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しおりを挟むレフの深い青の瞳に、一瞬ギラリと熱が走った。ビクッと無意識に身体が反応する。レフのスイッチが入るとその色気に当てられて、いつからか過度に期待してしまうようになった。
毎日毎日、コマンドを使って触れ合っていればそんな風にもなるか。
まあ本当に簡単なコマンドしか使ってないんだけど。なにか起きたら怖いから。
初心者はこういうので無茶して怪我したりするんでしょう。そういうのは、嫌だなと思ったんだ。
ただ、俺のつたないコマンドでも、有能なレフは俺の内心を見透かすように色気たっぷりに迫ってくる。
抱き締めようとして『来い』と言ったら、後ろから抱きついてきてうなじに顔を擦り付けてきたりとか。密着度が半端なくて柄にもなくドキドキしてしまった。
マッサージの時に俺の身体を官能的な動きでさすってきて、際どいところにまで触れられて危うく『舐めて』と言ってしまいそうになったり。
こういうのはちょっと恥ずかしいな、と正直思う。年上なのに、しかも中身はさらにオジサンなのに、だいぶ年下のレフに翻弄されている。
「……閣下」
囁くように俺を呼んだ唇が、近付いてきた。
レフの唇は少し厚めで肉感的だ。最初の時、俺のモノを咥えてる様子なんかめちゃくちゃエロくて、それに口淫がものすごく上手くてびっくりした。キスも、やっぱり上手いんだろうか?
ドクドクと跳ねる心臓を抑え込みながらレフの唇を見つめる。彼は跪いた姿勢から背を伸ばしてこちらに近づき……思わず身を竦める俺の額にチュッと音を立ててキスをした。
「え、……──ッレフ!!」
すっかり唇を狙われていると勘違いしていた俺は、ブワッと赤面してレフを呼んだ。
どんな凄いキスをされてしまうのかと思ったのにとんだ肩透かしだ。俺の緊張を返してくれ。
詰るように呼んでもレフは目を細めただけで、また首を伸ばして今度は目尻に口付けてくる。それから頬、鼻先、顎、と柔らかい唇が何度も触れていった。
流石にくすぐったくて身を捩ると、椅子の肘置きにガッとぶつかってしまう。そこでようやく気がついた。身動きが、取れない。
──いつの間にか、レフは椅子と自分の身体で俺を押さえ込んでいた。
まるで逃さないとでも言うような……と、思った途端に顎の下にちゅうっと吸いつかれる。触れるだけの優しいキスから、いつの間にか肌に吸い跡がつくような感じにかわっていた。レフの唇は首筋に移り、器用な指先で俺の喉元のホックをくつろげる。
あらわになった鎖骨に、一際つよくキスされて吸い跡がのこされた。
「ッん、……レフ」
「閣下、ここでそのコマンドは酷いです」
「いや……あの」
「理性を試されているのですか」
いやいやいや、普通に!キスって言われたら普通にキスしないか!?
初心者らしくキスから始めようと思ったんだけど、いきなりそんなエロ仕様のキスいっぱいされて泣きそうなんですけど!
でもここで『まだ唇にキスされてない』と文句を言ったら、ものすごく欲しがっているようで恥ずかしい。もういっそ、酷いと言われるならその通り煽ってやろうか?
むくむくと反抗心が湧き上がる。Domなんだから、もう少しSubを翻弄してみたいじゃないか。
「お前に堪え性がないのを俺のせいにするな」
俺は出来る限りの不機嫌そうな顔をして、レフの身体を押し返した。
無言のままあっさりと退いたレフはまた俺の足元に跪き、俺の手を取ると指に何度も口付けてくる。ちゅ、ちゅ、と指の腹に触れていたキスが手の甲に移り、さらにそこに頬を押し付けてきた。すり、と擦れるレフの頬はいつも温かくてさらっとしている。
か、かわいい……と思う気持ちを必死に押し隠し、俺はふいっと顔を背けた。
「閣下」
「……」
縋るような声音にも返事をしないでいたら、触れていた手が離れた。ハッとしてレフの方を窺いたくなったのを我慢して、ソッと横目で様子を見る。
するとレフは絨毯の床に伏せ、おもむろに靴を履いた俺の足に顔を近づけていた。
あっ、と思ったが引くのが遅かった。革靴の足先に、レフの唇がほんの一瞬触れる。ガタン、と音を立てて立ち上がった俺はレフを置いて部屋を出た。
「閣下!」
追いかけてきたのを肩越しに見遣り、確認してから、俺は自分の部屋に急いだ。
俺は競歩みたいな早足で、後も振り返らず進む。レフの方は少し慌てた足音を立てて追ってきた。
途中の廊下に使用人はおらず誰ともすれ違わなかった。それにちょっとホッとする。
俺の顔はひどく赤面してて、とても見られたモノじゃないだろうから。
「閣下、どうか……」
先に部屋に入った俺を追いかけて扉を潜ったレフを、そのままバンッと横の壁に押し付ける。胸ぐらを掴んで屈ませて、驚いて半開きだった唇をキスで塞いだ。
かさついた唇をすこし被せて、ちゅっと軽く音を立てる。動かないレフの唇に、はぷっと噛み付くみたいにしてキスを深めた。浅く開いた唇に舌を差し入れて、恐る恐る、レフの舌に触れる。すり、と粘膜が擦れ合うと痺れるみたいな快感が走り、胸を疼かせた。
──その瞬間、いきなり背を抱き込まれてぎゅうっと強く抱擁された。驚いている暇もなく、重なっていた唇が一瞬離れて深く、重なる。
「ん、ふ、ぁッ……んん、ん、ふ、くぅ、んっ」
壁に押し付けていたのはこっちなのに、レフの胸板がむしろ壁だった。叩いても押してもびくともしない。
レフの舌が逃げる俺の舌を追ってきて口の中を追い回された。捕まって、絡め取られて、唾液をちゅうっと吸い上げられる。
余裕のないレフの舌が何度も何度も俺の口の中を深くまで犯してきて、足がガクガクと震えた。息の仕方がわからなくなって、呼吸困難みたいになる。
立っていられなくなって、ほぼレフの腕に支えられるように身体を預けていたら、ひょいと抱き上げられた。子供みたいに縦だっこでベッドまで運ばれる。
待て待て、ルシェールはこれでも三十路だぞ。
「閣下、……コマンドはまだ有効ですか」
「ん。舌が、まだしびれてるけど」
「もっと痺れると思います」
「……いいよ。もっと、口付けて」
ベッドに転がった俺の上に、レフがのしかかってくる。きっちり着込んでいた服を少しずつ乱され、一枚一枚剥がれされていった。
その間も啄むように唇を合わせて、はあ、と乱れた息が混ざり合った。
吐息の触れる至近距離で『いいこ』と囁くと、レフの瞳が熱っぽく潤む。
上はシャツ一枚になって、下は服を押し上げる股間を重ね合わせた。
時折脱ぐため離れる唇が寂しくて、無意識にレフの背に腕を回していた。身体が密着すると、繋がったところから溶けていくような感じがする。
いつの間にか弾けた熱が、服の下でねとついていた。俺だけじゃないよ、レフもおなじようになってるから、おあいこだ。
「閣下」
「ルシェ」
「……」
「ルーシェ。レフ、呼んで」
「……う、」
「呼んでごらん」
「……ルシェ、さま」
辿々しく俺の愛称を呼ぶレフに、愛しさが込み上げる。もうダメだ、レフを前に険しい顔とか無理だと思う。
すっかり服を脱がされキスでとろとろにされた後でなかったら、もう少しDomの威厳があったかもしれないけど。まあ、それは次の課題にしよう。今は、たくさんキスがしたい。
「レフ、……キスして、たくさん。ぜんぶ、レフの触れないところがないくらい」
「──ルシェ様」
まるで泣きそうな、震える声で俺を呼んだレフは……その夜コマンド通りにずっとキスをくれた。
それをキスと呼ぶんだろうか?というくらいルシェールの胸筋にちゅぱちゅぱ吸い付いたり、乳首を赤く剥けるほど舐めたり吸ったりするのは流石に違うと思う。
亀頭にもキスをくれたけど、『舐めろ』のコマンドがなかったからって亀頭責めだけを執拗に、徹底的にされて泣かされたし。
その、……亀頭責めって男の潮吹きを……させやすいんだよね。これ腐男子知識です。
やばいやばいこれヤバいやつ、と思った時には遅くてしっかり潮吹きしてしまった。ああ、でもそれ成分的には恥ずかしいお漏らしみたいなもん、らしいんだけど!この歳でそんな粗相をする羽目になるとは!
てかなんでいろいろすっ飛ばして潮吹きを覚えさせられているのか!
レフのほうは俺がそこまで感じたのが嬉しかったのか、上機嫌でシーツの後始末をしていたけど。
俺のSubは変な性癖があるのかな、ちょっと困る。
「Domの交流会?」
「左様です。伴侶またはパートナー、またその時限りでもSubを連れて参加するのがルールだそうで。……あまり良い噂は聞きませんが」
「うーん……」
届いた招待状を前に、俺と執事のアーノルドは眉を顰めて悩んでいた。
差出人不明な手紙が、明らかに貴族の使いと思われる使用人の手によって届けられた。だって豪華な馬車に乗ってきたんだよ。それは使用人が偉いんじゃなくて、そうして運ばれる手紙にそれだけの価値があるってことだ。出した者の身分が普通じゃないとかね。
何者だよ、と思いながら手紙を開けたら差出人の名前はなく、それは招待状だと分かった。
書かれてる事を信じるなら、Domの交流を目的としたパーティーだっていうんだけど。
怪しいよなあ……。
「……まあ、行ってみるかな」
「レフを連れて行かれるのですか」
「うん。考えてみたけど、此処で何かがあったとして……俺とレフをどうこうできる人間がいるかな?」
「……」
あ、いまアーノルドが『確かに』って顔した!
竜の血の恩恵とやらが回復したレフは、最近戦闘能力も格段に上がっていた。下手するとルシェールと並ぶレベルだ。とんだデバフを食らってたってことだね、こわいこわい。
竜騎士に、英雄の大公閣下だよ。このペアは。
どうこうするには、テオドールレベルの武人かドラゴンでも連れてこないとダメだね。
──つまり俺って、帝国一安全なのでは?
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