7 / 11
七話 寸劇のアクシデント
しおりを挟む
マイルズの言っていた通り、王妃さまはノリノリだった。
お友だちにも声をかけて寸劇の練習をしているそうだ。
アラスターが呆れていた。
「毎日、練習を見せられる身にもなってくれ。あ、もしかしたら父上もチョイ役で出るかもしれない」
国王陛下が出演するなんて前代未聞だ。
思っていたより大事になってきたわね。
ちらりとリコリスを見ると、リコリスも緊張していた。
あなたが犯人だとは思いたくないけど、もし犯人だったら考え直してちょうだい。
国王陛下もいらっしゃる場で、おかしなことをしては万が一の場合、不敬罪になってしまう。
いたずらではとても済まされないのだ。
私たちは先生たちとの話し合いや、出演を希望してくれた父母との連絡で数週間を費やした。
第六回役員会では、『もったいない父母参観』の最終確認をした。
生徒だけでなく、父母までも巻き込んだ『もったいない革命』だ。
いつもより大掛かりになるのは仕方がない。
手抜かりのないよう、生徒会役員だけでなく、委員会からも人手を借りて、私たちは準備に明け暮れた。
誰もがワクワクしていた。
まるで前世の高校の文化祭みたいで、プログラムをつくったり会場設営の設計図を描いたり、どれも楽しかった。
私はすっかりここが乙女ゲームの世界であることを忘れていた。
だが、リコリスはそれを忘れていなかった。
◇◆◇
すべての準備を整えて迎える『もったいない父母参観』の日。
あとは先生たちに任せて、生徒である私たちは観客席に着いた。
ソロの歌唱から始まり、合奏やダンス、休憩時間も挟んでプログラムは問題なく進行していく。
そして大トリは、なんといっても王妃さまが登場する寸劇だ。
私とマイルズは横並びで観客席に座っている。
前の席にアラスターとクリフォードが座っている。
「解説なら任せてよ、もう何度も見たからね、この寸劇は」
ちょっと背もたれに寄り掛かり、食傷気味なのだとアラスターは言う。
いよいよ幕が上がる。
前のめりになる私とマイルズと違って、行儀の悪い恰好のままだったアラスターが、寸劇の途中で突然起き上がる。
「え? なんでチョイ役が父上じゃなくて兄上なんだ?」
どうやら国王陛下が演じるはずのチョイ役を、第一王子が代理で演じているらしい。
仮面をかぶった人物なので私たちには分からなかったが、アラスターには体つきと声で分かるのだそうだ。
「まあ、兄上も僕と一緒で毎日この寸劇を観せられたからな。台詞だって覚えているだろうよ」
そう聞いて安心して観ていた私たちだったが――。
演じ終えた第一王子が舞台のそでに退く瞬間、観客席を振り返りこう言った。
「我々には潤沢な金を使い、経済を回す義務がある!」
素早く立ち去ったので劇はそのまま進行したが、あきらかに不釣り合いなおかしな台詞だった。
「あんな台詞、なかったけどな?」
アラスターも首をかしげている。
しかし観客席から拍手がおきていた。
見るとリコリスがいる一角が、第一王子を讃えていた。
なんだか嫌な予感がする。
ジェニファーは第一王子の台詞を何度も繰り返し考えるのだった。
「あの台詞、私たちに向かって言ったのかもしれませんわ」
数日考えて、出した答えがそれだった。
ジェニファーはマイルズに相談していた。
「私たち生徒会役員は、『もったいない革命』に取り組んでいますわね? もったいないとは、今あるものを大事に使うってことですが、第一王子の台詞はそれとは正反対でしたわ」
「潤沢な金を使うってところ?」
「ええ。経済を回すなんて言い訳じみたことも仰ってましたわね」
ジェニファーは溜め息をつく。
「考えすぎかもしれないのですが、リコリスさんと第一王子が繋がっている可能性はないでしょうか? あの日の拍手、どうにも嫌な予感がしていますの」
「アラスターにも聞いてみよう。何か知っているかもしれない」
その日は生徒会活動のない日だったが、生徒会室の鍵を開けてもらい、アラスターとクリフォードの到着を二人で待った。
「なんだ? 二人きりのほうがいいんじゃないのか?」
笑いながらやってきたアラスターに、ジェニファーとマイルズはリコリスと第一王子のことを話す。
「ん~? どうだろうなあ、微妙だなあ。兄上は女好きだからな。もしリコリス嬢のほうから近づいたのなら、来るものは拒まずだろうしね」
しかし兄上も婚約者がいる身なのに参るよ、とアラスターは続けた。
「父上は許してないんだけど、兄上は側室制度を復活させようとしているんだ。それというのも母上が決めた兄上の婚約者と、全然そりが合わなくてさ」
アラスターは身内の恥だから、ここだけの話ねと前置きする。
「兄上は金にも女にもだらしがないところがあって、何度か父上に怒られてるんだ。そんな兄上のお目付け役が今の婚約者なわけ。そりが合う訳ないんだよ、定規のようにピシッとした人なんだ」
だが、アラスターは嫌いではないらしい。
「真っすぐっていいことだと思うんだ。ぐねぐねした兄上にはちょうどいいよ」
しかし第一王子のだらしなさは、矯正されていないようだ。
「もう少し僕も兄上を注視してみるよ。もしリコリス嬢と繋がっているのなら、絶対にまた僕たちの活動を邪魔してくるだろうからね。兄上はもったいないって感覚を、永遠に分からないような人だよ」
あ~あ、とアラスターは嘆き節だ。
そこへマイルズが突っ込んだ質問をする。
「アラスターが王太子になる気はないのか?」
ごとん、と音を立ててアラスターが椅子から落ちる。
クリフォードは見ているだけだ。
「ちょっとちょっと! 危ない発言は控えてよ! そういうの僕は苦手なんだから」
「なぜだ? 第一王子は頼りないのだろう?」
「でもあの人も頑張っているからさ、応援しているんだよね、僕」
アラスターが照れくさそうに言うあの人とは、第一王子の婚約者であるイヴリン嬢のことらしい。
「兄上も、そろそろ心を入れ替えればいいのになあ、イヴリン嬢があんなに一生懸命に寄り添ってくれているのに。もしこれでリコリス嬢と浮気していたら、僕は許せそうにないな」
どう見てもアラスターはイヴリン嬢に恋をしている。
本人に自覚はないのかしら?
私とマイルズは顔を見合わせるのだった。
お友だちにも声をかけて寸劇の練習をしているそうだ。
アラスターが呆れていた。
「毎日、練習を見せられる身にもなってくれ。あ、もしかしたら父上もチョイ役で出るかもしれない」
国王陛下が出演するなんて前代未聞だ。
思っていたより大事になってきたわね。
ちらりとリコリスを見ると、リコリスも緊張していた。
あなたが犯人だとは思いたくないけど、もし犯人だったら考え直してちょうだい。
国王陛下もいらっしゃる場で、おかしなことをしては万が一の場合、不敬罪になってしまう。
いたずらではとても済まされないのだ。
私たちは先生たちとの話し合いや、出演を希望してくれた父母との連絡で数週間を費やした。
第六回役員会では、『もったいない父母参観』の最終確認をした。
生徒だけでなく、父母までも巻き込んだ『もったいない革命』だ。
いつもより大掛かりになるのは仕方がない。
手抜かりのないよう、生徒会役員だけでなく、委員会からも人手を借りて、私たちは準備に明け暮れた。
誰もがワクワクしていた。
まるで前世の高校の文化祭みたいで、プログラムをつくったり会場設営の設計図を描いたり、どれも楽しかった。
私はすっかりここが乙女ゲームの世界であることを忘れていた。
だが、リコリスはそれを忘れていなかった。
◇◆◇
すべての準備を整えて迎える『もったいない父母参観』の日。
あとは先生たちに任せて、生徒である私たちは観客席に着いた。
ソロの歌唱から始まり、合奏やダンス、休憩時間も挟んでプログラムは問題なく進行していく。
そして大トリは、なんといっても王妃さまが登場する寸劇だ。
私とマイルズは横並びで観客席に座っている。
前の席にアラスターとクリフォードが座っている。
「解説なら任せてよ、もう何度も見たからね、この寸劇は」
ちょっと背もたれに寄り掛かり、食傷気味なのだとアラスターは言う。
いよいよ幕が上がる。
前のめりになる私とマイルズと違って、行儀の悪い恰好のままだったアラスターが、寸劇の途中で突然起き上がる。
「え? なんでチョイ役が父上じゃなくて兄上なんだ?」
どうやら国王陛下が演じるはずのチョイ役を、第一王子が代理で演じているらしい。
仮面をかぶった人物なので私たちには分からなかったが、アラスターには体つきと声で分かるのだそうだ。
「まあ、兄上も僕と一緒で毎日この寸劇を観せられたからな。台詞だって覚えているだろうよ」
そう聞いて安心して観ていた私たちだったが――。
演じ終えた第一王子が舞台のそでに退く瞬間、観客席を振り返りこう言った。
「我々には潤沢な金を使い、経済を回す義務がある!」
素早く立ち去ったので劇はそのまま進行したが、あきらかに不釣り合いなおかしな台詞だった。
「あんな台詞、なかったけどな?」
アラスターも首をかしげている。
しかし観客席から拍手がおきていた。
見るとリコリスがいる一角が、第一王子を讃えていた。
なんだか嫌な予感がする。
ジェニファーは第一王子の台詞を何度も繰り返し考えるのだった。
「あの台詞、私たちに向かって言ったのかもしれませんわ」
数日考えて、出した答えがそれだった。
ジェニファーはマイルズに相談していた。
「私たち生徒会役員は、『もったいない革命』に取り組んでいますわね? もったいないとは、今あるものを大事に使うってことですが、第一王子の台詞はそれとは正反対でしたわ」
「潤沢な金を使うってところ?」
「ええ。経済を回すなんて言い訳じみたことも仰ってましたわね」
ジェニファーは溜め息をつく。
「考えすぎかもしれないのですが、リコリスさんと第一王子が繋がっている可能性はないでしょうか? あの日の拍手、どうにも嫌な予感がしていますの」
「アラスターにも聞いてみよう。何か知っているかもしれない」
その日は生徒会活動のない日だったが、生徒会室の鍵を開けてもらい、アラスターとクリフォードの到着を二人で待った。
「なんだ? 二人きりのほうがいいんじゃないのか?」
笑いながらやってきたアラスターに、ジェニファーとマイルズはリコリスと第一王子のことを話す。
「ん~? どうだろうなあ、微妙だなあ。兄上は女好きだからな。もしリコリス嬢のほうから近づいたのなら、来るものは拒まずだろうしね」
しかし兄上も婚約者がいる身なのに参るよ、とアラスターは続けた。
「父上は許してないんだけど、兄上は側室制度を復活させようとしているんだ。それというのも母上が決めた兄上の婚約者と、全然そりが合わなくてさ」
アラスターは身内の恥だから、ここだけの話ねと前置きする。
「兄上は金にも女にもだらしがないところがあって、何度か父上に怒られてるんだ。そんな兄上のお目付け役が今の婚約者なわけ。そりが合う訳ないんだよ、定規のようにピシッとした人なんだ」
だが、アラスターは嫌いではないらしい。
「真っすぐっていいことだと思うんだ。ぐねぐねした兄上にはちょうどいいよ」
しかし第一王子のだらしなさは、矯正されていないようだ。
「もう少し僕も兄上を注視してみるよ。もしリコリス嬢と繋がっているのなら、絶対にまた僕たちの活動を邪魔してくるだろうからね。兄上はもったいないって感覚を、永遠に分からないような人だよ」
あ~あ、とアラスターは嘆き節だ。
そこへマイルズが突っ込んだ質問をする。
「アラスターが王太子になる気はないのか?」
ごとん、と音を立ててアラスターが椅子から落ちる。
クリフォードは見ているだけだ。
「ちょっとちょっと! 危ない発言は控えてよ! そういうの僕は苦手なんだから」
「なぜだ? 第一王子は頼りないのだろう?」
「でもあの人も頑張っているからさ、応援しているんだよね、僕」
アラスターが照れくさそうに言うあの人とは、第一王子の婚約者であるイヴリン嬢のことらしい。
「兄上も、そろそろ心を入れ替えればいいのになあ、イヴリン嬢があんなに一生懸命に寄り添ってくれているのに。もしこれでリコリス嬢と浮気していたら、僕は許せそうにないな」
どう見てもアラスターはイヴリン嬢に恋をしている。
本人に自覚はないのかしら?
私とマイルズは顔を見合わせるのだった。
5
お気に入りに追加
407
あなたにおすすめの小説
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった
白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」
な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし!
ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。
ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。
その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。
内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います!
*ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。
*モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。
*作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。
*小説家になろう様にも投稿しております。
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる