が子供みたいじゃないか。
「はは、ふふふ……っ! う、ううう……っ」
「……にーちゃ、やっぱり痛い痛い?」
クリストフが眉を垂らす。
「ぎゅっとするの」
クロイスが、俺の首に抱きついてきた。
「ぎゅーっ」
クリストフもくっついてくる。
「ぎゅーっ」
「あ……ああ、うわあああ……っ!」
気付けば俺は両腕にちびっ子二人を抱き、誰よりも子供みたいに泣いて泣いて泣きまくっていたのだった。
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