上 下
29 / 38

10.魔女の子②

しおりを挟む


 ‡

 母である魔女の元で六年、そして外に出てからは五年過ごしていたと供述したため『偽魔女』の年齢はおよそ十一歳ということになる。
 のちに男児だと解った彼は、はじめから『魔女』として扱われていた。そのためリカルドが被害者かもしれないと思い、厳しい身体検査を禁止していた。今回の性別誤解はこのためおきた混乱だ。犯罪者は女子供関わらずまず身体検査をし、年齢性別、武器の有無などきちんと調べなければいけないという帝国法がある。

『いくら魔女寄りだからといってダメですよ、そういうの特例にさせたら』
『……魔女のそなたに言われるとつらいのだが』

 シャナの言葉に額を押さえたリカルドは、今後は通常通り行うと約束した。
 そして『偽魔女』――名をセラと名乗った少年は、シャナの指導のもと王城の裏の森の『魔女の家』に住むことになった。
 セラが幼いわりにかなり薬草に精通していることが解ったからだ。シャナが公務やなにかで忙しく薬草の世話が満足にできないため、移築された家の庭は若干元気を無くしている。

 森の外に出てから自分が絶対に『魔女』を継げないことが解っていたセラは、頬を紅潮させてシャナの家を見て回った。そこで夢に見た魔女生活ができるからだ。

『薬草の世話なら三歳からやってるから任せて!』

 黒髪に若草色の瞳が美しいセラは、元気よくそう言って魔女ごっこをはじめた。母の魔女の名前はいまだに口にせずヴィーラも手を焼いていたが、腕はいいのだ、本当に。

 仕事へ行くアズレトを見送ったシャナは、離宮からお菓子やパンを詰めたバスケットを抱えて、森に向かった。セラは魔女らしく朝から働いているようなので、お昼くらいは休憩して貰おうと思ったからだ。
 王城の裏の森に移築されたといっても、きちんと迷いの森は効力を発揮していて、結界が機能している。ココにはどんな軍隊が押し寄せてきても大丈夫だろう。まさに魔女の手によって造られた要塞だった。
 有事の際にはここに逃げ込むようにリカルドに木の札を渡しておこうとシャナは思っていた。

「セラ、お昼持ってきたよ」
「お姉ちゃん! ありがとう、ちょっと中で待ってて!」

 セラのまだ声変わりしていない可愛らしい声が響く。ああこれでは女と間違われても仕方ないだろうなとシャナは思いつつ、家に入った。魔女は必ず子が一人なので、姉妹はあり得ない。セラに『お姉ちゃん』などと呼ばれるとシャナはついこそばゆくなってしまった。
 魔女の家に入ると、ヴィーラが暖炉の鍋で何か煮ていて、ふわりと漂う薬草の匂いが懐かしい記憶を呼び覚ました。
 まだ母が生きていた頃、こんな光景を毎日見ていた。母はシャナと同じく小柄な女性だったのでヴィーラとは似ても似つかない。
 けれど、『大魔女』は森の魔女たち全員の母のような存在だ。あながち勘違いでもないのかもしれないとシャナは思った。

「あらシャナ、今日は一日婚約者と子作りじゃないの?」
「や、やめてヴィーラ。私は公務をお休みにしてもらったけど騎士様は忙しいのよ」
「ふーん。まあいいわ、スープが出来るから座んなさい」
「パンとチーズ持ってきたからここに置くね。あと、クルミといちじくのケーキ」
「最高の組み合わせじゃないの、ちょっと切り分けながら味見していい?」
「ヴィーラ、お行儀悪くするとセラに悪影響」
「切れ端を半分こしましょ? ね?」
「ヴィーラ……」

 暖炉の火で炙ったパンにチーズを乗せ、とろっとしかけたところでセラが家の中に戻ってきた。ウサギ肉と薬草のスープに、柔らかいパンとたっぷりのチーズ、デザートまである。
 森の魔女は質素な生活をしているので、昼食には思えないほどのご馳走だった。

「組織について思い出したことはあるの?」

 ほろほろと骨から離れるくらい煮込まれたウサギ肉を食べながら、シャナが問い掛けた。セラは一番大きなチーズの乗ったパンにかぶりついて、もぐもぐ咀嚼しながら首を捻る。

「うーん……」

 六歳で森の外に迷い出たセラは、近くの街で孤児達と路上生活をしていたが、すぐに妙な男達に因縁を付けられ攫われたと話していた。
 その黒髪は魔女だろう、薬を作れ、と脅されて暫くそこで傷薬や頭痛薬を作っていたという。それが驚く程よく効くと噂になり、二年ほど経ってからセラは別の組織に買われた。それが今回、一網打尽にされた麻薬組織だったのだという。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

処理中です...