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第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

第137話 煽る黒毛玉と突きつけられる言葉

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 銃杖を介せば魔法が使えると分かって数日、少しずつ使える魔法と使えない魔法を理解し始めた私はレイズやノルンに付き合ってもらいながらそれに慣れる特訓を繰り返していた。

「――――『暴風の微笑ウェンリース』」

 使い慣れている風魔法を使って出力を調整する指針を探す。色々試したけど、使える使えないの基準はこの銃杖の形に依存している事が分かった。

 今、使った『暴風の微笑』や『風を生む掌ウェンバフム』のような球状の魔法なら元から撃ち出すように放つので感覚的に問題はない。

 しかし、同じ風でも『風の飛刃ウェンフレイド』のような斬撃系の魔法は使えるには使えるが、銃杖で放った場合、銃弾と同じ大きさの刃が飛ぶだけのものになってしまう。

 これは本来、薙いだ腕に合わせて形状を変える風の刃を無理矢理、銃杖から放つため、そうなってしまうのだと思う。

 まあ、規模が小さくなってしまうものの、それらは使えるだけましな部類で、直接、干渉する……土壁を作り出したり、煙幕を散布したりする魔法は全くと言っていいほど使えなかった。

……もしかしたらこの銃杖を完璧に使いこなす事ができれば、何かしらの方法があるのかもしれないけど、今の私には無理みたい。

 できない事を考えても仕方がない。ひとまずは現状、使える魔法で戦う術を磨いていくしかないだろう。

「――――はあ、まあ、随分と難儀そうだねぇ」

 魔法を試している横でやる気のない声を発して茶々を入れてくるに対して私は嫌悪と怒りを込めて銃口を向けた。

「…………うるさい黒毛玉。そんなに練習の的にされたいの?」
「ハッ、やれるものならやってみなよ。ボクに手を出したら契約上、絶望の魔女が黙ってないぞ」

 私の声に不愉快な返しをする黒毛玉……もとい、死遊の魔女ガリストの成れの果てはレイズとの契約とやらを盾にこちらを煽ってくる。

「……俺が保証するのは命までだ。それ以外は知ったこっちゃない」
「………………え?」
「……それじゃあ許可も下りた事だし?死なない程度に的になってもらうという事で」

 レイズの許可さえ取れれば私に遠慮する理由はない。止めをさせないのは残念だけど、この黒毛玉には存分に的になってもらおう。

 そこから必死に逃げ回るガリストを的に銃杖から魔法を撃っていくうちに大分、感覚も掴めてきたので最後に一発、大きな風の塊をぶつけて黒毛玉を吹き飛ばしてから一旦、休憩する事に。

「ふぅ……少し疲れたけど、なんだか凄くすっきりした」

 魔力を消費した事でかなりの疲労を感じているものの、あの忌まわしい黒毛玉をぼろ雑巾のようにした事で不思議と晴れ晴れした気分だった。

「……気持ちは分からんでもないが……まあ、練習になったならいいか」
「…………いいわけあるかぁっ!!」

 そう言って肩を竦めるレイズに対し、ぼろぼろになった黒毛玉のガリストが抗議の声を上げる。結構遠くまで吹き飛ばしたのに、ここまで早く戻ってくるとは思わなかった。

「……まだ喋れたんだ。しぶとい黒毛玉」

 そんな黒毛玉に私は心の底から侮蔑の視線を向け、正直な感想を口にする。叶うならあのまま爆発四散してしまえば良かったのに、と思いながら。

「ったく……なんて恩知らずな奴だ。ボクのおかげで助かったのを忘れたのかな?」
「っ……元はといえば誰のせいだと――――」
「ハッ、誰のせいも何も自分の力量不足だろ。お前が十全に〝醒花〟を使えていれば何の問題もなかった。後遺症なんて負わずに憎い憎いボクを殺す事ができただろうに」
「ッ…………!」

 見え空いた安い挑発だけど、ガリストの言っている事は全て本当の事だ。それだけに心の奥底で思っていた事を言い当てられたような気がして私は何も言い返す事ができなかった。

「……そこまでだ、黒毛玉。これ以上、無駄口を叩くなら死なない程度に細切れにするぞ」
「…………死なない程度に細切れってなんだよ。はぁ……ハイハイ、大人しくしてますよ」

 言葉に詰まる私を見かねたらしいレイズがそう言うと、ガリストはため息を吐きながらしぶしぶ引き下がる。

……ガリストの言っている事は間違ってない。自分のやった事を棚に上げているという点を除けば私の弱さが現状を作り出したというのは確かだ。

 何も言い返せず、ただレイズに庇われるだけの自分に嫌気が差して、私は感情のままに唇を浅く噛んで俯いた。

 それから休憩中、私は一言も発する事のないまま俯き座り込んだ。

 特訓の疲れもあったけど、それよりガリストの言葉が思っていた以上に堪えていたのだろう。

 私の頭の中は暗い思考が渦巻いており、抜け出す道も見えないままぐるぐると考えが空回っていく。

「――――おい、ルーコ。聞いてるのか、おいっ」
「えっ?あ、す、すいません。レイズさん、なんですか?」

 考え事に集中していたせいで呼ばれている事に気付かず、肩を揺すられてようやく慌てて返事をする私にレイズは呆れ混じりのため息を吐いた。

「……これじゃあ、特訓も何もないな。今日のところはこれまでにしておくか」
「っま、まだやれます。休憩が終わったらまた…………」
「そんな集中力の欠けた状態で何を特訓するつもりだ?大方、あの黒毛玉の言ったことが頭から離れないんだろ」
「そんなこと…………」

 口ごもる私を見てレイズは再度、大きなため息を吐くと、更に言葉を続ける。

「ない、とは言わせないぞ。まあ、確かにあの黒毛玉の言っていた事は的を得ているように聞こえる。が、それはあくまでアレのやった事を棚上げにしたらの話だ。そもそも〝死遊の魔女〟が仕掛けてこなければ何も起きなかったんだからな」
「っでも、私がもっと強ければ何も問題なかったのは本当の事で――――」
「フン、お前が強ければ全部解決したって?随分と傲慢な考え方だな。いつからそんなに偉くなったんだ?」
「え?ええと、その、レイズさん……っ!?」

 腕を組み、目を細めたレイズの思わぬ言葉に取り乱し、問い返すと、彼女はそのまま無言で距離を詰めて私の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

「……力が足りなかった、だから後悔して頑張るならまだ分かる。でも、今のお前はなんだ?あの時、自分が強かったら解決したって俯く始末……そんな状態でまだやれるってどの口が言ってるんだ?」
「そ、それはっ……」

 レイズから詰められて言い淀む私。たぶん、心の底では自分でも分かっていたのだろう。今の精神状態で特訓をしても無駄だという事を。

「強かったら問題なかったって言うんなら俯いてないで次そうならないように最善を尽くせ。足りない自覚があるならそれを補うために頭を回せ。役に立たない後悔を引き摺るくらいならいっそ開き直って忘れてしまえ。それができないならお前はずっと弱いままだ……いいのかそれで?」
「……よく……ないです」
「なら後悔で俯いている余裕があるのか、ルーコ?」

 並べ立てられた言葉に首を振って否定した私へレイズが挑発するような問いを投げかけてくる。けれど、それに対する私の答えは決まっていた。

「…………いいえ、才能のない私にそんな余裕はありません。だからまだ特訓を続けさせてくださいレイズさん」

 真っ直ぐレイズの顔を見つめてそう言うと、彼女は満足したように不敵な笑みを浮かべる。

「……ハッ、まあ、さっきよりはマシな顔になったか。それじゃあ、休憩が終わったら俺との模擬戦から始めるぞ」
「………………えっと、その、やっぱり今日はもう終わりにしてもいいですか?」
「駄目に決まっているだろ?さ、模擬戦に備えて軽く準備運動でもしておくか」

 結局、私の抵抗空しく、休憩終わりの模擬戦でレイズにぼこぼこにされ、少しの後悔と共にその日を終える事になるのだった。
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