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さえない熊獣人のおじさんはいつの間にかイケメン翼人に囲い込まれて溺愛されてる

三話

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 マテウスは、熊獣人だということで自分のことを凡庸だと思い込んでいるが、それは間違いだった。

 帝国に乗り込んでいったカイルが定住地までちらつかせて上層部に情報を吐かせたところ、マテウスの保有魔力値はトップクラスの宮廷魔術師並みだという。そして当然戦闘能力は熊並で体力もある。

 白熊という希少種族なため文献が少ないが、彼らが減った理由は乱獲だろうと帝国の奴らは言っていた。捕らえて魔力タンクとして利用すればかなりの大魔術が使えるという。
 マテウスは先祖返りでたまたま白熊として生まれたが、本来の白熊族はもっと北の永久凍土に国を構えて住んでいる。
 希少種で、今ではおいそれと手に入るではないのだ、と言うのを聞いてカイルは反吐が出そうだった。

 マテウスがあまり帝国に嫌悪を抱いていないので手を出していないが、カイル的には国ひとつぶっ潰してやるか?と思うような気分の悪さだった。
 そもそも人間は獣人を利用価値の高いペットだとか思っている者が多いが、従えられるものならやってみやがれとカイルは思っている。逆に喉笛を食い千切られるのがオチだろう。
 人間など脆弱で群れるしかできない力の弱い種族なのだから、手酷い仕返しを受けて滅びればいいと思っていた。

「そういえば、また竜が近くを飛んでいたよ」
「……またあいつか」
「ご執心のようだねえ」
「からかうなよ……はぁー、うぜぇ。殺したい」

 口癖のようにカイルが言う『殺したい』は冗談ではなかった。
 竜族は獣人達とは似て非なる種族だが、翼人とだけは深い繋がりがある。竜は翼人から嫁を娶ることが多かった。竜は雄だけの種族なため、子孫を残すには他種族から嫁を貰う必要がある。しかし竜は非常に気難しく、獣人を『地を這う者』と差別する傾向にあった。そのため、嫁として選ばれるのが空を駆ける翼人なのだ。

 数年前、カイルを空から撃ち落とした竜は嫁取りのために来ていた竜族の若者だった。ひと目でカイルを気に入り熱烈に追いかけてきた挙げ句、拒絶されてキレて嵐を巻き起こした。あの風雨の中、雷で応戦して相打ちとなったカイルはマテウスの家の前に落ち、竜は崖下で気絶していたらしい。

 それから幾度となくぶつかっているが、竜は諦めないしカイルも折れる気はない。
 カイルはこの崖の上のマテウスの家によく通っているので、竜の方もそれを見越してこの側で張っているのだ。見つかれば戦闘となるが、ここはマテウスの結界の側なので、竜といえどそれに触れれば無事ではすまない。
 
 そのため、警戒しつつもカイルを探し、ふらふらとこの近くを飛ぶしか出来ないのだ。竜族はあらゆる生き物の頂点、と言われる存在なのだが、情けない話である。

「うるせえからやっぱ殺そう」
「でも、竜だよ?危ないよ。前にも血だらけになってうちに落ちてきただろう」
「マテウス、俺がどれだけ強くなったか知らないだろ。数年前とは比べものにならない。あん時だって相打ちだし」
「はは、知ってるよ。今や大陸に轟く名声じゃないかカイルは。それでも心配くらいはするよ」

 カイルはこの数年で、翼人に友好的な国を回り傭兵のようなことをして名声を高めていた。もともと見目が良い翼人なのに加え、強くてまだ若い雄だということで彼の価値は急上昇していた。
 定住地への勧誘はひっきりなしに来るようで、カイルはそれをのらりくらりとかわしながら、マテウスのもとに通っていた。

 マテウスもカイルが何処に定住地を決めるのかは気になるので、機会があるたび聞いているが、誤魔化されてなかなか答えが得られなかった。

「今日は泊まっていくかい」
「マテウスがいいなら」
「良いに決まってるとも。……カイルが窮屈でないなら、だけど」

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