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騎士団のエースに捕縛された盗賊の頭領ですが尋問も拷問もなく囲われて溺愛されています。

十八話

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「闇魔法に巻かれてる最中に光魔法を使うのは御法度だ。下手をすれば周囲を巻き込む大爆発を起こす」
「そうなのか」
「いつものルーファスなら気付くはずだが」
「……ん?」
「まあそれはいい。先に医務室だ。……おい、此処は任せたぞ。もうすぐレイモンド卿が到着するはずだ」

 昏倒を免れていた騎士達が、表情を引き締めて返事をする。それを見届けてから、団長は俺を伴って部屋を出た。ジョシュアもついてきたが、……こいつあの部屋の中で昏倒してないのか?魔力耐性まであるとか何者なんだ

「レイモンド卿というのは、宮廷魔術師の長です」


 こそこそとジョシュアが教えてくれるが、俺にはなんで宮廷魔術師がこんなところに呼ばれたのか皆目見当もつかない。
 俺の表情からそれが判ったのか、団長がルーファスを担いだまま補足をしてくれる。

「魔力紋、というものがある。指紋と同じで二つとないカタチが、魔術師には見えるという。今までルーファスにかけられた闇魔法の魔力紋は、巧みに隠蔽されていて掴めなかった。恐らくあの女には、指紋を手袋で隠すように魔力紋を隠蔽することが出来たんだろう」
「……それが今回、残ってるって?」
「ああ。先程の様子では、余裕は彼女になかったはずだからな。現行犯だが、後で騎士の証言などでっち上げだと言われないためにも、レイモンド卿を呼んだ」

 聞けばマリーはあの調子で何度も騎士団の詰め所に現れて、ルーファスや他の騎士達の仕事の邪魔をしていたらしい。不意を突かれてルーファスが闇魔法にかけられる事も何度かあったが、その度に犯人を捕縛できず悔しい思いをしていたらしい。
 
「犯罪は、犯罪です。マリー様も、もう言い逃れは出来ませんよ」

 スン、と取り付く島もない様子で言ったジョシュアは、チラチラと俺の腹を見ていた。服にじわりと血が滲み始めている。腹筋でしめつけていても、歩いていると傷が開くのは仕方なかった。それでもナイフを引き抜いてしまえば恐らく出血はこの比じゃないだろう。

「何にせよ、上手くいったなら良かったな。これでルーファスも安心して家に帰れるだろう」
「……」

 急に無言になった団長は、医務室に着いてすぐルーファスをベッドに下ろした。
 そして、そのまま俺の傷を診はじめる。向こうもゴタゴタしてるだろうに、戻らなくて良いのか?そもそもこの医務室には専用の医師がいるようだが?なんなんだこの待遇は。

「……先日、お前を自分のものにして連れ帰るとルーファスが言った時、実は騎士団ではひと悶着あった」
「……」

 今度は俺が黙る番だった。
 団長は慎重にナイフを引き抜き、止血をして傷を手早く縫合し、薬草とガーゼをあてると包帯を巻き始めた。あまりに手際がよくて、戦争の最前線部隊の医療班かと思う。そのくらい迷いのないやり方だった。もしかして、団長になる前は結構やばいところにいたのか?

「何故、お前のような厄介事を自分から背負い込むのか、誰も判らなかった。だが、今日お前がルーファスをあの娘の館から連れ帰ったことで、騎士団の全ての団員が納得した。誰もが成し得なかった、お前だから出来たことだ。これはもう、信用しないわけにはいかない。……騎士団を代表して礼を言おう。ルーファスを助けてくれて、感謝する」

 淡々と治療をし、それだけ言うと団長は戻っていった。事件の事後処理に指揮官がいないわけにはいかないからだろう。壮年の偉丈夫を前にして少しばかり気圧された感があって恥ずかしくなった。おれもまだまだだな。先代だったらもう少し気の利いたことが言えただろうに。

 傍らに控えていたジョシュアに助けを求めるように、チラと一瞬視線を向ける。するとあからさまに深いため息をつかれてしまった。

「ザザ様の下町人気はメイド長から聞いておりましたが、女性のマリー様だけでなく団長までも……。ルーファス様の気苦労が絶えない訳です」

 なんだこれめちゃくちゃ居心地が悪い。
 俺は別になんもしてねぇぞ。

「痛み止めと化膿止めが処方されています。飲んで少し休まれたら、帰りましょう」
「ん。そうだな」
 
 隣のベッドの上には、いまだに青白い顔で目を瞑ったままのルーファスがいる。しまったな、団長にいつごろ目覚めるのか聞いておけば良かった。

 こいつが起きたら、2日分の天国見せてやろう。
 そのために必要な準備を考えながら、俺は仮眠するためベッドに横になって目を瞑った。


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