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1話 オオカミ獣人ラーシュ※
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冬の外仕事は体が冷える。
夜が近づけばなおさらだ。
その事実は、北方出身のオオカミ獣人ラーシュにとっても変わらない。
湾港荷役のリーダーとして部下たちに夜の作業の引継ぎを終え、なるべく早く恋人と暮らすアパートへ帰りたいと急いでいたが、運悪く雨が降り出した。
まだ小雨のうちに走ろうとするも、雨脚のほうが一足早くラーシュに追いつく。
「チッ!」
本降りになった雨から逃れ、ラーシュは裏通りにある店の軒先へ駆け込む。
パタパタと上着をはたくと、染み込む前だった雨粒が転がり落ちていく。
頭の上にある黒い耳と、作業服から出ている黒い尻尾も、ふるふると震わせた。
この裏通りを真っすぐ抜ければ、アパートだ。
ザアザアと音を立てて降りしきる雨。
どんよりと黒い雲。
もうすぐ完全に日も沈む。
恋人のエーヴァの言葉を思い出す。
「夕方からは雨が降るから、傘を持って行ったほうがいいわ」
そうしてラーシュに、折りたたみ傘を差しだしてくれたのに。
折りたたみ傘をちまちま畳むのが嫌いなラーシュは、面倒くさがって断った。
「そのときは走って帰るよ」
そう言ったものの、この雨の強さにはうんざりした。
もう一度、灰色の目で空を見上げる。
雨はまだしばらく止みそうになかった。
◇◆◇
20歳のとき、ラーシュは北方の田舎町から街へ出てきた。
幼馴染だったトナカイ獣人のエーヴァが一足先に20歳になり、街で教師の職についたからだ。
このままではエーヴァに忘れ去られてしまうのではないか。
エーヴァが街で悪い男に引っかかってしまうのではないか。
心配で後を追ってきた。
なんのことはない、ラーシュはエーヴァに惚れていた。
田舎町にいるときから、もう10年以上もだ。
身ひとつで街に出てきたラーシュ。
1つ年上のエーヴァには呆れられた。
職のあてもなく出てきてどうするの、と叱られた。
それでも一緒にいたくて、なんとか港湾荷役の仕事に就いた。
ラーシュはオオカミ獣人だけあって体格がよく、力には自信があった。
あっという間に抜きんでて、リーダーにもなれた。
エーヴァのアパートに転がり込んで、成り行きで同居させてもらった。
それが同棲に変わるまで、一年もかからなかった。
エーヴァは古い考えがはびこる田舎町にいるにはもったいないくらいの才女で、町長からも街で職を探した方がいいとしきりに奨められていた。
いつの間にか教師になるための試験を受けて合格し、街の就職先まで決めていたエーヴァ。
弟のように見られていたラーシュが、焦るのももっともだ。
ラーシュはなんとか親を説得し、街に出ることを許してもらった。
成人する20歳までは駄目だと言われ、指折り数えてその日を待ったものだ。
(どうか誰のものにもならないで――)
そう願いながら。
会えなかった一年間が、ラーシュの想いをさらに深め、エーヴァを求めさせた。
エーヴァも慣れ親しんだ田舎町を離れての新生活に、寂しさを感じていたのかもしれない。
知った顔のない街での暮らしが、自然とふたりの距離を近くした。
そこに付けこむような真似だったとしても、ラーシュはよかった。
優しくて賢くて美しい、聖母のようなエーヴァ。
ずっとずっと好きだった。
そのエーヴァを腕の中に囲うことが出来た夜のことは、今でも忘れられない。
エーヴァは初めてだった。
もちろんラーシュもそうだ。
初めて同士のふたりが、今日のように寒い冬の日に体を寄せ合い、ぎこちなく温め合った。
「エーヴァ、ここを触ってもいい?」
ふたりで全裸になったものの、どこを触っていいのか分からないラーシュは、ひとつひとつエーヴァに聞きながら確かめていった。
「ここが気持ちいいの? 声が出てるよ」
「い、言わなくていいから……」
「どうして? 言ってくれないと、俺には分からないのに」
しゅんとするラーシュに気を遣ったのか、エーヴァはそれから素直に教えてくれるようになった。
「ここは? どうされるのが好き?」
「触って……もっと」
「指で先端をこするのと、側面からしごくのと、どっちがいい?」
「やだ、そんな……」
「どっちも同時にしようか? あ、大きくなった?」
「あぁ、あ……」
控えめなエーヴァの喘ぎ声に、ラーシュはやたらと興奮した。
「エーヴァの体、柔らかくていい匂いがする。どこもかしこも、大好きだよ」
丁寧に丁寧にエーヴァの体をほぐし、完全にエーヴァが脱力してしまってから、ラーシュは己の楔をエーヴァの中にゆっくり侵入させた。
本懐を遂げたラーシュが感動して泣いてしまっても、エーヴァは笑わずに受け止めてくれた。
抜き差しするのがもったいないほどの温もり。
ぬめぬめと柔らかく、包み込んでくれるエーヴァの膣が愛しくて。
ラーシュはしばらく動けなかった。
静かに抱き合い、見つめ合う時間は穏やかで、尊い。
幸せだった。
初めてだったこともあり、数回の抽挿でラーシュは達してしまう。
それを見届けて、疲れたのだろうエーヴァは眠ってしまった。
裸のエーヴァと同じベッドで眠ることは、ラーシュにとって苦しみでもあり悦びでもあった。
翌朝、朝立ちしているラーシュを見て、エーヴァが困ったように照れたように、「したいの?」と聞いてきたのは効いた。
もちろん、頭を下げてお願いして、させてもらった。
エーヴァの体の負担を考えて、短めの1回で止めたラーシュは、褒められていいと思う。
◇◆◇
そのときからラーシュは、エーヴァにプロポーズし続けていた。
もう恋人になって4年が経つ。
そろそろエーヴァがうなずいてくれそうな気配がある。
ラーシュは毎日その瞬間を、心待ちにしているのだった。
真っ暗になった空を見上げる。
「止みそうにないな。今日はエーヴァよりも先に帰って、部屋を暖めてやろうと思っていたのに」
共働きの二人は、家事を分担していたが、いくら頑張ってもラーシュには料理だけが出来なかった。
とんでも料理を作り上げてしまうだけならまだしも、ラーシュが調理器具やコンロを使えなくしてしまうので、早々にエーヴァからキッチンへの立入禁止命令が出された。
その代わりに、ラーシュは掃除を頑張ることにした。
エーヴァはキレイ好きだから、アパートの中がピカピカだと喜ぶ。
それがラーシュは嬉しかった。
疲れて帰ってくるエーヴァに、ゆっくりお湯につかって欲しくて、昨日は浴室を磨き上げた。
トナカイ獣人のエーヴァは、頭に角が生えている。
自分で腕を伸ばして髪を洗うのが大変そうなので、時間が許す限りラーシュが洗ってあげている。
浴槽に寝そべるエーヴァが、髪を洗われて気持ちよさそうにして、時々眠ってしまうのが可愛いのだ。
今日も早く帰宅して、そうするつもりだった。
それが、折りたたみ傘を畳むのを面倒くさがったせいで、こんなところで時間を取られてしまっている。
「仕方がない、濡れてもいいから走って帰るか」
ラーシュがそう決意して、雨の中に足を踏み出そうとしたときだ。
雨宿りしていた軒先に、誰かが走り込んできた。
ラーシュのように雨から逃れてきたのだろう。
もう出て行こうとしていたラーシュは、場所を譲ろうとしたが、その前に鼻を突く匂いに囚われた。
(なんだ、この匂い――腐った果実みたいだ)
ドロリと甘ったるい濃厚な匂いが、ラーシュの足を引き留める。
ぐわんぐわんと頭が揺れ、どっどっと心臓が痛いほど脈打つ。
ハアハアと息が上がり、ぎらぎらした目で侵入者を見てしまう。
(俺はどうしてしまったんだ? こいつから目が離せない)
ぷるぷると頭を振って、垂れた白い耳と顎のあたりで切りそろえられた白い髪についた雨粒を払っているのは、小柄なウサギ獣人だった。
ふと顔を上げて、その赤色の目がラーシュの灰色の目と絡んだ瞬間、ラーシュの理性がブチ切れる音がした。
夜が近づけばなおさらだ。
その事実は、北方出身のオオカミ獣人ラーシュにとっても変わらない。
湾港荷役のリーダーとして部下たちに夜の作業の引継ぎを終え、なるべく早く恋人と暮らすアパートへ帰りたいと急いでいたが、運悪く雨が降り出した。
まだ小雨のうちに走ろうとするも、雨脚のほうが一足早くラーシュに追いつく。
「チッ!」
本降りになった雨から逃れ、ラーシュは裏通りにある店の軒先へ駆け込む。
パタパタと上着をはたくと、染み込む前だった雨粒が転がり落ちていく。
頭の上にある黒い耳と、作業服から出ている黒い尻尾も、ふるふると震わせた。
この裏通りを真っすぐ抜ければ、アパートだ。
ザアザアと音を立てて降りしきる雨。
どんよりと黒い雲。
もうすぐ完全に日も沈む。
恋人のエーヴァの言葉を思い出す。
「夕方からは雨が降るから、傘を持って行ったほうがいいわ」
そうしてラーシュに、折りたたみ傘を差しだしてくれたのに。
折りたたみ傘をちまちま畳むのが嫌いなラーシュは、面倒くさがって断った。
「そのときは走って帰るよ」
そう言ったものの、この雨の強さにはうんざりした。
もう一度、灰色の目で空を見上げる。
雨はまだしばらく止みそうになかった。
◇◆◇
20歳のとき、ラーシュは北方の田舎町から街へ出てきた。
幼馴染だったトナカイ獣人のエーヴァが一足先に20歳になり、街で教師の職についたからだ。
このままではエーヴァに忘れ去られてしまうのではないか。
エーヴァが街で悪い男に引っかかってしまうのではないか。
心配で後を追ってきた。
なんのことはない、ラーシュはエーヴァに惚れていた。
田舎町にいるときから、もう10年以上もだ。
身ひとつで街に出てきたラーシュ。
1つ年上のエーヴァには呆れられた。
職のあてもなく出てきてどうするの、と叱られた。
それでも一緒にいたくて、なんとか港湾荷役の仕事に就いた。
ラーシュはオオカミ獣人だけあって体格がよく、力には自信があった。
あっという間に抜きんでて、リーダーにもなれた。
エーヴァのアパートに転がり込んで、成り行きで同居させてもらった。
それが同棲に変わるまで、一年もかからなかった。
エーヴァは古い考えがはびこる田舎町にいるにはもったいないくらいの才女で、町長からも街で職を探した方がいいとしきりに奨められていた。
いつの間にか教師になるための試験を受けて合格し、街の就職先まで決めていたエーヴァ。
弟のように見られていたラーシュが、焦るのももっともだ。
ラーシュはなんとか親を説得し、街に出ることを許してもらった。
成人する20歳までは駄目だと言われ、指折り数えてその日を待ったものだ。
(どうか誰のものにもならないで――)
そう願いながら。
会えなかった一年間が、ラーシュの想いをさらに深め、エーヴァを求めさせた。
エーヴァも慣れ親しんだ田舎町を離れての新生活に、寂しさを感じていたのかもしれない。
知った顔のない街での暮らしが、自然とふたりの距離を近くした。
そこに付けこむような真似だったとしても、ラーシュはよかった。
優しくて賢くて美しい、聖母のようなエーヴァ。
ずっとずっと好きだった。
そのエーヴァを腕の中に囲うことが出来た夜のことは、今でも忘れられない。
エーヴァは初めてだった。
もちろんラーシュもそうだ。
初めて同士のふたりが、今日のように寒い冬の日に体を寄せ合い、ぎこちなく温め合った。
「エーヴァ、ここを触ってもいい?」
ふたりで全裸になったものの、どこを触っていいのか分からないラーシュは、ひとつひとつエーヴァに聞きながら確かめていった。
「ここが気持ちいいの? 声が出てるよ」
「い、言わなくていいから……」
「どうして? 言ってくれないと、俺には分からないのに」
しゅんとするラーシュに気を遣ったのか、エーヴァはそれから素直に教えてくれるようになった。
「ここは? どうされるのが好き?」
「触って……もっと」
「指で先端をこするのと、側面からしごくのと、どっちがいい?」
「やだ、そんな……」
「どっちも同時にしようか? あ、大きくなった?」
「あぁ、あ……」
控えめなエーヴァの喘ぎ声に、ラーシュはやたらと興奮した。
「エーヴァの体、柔らかくていい匂いがする。どこもかしこも、大好きだよ」
丁寧に丁寧にエーヴァの体をほぐし、完全にエーヴァが脱力してしまってから、ラーシュは己の楔をエーヴァの中にゆっくり侵入させた。
本懐を遂げたラーシュが感動して泣いてしまっても、エーヴァは笑わずに受け止めてくれた。
抜き差しするのがもったいないほどの温もり。
ぬめぬめと柔らかく、包み込んでくれるエーヴァの膣が愛しくて。
ラーシュはしばらく動けなかった。
静かに抱き合い、見つめ合う時間は穏やかで、尊い。
幸せだった。
初めてだったこともあり、数回の抽挿でラーシュは達してしまう。
それを見届けて、疲れたのだろうエーヴァは眠ってしまった。
裸のエーヴァと同じベッドで眠ることは、ラーシュにとって苦しみでもあり悦びでもあった。
翌朝、朝立ちしているラーシュを見て、エーヴァが困ったように照れたように、「したいの?」と聞いてきたのは効いた。
もちろん、頭を下げてお願いして、させてもらった。
エーヴァの体の負担を考えて、短めの1回で止めたラーシュは、褒められていいと思う。
◇◆◇
そのときからラーシュは、エーヴァにプロポーズし続けていた。
もう恋人になって4年が経つ。
そろそろエーヴァがうなずいてくれそうな気配がある。
ラーシュは毎日その瞬間を、心待ちにしているのだった。
真っ暗になった空を見上げる。
「止みそうにないな。今日はエーヴァよりも先に帰って、部屋を暖めてやろうと思っていたのに」
共働きの二人は、家事を分担していたが、いくら頑張ってもラーシュには料理だけが出来なかった。
とんでも料理を作り上げてしまうだけならまだしも、ラーシュが調理器具やコンロを使えなくしてしまうので、早々にエーヴァからキッチンへの立入禁止命令が出された。
その代わりに、ラーシュは掃除を頑張ることにした。
エーヴァはキレイ好きだから、アパートの中がピカピカだと喜ぶ。
それがラーシュは嬉しかった。
疲れて帰ってくるエーヴァに、ゆっくりお湯につかって欲しくて、昨日は浴室を磨き上げた。
トナカイ獣人のエーヴァは、頭に角が生えている。
自分で腕を伸ばして髪を洗うのが大変そうなので、時間が許す限りラーシュが洗ってあげている。
浴槽に寝そべるエーヴァが、髪を洗われて気持ちよさそうにして、時々眠ってしまうのが可愛いのだ。
今日も早く帰宅して、そうするつもりだった。
それが、折りたたみ傘を畳むのを面倒くさがったせいで、こんなところで時間を取られてしまっている。
「仕方がない、濡れてもいいから走って帰るか」
ラーシュがそう決意して、雨の中に足を踏み出そうとしたときだ。
雨宿りしていた軒先に、誰かが走り込んできた。
ラーシュのように雨から逃れてきたのだろう。
もう出て行こうとしていたラーシュは、場所を譲ろうとしたが、その前に鼻を突く匂いに囚われた。
(なんだ、この匂い――腐った果実みたいだ)
ドロリと甘ったるい濃厚な匂いが、ラーシュの足を引き留める。
ぐわんぐわんと頭が揺れ、どっどっと心臓が痛いほど脈打つ。
ハアハアと息が上がり、ぎらぎらした目で侵入者を見てしまう。
(俺はどうしてしまったんだ? こいつから目が離せない)
ぷるぷると頭を振って、垂れた白い耳と顎のあたりで切りそろえられた白い髪についた雨粒を払っているのは、小柄なウサギ獣人だった。
ふと顔を上げて、その赤色の目がラーシュの灰色の目と絡んだ瞬間、ラーシュの理性がブチ切れる音がした。
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