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後編
しおりを挟むディランは、気がつくと自室のベッドで横になっていた。
身体が熱っぽく、吐く息まで熱い気がする。これは確実にヒートに入っているとすぐに判った。
ディランはくらくらとする頭を起こして、ベッドサイドの棚から抑制剤を取り出した。水がなくても飲みやすいよう、一口分の液体で出来た薬だ。
固形よりも液体のほうが吸収が早いため、これは緊急用の抑制剤だった。
「……ああ、……騎士団に、連絡を……」
ぼんやりとした頭で、職場に連絡を入れなければと思い立つ。団長のエリオットは勘の鋭い男なので、ヒートの近かったディランが急に出勤しなくなったら、ヒートに入ったのだと解釈してくれそうだが。
事情はわかっているから無理せず突発でも休めと言われていた。エリオットは、アルファの中ではかなり理解のあるほうで……。
あれ、とディランは瞬きをくり返した。ここで目覚める前の記憶は、なんだったか。どこで、誰と、何をしていたのか?
ふわりと漂ったのは、甘いようなスパイシーなコロンの香りだ。その元を辿ると、枕元に前の時の同じようにメモ書きが残されていた。
『仕事を終えたらすぐに戻る』
エリオットの字なのは判ったが、何度読んでも意味がよくわからない。
思考がふわふわとして定まらないディランは、苛立ったように頭を振った。先程飲んだ抑制剤がようやく効いてきた。靄の掛っていた頭がだんだんと晴れてくる。
――途端、思い出したのは気を失うまで胸を弄られた記憶だった。
勃起する乳首というのを見せると言われて、ディランは陥没乳首を執拗に愛撫された。もうゆるして、つらい、イキたくない、と泣いてもエリオットは敏感な乳首を舌でなぶり、吸い続けた。
ふと見ると、ディランの慎ましやかな陥没乳首はいまだに腫れていて、ぷっくりと充血した乳首が表に突き出している。その卑猥な色合いと淫らな記憶が合わさって、ディランは頭を抱えた。
現実逃避するように身体を縮めたディランは、布団の中で丸まったまま泣きそうに顔を歪める。
ディランはいま、寝る時の服に着替えていた。もちろん、自分で着替えた記憶はない。陥没乳首が勃起しているということは、アレは夢ではないはずだが、それならディランの下半身はひどいことになっていたはずだ。
ペニスからの精液も、アナルからの愛液も、今はほとんど濡れた感じがしない。つまり、きれいに清められているということだ。
誰がやったかなんて判りきっている。エリオットしか、いないのだから。
はしたなく、快楽に濡れて張り付いた服を脱がして、丁寧に性器からアナルまでを拭いてから服を着せた? あのエリオットが?
彼にそんなことをさせてしまったという罪悪感と秘部を見られたという羞恥で、ディランは顔が熱くなった。
今まで生きてきてこれほどのいたたまれなさを感じた事はなかった。何よりオメガ性を嫌っている自分が、アルファに簡単に乱されたのが信じられない。今は盛りも過ぎた三十路過ぎ、性欲に理性が負けるような年齢は過ぎたと思っていたのに。
今も、エリオットに触れられた記憶がひとつ蘇る度、身体の奥底がじわりと濡れていくような感じがする。オメガ性が本能でアルファを求めるとはこういう事なのかと、ディランは初めて思い知った。
「……、……」
ひとたび、淫らな行為に思考が移れば、意識は再びヒート特有のぼんやりとしたものに変わっていく。すん、と鼻孔を刺激したエリオットの匂いのせいだった。
手元の紙に顔を近付け、それだけでは足りずディランはふらりとベッドから降りた。
部屋の端にある一人用のソファの背に、上着が一枚かけられていた。そこから、かぐわしくも感じるあの匂いがする。
「……だんちょ、う」
大きな上着を手に取って、ぎゅっと抱き締めるとくらくらするほどいい匂いがする。じゅわっと身体の奥が潤い、滴るように快楽が広がり始めた。
ディランはその上着を抱き締めたまま、ソファに丸まるようにして座り込んだ。脚を折りたたみ、小さく身体を縮めながらエリオットの上着に顔を埋める。
カアッと腹の奥から熱がせり上がってきた。
上着に顔を埋めているだけで、酒に酔った時のように視界が歪み、揺れる。は、は、と短く息を乱しながらディランは身体をもじもじと動かした。
こういう時、どうしたらいいのかディランは知らない。オメガの自慰もあまりしたことがなく、アナルは未開通だった。唯一知っているのが性器を擦る慰め方だったが、両手は上着を掴んでいて離したくない。八方塞がりのまま、ディランは身体を縮めて狭い一人用のソファの上で悶えた。
服が肌を擦り、それだけでザワザワとした快感が生まれて落ち着かない。ディランは身につけていた柔らかい夜着をもどかしげに脱ぎ捨てた。指がもつれてボタンが外しにくく、時間をかけて肌を擦っていく布の感触にさえ感じてしまう。
「ぅ、……ん、んっ、ふ、ぅっ……」
裸のまま、それでもエリオットの上着は手放せず、また丸まって上着に顔を埋める。そのまま無意識に腰が揺らめき、上着の硬い布地やボタンなどの金属部分に擦るようにして、快感を追ってしまう。
「は、ぁっ……ぁ、あ、ふっ……ひ、ぅっ……きも、ち、いっ」
チリッと胸に触れた痛みは、上着の金具に敏感な乳首が掠ったためだ。それが思いのほか強い快感を生み、ディランは何度も胸を反らせて金具に乳首を擦り付けた。
エリオットの匂いに包まれながら、自慰をする。それは目眩がするほど心地良くて、ディランは夢中になってしまった。ぎゅうっ、と上着を抱き締め、布がシワになるのも気にせず身体を押しつける。ディランの腕は上着の裾を下腹部に押しつけていて、くっ、くっ、と臍の下あたりを圧迫することでじんわりとした快感を得ていた。
すりすりと上着の裾部分で腹を押し、エリオットの匂いを胸いっぱいに吸い込むと、ビクビクッと身体が大きく跳ねた。とろぉ、とアナルから愛液が滴り、太腿を伝い落ちていく。
「は、……は、ぁ……んんっ……」
外側から腹を押すだけで絶頂したとは気付かず、ディランはうっとりと上着の襟ぐりに鼻先を押しつける。オメガらしい自慰の仕方を知らないせいで、余計に敏感になり身体の開発が進んでいることに、ディランは全く気付いていなかった。
‡
ディランのヒート休暇報告を上げ、エリオットが一日の仕事を倍速で二人分こなして戻ってくると、部屋の中は濃厚なオメガのフェロモンで満たされていた。
くらりと一瞬意識を失いそうになったエリオットは、用意しておいた注射器型の発情抑制剤を打って部屋に入った。扉は特別製で、フェロモンを漏らさないよう密閉の魔術が施されている。
空気中のフェロモンを浄化する魔道具のスイッチも入れて、エリオットは部屋の中を見回した。ベッドにディランはおらず、ソファの上で丸まっているのが見える。
「ふ、ぁ、……あ、……だ、んちょ……」
どろりと甘く蕩けたような声が、聞こえる。エリオットが近づくと、美しい紫色の瞳を快楽に染めたまま、全裸で上着を抱き締めているディランがいた。もちろん、その上着はエリオットのモノだ。そうなることが判っていて、上着を置いて行ったのだから、これは予想の範囲内だった。きっと自慰で白濁まみれにしているだろうと思って期待しながら帰ってきたのだ。
しかしディランは、下半身やエリオットの上着を精液で汚してはいなかった。ただアナルから滴る愛液で上着の裾がびっしょりと濡れている。そして、布越しに下腹部を押しては身体を捩り、快楽に染まりきった声を上げている。慎ましやかだった陥没乳首は勃起し顔を出していて、引っ掻かれたような傷が薄ら浮いていた。
――これは予想外だった。どうやら半日の間に腹を押すだけで中イキを覚えてしまったらしい。それにあれだけ敏感だった陥没乳首を、血が滲むまで自分で弄ってしまうとは。ヒートのオメガは恐ろしいほど敏感で、淫らだと再認識する。
「ディラン」
「は、……ぅ、……団長」
「エリオット」
「え、えりぉ、っと……」
舌っ足らずに呼び直したディランに、いいこだ、と頭を撫でてやる。ホッとしたような表情を浮かべたディランは上着を手離し、両腕を伸ばしてきた。エリオットはそれを抱き留めて、そのまま抱き上げる。
「待たせたな。明日午前の休みはもぎ取ってきた」
「……?」
「たくさん可愛がってやれるってことだ」
ベッドに下ろされたディランは、うっとりと目を細めてエリオットの首筋に顔を埋めた。柔らかな銀髪の感触を頬に感じながら、エリオットは枕を掴んでディランの腰の下に滑り込ませる。そしてそのまま、ディランの膝を両方掴んで持ち上げた。
ぐい、と左右に割られた脚の間で、濡れそぼったアナルがひくついている。エリオットは驚いているディランのそこに顔を埋め、アナルから滴る愛液を舐め始めた。
「ひ、ぁ!あっ、ふっ……ああっ、あ、ひ、なめ、なめないでっ、や、あ、あ!」
びしょ濡れの内股も、会陰も、タマの裏側まで舐められてディランが悲鳴のような声を上げる。ひくん、と震えたアナルはくぱくぱと動いて誘うように解れていた。エリオットは唇についた液体をぺろりと舐めると、その厚めの唇を笑みにつり上げた。
「次はここで空になるまでイかせてやるって言っただろう?」
「だ、団長っ……」
「エリオット」
「ひっ、……え、エリオ、ット……」
太い親指でぐっと会陰を押され、未知の快感にビクン!と身体を波打たせだディランは泣きそうな顔でくり返した。紫の瞳に少し理性が戻ってきているのに気がつき、エリオットは片眉を跳ね上げる。
正気付く前に、とエリオットはアナルに舌を這わせながら大きな手のひらでディランの下腹部を押した。
「ひ、――や、あああぁぁぁぁっ!!」
くっ、くっ、と軽く押すだけで鍛えられた腹筋が痙攣するように動く。小さく絶頂をくり返しているらしく、ディランは身体をくねらせて身悶えた。
「やあぁ、いやぁああ、も、きもちぃっ……きもちい、の、やだぁ、やあぁぁっ」
苛めすぎたか、ディランは泣きながらぷしぷしと潮を吹いた。それでも腹を撫でるのを止めず、アナルをじゅううっと吸い上げる。つぷりと舌を穴に押し込み、入口をほぐしていく。ひんひんと泣き続けるディランを愛でながら、エリオットは一度強めに腹を押してみた。もちろん、ディランの腹筋の付き具合であればいつもなら弾かれるような力加減だ。しかしその手は、思いのほか深く、沈んだ。
「――ァ、……!!」
声にならない悲鳴を上げて、ディランがイッた。
あとからあとから愛液が溢れ出し、ディランの身体がビクビクと震える。ピンと立った乳首を突き出すようにして背を反らしていた。アクメ地獄に陥った女のような状態だ。今のディランは息をするだけでその振動でイッてしまう。アナルに何かを挿入される前に中イキを覚えたせいで、感度が明らかにおかしいのだ。これではペニスを入れたりしたらどうなるのかとエリオットは一瞬悩んだ。
「ぁ、……ぁっ、た、……たしゅけて、……えりぉ、……っ」
縋るように手を伸ばしてきたディランは、幼子のような目をしていた。抱き起こして腕の中に抱き締めると、すんすんと鼻を鳴らしながらエリオットの胸板に顔を擦り付けてくる。
不意に、ずくりと身体の奥の欲求が頭を擡げ始めたのをエリオットは感じた。チッ、と小さく舌打ちをして、上着のポケットからもう一本抑制剤を取り出すと片手で握りつぶした。魔法で蒸発させ、一番吸収の良い形にして体内に取り込んだ。
フー、フー、と奥歯を噛み締めながら身体の中の欲を抑え込む。理性をなくしてオメガに襲いかかるような真似は、エリオットは絶対にしたくなかった。
「ディラン」
「……ぁ、……」
「抱かれたいのか、逃げたいのか、お前が選べ」
低く、欲に掠れた声で囁かれる。その甘やかな響きとエリオットの香りにくらくらとしながら、ディランは睫毛に涙を散らした。
そして、『抱いて』と初めてその願いを口にする。
次の瞬間、噛み付くように口付けられてディランはベッドに押し倒された。欲にギラついてはいるが理性を残したエリオットの目が、ディランを見下ろしている。そっとその背に腕を回し、ディランは嬉しそうに目を細めた。
エリオットは大きな身体に見合った巨根を、散々可愛がって広げたディランのアナルにゆっくりと挿入した。早く早くとねだるディランを抑え込んで拡張した穴は、初めてのわりには切れずに異物を飲み込んだ。
ゆっくり挿入している途中、傷になった乳首の先端にポーションを垂らしたら『ひあぁぁ!!』と嬌声を上げてイッた。急激に再生する傷の感覚が、ディランの敏感な陥没乳首を刺激したらしい。引き絞るようなアナルの締め付けにエリオットは呻いた。
結腸の入口まで進んでも、エリオットのモノはまだ根本にあまりがある。押し込もうか迷って、エリオットはそのまま引いた。『ああああぁぁぁ!』と堪えきれず甘い嬌声を上げたディランが、引き出した性器をまた押し込むとビクビクと腰を跳ねさせた。
そしてぎゅっと脚をエリオットの腰に絡ませ、ぐいぐいと身体を押しつけてくる。はあはあと荒い息をつくディランの唇を何度か啄みながら、エリオットは再び結腸の入口をちょんと軽く突いてストロークを続ける。
ポーションで再生してぷっくりと赤い乳首を晒しているソコにも、舌を這わせてちゅうっと吸った。
「あ、ふ、ああっ――ぁ、あ、……ひぅっ……」
ゆっくり、ゆっくりと押し込んでは引き出す動作をくり返す。ディランの内壁は柔らかくエリオットを受け止め、抜け出ていくのを惜しんで引き絞る。それだけでも充分に気持ち良かったが、エリオットは首を噛みたくなる衝動を抑えつけながら、奥歯を噛み締めていた。ぽたり、ぽたりと汗がディランの胸に落ちる。
「――おく、ついて」
「ディラン?」
「もっと、おく、きて、ぁ、……おく、して、もっとっ」
パンッと肌を打ち付ける音が響いた。エリオットはギリッと歯を食いしばりながらフー、フー、と息を整えようとしていた。しかし奥まで貫いた性器は結腸に入り込み、揺らすたびにぐぷぐぷと吸い付かれる。
「ひ、ぁ、あ、あひ、ぁ、ひんっ、ぁんっ、あ、あ、ああっ!」
ずるるっ、と引き抜いてまたパンッと奥を突く。だんだんと速度を上げながらストロークを短くしていくと、ディランは頭を横に振りながら快楽に悶えた。
「ぁんっ、あぁっ、あ、ぁ、イク、イク、あああぁぁぁぁ!!」
絶頂したアナルの締め付けを堪能することなく、エリオットは性器をそこから引き抜いた。どぷっ、と濃い精液がディランの腹の上を白く染める。
「ぁ、な、ん……で……」
「クソッ……ディラン顎上げろ」
中に出されなかった事に不満な視線を投げるディランに、エリオットは苛立った声を上げた。そして放り出した上着から首輪を取り出し、ディランの首に装着する。オメガ専用の、望まぬ番契約を阻むための、保護の首輪だ。
一度着けると、外すには番予定の者と一緒に医師の元に解錠を頼みに行かなければならない。ディランは自分の身は自分で守れるから必要無いと拒んだため、オメガ性が判明してからも着けた事がなかった。
「こいつの了承を取れなくて悪ぃな。……噛む危険回避の方を、とらせてくれ」
困ったように笑うエリオットは、思わず見惚れるほどけだるげな色気に満ちていて、ディランは何も言えずそれを受け入れたのだった。
‡
「何故、噛まなかったんですか?」
ヒートが終わり職場に復帰した朝、ディランは執務室に入ってすぐにエリオットへ問いかけた。ディランの首には、制服の高い衿でも隠せない黒い首輪がはまっている。
先にたまった書類を片付けるため出勤していたエリオットは、顔を上げてディランを見た。頬杖をついてこちらを見てくるエリオットの流し目の色気にくらりとしながら、ディランは唇を引き結ぶ。
エリオットは騎士団に類を見ない巨漢だが、実は戦い一辺倒ではなく顔がとても良い。元から気付いてはいたのだが、オメガとして抱かれたせいなのか、ディランはその魅力に滅法弱くなっていた。
「ヒート中の事故で噛まれたくはないだろう」
「……でも、エリオット団長は最後まで正気でしたよね」
ヒートに入り頭に靄の掛ったまま抱かれていたディランだったが、エリオットが抑制剤を何度か使用しているのを見ていた。苦しげに息を吐き、衝動を堪えるように眉を顰めるエリオットは非常にセクシーだった。
思い出して赤面しそうになったディランは、そっと目を逸らして執務机に視線をおとす。
「無茶、しますね。アルファ用の発情抑制剤は、あくまで緊急用の物。……常用するような軽い薬ではないはずです」
「……」
ディランの視線の先には、エリオットの手がある。ペンを握るその太い指が、いつもかさついて少し荒れているのをディランは知っていた。
医者から、ディランも注意されていた。抑制剤の使い過ぎについて。
髪や爪、肌などに影響が現れ始め、酷くなると内臓の機能が低下していく。エリオットの髪は真っ黒なので、少し艶を失っても強い違和感はなかった。
「もう慣れたんだよ。……15年?いやもう16年か。お前が騎士団に入ってきてから、ずっとだ」
「……っ」
言葉を失ったディランは、眼鏡の奥で瞳を揺らし、それを隠すように俯いて両手で顔を覆った。
「お前はアルファをずっと恐れていただろう。……これが俺の誠意だ」
執務机についたままディランを見上げたエリオットは、それだけ言って目を細めた。ディランはため息をついて顔を上げ、机の向こう側に回り込んでエリオットの背に抱きついた。
「貴方はずるい人ですね。……そんなの、惚れないはずないじゃないですか」
ぎゅっと抱き締めた首筋に顔を埋めるとあの甘くて刺激的な匂いがして、ディランは八つ当たり気味に力を籠めてエリオットを抱き締めた。
番としてエリオットと共に首輪の解錠をしにいった日、騎士団では祝いの宴が開かれた。新人達には泣かれ、昔からの同僚にはホッとしたような顔をされ、皆に祝福されてディランはひたすら恐縮していた。
それから異例の、団長・副団長両方が丸一日の休みを貰い、部屋に引き上げた。申し訳なさ過ぎて居たたまれない気分のディランは、迷惑をかける団員達に『何かあったらすぐ呼んでくれ』と言い残して行った。しかし、その後ろで団長のエリオットが睨みを利かせていたので、皆引き攣った顔で手をふるしかできなかった。
騎士団の大浴場に入ったことがないというディランのために、夜の少しの時間だけ二人の貸し切りにしてもらい湯を使った。
思いのほかはしゃいでしまったディランは、年甲斐もないと部屋に戻ってから恥ずかしそうにしていたので、エリオットは正直に『可愛かったぞ』と追い打ちをかけた。
褒められ慣れていないディランは、少しの言葉でもすぐに赤面してしまう。特に、番になると決めてからエリオットは容赦なく愛を囁いてくるので、身が持たないのだ。
慣れていないし恥ずかしいから止めてくれと言うと、じゃあ慣れるまで続けようと返されてしまった。そして、ディランの髪を撫でながら『綺麗な髪だからまた長くしないか』とか、指を絡めながら『綺麗な爪がまだ少し痛んでるな。抑制剤のせいか、早く戻ると良いんだが』だとか、『仕事中に見つめられるとその紫の瞳に吸い寄せられそうになるから、魅了は手加減してくれ』などと冗談を言う。
流石に職場で淫らなことはしてこないが、それでもエリオットの言葉にいちいち反応してしまって発情スイッチが入ってしまうのは困る。ディランはつとめて冷静に、冷静に、と毎日唱えながら仕事をしていた。
――それを微笑ましそうにエリオットが見つめていることも知らずに。
「ディラン」
「はっ、はい」
「……そう緊張しなくていい」
おいで、と腕の中に招かれて抱き締められる。抱き上げられてベッドに上がると、エリオットはいつものようにディランを膝の上に乗せてしまった。
エリオットに背中を預け、椅子のように寄りかかるよう言われている。しかしはじめは緊張してしまってディランはなかなか上手く力が抜けない。
これは、番になることを決めて首輪を外しに行く予定を組んだ日から、約三週間ほどずっと行われてきた『練習』だった。
ディランはとにかく他人の手に慣れない。
番であるエリオットの手にも竦んでしまうのでは困る。だから、ゆっくり慣らしていこうと言われて、毎晩エリオットの膝で愛撫を施されることになってしまったのだった。
「お前の乳首は、いつも貞淑だな」
「んっ、……ぁっ……」
「乳輪は濃い色になってきたが……」
薄い夜着の上から、エリオットが胸を揉んでくる。下から手の平で持ち上げるようにして、親指と人差し指で乳輪を摘ままれた。くにくにと押しつぶすようにされると、比較的すぐに突起が現れはじめる。
毎日愛され続けた陥没乳首は、エリオットが触れるとすぐに勃起するよう躾けられていた。着々と開発されている事には気付かず、ディランは無意識に上がる声を堪えて唇を噛む。
「こら、噛むな」
「んぅっ、らって……ん、んっ」
「傷になるからダメだ」
乳首を弄っていた片手が、ディランの口の中に挿入された。傷がついていないか唇をなぞり、並びの綺麗な歯列をなぞってから舌をふにふにと弄る。
んっ、んっ、と小さく声を上げながらディランはエリオットの指をしゃぶり続けた。
「うっ、んぅ、ふ……――んうっ!!」
着ていた服をたくし上げられて、直接乳首を摘ままれる。濡れた指をちゅぽっと口から引き抜かれ、唾液の伝う指がもう片方の乳首をくにくにと揉み始めた。濡れているせいで乳首が摘まみ難いのが、にゅるにゅると逃す動きがもどかしく、ディランは『ひんっ』と小さく声を上げた。
「あ、あ、あっ、あう……え、りおっ……」
「まだだ」
「んっ、らって、きもちぃ、……ひゃぅっ!!」
もじもじと腰を揺らめかせていたディランは、いつも乳首で一度イかせてからしか始めてくれないエリオットに抗議した。しかし、両方の敏感乳首をきゅぅぅっと抓られて悲鳴を上げる。きゅ、きゅ、と両方を交互に引っ張られ、完全に勃起した乳首の先端をカリカリと爪に引っかけられた。
「ひゃっ、ぁ、あんっ、ぁう、あひっ、あっ、やあぁぁっ!」
今度は折角出てきた乳首を陥没穴に戻すように、きゅうっと指で押される。くぷっと引っ込んだ乳首はまた跳ねるように飛び出してきて震えた。
トン、トン、と下から膝でアナルのあたりを軽く押される。跳ねるように腰を浮かせたディランは、紫の目を見開いて蕩けた嬌声を上げた。ディランの前立腺は非常に敏感で、腹を押されたり会陰を軽く叩かれたりするとすぐにイッてしまう。
下からはトントンと軽く叩かれて追い詰められ、ふわふわ筋肉の胸を揉まれて陥没乳首を指先で押し込まれたディランは、すぐに高い嬌声を上げて絶頂した。もちろん、精液の出ない空イキだった。
「さて、次はアナルか」
「ん、ぁ……エリ、オットッ……も、入れてっ」
「慣らしもせずにダメだろ」
「入るからぁ、……はいる、ねぇ、いつも……エリオットのゆび、いっぱいいれてるからっ」
ディランの首輪が取れるまで、エリオットは頑として愛撫以上のことをしなかった。アナルは指で可愛がるし、陥没乳首も毎日赤く勃起するほど弄っていたが、挿入はしていない。
毎日毎日、エリオットの指を三本銜えているディランのアナルは、すっかり異物を飲み込むことに慣れていた。そういう風に根気よく開発したのはエリオットなのだが、ディランが泣いて求めても性器をすぐに入れたりはしなかった。
「時間はあるだろ?……たっぷり可愛がってやるから、覚悟しとけ。ディラン」
低く、甘ったるい声で囁かれる。エリオットの色っぽい声にも弱いディランは、ぽうっとなってしまい、返事が遅れた。
そんなディランが内容に気付き慌てた時には、もうエリオットの執拗な愛撫は始まっていたのだった。
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