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六話 お相手は誰?(ルート分岐あり)

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 ゾフィが学園を卒業して2年が経った。

 ゾフィは20歳、ルトガーは22歳、エメリヒは19歳になった。



 ゾフィは妃教育を完遂し、ルトガーは10年後に戴冠を控え、エメリヒは正式に騎士の称号を得た。

 そしてここに来てようやく、内務大臣の長兄クリストフと財務大臣の次兄ダニエルが力を合わせ、ルトガーの婚約者という立場からゾフィを解放した。

 そこにはエメリヒの、国王陛下の寵愛を利用した暗躍もあったとか。

 つまり、ゾフィが現在どうなっているのかというと――。



「これまでずっと婚約者として仲良くやってきたじゃないか。それなのにゾフィは俺を捨てるのか?」

「これからは僕がゾフィを護るよ。もう誰にもゾフィを奪わせない。ねえ、どうか僕を選んで?」



 ルトガーとエメリヒから、求婚されている。

 ゾフィも20歳だ。

 二人の気持ちをはき違えたりしない。

 二人は真剣にゾフィを愛し、ゾフィを求めているのだ。

 そして、ゾフィの気持ちがどちらにあるのか、それは……。



 ◇◆◇



 

 ここから、ルトガー・エメリヒ・二人の王子の順にルート分岐します。

 お好きなルートを選んでお進みください。



 

 ◇◆◇



 ゾフィはルトガーを選んだ。



「ゾフィ、俺はお前の献身に救われた。周りが見えていなくて、荒れる一方だった幼稚な俺のままでは、おそらく王太子には選ばれていなかっただろう」

「そんなことはないと思うけどね。ルトガーはちょっとだけ、ボタンを掛け違えていたんだよ」

「そうか? だったらゾフィがそれを正してくれたんだな」



 ルトガーはゾフィの指を恭しく持ち上げ、口づけを落とす。

 一本一本に、愛しいと言うように。



「俺はお前ほど王妃にふさわしい女はいないと思う。賢くて、心優しくて、ときに大胆で。お前は本当に、いい女だよ」



 ルトガーの色気のある声に、だんだんゾフィの脳内が酔わされていく。

 髪色のように赤くなる頬を、ルトガーが指の腹ですいと撫でる。



「お前を王妃にしたかった。そのためには、俺が王太子にならないと。そう思って今日まで頑張ったんだ。あの日、俺に塩分濃度の公式を教えてくれた日、俺はもうお前に惚れていた」



 ルトガーは、ゾフィの大人になった体を、両腕の中に囲ってしまう。

 たった2つ年上なだけなのに、ルトガーには得も言われぬ男の艶がある。

 そんなルトガーに求められて、開かない花はないだろう。



「愛している。ゾフィを。ずっと、ずっとだ」



 ルトガーはゾフィの美しい灰色の瞳を見つめる。

 そしてゆっくり、ゾフィの唇に自分の唇を寄せた。



「これからも、俺を支えてくれ。一緒にこの国を治めていこう」



 ルトガーから贈られた恋人同士の深い口づけに、ゾフィはうっとりと瞼を閉じる。

 熱い、二人の世界に旅立つために。





 ≪ルトガールート完≫



 ◇◆◇



 ゾフィはエメリヒを選んだ。



「良かった、本当に良かった。あのまま、ルトガーに奪われてしまうんじゃないかと……」



 ゾフィは久しぶりにエメリヒを抱きしめる。

 エメリヒの緑色の瞳が、いつもより潤んでいたから。

 きっと泣いているのをゾフィには見られたくないだろう。



「エメリヒ、私たちの出会いは運命だったのよ。私たちは友だちになって、親友になって、これからは夫婦になるの」

「あの日、僕にはバラ園に現れたゾフィが、赤バラの精に見えたんだ。真っ赤な髪がとても美しくて、白いドレスがとても可憐で。僕は、君はだあれ? と聞いたよね。そうしたらゾフィは友だちよ! って答えてくれて。僕の幸福は、そこから始まったんだよ」



 エメリヒが力強く抱きしめ返してくる。

 太い腕に絡めとられ、厚い胸に押しつけられ、たくましい筋肉の感触が心地よい。



「勇敢なゾフィに護られてばかりの、情けない僕が嫌だった。絶対に僕がゾフィを護ると、剣に誓った」

「エメリヒは立派な騎士よ。いつだって、私を護ろうとしてくれた。それこそ小さなときからね」



 ゾフィはエメリヒの頬を両手で挟む。

 エメリヒのきらめく緑色の瞳は、グリーンアイスのバラのよう。

 真っすぐに射抜かれて、ゾフィはぞくりと身震いをする。



「ゾフィ、君が好きだ。僕のすべてをゾフィに捧げるよ」



 力強い視線と誓いの言葉に、ゾフィはエメリヒの雄をひしひしと感じたのだった。





 ≪エメリヒルート完≫

 

 ◇◆◇



 ゾフィはどちらも選べなかった。



「俺たちのどちらも選べないってことは」

「僕たちのどちらも好きということだね」



 ゾフィは、兄王子ルトガーと弟王子エメリヒの、共通の妻になった。



「おかしいわよね? これは重婚罪になるんじゃないの?」

「父上だって妃が二人いるではないか」

「王族だから許されているようなものだね」



 焦るのはゾフィだけ。

 ルトガーとエメリヒは、まるで気にしていない。

 二人の夫との夜の生活はどうしているかって?

 ここで少しだけ、切り抜きを紹介するわよ?



「おい、もっと優しくできないのか? なんだって騎士ってのはこう荒々しいんだ。大丈夫か、ゾフィ? 俺が口移しで水を飲ませてやろうな」

「今は僕の番だ、ゾフィに触るな。そこで黙って見ていろ」



 こんな感じで、私は二人の夫に愛されているのだけど。



「もし子どもが出来たらどうなるの?」

「問題ないだろう? 俺たち二人の子どもなら、必ず緑色の瞳で産まれてくる」

「緑色の瞳で産まれた子どもには、王位継承権があるんだ。僕たちのどちらの子どもを産んだとしても、子どもの将来は安泰だよ」



 ゾフィたちの奇妙な関係に、国王陛下と正妃レオノーレさまは複雑な顔をして、側妃ザビーネさまはコロコロ笑っていたとか。



「孫の顔を見れば、たいていの祖父母はなんでも許すようになる」



 長兄クリストフと次兄ダニエルからの余計なアドバイスは無視した。

 これ以上、夜の生活の回数が増えられてはゾフィの体が困るのだ。



「私が産む子どもの髪の色で、二人はケンカしない? 金髪か黒髪か、気にならない?」

「なんとなくだけど、僕は最初に産まれる子どもの髪は赤い気がするんだ」

「俺もそう思っている。ゾフィと同じ美しい赤い髪を持って産まれてくるはずだ」



(えええ? ここに来てカレンベルク公爵家の血の強さが出ちゃうの?)



「ゾフィ、赤い髪の子どもの次は、黒い髪の子どもがいいよね」

「何を言っている、金髪だ! 赤の次は金!」



 やっぱりケンカするんじゃない、この兄弟。

 もうずっと赤い髪の子どもが産まれればいいのかもしれない。



 ゾフィがなんとなく思いついた解決策だったが、これが見事に的中する。

 ゾフィはその後、三人の息子に恵まれるが、全てカレンベルク公爵家の赤い髪を持って産まれてきた。

 瞳の色は王族の緑だったが、顔つきは冷酷なゾフィにそっくりだ。

 二人の夫はこれをたいそう喜んだ。



「ゾフィが増えた!」

「息子がみんな可愛い……」



 怖い顔でさんざん苦労をしたゾフィからは、考えられない感想だった。

 王城におけるカレンベルク公爵家の顔が占める割合が増えるな、と内務大臣の長兄と財務大臣の次兄は笑っていた。

 それはどんな勢力図だ。



 三人目の息子を産んだ年に、ルトガーが戴冠し国王となる。

 それに合わせてゾフィは王妃となり、エメリヒは騎士団長に就任した。

 担う責任はそれぞれ増えたが、ゾフィは二人の夫と三人の息子に囲まれ、末永く幸せに暮らしたのだった。





≪二人の王子ルート完≫

 
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