145 / 156
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第137話 煽る黒毛玉と突きつけられる言葉
しおりを挟む銃杖を介せば魔法が使えると分かって数日、少しずつ使える魔法と使えない魔法を理解し始めた私はレイズやノルンに付き合ってもらいながらそれに慣れる特訓を繰り返していた。
「――――『暴風の微笑』」
使い慣れている風魔法を使って出力を調整する指針を探す。色々試したけど、使える使えないの基準はこの銃杖の形に依存している事が分かった。
今、使った『暴風の微笑』や『風を生む掌』のような球状の魔法なら元から撃ち出すように放つので感覚的に問題はない。
しかし、同じ風でも『風の飛刃』のような斬撃系の魔法は使えるには使えるが、銃杖で放った場合、銃弾と同じ大きさの刃が飛ぶだけのものになってしまう。
これは本来、薙いだ腕に合わせて形状を変える風の刃を無理矢理、銃杖から放つため、そうなってしまうのだと思う。
まあ、規模が小さくなってしまうものの、それらは使えるだけましな部類で、直接、干渉する……土壁を作り出したり、煙幕を散布したりする魔法は全くと言っていいほど使えなかった。
……もしかしたらこの銃杖を完璧に使いこなす事ができれば、何かしらの方法があるのかもしれないけど、今の私には無理みたい。
できない事を考えても仕方がない。ひとまずは現状、使える魔法で戦う術を磨いていくしかないだろう。
「――――はあ、まあ、随分と難儀そうだねぇ」
魔法を試している横でやる気のない声を発して茶々を入れてくるそれに対して私は嫌悪と怒りを込めて銃口を向けた。
「…………煩い黒毛玉。そんなに練習の的にされたいの?」
「ハッ、やれるものならやってみなよ。ボクに手を出したら契約上、絶望の魔女が黙ってないぞ」
私の声に不愉快な返しをする黒毛玉……もとい、死遊の魔女ガリストの成れの果てはレイズとの契約とやらを盾にこちらを煽ってくる。
「……俺が保証するのは命までだ。それ以外は知ったこっちゃない」
「………………え?」
「……それじゃあ許可も下りた事だし?死なない程度に的になってもらうという事で」
レイズの許可さえ取れれば私に遠慮する理由はない。止めをさせないのは残念だけど、この黒毛玉には存分に的になってもらおう。
そこから必死に逃げ回るガリストを的に銃杖から魔法を撃っていくうちに大分、感覚も掴めてきたので最後に一発、大きな風の塊をぶつけて黒毛玉を吹き飛ばしてから一旦、休憩する事に。
「ふぅ……少し疲れたけど、なんだか凄くすっきりした」
魔力を消費した事でかなりの疲労を感じているものの、あの忌まわしい黒毛玉をぼろ雑巾のようにした事で不思議と晴れ晴れした気分だった。
「……気持ちは分からんでもないが……まあ、練習になったならいいか」
「…………いいわけあるかぁっ!!」
そう言って肩を竦めるレイズに対し、ぼろぼろになった黒毛玉のガリストが抗議の声を上げる。結構遠くまで吹き飛ばしたのに、ここまで早く戻ってくるとは思わなかった。
「……まだ喋れたんだ。しぶとい黒毛玉」
そんな黒毛玉に私は心の底から侮蔑の視線を向け、正直な感想を口にする。叶うならあのまま爆発四散してしまえば良かったのに、と思いながら。
「ったく……なんて恩知らずな奴だ。ボクのおかげで助かったのを忘れたのかな?」
「っ……元はといえば誰のせいだと――――」
「ハッ、誰のせいも何も自分の力量不足だろ。お前が十全に〝醒花〟を使えていれば何の問題もなかった。後遺症なんて負わずに憎い憎いボクを殺す事ができただろうに」
「ッ…………!」
見え空いた安い挑発だけど、ガリストの言っている事は全て本当の事だ。それだけに心の奥底で思っていた事を言い当てられたような気がして私は何も言い返す事ができなかった。
「……そこまでだ、黒毛玉。これ以上、無駄口を叩くなら死なない程度に細切れにするぞ」
「…………死なない程度に細切れってなんだよ。はぁ……ハイハイ、大人しくしてますよ」
言葉に詰まる私を見かねたらしいレイズがそう言うと、ガリストはため息を吐きながらしぶしぶ引き下がる。
……ガリストの言っている事は間違ってない。自分のやった事を棚に上げているという点を除けば私の弱さが現状を作り出したというのは確かだ。
何も言い返せず、ただレイズに庇われるだけの自分に嫌気が差して、私は感情のままに唇を浅く噛んで俯いた。
それから休憩中、私は一言も発する事のないまま俯き座り込んだ。
特訓の疲れもあったけど、それよりガリストの言葉が思っていた以上に堪えていたのだろう。
私の頭の中は暗い思考が渦巻いており、抜け出す道も見えないままぐるぐると考えが空回っていく。
「――――おい、ルーコ。聞いてるのか、おいっ」
「えっ?あ、す、すいません。レイズさん、なんですか?」
考え事に集中していたせいで呼ばれている事に気付かず、肩を揺すられてようやく慌てて返事をする私にレイズは呆れ混じりのため息を吐いた。
「……これじゃあ、特訓も何もないな。今日のところはこれまでにしておくか」
「っま、まだやれます。休憩が終わったらまた…………」
「そんな集中力の欠けた状態で何を特訓するつもりだ?大方、あの黒毛玉の言ったことが頭から離れないんだろ」
「そんなこと…………」
口ごもる私を見てレイズは再度、大きなため息を吐くと、更に言葉を続ける。
「ない、とは言わせないぞ。まあ、確かにあの黒毛玉の言っていた事は的を得ているように聞こえる。が、それはあくまでアレのやった事を棚上げにしたらの話だ。そもそも〝死遊の魔女〟が仕掛けてこなければ何も起きなかったんだからな」
「っでも、私がもっと強ければ何も問題なかったのは本当の事で――――」
「フン、お前が強ければ全部解決したって?随分と傲慢な考え方だな。いつからそんなに偉くなったんだ?」
「え?ええと、その、レイズさん……っ!?」
腕を組み、目を細めたレイズの思わぬ言葉に取り乱し、問い返すと、彼女はそのまま無言で距離を詰めて私の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「……力が足りなかった、だから後悔して頑張るならまだ分かる。でも、今のお前はなんだ?あの時、自分が強かったら解決したって俯く始末……そんな状態でまだやれるってどの口が言ってるんだ?」
「そ、それはっ……」
レイズから詰められて言い淀む私。たぶん、心の底では自分でも分かっていたのだろう。今の精神状態で特訓をしても無駄だという事を。
「強かったら問題なかったって言うんなら俯いてないで次そうならないように最善を尽くせ。足りない自覚があるならそれを補うために頭を回せ。役に立たない後悔を引き摺るくらいならいっそ開き直って忘れてしまえ。それができないならお前はずっと弱いままだ……いいのかそれで?」
「……よく……ないです」
「なら後悔で俯いている余裕があるのか、ルーコ?」
並べ立てられた言葉に首を振って否定した私へレイズが挑発するような問いを投げかけてくる。けれど、それに対する私の答えは決まっていた。
「…………いいえ、才能のない私にそんな余裕はありません。だからまだ特訓を続けさせてくださいレイズさん」
真っ直ぐレイズの顔を見つめてそう言うと、彼女は満足したように不敵な笑みを浮かべる。
「……ハッ、まあ、さっきよりはマシな顔になったか。それじゃあ、休憩が終わったら俺との模擬戦から始めるぞ」
「………………えっと、その、やっぱり今日はもう終わりにしてもいいですか?」
「駄目に決まっているだろ?さ、模擬戦に備えて軽く準備運動でもしておくか」
結局、私の抵抗空しく、休憩終わりの模擬戦でレイズにぼこぼこにされ、少しの後悔と共にその日を終える事になるのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる