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プロローグ
しおりを挟むモランジットという男がいた。
男は寡黙に荷馬車を走らせていた。幸い今夜は風もない。春の予感めいた穏やかな気温は気持ちが良く、走るにはうってつけの日だった。馬の機嫌も良い。なんだか素敵な事でも起こりそうだ。彼を知る者達なら驚くであろう柄にもないことを思いながら、石のような強面の男は珍しくひっそりと鼻歌を歌いつつ馬を走らせた。
荷馬車はやがて一軒の屋敷の前に止まった。
貧富の差が激しい昨今に明らかに成功したことを窺わせるほど大きな屋敷であったが、富の匂いをひけらかすことなく屋敷は優しいホワイトクリームの色をしており、シンプルな装飾でどこか親しみすら感じさせる外観であった。
モランジットはそんな不思議な雰囲気の屋敷の裏手に周ると裏門を探した。ひっそりと佇む控えめな黒色の門を見つけると、荷馬車から降り、屋敷の主人から預かった鍵を懐から取り出し門を開く。再び荷馬車に飛び乗ると、馬を軽く叩いて門の向こう側へと入って行った。
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