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八話 黒幕の存在

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 アラスターがこっそり第一王子の身辺を探った結果、黒だった。

 第一王子とリコリスはかなり以前から体の関係があり、イヴリン嬢もそれを知っていて黙殺しているのだそうだ。

 アラスターは、その事実が判明してからしばらく腑抜けていた。

 第一王子にもっと大事にされてしかるべきと思っていたイヴリン嬢が、とっくの昔に傷つけられていたのだ。

 それでも第一王子を信じて託すべきか、それとも――。



 第七回役員会議では、前期で好評だった『もったいない制服』と『もったいないバザー』を再度開催すると決まった。

 前回の『もったいない制服』は夏服を展示したので、今回は冬服を展示することにする。

 そして『もったいないバザー』は、会場を施錠した鍵をベネディクトに預かってもらうことにした。

 万全の対策が気に入らないのか、リコリスは始終しかめっ面だった。

 来月は最後の役員会議だ。

『もったいない革命』を次年度の生徒会へ引き継ぐため、手引き書を制作することが決まっている。

 それが終われば冬休み、そして卒業だ。

 マイルズは念願だった宰相補佐になる。

 アラスターはこれからも帝王学の勉強が続くのだそうだ。

 むしろこれからが本番だと言っていた。

 私は、まだ自分の進路を決めきれないでいる。

 そんなそわつく空気の中、事件は起きた。



 ◇◆◇



 バートランドはこの国の第一王子だ。

 このままいけば王太子となり、ゆくゆくは国王陛下となる。

 その驕りが、バートランドを傲慢にした。

 贅沢を好み、肉欲に溺れ、国王陛下からの叱責にも堪えない。

 ほとほと手を焼いた王妃が、しっかり者の婚約者をあてがったが、それすらも蔑ろにした。

 そして今、バートランドが寵愛しているのがリコリスだった。

 バートランドが贈る宝飾品が高ければ高いほど、喜んで受け取る女だ。

 そこがとても可愛いと思っている。

 婚約者のイヴリンは、高いほど顔をしかめる。

 そして二言目にはこうだ。



「国民の税金です。もっと使い方があったのでは?」



 せっかく選んでやった宝飾品を、国民の税金だと?

 とたんに価値が無くなったように感じたものだ。

 美しい宝飾品を、そんな目でしか見れないなんて。

 そんな女は俺には不釣り合いだ。

 もっと贅沢を好み、俺と同じく肉欲に溺れる女がいい。

 リコリスはそんな女だから愛でてやっている。

 ある日、リコリスが俺に相談をしてきた。

 面倒なことであれば断ったが、弟に関係することだった。

 俺は弟が嫌いだ。

 あいつは何でもおもしろがる。

 そして俺以上にうまくやってみせる。

 腹が立つが所詮は弟だ、俺の下だ。

 それを分からせてやるためにも、弟が励んでいるという『もったいない革命』にちょっかいを出した。

 リコリスの企みに手を貸してやったのだ。

 長い黒髪のかつらなど、俺に用意できないものではない。

 しかし、その作戦は失敗したと言っていた。

 歯がゆいな。

 どうせなら直接、相手を叩くほうがいい。

 俺は一計を案じた。

 父上に頼んで寸劇の役を代わってもらったのだ。

 俺が『もったいない革命』に感銘を受けたと言えば、喜んで父上は衣装と台本を渡してくれた。

 まあ、台本などいらないくらい、母上からは寸劇を見せられて台詞は覚えていたのだが。

 そして退場の間際に、弟がいるだろう観客席に向かって叫んでやった。

 金は廻るものだ。

 使わないと入ってこない。

 俺たち金持ちが金を使わなかったら、貯まるいっぽうだろう?

 そんなことも分からない馬鹿者どもが、学園の生徒会役員など笑わせる。

 バートランドは自分が学園に通っていたとき、生徒会役員になれなかったことを思い出した。



「くそっ!」



 頭でっかちなやつらには、世の中のことなど分からないのだ。

 せいぜい学園の中で、自治ごっこでもしていろ。

 俺は本物の政治を動かすんだ。

 もっと大きな視野を持たなくてはならない。

 どんどん金を使って、金の流れを止めない。

 国を豊かにする方法はこれしかない。

 ケチケチした『もったいない革命』など、俺の時代にはお呼びではないのだ。

 

 ◇◆◇



「遣い込み? どういうことですの?」

「僕も昨日、知ったことなんだ。兄上が僕の私財を遣い込んでいたらしく、それが父上にバレて自室に軟禁された」

「バートランド王子が……そんなことを?」



 第一王子とリコリスの関係が明らかになり、大きな権力を持つ黒幕相手にこれからどう対策しようか考えていた矢先だった。



「アラスターの私財を遣い込む? バートランド王子にも私財はあるだろうに、嫌がらせか?」



 マイルズは訳が分からないという顔をしている。



「それが、兄上の私財はほぼ空っぽだったんだ。兄上の側近がそれを父上には隠していた。それで……どうせ使っていないのだからと、僕の私財に手を出したらしい。今、使っていないからといって、将来も使わないとは限らないのにね」



 アラスターは悲しそうだ。

 兄弟仲が悪いとは聞いていなかったが、実際は違ったのだろうか。



「僕は王位には興味がなかったし、兄上が継げばいいと思っていた。たしかに奔放なところがある兄上だけど、国王になればそれも落ち着くと思っていたんだ。何しろ肩の荷の重い仕事だ。若いうちは遊ぶこともあっていいと思っていた」



 だけど、とアラスターは続ける。



「誰かを傷つけてまで、やっていいことじゃない。イヴリン嬢の心しかり、僕の懐しかりだ。兄上はそこを逸脱してしまった。父上も堪忍袋の緒が切れたようだ」



 これまで一言もしゃべったことがなかったクリフォードが初めて発言した。



「王太子には、アラスターさまが任命されることが決まりました」



 ジェニファーは初めて聞いたクリフォードの声にも、その内容にも驚いた。



「アラスター、お前はそれでいいのか? 今まで少しも王位に就くことを考えていなかったのだろう?」



 マイルズはアラスターを心配する。



「そうだね、今まではそうだった。でも、イヴリン嬢のことを考えると――」



 アラスターは顔をうつむかせた。



「彼女のこれまでの献身に報いたい。僕にそれが許されるなら……」



 苦しそうに吐露したのだった。

 クリフォードがアラスターの背をさする。

 クリフォードがまたビックリ発言をした。



「実は、イヴリン嬢は王太子妃としての教育を受けておられるので、今後はアラスターさまの婚約者になるのです」

「え!?」



 ジェニファーとマイルズの声がかぶる。

 アラスターの無自覚な恋心を知っている私たちは、これはアラスターの立太子を応援するしかないと決意した。
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