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第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第138話 突然の試験と誰かの思惑
しおりを挟む銃杖での魔法訓練を始めてからしばらく経った頃、元通りとまではいかないまでもある程度、戦えるようになった私の下にある一通の手紙が届いた。
「――――特例試験のご案内?」
届いた手紙に目を通して書いてあった一文に首を傾げていると、アライアが私に代わって内容を要約してくれる。
「えっと、どれどれ……なるほどね、どうやらジアスリザードの一件、それにこの前の街での騒動、そして〝死遊の魔女〟の討伐の功績を考慮して一級試験並びに魔術師への昇格試験を執り行うからギルドに来るようにって事みたい」
「ま、魔術師ですか?一級試験は前々から受けれるって聞いてましたけど……」
今までの功績から一級試験に挑戦できるのは分かるけど、魔術師に関しては話が違う。確か、二級、一級魔法使いと魔術師は昇格方法からして違った筈だ。
「……何を驚いてるんだ?お前はとっくに魔術師になるための条件を満たしてるだろ」
「条件……あ」
隣で呆れるレイズの言葉に思わず声を上げる私。魔術師になるための条件……それは一つ以上の魔術を使える事と魔女からの指導を受ける事の二つだ。
その点で言えばレイズのいう通り、私はその条件を満たしていた。
「思い出したみたいだね。つまり、ルーコちゃんは一級魔法使いの試験に受かりさえすれば自動的に魔術師への道が開けるって事になるかな。まあ、ただ気になるのは――――」
「本来、魔術師になるにあたって必要のないはずの試験案内がきている事、だな」
アライアに続けてレイズが片目を瞑りながらその疑問を口にする。
言われてみれば不自然に感じるけど、一級試験を兼ねる都合上、そういう書き方で送られてきただけという可能性もある。
しかし、どうやらレイズとアライアはその可能性はないと確信しているらしく、難しい表情を浮かべていた。
「ギルドから届いている以上、この書類を作成したのはマスターであるエリンのはず……そうなると変に紛らわしい書き方はしないから、この内容はそのまんまの意味って事になる」
「……ま、大方、国の方から変な圧力でも掛かったんだろうな。実際にルーコの活躍を見ているギルドの連中ならともかく、知らない奴らからしたら、急に現れた小娘がいきなり魔術師を名乗ろうとしているんだ。そこに口を出すっていうのは容易に想像できる」
「…………相変わらず上の連中は頭が固いというか、考えが凝り固まっているというか……本当に碌でもないね」
肩を竦めるレイズの言葉にアライアはうんざりといった様子で顔をしかめる。もしかしたらアライアは過去に何かそれ関連で嫌な思いをした事があるのかもしれない。
「ハッ、上でふんぞり返っている奴らが碌でもないなんて今に始まった事でもないだろう。そんなことよりも今はこれに乗るかどうかだ。どうするルーコ?」
「……え、私が決めるんですか?」
突如として話を振られ、思わずそんな反応を返す私に対し、アライアが少し呆れた様子で苦言を呈する。
「そりゃこれはルーコちゃんの今後の話なんだから、君が決めなくてどうするのさ。確かにこの話自体がきな臭くはあるけど、上手くいけば〝魔女〟へ一気に近づく事ができるからね」
「そういう事だ。色々言ったが、まあ、これが絶好の機会であるのに変わりはない。上の奴らの意図なんて食い破ってしまえば関係ないし、最悪、俺やアライアがその辺はどうにかしてやるさ。後はルーコ、お前がどうしたいか、だ」
「私がどう、したいか…………」
この試験案内が魔女への最短である事は確かだ。けれど、後遺症を抱えた今の私が誰かの思惑渦巻くこの試験を合格できるのか、そんな疑問が鎌首を擡げる。
……まだ私はこの銃杖を使いこなせていない。多少は戦えるようになったとはいえ、今の状態で試験に臨むのは……でも――――
心の中で葛藤を繰り返した末、この機会を逃して魔女への道が遠のくのは嫌だという結論に至り、私は決意を込めて顔を上げた。
「…………正直、今の私じゃ受かるなんて言いきれませんし、誰かの思惑を打ち破れるかどうかも分かんないです……けど、それでも、最短で魔女になれるかもしれない可能性を逃したくはない……だから、私はこの試験を受けようと思います」
たとえ、どんな思惑が待っていようと諦めずに食らいついてやるという覚悟の下、真っすぐアライア達を見据えると、二人は同時に表情を緩める。
「……ふふっ、そうこなくっちゃね。じゃあ、早速、その準備に取り掛かろうかな」
「……ハッ、そういう事ならそれまではできるだけ俺との特訓でそれの使い方を学んでもらうぞ。いいな?」
「…………その、お手柔らかにお願いします」
どこか嬉しそうに、そして嫌だとは言うまいなという圧力を滲ませたレイズの言葉にいいえと返す事なんてできる筈もなく、私は出発までの準備期間をいつも以上の特訓を受けて過ごす事になってしまった。
そしていよいよ街へと向かう出発の日。今までの事から出先で何かしらの事件に巻き込まれる可能性が高いということで街へは全員で出発する事に。
道中、全員という事もあって喧嘩をしたり、言い合いをしたりと色々あったものの、試験の前日までには無事、街へとたどり着く事ができた。
「――――全く、馬鹿兄のせいで道中、すっごく疲れた。アレは置いてきても良かったんじゃないですかアライアさん」
ひとまず今日の宿で荷物を下ろし、一息吐いたところで不満を抱えていたらしいサーニャがそんな言葉を吐く。
「まあまあ、落ち着きなよサーニャ。トーラスだって色々、考えがあるんだろうし……」
「ぶー……絶対にそんな事ないですよ。アレはただアライアさんの前で良い恰好したいだけですって」
何かある度に前へ出るトーラスへサーニャは毎回、突っ掛っていた。
それが原因で到着が遅れたのだが、どうやらそこも一方的にトーラスへ責任があると思っているサーニャは不満げに頬を膨らませる。
「……ったく、なんでボクまでついてこなきゃいけないんだよ」
そんな風にサーニャが頬を膨らませる中、もう一つ、不満の声を上げたのはアライアの腰辺りに吊るされている黒毛玉こと、ガリストだった。
「五月蠅い。お前みたいな危ない奴を一人だけ残して置けるわけないだろ。自分の立場を考えて発言したら?」
「あ?何、いちいち反応するなよ。ただの独り言だろ。それとも試験前で緊張しての八つ当たりか?」
「は?何を訳わかんない事を――――」
「はいはい、そこまでにしておこうね。ルーコちゃんも、わざわざコレの挑発に乗る必要はないよ」
かっとなって言い返そうとしたところでアライアがそれを止め、窘めるようにそう言い包めてくる。
「……そうですね。すいません、反射的に言葉が出てしまって」
「まあ、分かったならいいさ。ほら、それよりも荷物を置いたなら早速、外に行こうか。みんな待っているだろうし」
「あ、私、お腹が空いたからどこかご飯を食べに行きたいです!」
少し悪くなった空気を察したのか、それを振り払うかのようにサーニャが今日一番の声を上げたところで、外からレイズの早くしろという言葉が聞こえ、私達は慌てて部屋を後にした。
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