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10.魔女の子②
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母である魔女の元で六年、そして外に出てからは五年過ごしていたと供述したため『偽魔女』の年齢はおよそ十一歳ということになる。
のちに男児だと解った彼は、はじめから『魔女』として扱われていた。そのためリカルドが被害者かもしれないと思い、厳しい身体検査を禁止していた。今回の性別誤解はこのためおきた混乱だ。犯罪者は女子供関わらずまず身体検査をし、年齢性別、武器の有無などきちんと調べなければいけないという帝国法がある。
『いくら魔女寄りだからといってダメですよ、そういうの特例にさせたら』
『……魔女のそなたに言われるとつらいのだが』
シャナの言葉に額を押さえたリカルドは、今後は通常通り行うと約束した。
そして『偽魔女』――名をセラと名乗った少年は、シャナの指導のもと王城の裏の森の『魔女の家』に住むことになった。
セラが幼いわりにかなり薬草に精通していることが解ったからだ。シャナが公務やなにかで忙しく薬草の世話が満足にできないため、移築された家の庭は若干元気を無くしている。
森の外に出てから自分が絶対に『魔女』を継げないことが解っていたセラは、頬を紅潮させてシャナの家を見て回った。そこで夢に見た魔女生活ができるからだ。
『薬草の世話なら三歳からやってるから任せて!』
黒髪に若草色の瞳が美しいセラは、元気よくそう言って魔女ごっこをはじめた。母の魔女の名前はいまだに口にせずヴィーラも手を焼いていたが、腕はいいのだ、本当に。
仕事へ行くアズレトを見送ったシャナは、離宮からお菓子やパンを詰めたバスケットを抱えて、森に向かった。セラは魔女らしく朝から働いているようなので、お昼くらいは休憩して貰おうと思ったからだ。
王城の裏の森に移築されたといっても、きちんと迷いの森は効力を発揮していて、結界が機能している。ココにはどんな軍隊が押し寄せてきても大丈夫だろう。まさに魔女の手によって造られた要塞だった。
有事の際にはここに逃げ込むようにリカルドに木の札を渡しておこうとシャナは思っていた。
「セラ、お昼持ってきたよ」
「お姉ちゃん! ありがとう、ちょっと中で待ってて!」
セラのまだ声変わりしていない可愛らしい声が響く。ああこれでは女と間違われても仕方ないだろうなとシャナは思いつつ、家に入った。魔女は必ず子が一人なので、姉妹はあり得ない。セラに『お姉ちゃん』などと呼ばれるとシャナはついこそばゆくなってしまった。
魔女の家に入ると、ヴィーラが暖炉の鍋で何か煮ていて、ふわりと漂う薬草の匂いが懐かしい記憶を呼び覚ました。
まだ母が生きていた頃、こんな光景を毎日見ていた。母はシャナと同じく小柄な女性だったのでヴィーラとは似ても似つかない。
けれど、『大魔女』は森の魔女たち全員の母のような存在だ。あながち勘違いでもないのかもしれないとシャナは思った。
「あらシャナ、今日は一日婚約者と子作りじゃないの?」
「や、やめてヴィーラ。私は公務をお休みにしてもらったけど騎士様は忙しいのよ」
「ふーん。まあいいわ、スープが出来るから座んなさい」
「パンとチーズ持ってきたからここに置くね。あと、クルミといちじくのケーキ」
「最高の組み合わせじゃないの、ちょっと切り分けながら味見していい?」
「ヴィーラ、お行儀悪くするとセラに悪影響」
「切れ端を半分こしましょ? ね?」
「ヴィーラ……」
暖炉の火で炙ったパンにチーズを乗せ、とろっとしかけたところでセラが家の中に戻ってきた。ウサギ肉と薬草のスープに、柔らかいパンとたっぷりのチーズ、デザートまである。
森の魔女は質素な生活をしているので、昼食には思えないほどのご馳走だった。
「組織について思い出したことはあるの?」
ほろほろと骨から離れるくらい煮込まれたウサギ肉を食べながら、シャナが問い掛けた。セラは一番大きなチーズの乗ったパンにかぶりついて、もぐもぐ咀嚼しながら首を捻る。
「うーん……」
六歳で森の外に迷い出たセラは、近くの街で孤児達と路上生活をしていたが、すぐに妙な男達に因縁を付けられ攫われたと話していた。
その黒髪は魔女だろう、薬を作れ、と脅されて暫くそこで傷薬や頭痛薬を作っていたという。それが驚く程よく効くと噂になり、二年ほど経ってからセラは別の組織に買われた。それが今回、一網打尽にされた麻薬組織だったのだという。
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