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第二話 ホワイトクリーム屋敷の夫妻
しおりを挟む南郊外の一等地に建つ優しいホワイトクリーム色の屋敷は他の貴族たちの屋敷に引けを取らないほどの大きさではあったが余計な装飾がなく、富を顕示しようという気概を感じられず、他の屋敷とはどこか一線を画した雰囲気があった。
屋敷の前に一台の馬車が到着する。御者が御者席を降りてタウンコーチ型の馬車の扉を開けると背が高く痩身で中老の男性が降りてきた。
彼が扉の前で手を差し出すと、中から白く滑らかな手が出てきて彼の手を掴んだ。エスコートされながら出てきたのは男性と同じ歳の頃に見える小柄なご婦人であった。
手と同様に色白の肌、肉づきのよい頬、柔らかい曲線を描いた目尻。その穏やかそうな顔は彼女の温厚な性格を表しているかのようだった。すると待ってましたと言わんばかりに屋敷の扉が開き強面の男が飛び出してきて屋敷の前に聳え立つ巨大な門を開けた。
「モランジット、そんなに急がなくてもいいのよ」
馬車のステップを降りながら夫人はくすくすと笑いながら言った。
「奥様をお待たせする使用人などおりません」
モランジットの声色はひどく一本調子で表情は石のように硬く、誰がどう見ても不遜な態度に映りそうなものだが、婦人は全く気にすることはなかった。
「ご苦労様ね、会えて嬉しいわ。しばらくよろしくね」
女性がにっこりと笑うとモランジットは寡黙に頭を下げ、今度は男性の方に向き直り再び頭を下げた。
「旦那様」
「相変わらず見事な管理だ」
男性は門の向こうに広がる屋敷を眺めながら言う。屋敷は長らく留守にしていたとは思えないほどの美しさであった。屋敷を取り囲むように植えられた花や木は生き生きと咲いており、玄関のドアに続く階段も磨きあげられている。建物にも雨のシミひとつ付いていない。
この屋敷はオフシーズンや特別な来客時のみ使用するいわば別荘である。それ以外は主人のいない空の屋敷になるため、モランジットと何人かの使用人たちで屋敷の管理を行っている。
モランジットは主人から褒められても表情一つ変えず先ほどと同様に頭を下げた。相当に寡黙で理性的な人間であることが伺える。
「あとは頼む」
男性が短くそう言うとモランジットは頭を上げて素早く荷馬車に積んだ荷物を降ろし始めた。彼らの間には多くの言葉はいらないらしい。
男性は傍らに立つ女性を再びエスコートするべく腕を差し出した。ホワイトクリーム色をした屋敷の主人である男性は妻が自分の腕を取るのを確認すると彼女に足並みを合わせ門の向こうに入って行った。
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