147 / 156
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第139話 心配性な二人と派遣された試験官
しおりを挟む試験のために街へとやってきた次の日。私達は早速、試験を受けるべくギルドを訪れていた。
まあ、私達と言っても全員が全員、同行している訳ではなく、ここにはアライア、それからサーニャとノルンという心配性な二人と一緒だ。
他の人達はそれぞれ用事があるといって行動しているからどこで何をしているのかは知らない。
一応、何があるかわからないという名目の下、全員で街へ来ているのだから、トーラスとウィルソンはともかく、レイズに関しては一緒にギルドまでやってくるべきだと思うけど……あの人の自由さ今に始まった訳じゃないから仕方ない。
「……久しぶりにギルドまできましたけど、復興は大分、進んでるみたいですね」
ギルドの中へ足を踏み入れた私は辺りを見回し、そんな感想を口にする。
あの騒動での壊滅的な被害を考えれば、すでにギルドとして動き始めているのは凄いの一言に尽きるだろう。
「そりゃあ、エリンが相当に尽力したみたいだからね。重症を負いながらよくここまでやったもんだよ」
「――――褒めても何もでないわよ、アライア」
私の感想に反応したアライアの言葉に対し、奥の方から車椅子に乗ったエリンが苦笑いを浮かべながら現れる。
「エリンさん!お久しぶりです」
「ええ、久しぶりですねルーコちゃん。元気に……と言うのも変ですか。ともかく、また会えて嬉しいです」
騒動であの怪物から受けた後遺症か、歩けなくなって車椅子にこそ乗っているものの、エリンは思っていた以上に元気そうだった。
「や、エリン。例の特別試験とやらを受けにきたよ」
「……別にアライアさんが受ける訳じゃないでしょう」
「そうですよ。受けるのはルーコちゃんで、私達はあくまで何かあった時の付き添いなんですから」
半ば呆れるように注意するノルンとサーニャ。もちろん、アライア的には冗談だろうけど、心配故にぴりぴりしている二人にはそれも通じなかった。
「……どうにもみなさんピリピリしていますね。原因はやはり試験の件……ですか」
「まあ、そうだね。というか、エリンがそういうって事はやっぱり今回の試験は上のお達しなのかな?」
「ええ、上……というより国、と言った方が正確ね。本当なら断わりたかったのだけど、王都から直々のお達しだったから私も無下にはできなかったの」
申し訳なさそうに私の方を見つめたエリンは目を伏せ、小さくため息を吐いてから続ける。
「……本来ならルーコちゃんは一級試験に受かった時点で、指導した魔女の許可があれば魔術師になれた筈なのに……本当にごめんなさい」
「いえ、エリンさんが謝る事じゃないですよ。私には詳しい事情は分かりませんけど、それでも貴女が悪くない事くらいは理解できますから」
今回の件、話から察するに上の人達というのが、私みたいな小娘を魔術師として認めたくないから試験を無理くり用意したって事だろう。
エリンはギルドのマスターとしてそれを伝えただけ……そこに彼女が悪いといえる要素なんてどこにもない。
「だね。ルーコちゃんの言う通り、今回の件はエリンに責任はないし、気にするだけ損だと思うよ。それより――――」
「実際にルーコちゃんが受ける試験はきちんと公平なものなんですか?落とすための理不尽な内容だったりしませんよね」
「それは私も知りたいです。もしも、合格すること自体が不可能だったり、物凄く危険な内容だったら引っ張ってでもルーコちゃんを止めるつもりですから」
アライアの言葉を遮り、ノルンとサーニャがエリンへと詰め寄る。
きっと二人もエリンが悪くないと分かっているのだろうが、私の事となると凄く心配性になるノルンとサーニャだからどうしても、問い詰めるような口調になってしまうらしい。
「……内容に関しては通常の一級試験と同様なので大丈夫だと思います。しかし、問題は試験官は国側が用意すると言ってきた事です」
「…………なるほど、ね。確かにそれなら対外的にはどうとでも言い訳が立ちそうだ……本当にそういう部分だけは頭が回る」
うんざりした顔でそう言ったアライアは片目を瞑り、指で頭をとんとんと叩いて私の方に向き直る。
「えっと、アライアさん……?」
「……ルーコちゃん。たぶん、向こうはかなりの実力者を試験官に据えてくると思う。流石に魔女や賢者みたいな最高位を用意してくるとは思わないけど……相当厳しい相手になると思ってた方がいいかもね」
困惑する私へそれだけ言うと、アライアは肩を竦め、まあ、ここであれこれ言い合っていても仕方ないさ、と試験会場へ案内するよう、エリンへと促した。
「――――さっきも言った通り、今回、特例とはいえ、試験の形式は一級試験と同じになります。会場はギルドの地下、試験官は少し遅れて到着するそうです」
地下へと向かう道すがら、エリンが簡単に概要を説明してくれる。
「……向こうが試験を提案してきてその試験官が遅れる……いくら国から派遣されてくる人だとしても、それはないと思います」
「そうですよ!そりゃ向こうは国から派遣されてくるくらい偉いのかもしれませんけど、それでも遅刻していい理由にはなりません!」
初めから国の派遣した試験官に良い印象を持っていないノルンとサーニャがここぞとばかりに遅れている事を責め立てた。
「まあ、二人の言う通り、遅れてくるのは感心しないね。試験官を勤めるからにはその辺をきちんとするべきだと思うよ」
「でも、向こうにも何か事情があるかもしれませんし、悪いと決めつけるのは早計じゃないですか?」
「……ルーコちゃんは本当に良い子ですね。確かにその可能性もありますが……まあ、その試験官がくれば分かりますから、くるまでもう少し待ちましょう」
エリンの言葉に試験会場の地下までやってきた私達は例の国から派遣されるという試験官を待つ事に。
そこからしばらくして階段を下ってくる足音と共に派遣された試験官らしき一人の男が姿を現した。
「――――ここが試験会場か。ずいぶんと古臭い場所だな」
男は遅刻したことを謝るでもなく、会場内をぐるりと見回すと、開口一番、そんな事を口走る。
「……貴方が国から派遣された試験官ですか?」
「ん?そういう貴殿は……ああ、ここのギルドマスターか。そうだ。私が今回、王の命により不正の疑いがある小娘の試験官を仰せつかった〝炎翼の魔術師〟グロウ=レートだ」
謝罪もない不遜な態度に目を瞑り、冷静に努めたエリンの問い掛けに対し、炎翼の魔術師を名乗る男……グロウは彼女がギルドマスターだと分かっていてなお、高圧的な物言いで返す。
「なっ……誰が不正だって――――」
まるで自分こそがこの場で一番偉いとでも言わんばかりの態度と言葉に何かを言いかけるサーニャをアライアが止めた。
「なるほど、まさか今回の試験官が今現在、一番〝賢者〟に近い〝炎翼の魔術師〟だとは……国はよほどルーコちゃんを魔術師にしたくないらしいね」
「〝賢者〟に一番近い……あの人が……?」
見ただけで実力の程が分かるわけではないけれど、少なくとも、今まで戦ってきた相手のような圧力をグロウからは感じられない。
実際、戦ってみないとなんとも言えないが、正直、私にはグロウが〝賢者〟に一番近いなんて到底、思えなかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる