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第二話-3

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 だから原作のフレデリックは、俺に押し倒されても抵抗ができず、どんなに辛い調教も頑丈な身体で受け止めてくれるのだとか。
 他の攻略対象はこれから仲を深めていく相手ばかりだが、フレデリックは違う。元から好感度が振り切れていて、そこへつけこんで房中術の練習台にするのだと。

 それは酷いことではないのか?あまりにも倫理観に欠けるのでは?
 そう言った俺に、アデラはきょとんとした顔で首を傾げた。

『何故です?フレデリック様はお兄様が好きなのですよ。練習台でなければ抱かれることもなかったのですから、それは嬉しいことではないですか。少なくとも学園にいる間はお兄様は同じ部屋に帰ってきて、毎夜ご主人様としてたっぷり愛情込めて調教してくださるのです。独り占めできるその期間は、むしろ蜜月では?』

 これほどアデラとの認識差に茫然としたのは初めてだった。
 フレデリックがどう思おうと、俺の感覚で言えばそれは絶対にしてはいけないことだと思う。他の誰が許しても俺が許さん、というやつだ。

 彼は俺の唯一無二の親友だし、過ごしてきた期間を考えたらもう家族みたいなものだ。だというのにそんな扱いを──。

「ウォルフ」
「ん?」

 考え込んだまま鞄から出した衣服をクローゼットにしまっていたら、不意にものすごく近くでフレデリックの声がした。
 反射的に振り向くと、鼻先が触れそうなほど近くに相手の顔がある。『うわっ』と小さく声を上げて後ろへ退いたが、クローゼットの戸に阻まれて下がれなかった。
 透けるような青い瞳が、至近距離でじっと俺を見つめていた。

「どうしたんだ。さっきから上の空で」
「あー……え、と」

 視線を彷徨わせじりじりと身体を引く俺にフレデリックは形の良い眉を顰めた。そして俺の肩に手を置こうとしたのが見えて、とっさにそれを振り払ってしまった。あ、と思ったがもう遅い。

 俺は『悪い』と謝りながらフレデリックの脇を通って狭い空間から逃げ出した。クローゼットとフレデリックにはさまれていると、妙な息苦しさがあったからだ。そのまま片付けを放って部屋を出ようとしたら、腕を掴まれた。

「ウォルフ!なんで逃げるんだ」
「っ!」
「気付いてないのか?今日は一度もちゃんと目を合わせてくれないだろう」
「……手を離してくれ、フレデリック」
「ちゃんと話してくれるなら」
「……」

 俺がため息をついて腕を振り払ったら、フレデリックは驚いたように目を見開いた後、俺の退路を塞ぐようにドアを背にして立った。キッと見つめてくる彼の気迫に、内心で焦る。
 今は、ダメなんだ。どれだけ考えないようにしても、昨日生々しく語られたアデラの言葉を思い出してしまう。そしてその言葉通りに、フレデリックに触れる妄想をしてゾッとする。

 俺は、親友にそんな酷いことをする下劣な男ではない!

 俺の内心の叫びをよそに、フレデリックは厳しい表情で俺の名前を呼んだ。

「ウォルフハルド」

 びく、と背が震える。
 顔を近づけてきた幼馴染に、俺は内心で『ヒッ』と悲鳴を上げていた。

 何があったのかは説明できない。
 もし説明したとして、ではその通りに実験台にしてくれと言われたら悲しくなってしまう。
 俺はそんなことはしたくない。いつかアデラの言うような現実がくるのだとしても、フレデリックの身体を犠牲にしたくなかった。それならいっそ房中術のスキルなど上がらなくていい。
 
 絶対に言ってはならないと自分に言い聞かせながら、俺は俯いて床板を見つめていた。






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