ヴァルプルギスの夜が明けたら~ひと目惚れの騎士と一夜を共にしたらガチの執着愛がついてきました~

天城

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4.鳥籠③

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「朱の魔女よ、そろそろ諦めてドレスを着たらどうだ」
「仕方ないですね、その黒の地味なやつにしてください」
「ああ、では侍女を呼ぼう。着せてもらうといい」
「え、自分で着られますが」
「コルセットもか?」
「は? コルセット?」
「……隣室に侍女を呼べ。朱の魔女よ、こちらの扉から向こうに行けるからな、戻る時もここを使ってくれ」

 さっさとシャナの背を押して隣の部屋へ行かせてしまったリカルドは振り返り、床に座り込んだアズレトを見下ろす。
 すっかり正気には戻っているらしく、アズレトの顔色は悪い。項垂れるようにしてリカルドに頭を垂れていた。

「お前のご執心の魔女は彼女で間違いないようだな」
「……」
「何もしていないぞ」
「……」
「おーい、アズレト。何もしていない。妾にならないかと聞いたが断られた」
「め、妾ッ!?」



 弾かれたように顔を上げたアズレトに、にんまり笑うリカルドの顔が近づく。アズレトの反応が心底楽しいとでもいうような表情で、リカルドは頷いた。

「魔女だとしてもあの美貌だ、許されるなら鳥籠に囲っておきたかったが難しそうだな」
「……陛下は、魔女殿を如何されるおつもりで」
「うん? 最近よく魔女の秘薬が噂になるだろう。あれがな、真っ赤な偽物でそうとうな粗悪品の麻薬らしい。あんなものが出回っては王都も数年で腐り落ちるだろう。今から魔女達を抱き込んでおいて、偽秘薬の摘発に向かおうと思ってな。偽物魔女が出て来た時のためだ。大魔女にはもう繋ぎをつけてある。緊急呼び出しの魔道具の操作も彼女に聞いた」
「そ、……それで先日、魔女達の名と特徴を?」

 長椅子に座ったリカルドは鷹揚に頷いてアズレトを見つめた。

「彼女達は特異な能力故に人の目を引き、危険に晒される存在だ。『穢れ』と合わせることで人から遠ざかり、回避してきたのだろうが……。それも限界で、そろそろ魔女の誘拐事件など起きてもおかしくない。そこで、もともと魔女との裏の繋がりがある皇室で保護を行おうと思う。もう少し大っぴらに皇帝の名を出して、後ろ盾にすればいいのではないか? というのが今回の趣旨だ」
「は、……はい」
「それで手始めに、お前のご執心の魔女を呼んでみたが妾は断られた」
「……なぜ妾に」
「城で保護して匿うには理由がいるだろう? 妾になるのが一番だと思ったのだ。勿論保護するだけで手を付ける気はなかったが。……しかし拒否されたので二つめの案だ。養女にするというのはどうだろう、と申し出た」

 にっこりと微笑むリカルドは、涼しげな銀の睫毛に縁取られたエメラルド色の瞳をもつ美男子だ。女性ならうっとりするような流し目だったが、アズレトはこの男がどれだけ性質が悪いか知っている。
 アズレトの背を、冷や汗が一筋流れ落ちた。

「よ、養女……? どなたのですか」
「私だ。つまり皇女にしてしまえば解決だろう、誰も手など出せまい。それでいま皇女らしく着飾らせていたんだが、どれも似合うな。あの黒髪にはどんな髪飾りでも似合う。ドレスも映える。いくら試作品を持って来させても決められず困っていたところだ。……これが娘を持つ父親の気持ちか、なかなか良い」
「陛下」
「うん? どうしたアズレト」
「……陛下は、なぜ他の魔女ではなく最初に彼女を」

 震える声で問い掛けるアズレトに、リカルドはニヤリと唇の端をつり上げてみせた。
 幼い頃からリカルドが練りに練った楽しい悪戯を行う時に見せる笑い方だ。ゾク、とアズレトの背に条件反射のような悪寒が走った。

「それはもう、彼女しかいないだろう。アズレトのお気に入りだからな。妾にしてもお前は足繁く会いに来るだろうし、養女にしたら――お前は私を『お義父様』と呼ぶのだ。これほど楽しいことがあるか?」

 アズレトは、先ほど剣を下げたことを心から後悔した。
 この男の心臓は、貫いておくべきだったのだ。



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