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蛮族の祝祭
ビスケス・ツラッカー
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マジンにとっては睡眠は必ずしも毎日である必要はなく、いやもちろん寝たほうが様々に調子は良いのだが、ノッている時や必要な時に二日三日寝ないということは割とあって、どうしても眠くなるのはやはり現実に今対処は不可能という難問を抱えた時に、急激に現実逃避のように眠く、気絶をするように眠くなる。
という便利なのだかそうでないのだかというような体質だった。
寝たからといって別段にすぐに妙案を思いつくわけではないのだが、寝ないからといって解決するわけでないので、それはまぁ自然の摂理ということなのだが、頭をつかう悩みの多い時に眠くなるというのはそういうものなのだろう、と、云うしかない。
リザは確かに以前からふたりで旅行すると夜眠れないほどに張り付いていることが多かった。
だが、その異様な盛り上がりはやはり波があるもので連日というものではないことが多かったのだが、武芸大会の最中だというのに容赦無いというのは流石にどうかと思う。と云って別段、眠くなる、体が痛くなるというほどの運動激戦というわけではなかった。
代官屋敷は他の建物とは違って、郭をなす城壁への通路がいくつかあり、そういう通路を守るために構えられた建物であったから、各地の将家が城との往来や外との往来を必ずしも禁じられたわけではなかったが、郭自体が一種の特等席になる武芸改の会期の間は建前として場外の者の郭への立ち入りは禁止になっていたし、場内の者も城壁への立ち入りは禁止となっていた。
中と外の出入りを禁じるというそういう建前はそれとして、マリールの立場であれば往来はともかく言伝の一つも送れない訳はなく、そろそろ何かあってしかるべきとマジンは考えていたが特段一晩何もなかった。
リザはあまり気にしていない様子だったが、そのことを口にすると、ニヤニヤと体の具合を確かめさせるようにあちこちの筋肉を蠢かせ、そうね、とだけ言った。
リザの態度は聞いて思いついたというよりは、ようやく思いついたかというような自分の先見を誇るようなもので、なにかやっているのか、手を打った後なのか、ともかくマリールへの連絡手段を既に見つけていた雰囲気だった。
日の出の前、空の端が山陰を境と切り分け始めた頃、郭にラッパが鳴り響き武芸改の式次の再開を告げた。
式次改方の奉行やこの会を取り仕切る城の者共が並んでいる中をぞろぞろと練り歩くのは前日と同じなのだが、歩く者達の人数が減ったことと二度目であることで多少見通しが良くなっていて、ようやく当地の礼服に着飾り普段と装いを変えたマリールの姿を見つけることができた。昨日はもっと明るかったのだが見当違いのところを探していた様子だったので、少し視線の先を変えてみたら見つかった。
むこうもこちらを早くから見つけていたらしく、目があったのだが、どういうわけか機嫌悪く、お気取りの無表情というよりは、怒りとか苛立ちを示していた。
マリールが苛立つ心当たりはもちろん多いのだが、それならそれでなにか云ってよこせば良いものをと思っていると、マリールは胸元に拳を握りしめ、わかりやすくこちらを呪うように睨みつけていた。
陣屋に一旦引き上げてリザにその話を云うと、リザはわかっていたらしく意地悪い顔で、
そりゃお気の毒に、と笑った。
「マリールから何か連絡があったのか」
どうやら何か試みていたらしいことの成果を訊ねてみた。
「マリールからはないわ。でも私からは割とやってる。むこうは無視し続けているけど内容は伝わっているみたいね」
リザはなにやら具体的ではないものの手応えを感じている様子だった。
「なにやってるんだ。というか、どうやっているんだ。誰かに頼んだのか」
「魔術でミヨミヨンッと。あなたにはマリールからなにか伝えてこないの」
マジンは羨ましい顔になった自分に気がついた。
「気がつかなかった」
「メダルは」
寝るときは外していたが、ここしばらく朝起きると着替える時に首にぶら下げる習慣になっていた。
「掛けてるよ」
「……。むう。なんか私に言いたいことは」
何かリザはこちらを探るように眺めしばらく考えていた様子だったが、口を開いて尋ねた。
「なんだろう。……。今日も頑張るよ。おー。ッて感じでいいか」
リザはため息のように鼻を鳴らして芸のできない犬を見るような顔になった。
「ああ、ええ、まぁ頑張って。ご飯食べましょ。お腹へったわ」
リザは言いたいことを口に出して言った。
食事はあちらの城の朝食とは随分異なっていて随分しっかりとしたものがたくさん出ていた。
ふと食事の席を見渡すと昨日はいなかったはずのダビアス家の奥様方が一角にそろっていた。
一日目は各軍将家の婦人会のようなものが開かれていて、様々なお城の方々と一緒であったらしい。
ゲリエ家の女達は隣り合った席に招かれ、ショアトアは席を埋めるようにご婦人方に招かれていた。
帝国と共和国の戦争が戦間期に移行した印象が強かったことなどと併せて、醜聞と云うには時期が空き過ぎ風化した様々は、そういう戦争のさなか、非公式ながら戦功を上げ落魄し復帰して戦功を上げていたマリール姫の武勲とその愛人である新参の評判は、ひとまず新たな話題として将家の人々の間では受け止められていた。
旧婚約者対間男の対決という意味でまとめてしまうのが簡単な因縁は、様々に取り沙汰されていたらしいが、ともかく一回戦の速攻勝負そのものは、ご夫人方の間での評判はむしろわかりやすい、という風に好評だったらしい。
家の内々の武芸改は騎士の戦陣序列を決めるという意味合いがあって、未熟な若手の競り合いの中では相当に下衆な手段もとられることがあって、それは実に男女とも代わりはなかったし、家中での実力は相応に晒され伯仲していて、見栄え爽やかな会心の勝負よりはもっと死力無様な命の取り合いになることもある。
とくにここ近年は帝国の主攻勢が共和国を向いていて、それは兵站を睨む軍将たちにとっては全く幸いという他ないことなのだが、騎士従騎士たちにとっては武功の場が減ったということでもあって、家中が必ずしも穏やかというわけではない。
様々に面倒くさい土地の男女のいざこざや子供の取り合いで家を回る決闘騒ぎになることは、実のところ少なくない。
ご家中の様々を収めることは、家を預かる夫人方にとっては年次のお仕事であるわけだが、必ずしも心穏やかではいられない展開も多く、しかし全く無責任な他家他流との武芸改であれば、多少の因縁があったとしてせいぜいが手足を数本悪くても殺しはしないくらいの腕の者たちが、やはりせいぜいが骨の数本悪くしても死にはしない腕の者達と戦うので、全く楽しく見られるということであった。
ウチのクマイヌがヤンチャで突っかかっていったのを、そちらのオタクの新参がパカーンとはたき落としたのにはスカッと来たわ、というのはグレオスル家の夫人のどなたかの言葉であったそうで、大会の性質を全くわかりやすく示していた。
やはり袋葦剣については、勢いのついた大柄な男を弾き飛ばして殺さない道具として家中の試合で不具や死者の出る面倒を避ける試武用の道具として話題になっていた。
どうも秘書の三人は既にこちらの家中で十本ほども出来上がっている、そしてもうしばらく作りそうな袋葦剣のことについて尋ねられていたのだが、作り物の話で彼女らが知っていることは殆ど無かったことで困っていた様子だった。
兵粮武具の揃え具合については家の女の仕事のうちと見られることが多いらしく、主の思いつきはそれとして、ゲリエ家の女房働きを探られているというところだった。
とはいえ、一族の者たちのがいくらかは共和国軍の魔道士官であったり、その他の立場で東部戦線と纏めて称されるリザール川流域での戦争の状況を伝えてもいたから、リザが戦功を経て共和国軍の将軍として叙せられるに至ったことと、その大まかな成行きについては土地の将家を預かる立場の人々は、程度の差こそあれ知っていたし、戦務軍令とは全く違う予想もしない形で帝国の城塞二つが大きな被害を受けたことはやはり知られていた。
そして、そういう僭越な専横をおこなえる実力組織として、ローゼンヘン工業は理解されていた。
この数日のお城での食事の風景と全く異なり、様々な話題を次々と口にするダビアス夫人たちは旅の空では家の慣習は関係ないということで、わずか半日の旅ではあっても旅は旅と日々の御役目を忘れた気楽な逗留を決め込んでいた。
「マリールの様子はご存知でしょうか」
そう言うと夫人方は目で合図をしたように笑った。
「ご存知ですよ。気になりますか」
「それはもちろん」
「この数日あなたを思って眠れないそうです。そちらの奥方様が夜毎通してあなたの様子をお伝えするらしく悩まされているそうです。まぁ私達もそういう時期はありましたが、程々にしておきなさいね」
ダビアス夫人ファルテナがたしなめるように言った。
「程々に致します」
リザが心当たりがあったように応えた。
「他は何か。無事でしたか」
「ご自分のお家ですので、もちろん無事でしたよ。ああ、……。決闘楽しみにしておりますが、ご覚悟召されますよう、ということでした」
こちらが大事だったろうにマジンに尋ねられ、ファルテナ夫人が思い出すように言った。
「おりますが、ですか」
「歯切れ悪いわね。あの娘らしくない」
リザが不思議そうに言ったが、マリールが特になにも言ってこない理由もわかる。
「勢いで決闘申し込んじゃったからな。オマエの時みたいになんとなく入れ込んでいるんだろう。十番勝負とか云わなければよかった」
と云ったもののマジンも少々不思議に思っていた。
第一試合は、日の出の中でおこなわれた。
山の日の出のことで、山の脇から太陽が登る頃には稜線が濃い緑と紫流しの水色とで色分けされ赤く西側の土地を焼く光が却って影深く庭を夜明の灰色に染めていた。
今日も三試合目であるマジンは食事を急げば一試合目を見ることができたのだが、兜ばかりは馴染んだものが必要だと感じたことで二輪自動車用の装具をクライとコワエにステアから取ってきてもらうことを頼んでいたために様々手間取った。
ショアトアとリザはセメエとともに会場で試合の様子を見ている。
奥方様がお城の夜会に出席していたように選手当人は郭から出入りはできないが、武芸改奉行所に申し述べれば武芸改をおこなっている郭からの出入り自体はできないわけではない。
ただ、様々面倒くさく手間がかかるという理由で望んだ時間望んだ試合に間に合うように出入りすることが難しいというだけだ。
得物の話がついていたリクレルとの戦いと違い、型稽古向けの防具では実際の防御機能はともかく視界と動きに慣れていなかった。二輪車用の装具は刃や銃弾にはそれほど期待できないが打撲や擦過という物はそれこそ自分の体が銃弾の速度で岩肌を滑っても僅かな身動ぎで速度を殺しながら命を守ることができていたし、そうでなければファラリエラは僅かな擦り傷だけで全く問題なく突撃服を着て兵隊たちと一緒に走り回り塹壕に飛び込むような動きはできなくなっていた。
昨日の晩のうちにやっておけば、というのはつまり出入りができることを食事の席で知ったくらいの状態だったので、たった今二人の出入りを頼んだ運びだった。
午前中の試武に間に合うかどうか、かなり怪しいところで、ふたりとも端艇の操作もどこになにがあるかもおよそのところは知っているはずだったが、湖の真ん中のステアまで片道一時間でたどり着けるようには思えない。
この試武の基本的な姿勢としては致死性の低い魔術や暗器は当然に使われる。そしてその裁量は選手討手に任される、ということなので、なにをどうあってもそれなりに備える必要がある。
有り体にこういう稽古や器量勝負のようなことをマジンは不得意としていた。
手強い相手を殺しかねない不安があった。
負けるつもりが一毫もないことが手加減の余地を小さくしていて防御の必要を感じさせていた。
別段マジンは自分が劣って負けるつもりはこればかりもなかったが、衆を頼みの賞金首相手ならともかく、それなりに身分も立場も家族もあるらしい武芸者を殺すことをよしとするわけにもゆかなかった。
ああ。なるほど。
マジンは試武に向けた準備をすることにした。
第三試合は槍での腕比べになった。
予定通り二輪車の装具は間に合わなかった。
と云って目元だけメガネで覆えれば、それで最低限のことは足りる。ヘルメットは何枚か使い捨てのフィルムをシールドの上に貼っていて泥はねや飛び石などに対応していたが、不意打ちの一回ともう一回なら手持ちで対応できる。
昼の光には灰色がかった緑に見える重たげな外套も春先には場違いになり始めていたが、この土地ではそうでもないらしい。
相手も黄色と青の縦縞の甲冑用の外套を着て登場していた。
昨日の試合を見ていれば、誰もが派手派手しい格好をしているわけではないのだろうが、昨日見た試合はふたつで四人のうちの一人が派手派手しい格好をしていれば、他にもいてもおかしくはない。
火を吹いたり物を投げたりという試合の勝者である火を噴く方が相手であることは知っていたから、木剣用の防具では目元が防げないということで防具の必要を感じていたわけであったが、魔術だか暗器だかを小器用に使って槍もそこそこに使える派手な戦いをする騎士であることはわかっていた。
実際にどう戦うのかということはおいて、昨晩見たカレオンよりも鼻先一つ劣っている、という評も聞いていれば、この大会での本来の戦いかたの初心者編というべき相手でもある。名前はドロップスかビスケッツかどちらかであることはわかっているのだが、どちらが勝ったのかを確かめるのを忘れていた。
「ゲリエ殿。ときに拳銃はお忘れにならずお持ちか」
マジンが昨日より多少離れた間合いから木簡を投げ込もうとしたところで相手が問いかけた。
「持っているが」
うそつき卑怯者呼ばわりされるのは心外だったので、素直に答えた。
「存分に使われよ。と言いたいところだがお手前の拳銃はご勘弁願おう。昨日拝見した拳銃は世間の物に比べ少々厄介に過ぎる様子だ」
昨日陣屋を訪れていた中に目の前の人物がいたかどうか思い出せないが、彼の同門なり配下なりが様子を探りに来ていたとしておかしくはない。
拳銃を吊るしたベルトをまとめて外して見せて二三歩進んでわかりやすく離れてやって木簡を投げ込んだ。
相手の木簡が選ばれたのは相手の木簡が表だったためらしい。
相手の木簡も手から離れた後は空中で回転していたが、滑るような回転で石の上でしばらく風車のようにカラカラと音を立て回転していた。
ああなるほど、こういう手際もあるのかとちょっとばかり感心していると武芸改方の代官が水場を覗き込んで、拳銃勝負を宣言した。
「流石にあの拳銃を握った名うての拳銃稼業の賞金稼ぎに勝てるとは思い上がっていない」
相手は如何にも謙遜するようにそう云ったが、表情は如何にも得意げでもあった。
代官が持ってきた拳銃は見事な彫刻の入った美術品のような代物で、しかしシリンダー式の連発拳銃だった。雷管式の連発銃であることは安心したがハンマーを上げただけでは回転せず手で回して正しい位置にシリンダを手で送りハンマーを上げるとシリンダーが固定されるという少々古い型できちんとした位置にシリンダーの薬室と銃身を揃えないとハンマーが上がらず、引き金を引いて撃鉄を落とすとその衝撃でシリンダーがズレるために弾が真っすぐ飛ばないという難物で、連発が出来るのは確かなのだが、その発射が確実かどうかは整備と管理と装填と射手にそれぞれかかっていて、多くの場合射手の負担が最も大きい。
不発も弾が出ないというだけなら良いのだが、雷管と撃鉄がきちんと仕事をした挙句火薬に火が回った衝撃で銃身と薬室の位置がずれて火薬がとんでもない方向に炎と衝撃を撒き散らすということは割とよくある。
大口径の銃弾は鉛球というよりは青弾のような陶器のような奇妙な軽さ滑らかさと硬さがあるもので、釘や石塊よりは危なくないかな、というものだった。
実際、前装拳銃の殆どは実弾を使ったとして肋や手足をおるのはそれとして急所に当たらなければ一撃で死ねるほどのことはない。
それは、荒野の武器としてはある意味それで十分で止めを求めるかお縄に服すかという生死問わずの賞金稼ぎにはちょうどいい威力ということも出来る。
その生死問わずの武器から少々命の危険を少なくしたような武器であるのは確かだが、当たらない武器を使って戦うというのはどうなのか、というところで不満顔がでたが、弾丸をこちらで選び、奉行がそれを装填し火薬と雷管を詰めて、五発の装填のうち一発を拳銃の使い方の説明で操作して見せて、空に向かって撃った。
相手の側も一発を空に向けて放った。
こちらの従兵が気を利かせて拳銃を拾い上げないでくれたのを、改め代官が咎めて持ち去られてしまった。
観衆にもここまでのやりとりが伝わった様子ではあったが、おおかたの雰囲気として相手の狡猾を咎めるというよりは新人の迂闊とここからの展開を期待するような、負けてもしょうがないから頑張れ、というような生温い拍手と笑いが多かった。
どうせ見て大笑いしているんだろうな、と昨日いた建物を探してみると、手を振っているむこうのリザといきなり目があった。
「お、こっちみた。あ。やっぱハメられてんだ。あっはっはっはは。あら。つながった」
むこうの大笑いの声がいきなり耳元で聞こえた。
むこうの状況はわかった。試武に向き直るといきなり静かになった。
ナタで薪を割り落としたようなあっさりとした気配の様子は逆に気にはなったが、賑やか気なリザの気配を一瞬背中に感じ、相手に向き直り動き始めるとその気配も消えた。
日はまだ天頂には至っていないが、相手に影を落としというほどに低いわけもなく、必中を期すなら踏み込んで刃の間合いに入ったほうがマシな拳銃ではあった。
だが、流石に初弾が篭った状態で飛び込めば、動きの少ないほうが機械のトラブルが少ない。
外すを承知で一発撃って相手の飛び込んでくるのに間に合わせて機械を操作し、できれば外させ撃ち返す、というところが妥当な狙いだろう。
こんな距離で人間の大きさの的なぞ子供でも当たる、といかないのがこの種の武器の面倒なところで半チャージどころか四分の一くらいのところ、せいぜい二三十キュビットの距離を楕円上の仮想の軌道を描いて歩き回っていた。
魚の縄張り争いのような雰囲気だったが、先に手を打ったのは相手だった。拳銃を突き出すように構え、引き金を引いてみせ、マジンの応射を誘った。
相手の動きに射程に入ったと勘違いしてこちらは素直に打ち返したが、相手の空撃ちによる誘いだった。
その弾丸はとんでもないスピンがかかっていて腹を狙ったはずが相手の肩口の更に上を飛んでいった。手で投げたほうが当たるんじゃないかというようなハズレだった。
理由はいくらも考えられるが、鉛球の弾丸を前提にした拳銃の構造と火薬の量で、鉛球よりも遥かに軽い弾丸を使っていることが理由の一つであるのは間違いない。
これはもちろん事実上の初弾でどういう弾道をとっているかを見きれるマジンだから射手のせいではないと言い切れるが、会場では大はしゃぎで、ひと~つ、と叫ぶ者達の声があった。
ついていたのは相手が後の先を目的に踏み込んで撃った弾丸も似たようなランダムスピンで今度は左の方に飛んでいっていた。彼は両手を伸ばしながら操作してシリンダーを抑えながら撃っていたが、マジンが彼の右手側に体を開くのに合わせて引き金を絞ったために弾丸に妙な癖がついていた。
マジンは踏み込みながら片手でシリンダーを送りつつハンマーをあげようとするが、ズレているらしく引っかかる。仕方なく開けていた手でシリンダーを探りながらハンマーを上げる間に相手がもう一発放った。
今度は互いの位置が近づいていたこととマジンが敢えてまっすぐ踏み込んでいたことで、マジンの身体にはあたりそこなったもののかなり近いところをかすめていた。
ハズレを悟ったら右か左に素早く跳ぶのがこの勝負の動きであろうに相手は奇妙にまっすぐと下がった。
印象やたらと煤の多い硝煙の雲の中で打ち返したマジンの拳銃が炎に包まれた。
驚きとともにマジンは拳銃を捨てつつ、後ろに転がり四つん這いで跳ぶように一気に距離をとった。
初速の遅い弾丸は不安定な銃口で狙いが定まらず何処かへ飛ぶはずだが、マジンめがけて飛んだのではなさそうだった。
予期せぬ暴発であれば、むこうも距離を取るはずが、マジンが身を縮めて転がり立ち上がるまで拳銃の撃鉄を操作しこちらを狙っていた。
「暴発とは運が無い。あの勢いで銃をつきつけられてしまえば、拳銃の弾丸の威力なぞ関係なく降参するしかなかったところだが」
左腕の下の布地に開いた穴を示してから、油断なく左手でマジンの捨てた拳銃を拾った。
「一応聞くが、武器を失ってもこちらの負けではないのか」
これまでの試武を見るに得物を捨てる行為そのものは特に咎められていない様子だったが、手元の準備のためにマジンは尋ねた。
「まだ拳銃には合わせて四発の銃弾が残っている。やる気があるなら続けられるが」
こちらに飛び道具のない安心からか、面頬を上げて相手が答えた。
「それは重畳」
そう云ってマジンは穴あき金貨を相手の顔に投げつけた。
鈍く金属が響く速さで投げつけたが、予想していた相手も素早く面頬を下げ篭手の甲で受けた。
マジンは相手が面頬を下ろしたのも構わず穴あきを投げつけ続ける。
一気に飛び込んだ槍の間合いに相手が飛び退くように拳銃にこだわった一瞬に勝負はついていた。
相手のうろたえ弾の一発は既に十分間合いに入っていたから面頬を上げたままなら間違いなくあたっていただろう。
走りこみながら外套を脱いでいたから、あたりどころによっては死なぬまでも地に伏せることになる。
それで勝ちか負けかというとこの武芸改の立会、ひどく怪しくもあったが、立会奉行の差配でラッパが鳴ってしまえばマジンの負けは決まる。
相手の開いた左手から爆炎が放たれたが、熱の勢いがどれほどであろうと既に勢いのついた重みのある難燃耐火素材の外套を押し返せるほどの火力ではなかった。
最後の銃弾を相手が放った瞬間にマジンは振り回していた外套で相手の身体を薙いだ。
相手は片手で操作できるほどに拳銃に慣れていた様子ではあったが、銃弾は既に速度を得始めていた外套に巻き取られるように速度を失った。
外套を炎よけのめくらまし程度に思っていたところに、少年少女と同じような重さの鈍器の一撃をうけ相手は空になった拳銃を手放しよろけ尻餅をついた。
マジンは奪った拳銃に二十五シリカの黄弾と青弾をねじ込み雷管の代わりに釘を突っ込み、尻餅をついたままの相手に向けて、銃口を上にずらし放った。黄球は銃口から遠目にもわかりやすく巨大な爆炎となった。
「どうやら撃てるらしい。これでこちらの弾丸の蓄えは百を超える。やる気があるなら続けられるが」
銃口から出た瞬間には弗化樹脂の粉末と高温燃焼性の気体と種火の混合になっている黄弾はともかく曲がりなりにも塊である青弾が打てるかはかなり怪しかったし、仮に打てて銃弾はともかくこんな使い方で道具が保つとも思えなかったが、相手が諦めた。
外套の一撃で倒れたときに足を傷めたらしい。
拳銃勝負とは云い難い決着だったが、観客は関係なく沸き返っていた。
見てたかな、とリザを探すと見ていたらしい。
「お、こっち見た。むう。つながった。なにかしらね。この感じ。無視されているって感じでもなかったけど」
リザとステアが混ざったような気配は不満気な様子で試合の流れは無視していた。
「魔術が使えない人間に文句を言うな」
マジンが口で文句を言うとむこうで鼻で笑う気配があった。
「二人が小銃はどうするって話だったから舟から二丁だけ持ってきてもらうわ」
ステアの気配がそう伝えてきた。
「ボクは別に使わないぞ」
「バカねぇ。色々お世話になった人々がいるでしょ。おみやげの余裕があるくらいのことは見せておいた方がいいに決まってるでしょ。お爺様とか。あと、兵隊が助けてくれるらしいからお酒とかお菓子とかも持ってこさせてるわよ。着いた時点で間に合わないのわかってたしね」
リザの主張を聞いてマジンは不安に思った。
「兵隊をステアに上げたのか」
ステアの気配が溜息をつくようにした。
「そう言うと思ったから兵隊は端艇までよ。ステアの中は台車と昇降機で足りるけど、陸に上がったら流石にちょっと大変そうだったから助かるわ。兵隊なしじゃ往来も色々面倒くさいらしいけど、単に通行証代わりよりは力仕事があったほうが兵隊さんも仕事した気分になるでしょう」
確かに、こういう騒ぎになれば多少即物的ではありすぎるが、消え物をおうちに持ち寄るのは行き過ぎない量なら悪くなく、兵隊にとって食事の味はともかく多すぎることはない。
今日は拳銃を返すとか外套を拾うとか多少前日よりも勝利のラッパの後でやることがあったので、陣屋に引き上げる路地での花吹雪と声援が頭から降ってきた。
見知らぬ相手の声援にお愛想に手を振り返しながらつらつらと思い返すに、相手の爆炎は実はそれと意識した魔法の顕現だったのかもしれない、と奇妙に不自然な暴発の爆轟と、その後の牽制めいた火炎を思い返していた。
昨日も真ん中で愛想まくぐらいすればこんな雰囲気だったのかなと思っているうちにステアの気配が消えた。
その感覚を説明するのは難しいのだが、例えて云うなら天井の大燭台のろうそくが不意に二三本消えたような感じなのだが、早々に屋敷を電灯化して久しいマジンにとっては全く他人事めいた感覚でもある。
こちらのお城でも燭台係の女中なり執事なりというものは相応に多く、屋根天井や壁の綻び雨漏りを手当する役職でもあって、ロウソクを炊き固めている香りがする一角がある。
ローゼンヘン工業では既にロウソクも石鹸も直接人の手を触れるような行程は原料の荷捌きと出荷の荷捌き位になるようにしていたが、この地では流石にそんな大掛かりな仕掛けはなく多くの人びとの手を見れば、かぶれややけどを隠すために手袋をしていたりそれすらもできなかったりという様子が見て取れた。
ローゼンヘン館の規模であっても楽をしようと思えば二三十人が毎日屋敷を巡りながらねずみ穴や石組みの緩みなどを探す必要があるから、二千人ばかり女子供が増えたからといって、その実、屋敷の規模からすればそれが本来の姿と云えなくもなかった。このお城の規模であれば、桁が一つ上がって数百のお女中なり執事なりがときに職人とともに建物の維持にあたっているはずだった。
そういう家付きの従僕の扱いはおよそ地味で日陰の存在であるが、魔法に関してもなにやらそういう薄暗い感じをマジンは覚えていた。
マジンの理想とする文明というものは、体が痛くならないくらいの労働とその日のうちに解決できるような難問と、それを成し遂げた自分への祝福が出来る休暇というもので出来上がっていることになっていたから、不自由そうに突っ張った手の皮どころか肉までえぐれるような薬品による手荒れなどというものは切なく気の毒であったし、魔法使いの突然死や突然の不具のような人の献身によって支えられる制度というものに疑いを持っていた。
有り体にローゼンヘン館での最初の数年までを棚に上げることが許されるなら、子供を教育や躾以上に働かせる必要のない状態が文明の理想で、そのへんまでで賞金稼ぎとしての或いは流れ者の彼というものは役目を終えていたのだが、世界はそう簡単に変わるものでもない。
食べるために体を動かす、殺すために戦う、盗るために襲う、というのはさておきそれを支える日常の慎ましさ切なさというものを考えると、世界の野蛮というものを一層闇深く感じる。
魔法の便利さ奥深さは様々に伝え聞いてはいるが、実のところ魔法をそうと看做して見知っているのは魔族を狩りに巣に押し入った時くらいで、考えてみればローゼンヘン館でもそれらしい者共に出会ったが、それきりだったので魔法については実感が無い。
ビスケスツラッカーの火炎呪文は威力こそ小さいものの応用範囲が広く、武芸と組み合わせた動きの中では非常に強力な牽制となる。
威力が小さいと云って沼や池を一瞬で干上がらせるような大魔導でないというだけで、木造の納屋や家などを燃やし、敵の防御を逆手に取るなどという事ができるくらいには威力もあり、しかしつまりは焼夷弾があれば代わりは出来ることだったが、ラッカーは焼夷弾を放るより早く火炎を放ってみせたり、こちらの隙を作るように拳銃を自ら捨てるように動いてみせたりした。
同じことができないかというと出来るわけだが、本当に出来るかどうかは怪しい。
もちろん、マジンにとっては武芸として興味が有るわけではない。
武芸の究極として、なにを以っても殺してよろしい、と納得すれば毒物でも核子でも殺す方法はあり、それは魔術を行使するなら、呼吸を止めるような何かを肺や気管に送り込んでみたり、血液や神経の動きを惑乱してみたりという方法がある。
この武芸改の性質は全くお祭りであることは会の流れを見ているに連れ理解できてきた。
この会をお遊戯会と云えば当然に云い過ぎであるだろうが、選手たちは勝利は狙っているものの相手の生命を狙ってはいない。そして何より無様さを恐れていた。それはある意味勝ちを失うことよりも無様が恐ろしいという有様で勝敗は人々が口々に云うように単なるお祭りの華にすぎない。
ツラッカーの火炎は云ってしまえば、羊の群れを鉄砲で脅かして追い散らし狼に警告をする種類の日常的な手妻の一つであるということだろう。
ツラッカーの火炎が任意に使える道具なら黄弾の爆炎と仕掛けの理の異なる手妻で、魔術魔道も術理があるなら、その些末な手妻に様々を加えて機関車や仕掛け時計のような大物に仕掛けられるはずだった。
と云って、拳銃の工作を見れば分かる通り、魔術がそう云う風に結びつけるほどにこの土地の工作技術は高くなかった。
だが、工作技術と魔法技術としての魔術が全く結びついていないということもなかった。
聞けば拳銃に使われた銃弾は鉛球ではないが、呪術をのせるための咒弾と称するものの訓練弾で、咒弾は魔法の触媒多くは人の骨や獣の骨を素焼きにしたものであるところを訓練弾では素焼きの弾であるという。
咒いの質は様々にあるが、目玉として飛ばしたり耳として飛ばしたりというものが一つで、そうしておいて魔術のための基点にしたり、或いはより大きな魔術のための種火としたりするという。
するとどちらかと言えば投げ縄や釣り針のような道具なのかとおもいきや、直接当たると鎧ごと丸こげになるような雷撃を込めたり砕けることで人の息が致死の毒に変わったり気絶し眠ったりとするような対人用の咒弾もあるらしい。
咒符や咒弾を使った魔術の類は儀式に時間を掛けることで魔法特有の人の気分や体調で効果や魔力消費に左右されないで済むという利点があって、手間がかかるものの当たり外れの斑が少ない特徴があるという。
雨の中で使える火口や火薬という用途であれば咒符魔術は相応に使えるし、例えば咒符を使って石や鉄の壁をくり抜くということも出来る。だが、そういう重さを伴うものを相手にするとどんどん呪術の儀式の時間と手間がかかっていって、効果も段々と頭打ちになってゆくので、それこそ数万年前は人を潰して咒符を作っていた時代もあったというが近年はそこまでの大騒ぎをしないための手軽で確実な魔法のための咒符になっている。
使い捨ての無線機のように話ができる咒符もある。
そういう話を聞けば、魔術は根拠怪し気な部分も多いが、確かに曲がりなりにも損得釣り合いの立つ技術であるらしい。
世の中の事業はおよそ世の中の折り合いの説明をどれだけ重ねられるか、というだけのことであってその説明のための過去の実例を一般化したものが学問であったから、実を云えば実例の取り方まとめ方によっては学問は全く役に立たない事業の根拠にされていたり、事業が求める学問と異なっていたりもする。
例えば世界のすべてを記述する真理という名の学問があるとして全十章からなっているとして、実用的にはそのすべてを知る必要はなく、読み解くのに数千数万の賢者と呼ばれる人々が一生をかかって全てを読み下せないとすれば、自分に必要などこか一章まるごとすら読まずに確証の隙なところの一文をつまみ食いして、或いはそれを各章から抜粋しているのが世間に存在する学問というものであったし、その読まなかった読めなかった部分を想像で補うことが学問になっている。
真理を求めてなお実用によって真理から離れてゆくことは固陋野蛮と笑うことはできない。
興味があっても見えない物を見ることは人にはできない。
神への信仰に神の奇跡が必要である、というのは真理の木漏れ日と悪魔のささやきと啓示の光と音さえ区別つかない人の愚かさの懺悔であるわけだが宿命でもあり、妖精を見るには妖精の目が、妖精と話すには妖精の言葉と妖精の耳が必要になる。
マジンは大いにもちろん魔術に興味があるが、妖精の目も耳も持っていない以上、自身が妖精を見つけて話すことはできなさそうだ、とあっさり考えていた。
別段自分が魔術に通じなくとも、リザがステアが出来るのであれば、自分は自分の出来ることをやればよろしい。それだけの事だった。
それが、必要を中心に備えた文明の有り様からすれば、全くの欺瞞であることはマジンもよくわかっていたが、野蛮の中にあって文明を求めまた野蛮を許す態度こそが元来尊いのであって、文明そのものに価値も意味もない、というものがマジンの結論でもあった。
云ってしまえば、どんなに大事に命冥加に生きてもせいぜい百。楽しげに生きれば人生五十年で満足という人の一生を考えれば、人の歴史の記録に残せる範囲で数百数千年の文明を人々が学び背負うにはあまりに短い。
せいぜいがボロ布のようになった叡智の残滓を有りがたく誇るのが関の山だというのが、今のこの世の有様だったし、当代以前の前史先史の古代文明も当然に同様に文明のほつれを足に絡めて倒れることになったはずだ。
気の毒なほどに予想ができる何かであって、それほど意味がある話ではないが、人の愚かさを疑うほどに世界は光に満たされているわけでなく、涙に溶けるほど絶望にも満たされてはいない。
魔道魔術の価値は今のところは敵が使う暗器と変わらない。
という意味での不安はあったが、命の危険がないことはわかった。
より切実なのは、負けた時のペナルティが全くわからないことと、負けないためにこちらが相手を殺さないようにすることが出来るかということだった。
これまでは相手が早々に諦めた、というかこちらの土俵に乗ってきてくれた上で型に嵌った、というところがあった。
次の相手は第二試合で先に勝利していたカレオンだった。
という便利なのだかそうでないのだかというような体質だった。
寝たからといって別段にすぐに妙案を思いつくわけではないのだが、寝ないからといって解決するわけでないので、それはまぁ自然の摂理ということなのだが、頭をつかう悩みの多い時に眠くなるというのはそういうものなのだろう、と、云うしかない。
リザは確かに以前からふたりで旅行すると夜眠れないほどに張り付いていることが多かった。
だが、その異様な盛り上がりはやはり波があるもので連日というものではないことが多かったのだが、武芸大会の最中だというのに容赦無いというのは流石にどうかと思う。と云って別段、眠くなる、体が痛くなるというほどの運動激戦というわけではなかった。
代官屋敷は他の建物とは違って、郭をなす城壁への通路がいくつかあり、そういう通路を守るために構えられた建物であったから、各地の将家が城との往来や外との往来を必ずしも禁じられたわけではなかったが、郭自体が一種の特等席になる武芸改の会期の間は建前として場外の者の郭への立ち入りは禁止になっていたし、場内の者も城壁への立ち入りは禁止となっていた。
中と外の出入りを禁じるというそういう建前はそれとして、マリールの立場であれば往来はともかく言伝の一つも送れない訳はなく、そろそろ何かあってしかるべきとマジンは考えていたが特段一晩何もなかった。
リザはあまり気にしていない様子だったが、そのことを口にすると、ニヤニヤと体の具合を確かめさせるようにあちこちの筋肉を蠢かせ、そうね、とだけ言った。
リザの態度は聞いて思いついたというよりは、ようやく思いついたかというような自分の先見を誇るようなもので、なにかやっているのか、手を打った後なのか、ともかくマリールへの連絡手段を既に見つけていた雰囲気だった。
日の出の前、空の端が山陰を境と切り分け始めた頃、郭にラッパが鳴り響き武芸改の式次の再開を告げた。
式次改方の奉行やこの会を取り仕切る城の者共が並んでいる中をぞろぞろと練り歩くのは前日と同じなのだが、歩く者達の人数が減ったことと二度目であることで多少見通しが良くなっていて、ようやく当地の礼服に着飾り普段と装いを変えたマリールの姿を見つけることができた。昨日はもっと明るかったのだが見当違いのところを探していた様子だったので、少し視線の先を変えてみたら見つかった。
むこうもこちらを早くから見つけていたらしく、目があったのだが、どういうわけか機嫌悪く、お気取りの無表情というよりは、怒りとか苛立ちを示していた。
マリールが苛立つ心当たりはもちろん多いのだが、それならそれでなにか云ってよこせば良いものをと思っていると、マリールは胸元に拳を握りしめ、わかりやすくこちらを呪うように睨みつけていた。
陣屋に一旦引き上げてリザにその話を云うと、リザはわかっていたらしく意地悪い顔で、
そりゃお気の毒に、と笑った。
「マリールから何か連絡があったのか」
どうやら何か試みていたらしいことの成果を訊ねてみた。
「マリールからはないわ。でも私からは割とやってる。むこうは無視し続けているけど内容は伝わっているみたいね」
リザはなにやら具体的ではないものの手応えを感じている様子だった。
「なにやってるんだ。というか、どうやっているんだ。誰かに頼んだのか」
「魔術でミヨミヨンッと。あなたにはマリールからなにか伝えてこないの」
マジンは羨ましい顔になった自分に気がついた。
「気がつかなかった」
「メダルは」
寝るときは外していたが、ここしばらく朝起きると着替える時に首にぶら下げる習慣になっていた。
「掛けてるよ」
「……。むう。なんか私に言いたいことは」
何かリザはこちらを探るように眺めしばらく考えていた様子だったが、口を開いて尋ねた。
「なんだろう。……。今日も頑張るよ。おー。ッて感じでいいか」
リザはため息のように鼻を鳴らして芸のできない犬を見るような顔になった。
「ああ、ええ、まぁ頑張って。ご飯食べましょ。お腹へったわ」
リザは言いたいことを口に出して言った。
食事はあちらの城の朝食とは随分異なっていて随分しっかりとしたものがたくさん出ていた。
ふと食事の席を見渡すと昨日はいなかったはずのダビアス家の奥様方が一角にそろっていた。
一日目は各軍将家の婦人会のようなものが開かれていて、様々なお城の方々と一緒であったらしい。
ゲリエ家の女達は隣り合った席に招かれ、ショアトアは席を埋めるようにご婦人方に招かれていた。
帝国と共和国の戦争が戦間期に移行した印象が強かったことなどと併せて、醜聞と云うには時期が空き過ぎ風化した様々は、そういう戦争のさなか、非公式ながら戦功を上げ落魄し復帰して戦功を上げていたマリール姫の武勲とその愛人である新参の評判は、ひとまず新たな話題として将家の人々の間では受け止められていた。
旧婚約者対間男の対決という意味でまとめてしまうのが簡単な因縁は、様々に取り沙汰されていたらしいが、ともかく一回戦の速攻勝負そのものは、ご夫人方の間での評判はむしろわかりやすい、という風に好評だったらしい。
家の内々の武芸改は騎士の戦陣序列を決めるという意味合いがあって、未熟な若手の競り合いの中では相当に下衆な手段もとられることがあって、それは実に男女とも代わりはなかったし、家中での実力は相応に晒され伯仲していて、見栄え爽やかな会心の勝負よりはもっと死力無様な命の取り合いになることもある。
とくにここ近年は帝国の主攻勢が共和国を向いていて、それは兵站を睨む軍将たちにとっては全く幸いという他ないことなのだが、騎士従騎士たちにとっては武功の場が減ったということでもあって、家中が必ずしも穏やかというわけではない。
様々に面倒くさい土地の男女のいざこざや子供の取り合いで家を回る決闘騒ぎになることは、実のところ少なくない。
ご家中の様々を収めることは、家を預かる夫人方にとっては年次のお仕事であるわけだが、必ずしも心穏やかではいられない展開も多く、しかし全く無責任な他家他流との武芸改であれば、多少の因縁があったとしてせいぜいが手足を数本悪くても殺しはしないくらいの腕の者たちが、やはりせいぜいが骨の数本悪くしても死にはしない腕の者達と戦うので、全く楽しく見られるということであった。
ウチのクマイヌがヤンチャで突っかかっていったのを、そちらのオタクの新参がパカーンとはたき落としたのにはスカッと来たわ、というのはグレオスル家の夫人のどなたかの言葉であったそうで、大会の性質を全くわかりやすく示していた。
やはり袋葦剣については、勢いのついた大柄な男を弾き飛ばして殺さない道具として家中の試合で不具や死者の出る面倒を避ける試武用の道具として話題になっていた。
どうも秘書の三人は既にこちらの家中で十本ほども出来上がっている、そしてもうしばらく作りそうな袋葦剣のことについて尋ねられていたのだが、作り物の話で彼女らが知っていることは殆ど無かったことで困っていた様子だった。
兵粮武具の揃え具合については家の女の仕事のうちと見られることが多いらしく、主の思いつきはそれとして、ゲリエ家の女房働きを探られているというところだった。
とはいえ、一族の者たちのがいくらかは共和国軍の魔道士官であったり、その他の立場で東部戦線と纏めて称されるリザール川流域での戦争の状況を伝えてもいたから、リザが戦功を経て共和国軍の将軍として叙せられるに至ったことと、その大まかな成行きについては土地の将家を預かる立場の人々は、程度の差こそあれ知っていたし、戦務軍令とは全く違う予想もしない形で帝国の城塞二つが大きな被害を受けたことはやはり知られていた。
そして、そういう僭越な専横をおこなえる実力組織として、ローゼンヘン工業は理解されていた。
この数日のお城での食事の風景と全く異なり、様々な話題を次々と口にするダビアス夫人たちは旅の空では家の慣習は関係ないということで、わずか半日の旅ではあっても旅は旅と日々の御役目を忘れた気楽な逗留を決め込んでいた。
「マリールの様子はご存知でしょうか」
そう言うと夫人方は目で合図をしたように笑った。
「ご存知ですよ。気になりますか」
「それはもちろん」
「この数日あなたを思って眠れないそうです。そちらの奥方様が夜毎通してあなたの様子をお伝えするらしく悩まされているそうです。まぁ私達もそういう時期はありましたが、程々にしておきなさいね」
ダビアス夫人ファルテナがたしなめるように言った。
「程々に致します」
リザが心当たりがあったように応えた。
「他は何か。無事でしたか」
「ご自分のお家ですので、もちろん無事でしたよ。ああ、……。決闘楽しみにしておりますが、ご覚悟召されますよう、ということでした」
こちらが大事だったろうにマジンに尋ねられ、ファルテナ夫人が思い出すように言った。
「おりますが、ですか」
「歯切れ悪いわね。あの娘らしくない」
リザが不思議そうに言ったが、マリールが特になにも言ってこない理由もわかる。
「勢いで決闘申し込んじゃったからな。オマエの時みたいになんとなく入れ込んでいるんだろう。十番勝負とか云わなければよかった」
と云ったもののマジンも少々不思議に思っていた。
第一試合は、日の出の中でおこなわれた。
山の日の出のことで、山の脇から太陽が登る頃には稜線が濃い緑と紫流しの水色とで色分けされ赤く西側の土地を焼く光が却って影深く庭を夜明の灰色に染めていた。
今日も三試合目であるマジンは食事を急げば一試合目を見ることができたのだが、兜ばかりは馴染んだものが必要だと感じたことで二輪自動車用の装具をクライとコワエにステアから取ってきてもらうことを頼んでいたために様々手間取った。
ショアトアとリザはセメエとともに会場で試合の様子を見ている。
奥方様がお城の夜会に出席していたように選手当人は郭から出入りはできないが、武芸改奉行所に申し述べれば武芸改をおこなっている郭からの出入り自体はできないわけではない。
ただ、様々面倒くさく手間がかかるという理由で望んだ時間望んだ試合に間に合うように出入りすることが難しいというだけだ。
得物の話がついていたリクレルとの戦いと違い、型稽古向けの防具では実際の防御機能はともかく視界と動きに慣れていなかった。二輪車用の装具は刃や銃弾にはそれほど期待できないが打撲や擦過という物はそれこそ自分の体が銃弾の速度で岩肌を滑っても僅かな身動ぎで速度を殺しながら命を守ることができていたし、そうでなければファラリエラは僅かな擦り傷だけで全く問題なく突撃服を着て兵隊たちと一緒に走り回り塹壕に飛び込むような動きはできなくなっていた。
昨日の晩のうちにやっておけば、というのはつまり出入りができることを食事の席で知ったくらいの状態だったので、たった今二人の出入りを頼んだ運びだった。
午前中の試武に間に合うかどうか、かなり怪しいところで、ふたりとも端艇の操作もどこになにがあるかもおよそのところは知っているはずだったが、湖の真ん中のステアまで片道一時間でたどり着けるようには思えない。
この試武の基本的な姿勢としては致死性の低い魔術や暗器は当然に使われる。そしてその裁量は選手討手に任される、ということなので、なにをどうあってもそれなりに備える必要がある。
有り体にこういう稽古や器量勝負のようなことをマジンは不得意としていた。
手強い相手を殺しかねない不安があった。
負けるつもりが一毫もないことが手加減の余地を小さくしていて防御の必要を感じさせていた。
別段マジンは自分が劣って負けるつもりはこればかりもなかったが、衆を頼みの賞金首相手ならともかく、それなりに身分も立場も家族もあるらしい武芸者を殺すことをよしとするわけにもゆかなかった。
ああ。なるほど。
マジンは試武に向けた準備をすることにした。
第三試合は槍での腕比べになった。
予定通り二輪車の装具は間に合わなかった。
と云って目元だけメガネで覆えれば、それで最低限のことは足りる。ヘルメットは何枚か使い捨てのフィルムをシールドの上に貼っていて泥はねや飛び石などに対応していたが、不意打ちの一回ともう一回なら手持ちで対応できる。
昼の光には灰色がかった緑に見える重たげな外套も春先には場違いになり始めていたが、この土地ではそうでもないらしい。
相手も黄色と青の縦縞の甲冑用の外套を着て登場していた。
昨日の試合を見ていれば、誰もが派手派手しい格好をしているわけではないのだろうが、昨日見た試合はふたつで四人のうちの一人が派手派手しい格好をしていれば、他にもいてもおかしくはない。
火を吹いたり物を投げたりという試合の勝者である火を噴く方が相手であることは知っていたから、木剣用の防具では目元が防げないということで防具の必要を感じていたわけであったが、魔術だか暗器だかを小器用に使って槍もそこそこに使える派手な戦いをする騎士であることはわかっていた。
実際にどう戦うのかということはおいて、昨晩見たカレオンよりも鼻先一つ劣っている、という評も聞いていれば、この大会での本来の戦いかたの初心者編というべき相手でもある。名前はドロップスかビスケッツかどちらかであることはわかっているのだが、どちらが勝ったのかを確かめるのを忘れていた。
「ゲリエ殿。ときに拳銃はお忘れにならずお持ちか」
マジンが昨日より多少離れた間合いから木簡を投げ込もうとしたところで相手が問いかけた。
「持っているが」
うそつき卑怯者呼ばわりされるのは心外だったので、素直に答えた。
「存分に使われよ。と言いたいところだがお手前の拳銃はご勘弁願おう。昨日拝見した拳銃は世間の物に比べ少々厄介に過ぎる様子だ」
昨日陣屋を訪れていた中に目の前の人物がいたかどうか思い出せないが、彼の同門なり配下なりが様子を探りに来ていたとしておかしくはない。
拳銃を吊るしたベルトをまとめて外して見せて二三歩進んでわかりやすく離れてやって木簡を投げ込んだ。
相手の木簡が選ばれたのは相手の木簡が表だったためらしい。
相手の木簡も手から離れた後は空中で回転していたが、滑るような回転で石の上でしばらく風車のようにカラカラと音を立て回転していた。
ああなるほど、こういう手際もあるのかとちょっとばかり感心していると武芸改方の代官が水場を覗き込んで、拳銃勝負を宣言した。
「流石にあの拳銃を握った名うての拳銃稼業の賞金稼ぎに勝てるとは思い上がっていない」
相手は如何にも謙遜するようにそう云ったが、表情は如何にも得意げでもあった。
代官が持ってきた拳銃は見事な彫刻の入った美術品のような代物で、しかしシリンダー式の連発拳銃だった。雷管式の連発銃であることは安心したがハンマーを上げただけでは回転せず手で回して正しい位置にシリンダを手で送りハンマーを上げるとシリンダーが固定されるという少々古い型できちんとした位置にシリンダーの薬室と銃身を揃えないとハンマーが上がらず、引き金を引いて撃鉄を落とすとその衝撃でシリンダーがズレるために弾が真っすぐ飛ばないという難物で、連発が出来るのは確かなのだが、その発射が確実かどうかは整備と管理と装填と射手にそれぞれかかっていて、多くの場合射手の負担が最も大きい。
不発も弾が出ないというだけなら良いのだが、雷管と撃鉄がきちんと仕事をした挙句火薬に火が回った衝撃で銃身と薬室の位置がずれて火薬がとんでもない方向に炎と衝撃を撒き散らすということは割とよくある。
大口径の銃弾は鉛球というよりは青弾のような陶器のような奇妙な軽さ滑らかさと硬さがあるもので、釘や石塊よりは危なくないかな、というものだった。
実際、前装拳銃の殆どは実弾を使ったとして肋や手足をおるのはそれとして急所に当たらなければ一撃で死ねるほどのことはない。
それは、荒野の武器としてはある意味それで十分で止めを求めるかお縄に服すかという生死問わずの賞金稼ぎにはちょうどいい威力ということも出来る。
その生死問わずの武器から少々命の危険を少なくしたような武器であるのは確かだが、当たらない武器を使って戦うというのはどうなのか、というところで不満顔がでたが、弾丸をこちらで選び、奉行がそれを装填し火薬と雷管を詰めて、五発の装填のうち一発を拳銃の使い方の説明で操作して見せて、空に向かって撃った。
相手の側も一発を空に向けて放った。
こちらの従兵が気を利かせて拳銃を拾い上げないでくれたのを、改め代官が咎めて持ち去られてしまった。
観衆にもここまでのやりとりが伝わった様子ではあったが、おおかたの雰囲気として相手の狡猾を咎めるというよりは新人の迂闊とここからの展開を期待するような、負けてもしょうがないから頑張れ、というような生温い拍手と笑いが多かった。
どうせ見て大笑いしているんだろうな、と昨日いた建物を探してみると、手を振っているむこうのリザといきなり目があった。
「お、こっちみた。あ。やっぱハメられてんだ。あっはっはっはは。あら。つながった」
むこうの大笑いの声がいきなり耳元で聞こえた。
むこうの状況はわかった。試武に向き直るといきなり静かになった。
ナタで薪を割り落としたようなあっさりとした気配の様子は逆に気にはなったが、賑やか気なリザの気配を一瞬背中に感じ、相手に向き直り動き始めるとその気配も消えた。
日はまだ天頂には至っていないが、相手に影を落としというほどに低いわけもなく、必中を期すなら踏み込んで刃の間合いに入ったほうがマシな拳銃ではあった。
だが、流石に初弾が篭った状態で飛び込めば、動きの少ないほうが機械のトラブルが少ない。
外すを承知で一発撃って相手の飛び込んでくるのに間に合わせて機械を操作し、できれば外させ撃ち返す、というところが妥当な狙いだろう。
こんな距離で人間の大きさの的なぞ子供でも当たる、といかないのがこの種の武器の面倒なところで半チャージどころか四分の一くらいのところ、せいぜい二三十キュビットの距離を楕円上の仮想の軌道を描いて歩き回っていた。
魚の縄張り争いのような雰囲気だったが、先に手を打ったのは相手だった。拳銃を突き出すように構え、引き金を引いてみせ、マジンの応射を誘った。
相手の動きに射程に入ったと勘違いしてこちらは素直に打ち返したが、相手の空撃ちによる誘いだった。
その弾丸はとんでもないスピンがかかっていて腹を狙ったはずが相手の肩口の更に上を飛んでいった。手で投げたほうが当たるんじゃないかというようなハズレだった。
理由はいくらも考えられるが、鉛球の弾丸を前提にした拳銃の構造と火薬の量で、鉛球よりも遥かに軽い弾丸を使っていることが理由の一つであるのは間違いない。
これはもちろん事実上の初弾でどういう弾道をとっているかを見きれるマジンだから射手のせいではないと言い切れるが、会場では大はしゃぎで、ひと~つ、と叫ぶ者達の声があった。
ついていたのは相手が後の先を目的に踏み込んで撃った弾丸も似たようなランダムスピンで今度は左の方に飛んでいっていた。彼は両手を伸ばしながら操作してシリンダーを抑えながら撃っていたが、マジンが彼の右手側に体を開くのに合わせて引き金を絞ったために弾丸に妙な癖がついていた。
マジンは踏み込みながら片手でシリンダーを送りつつハンマーをあげようとするが、ズレているらしく引っかかる。仕方なく開けていた手でシリンダーを探りながらハンマーを上げる間に相手がもう一発放った。
今度は互いの位置が近づいていたこととマジンが敢えてまっすぐ踏み込んでいたことで、マジンの身体にはあたりそこなったもののかなり近いところをかすめていた。
ハズレを悟ったら右か左に素早く跳ぶのがこの勝負の動きであろうに相手は奇妙にまっすぐと下がった。
印象やたらと煤の多い硝煙の雲の中で打ち返したマジンの拳銃が炎に包まれた。
驚きとともにマジンは拳銃を捨てつつ、後ろに転がり四つん這いで跳ぶように一気に距離をとった。
初速の遅い弾丸は不安定な銃口で狙いが定まらず何処かへ飛ぶはずだが、マジンめがけて飛んだのではなさそうだった。
予期せぬ暴発であれば、むこうも距離を取るはずが、マジンが身を縮めて転がり立ち上がるまで拳銃の撃鉄を操作しこちらを狙っていた。
「暴発とは運が無い。あの勢いで銃をつきつけられてしまえば、拳銃の弾丸の威力なぞ関係なく降参するしかなかったところだが」
左腕の下の布地に開いた穴を示してから、油断なく左手でマジンの捨てた拳銃を拾った。
「一応聞くが、武器を失ってもこちらの負けではないのか」
これまでの試武を見るに得物を捨てる行為そのものは特に咎められていない様子だったが、手元の準備のためにマジンは尋ねた。
「まだ拳銃には合わせて四発の銃弾が残っている。やる気があるなら続けられるが」
こちらに飛び道具のない安心からか、面頬を上げて相手が答えた。
「それは重畳」
そう云ってマジンは穴あき金貨を相手の顔に投げつけた。
鈍く金属が響く速さで投げつけたが、予想していた相手も素早く面頬を下げ篭手の甲で受けた。
マジンは相手が面頬を下ろしたのも構わず穴あきを投げつけ続ける。
一気に飛び込んだ槍の間合いに相手が飛び退くように拳銃にこだわった一瞬に勝負はついていた。
相手のうろたえ弾の一発は既に十分間合いに入っていたから面頬を上げたままなら間違いなくあたっていただろう。
走りこみながら外套を脱いでいたから、あたりどころによっては死なぬまでも地に伏せることになる。
それで勝ちか負けかというとこの武芸改の立会、ひどく怪しくもあったが、立会奉行の差配でラッパが鳴ってしまえばマジンの負けは決まる。
相手の開いた左手から爆炎が放たれたが、熱の勢いがどれほどであろうと既に勢いのついた重みのある難燃耐火素材の外套を押し返せるほどの火力ではなかった。
最後の銃弾を相手が放った瞬間にマジンは振り回していた外套で相手の身体を薙いだ。
相手は片手で操作できるほどに拳銃に慣れていた様子ではあったが、銃弾は既に速度を得始めていた外套に巻き取られるように速度を失った。
外套を炎よけのめくらまし程度に思っていたところに、少年少女と同じような重さの鈍器の一撃をうけ相手は空になった拳銃を手放しよろけ尻餅をついた。
マジンは奪った拳銃に二十五シリカの黄弾と青弾をねじ込み雷管の代わりに釘を突っ込み、尻餅をついたままの相手に向けて、銃口を上にずらし放った。黄球は銃口から遠目にもわかりやすく巨大な爆炎となった。
「どうやら撃てるらしい。これでこちらの弾丸の蓄えは百を超える。やる気があるなら続けられるが」
銃口から出た瞬間には弗化樹脂の粉末と高温燃焼性の気体と種火の混合になっている黄弾はともかく曲がりなりにも塊である青弾が打てるかはかなり怪しかったし、仮に打てて銃弾はともかくこんな使い方で道具が保つとも思えなかったが、相手が諦めた。
外套の一撃で倒れたときに足を傷めたらしい。
拳銃勝負とは云い難い決着だったが、観客は関係なく沸き返っていた。
見てたかな、とリザを探すと見ていたらしい。
「お、こっち見た。むう。つながった。なにかしらね。この感じ。無視されているって感じでもなかったけど」
リザとステアが混ざったような気配は不満気な様子で試合の流れは無視していた。
「魔術が使えない人間に文句を言うな」
マジンが口で文句を言うとむこうで鼻で笑う気配があった。
「二人が小銃はどうするって話だったから舟から二丁だけ持ってきてもらうわ」
ステアの気配がそう伝えてきた。
「ボクは別に使わないぞ」
「バカねぇ。色々お世話になった人々がいるでしょ。おみやげの余裕があるくらいのことは見せておいた方がいいに決まってるでしょ。お爺様とか。あと、兵隊が助けてくれるらしいからお酒とかお菓子とかも持ってこさせてるわよ。着いた時点で間に合わないのわかってたしね」
リザの主張を聞いてマジンは不安に思った。
「兵隊をステアに上げたのか」
ステアの気配が溜息をつくようにした。
「そう言うと思ったから兵隊は端艇までよ。ステアの中は台車と昇降機で足りるけど、陸に上がったら流石にちょっと大変そうだったから助かるわ。兵隊なしじゃ往来も色々面倒くさいらしいけど、単に通行証代わりよりは力仕事があったほうが兵隊さんも仕事した気分になるでしょう」
確かに、こういう騒ぎになれば多少即物的ではありすぎるが、消え物をおうちに持ち寄るのは行き過ぎない量なら悪くなく、兵隊にとって食事の味はともかく多すぎることはない。
今日は拳銃を返すとか外套を拾うとか多少前日よりも勝利のラッパの後でやることがあったので、陣屋に引き上げる路地での花吹雪と声援が頭から降ってきた。
見知らぬ相手の声援にお愛想に手を振り返しながらつらつらと思い返すに、相手の爆炎は実はそれと意識した魔法の顕現だったのかもしれない、と奇妙に不自然な暴発の爆轟と、その後の牽制めいた火炎を思い返していた。
昨日も真ん中で愛想まくぐらいすればこんな雰囲気だったのかなと思っているうちにステアの気配が消えた。
その感覚を説明するのは難しいのだが、例えて云うなら天井の大燭台のろうそくが不意に二三本消えたような感じなのだが、早々に屋敷を電灯化して久しいマジンにとっては全く他人事めいた感覚でもある。
こちらのお城でも燭台係の女中なり執事なりというものは相応に多く、屋根天井や壁の綻び雨漏りを手当する役職でもあって、ロウソクを炊き固めている香りがする一角がある。
ローゼンヘン工業では既にロウソクも石鹸も直接人の手を触れるような行程は原料の荷捌きと出荷の荷捌き位になるようにしていたが、この地では流石にそんな大掛かりな仕掛けはなく多くの人びとの手を見れば、かぶれややけどを隠すために手袋をしていたりそれすらもできなかったりという様子が見て取れた。
ローゼンヘン館の規模であっても楽をしようと思えば二三十人が毎日屋敷を巡りながらねずみ穴や石組みの緩みなどを探す必要があるから、二千人ばかり女子供が増えたからといって、その実、屋敷の規模からすればそれが本来の姿と云えなくもなかった。このお城の規模であれば、桁が一つ上がって数百のお女中なり執事なりがときに職人とともに建物の維持にあたっているはずだった。
そういう家付きの従僕の扱いはおよそ地味で日陰の存在であるが、魔法に関してもなにやらそういう薄暗い感じをマジンは覚えていた。
マジンの理想とする文明というものは、体が痛くならないくらいの労働とその日のうちに解決できるような難問と、それを成し遂げた自分への祝福が出来る休暇というもので出来上がっていることになっていたから、不自由そうに突っ張った手の皮どころか肉までえぐれるような薬品による手荒れなどというものは切なく気の毒であったし、魔法使いの突然死や突然の不具のような人の献身によって支えられる制度というものに疑いを持っていた。
有り体にローゼンヘン館での最初の数年までを棚に上げることが許されるなら、子供を教育や躾以上に働かせる必要のない状態が文明の理想で、そのへんまでで賞金稼ぎとしての或いは流れ者の彼というものは役目を終えていたのだが、世界はそう簡単に変わるものでもない。
食べるために体を動かす、殺すために戦う、盗るために襲う、というのはさておきそれを支える日常の慎ましさ切なさというものを考えると、世界の野蛮というものを一層闇深く感じる。
魔法の便利さ奥深さは様々に伝え聞いてはいるが、実のところ魔法をそうと看做して見知っているのは魔族を狩りに巣に押し入った時くらいで、考えてみればローゼンヘン館でもそれらしい者共に出会ったが、それきりだったので魔法については実感が無い。
ビスケスツラッカーの火炎呪文は威力こそ小さいものの応用範囲が広く、武芸と組み合わせた動きの中では非常に強力な牽制となる。
威力が小さいと云って沼や池を一瞬で干上がらせるような大魔導でないというだけで、木造の納屋や家などを燃やし、敵の防御を逆手に取るなどという事ができるくらいには威力もあり、しかしつまりは焼夷弾があれば代わりは出来ることだったが、ラッカーは焼夷弾を放るより早く火炎を放ってみせたり、こちらの隙を作るように拳銃を自ら捨てるように動いてみせたりした。
同じことができないかというと出来るわけだが、本当に出来るかどうかは怪しい。
もちろん、マジンにとっては武芸として興味が有るわけではない。
武芸の究極として、なにを以っても殺してよろしい、と納得すれば毒物でも核子でも殺す方法はあり、それは魔術を行使するなら、呼吸を止めるような何かを肺や気管に送り込んでみたり、血液や神経の動きを惑乱してみたりという方法がある。
この武芸改の性質は全くお祭りであることは会の流れを見ているに連れ理解できてきた。
この会をお遊戯会と云えば当然に云い過ぎであるだろうが、選手たちは勝利は狙っているものの相手の生命を狙ってはいない。そして何より無様さを恐れていた。それはある意味勝ちを失うことよりも無様が恐ろしいという有様で勝敗は人々が口々に云うように単なるお祭りの華にすぎない。
ツラッカーの火炎は云ってしまえば、羊の群れを鉄砲で脅かして追い散らし狼に警告をする種類の日常的な手妻の一つであるということだろう。
ツラッカーの火炎が任意に使える道具なら黄弾の爆炎と仕掛けの理の異なる手妻で、魔術魔道も術理があるなら、その些末な手妻に様々を加えて機関車や仕掛け時計のような大物に仕掛けられるはずだった。
と云って、拳銃の工作を見れば分かる通り、魔術がそう云う風に結びつけるほどにこの土地の工作技術は高くなかった。
だが、工作技術と魔法技術としての魔術が全く結びついていないということもなかった。
聞けば拳銃に使われた銃弾は鉛球ではないが、呪術をのせるための咒弾と称するものの訓練弾で、咒弾は魔法の触媒多くは人の骨や獣の骨を素焼きにしたものであるところを訓練弾では素焼きの弾であるという。
咒いの質は様々にあるが、目玉として飛ばしたり耳として飛ばしたりというものが一つで、そうしておいて魔術のための基点にしたり、或いはより大きな魔術のための種火としたりするという。
するとどちらかと言えば投げ縄や釣り針のような道具なのかとおもいきや、直接当たると鎧ごと丸こげになるような雷撃を込めたり砕けることで人の息が致死の毒に変わったり気絶し眠ったりとするような対人用の咒弾もあるらしい。
咒符や咒弾を使った魔術の類は儀式に時間を掛けることで魔法特有の人の気分や体調で効果や魔力消費に左右されないで済むという利点があって、手間がかかるものの当たり外れの斑が少ない特徴があるという。
雨の中で使える火口や火薬という用途であれば咒符魔術は相応に使えるし、例えば咒符を使って石や鉄の壁をくり抜くということも出来る。だが、そういう重さを伴うものを相手にするとどんどん呪術の儀式の時間と手間がかかっていって、効果も段々と頭打ちになってゆくので、それこそ数万年前は人を潰して咒符を作っていた時代もあったというが近年はそこまでの大騒ぎをしないための手軽で確実な魔法のための咒符になっている。
使い捨ての無線機のように話ができる咒符もある。
そういう話を聞けば、魔術は根拠怪し気な部分も多いが、確かに曲がりなりにも損得釣り合いの立つ技術であるらしい。
世の中の事業はおよそ世の中の折り合いの説明をどれだけ重ねられるか、というだけのことであってその説明のための過去の実例を一般化したものが学問であったから、実を云えば実例の取り方まとめ方によっては学問は全く役に立たない事業の根拠にされていたり、事業が求める学問と異なっていたりもする。
例えば世界のすべてを記述する真理という名の学問があるとして全十章からなっているとして、実用的にはそのすべてを知る必要はなく、読み解くのに数千数万の賢者と呼ばれる人々が一生をかかって全てを読み下せないとすれば、自分に必要などこか一章まるごとすら読まずに確証の隙なところの一文をつまみ食いして、或いはそれを各章から抜粋しているのが世間に存在する学問というものであったし、その読まなかった読めなかった部分を想像で補うことが学問になっている。
真理を求めてなお実用によって真理から離れてゆくことは固陋野蛮と笑うことはできない。
興味があっても見えない物を見ることは人にはできない。
神への信仰に神の奇跡が必要である、というのは真理の木漏れ日と悪魔のささやきと啓示の光と音さえ区別つかない人の愚かさの懺悔であるわけだが宿命でもあり、妖精を見るには妖精の目が、妖精と話すには妖精の言葉と妖精の耳が必要になる。
マジンは大いにもちろん魔術に興味があるが、妖精の目も耳も持っていない以上、自身が妖精を見つけて話すことはできなさそうだ、とあっさり考えていた。
別段自分が魔術に通じなくとも、リザがステアが出来るのであれば、自分は自分の出来ることをやればよろしい。それだけの事だった。
それが、必要を中心に備えた文明の有り様からすれば、全くの欺瞞であることはマジンもよくわかっていたが、野蛮の中にあって文明を求めまた野蛮を許す態度こそが元来尊いのであって、文明そのものに価値も意味もない、というものがマジンの結論でもあった。
云ってしまえば、どんなに大事に命冥加に生きてもせいぜい百。楽しげに生きれば人生五十年で満足という人の一生を考えれば、人の歴史の記録に残せる範囲で数百数千年の文明を人々が学び背負うにはあまりに短い。
せいぜいがボロ布のようになった叡智の残滓を有りがたく誇るのが関の山だというのが、今のこの世の有様だったし、当代以前の前史先史の古代文明も当然に同様に文明のほつれを足に絡めて倒れることになったはずだ。
気の毒なほどに予想ができる何かであって、それほど意味がある話ではないが、人の愚かさを疑うほどに世界は光に満たされているわけでなく、涙に溶けるほど絶望にも満たされてはいない。
魔道魔術の価値は今のところは敵が使う暗器と変わらない。
という意味での不安はあったが、命の危険がないことはわかった。
より切実なのは、負けた時のペナルティが全くわからないことと、負けないためにこちらが相手を殺さないようにすることが出来るかということだった。
これまでは相手が早々に諦めた、というかこちらの土俵に乗ってきてくれた上で型に嵌った、というところがあった。
次の相手は第二試合で先に勝利していたカレオンだった。
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